2020年12月10日木曜日

鹿屋ハートセンターでは2020.12.10現在、13例にエンレストを処方しました。私がエンレストを処方した患者さんたちをまとめ始めました。

なんども書いてきましたが、私は新薬が使用できるようになってもすぐには自分の患者さんに処方せず、なるべく長期処方ができるようになる発売1年後から処方するようにしてきました。この自分に課したルールを破って発売間もなくから処方を始めた薬が8月末から使えるようになったエンレストです。サクビトリルバルサルタン ARNIと呼ばれる薬です。

循環器診療をしていると、心不全で入退院を繰り返す方がおられます。鹿屋ハートセンターにも何人もそうした方がおられます。こうした方の入退院の頻度を減らし、長期予後の改善が期待できる薬です。8月末から使用可能となったばかりの薬ですが鹿屋ハートセンターで最初に処方した方は9月4日でした。以後、現在までに13例に処方しました。

入退院を繰り返す心不全の方に処方し始めたので、元の心疾患は色々です。まだわずか13例ですが、どんな方に処方をしているのかをまとめ始めました。

年齢は中央値80歳、平均年齢77.3歳の高齢者に処方していました。男女比は9:4です。元の病気ですが、意外なことに拡張型心筋症(DCM)の方は1例のみでした。また、陳旧性心筋梗塞(OMI)の方を含む虚血の方が3例でした。残り9例のうち8例がが心房細動でした。鹿屋ハートセンターで入退院を繰り返して困っている方の大半が心房細動関連でした。

なぜDCMの方が少ないのか、鹿屋ハートセンターでDCMと診断名がついている方もまとめてみました。まだすべてではありませんが毎日ピックアップして18例までチェックしましたが、14例の方は初診時から左室駆出率は改善し、左室拡張末期径も縮小しており心不全のコントロールに苦労しなくなっていました。残りの方も初診時から心機能の悪化もなく横ばいでやはり心不全のコントロールに苦労していませんでした。思い起こせば、ハートセンター開設以来14年で心機能が悪化し続け、心臓移植の待機例になった方は1例のみです。

ハートセンターでエンレストを処方し、心不全を何とかしたいと思っている方の心疾患はDCMではなく心房細動でした。このため、駆出率は必ずしも低くなく、左室拡張末期径もやや大きいという程度で、特徴的なことは左房径の拡大でした。中央値で50㎜、平均で48.8㎜でした。最も大きな左房径の方は60.8㎜でした。

高齢心房細動が中心ですからクレアチニンクリアランスの中央値は38,平均は43.8と低腎機能でした。エンレスト投与前のBNPは中央値で474,平均で393でした。

エンレストは初回1日量、100㎎の投与から開始し、200㎎、400㎎と増量するように添付文書の用法・容量に記載されている薬剤です。鹿屋ハートセンターでは1日量200㎎まで増量できた方は13人中2人しかいません。他の方はこれ以上血圧を下げられないという程度に血圧が下がったからです。このため、1日量400㎎まで増量できる方は日本に存在するのだろうかと思っています。13例中11例は入院で処方を開始し、2例は外来で処方を開始しました。2週間しか処方できないので2週間ごとの受診で患者さんは大変ですが今のところ、文句も言わずに2週間ごとに来てくださっています。

自分に課したルールを破り、1年間の全国での成績を見極めないで始めた処方です。拙速で処方したために患者さんを悪くしたということがないように投与後の経過を慎重に見てゆかなければと考えています。心不全という重い疾患の方に薬剤を処方するのは、手術などと同様患者さんの命を守る重大な責任ある医師の行動だと思うからです。


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