Fig.1 PMDA approval document |
10日ぶりのブログです。今月に入って例年より少し多めのPCIで、本日までに26件でした。大きな施設と比べれば微々たる件数ですが鹿屋ハートセンターにとっては少なくない件数ですし、治療を受けられた一人一人の患者さんにとっては重要な1件1件でした。このため忙しくてブログを書かなかったわけではありません。カテーテル検査やPCIは基本的に17時までに終わるようにしているので時間はたっぷりとあったのです。今日書くことを書くべきか否かでキ-ボ-ドが進まなかったのです。
Fig.2 FDA approval document |
Fig. 1は、1/17のブログ 黒塗り文書の拡大です。stentのoverlapでfractureが増えるという臨床の結果を受けて実施されたと思われる重複留置の加速試験の結果の部分です。重複留置に耐え得ると判断する基準として「95%の信頼限界で99%の検体が10年相当の加速疲労を与えた時に1年間の疲労に耐え得る」と記載されています。試験結果として「加速疲労後のステントにおいてストラット破損は認められず、疲労試験前との差は認められなかった」と記載されています。
要は、重複留置したステントの加速疲労試験で破損したステントはなかったとの記載ですが、この後の判定は統計の問題です。試験検体は重複した20組のステントですからサンプルサイズは僅か20です。破損数は0ですから。検体数20の実験で破損数が0であった時、95%の信頼限界で1%以下の破損率であると言えるかという統計です。ある統計サイトでこの数字で計算すると故障率信頼限界は100万件に対しておよそ15万という結果になりました。15%です。驚くほどCTで検出されるstent fractureの頻度と合致します。この統計サイトで計算すると実験で破損が0であった場合、100万件に対して故障率信頼限界が1万程度になるには検体数が約300なければなりません。黒塗りされていない部分だけを見てもこの承認に関わる統計的な検証は正しいのかと疑問を持たざるを得ません。
加速疲労試験は工業製品でよく行われているそうです。こうした工業製品の加速疲労試験の問題として、加速することが実際の使用する場面と異なる状況を作り出している可能性があり、加速が意味をなさない場合に注意しなければならないとされています。たとえば摂氏40度の環境で10年間の耐久性があるかと検証する場合に摂氏400度の環境に1年置いて実験したからといって10年分の安全性が担保されるわけではないということです。12/23付のブログ 行政の責任のなかで毎分60-120回拍動する血管の加速試験モデルとして60-120Hzの振動装置が正しいモデルなのかと疑問を書きましたが、加速試験をする場合にその加速モデルが正しいのかを検証することも重要です。現実の臨床の現場で発生するstent fractureはriskの一つはstent overlapですが、他の一つのリスクは石灰化の存在です。Autopsyでのfractureの発生頻度は172日で29%ですから石灰化に擬した動脈モデル内でoverlapしたstentを毎分60-120回の生理的な振動で1年間実験したらどうでしょうか。より臨床に則したin vitro実験が1年で可能です。
もう1つのstentの長期の安全性の検証方法のヒントはやはり工業製品の寿命を計る手法にあると思います。工業製品には初期の問題が多く発生する初期故障の時期、初期故障の発生が減少する安定期、長期の使用を経て徐々に問題が増える摩耗期の3つの故障率カーブが一般に存在します。この3つのカーブが作る合体したカーブをバスタブカーブと言うそうです。stentも体内に植え込まれてからの問題発生を経時的にプロットしてゆけばfractureの発生頻度のカーブが描出できます。私の勝手な予想ですが冠動脈に植込まれたstentの場合、工業製品のようなバスタブカーブとならずに2つの摩耗カーブが安定期の両端にできるのではないかと思います。overlapや石灰化病変、hinge motionの激しい部位に置かれたstentが早期にfractureするカーブと長期の摩耗カーブの2つです。この摩耗カーブからstentの寿命を統計的に推測することも可能です。ワイブル解析というそうです。鹿屋ハートセンターのようなPCI件数の多くない施設単独でこうした解析はできませんが、国内だけでも年間に10万件以上のstent植込みがなされているわけですから、PMDAや学会が多施設の共同研究を立ち上げればすぐに結果は出ると思われます。
前にも書きましたが、私は薬剤溶出性ステントを是とする立場ですし、現実に多用しています。このブログでこんなにも危険なデバイスをPMDAは杜撰で不透明な形で承認して世の中に出してよいのかと言いたいわけではありません。PCIのアキレス腱であった再狭窄を劇的に減少させた薬剤溶出性ステントの「功」を十分に認めています。しかし、臨床に出てくる製品はいつも100%の出来の製品で臨床に出てくるわけではありません。その欠点や問題点を明らかにすることで、その結果がより良い製品作りに反映され、、結果として患者の利益になることを願っているのです。是非、PMDAは黒塗りといった手法を改め、科学的にあるいは統計的に正しい手法で、安心で安全な医療機器や医薬品を迅速に臨床の場で使えるように承認してもらいたいと願っています。Fig 2に示すようにFDAの文書には当然のように黒塗りはありません。PMDAの黒塗りは一体誰の仕業なのでしょうか。PMDAの承認の権限は国民から委ねられたものです。委ねられた立場であるにも関わらず、委ねた側の主権者たる国民に対して黒塗りで情報を隠すようなことは許されるのでしょうか。米国でこのようなことがあれば、実行者はその地位に留まることはできないでしょう。私はこの黒塗りの過程に理事長の近藤達也先生が関与していないと信じていますが…