2011年1月10日月曜日

PCI実施のdecision makingは簡単ではありません。 64列MDCTとCAGによる狭窄度の評価の乖離

 
Fig. 1 Coronary CT on 30, Dec. 2010

  74歳の男性。ニトログリセリンの舌下で10分ほどで軽快する胸痛があります。発作時にECG変化はありません。心電図変化はなくてもNTG舌下が有効な胸痛が繰り返し発生すれば狭心症と考えてまず間違いありません。20年来の糖尿病の病歴があり、経口剤を内服中です。高コレステロール血症でスタチンを内服しており、3年前に脳梗塞も起こしています。  

    Fig. 1に示すCT画像ではLADの近位部に狭窄を認めます。しかし、Fig. 2に示す冠動脈造影ではtake-offより少しdistalに50%程度の狭窄を認めるのみです。実はこの方のCAGは2度目です。1度目は数か月前ですが、有意な狭窄はないと判断して経過をみることにしました。冠動脈CTがoverestimeteであったと判断したのです。しかし、やはり胸痛が繰り返し起きます。
 
Fig. 2 CAG on 07, Jan. 2011
Fig. 3 IVUS on 07, Jan. 2011
    Fig. 2はLAO caudal view、いわゆるSpider viewですが LAD take-offはCXと重なって判然としません。ですから今回はIVUSでtake-offを観察することも目的としてCAGとしました。IVUSの画像をFig. 3に示します。やはりtake-offにはそれなりの狭窄が存在しました。take-offの少しdistalにある狭窄よりも強い狭窄です。本来の血管径は4.5mm程度ですからcross sectional areaで見れば狭窄度は80%程度になります。しかし2.0mm X 2.5mm程度の内腔ですから、今回もPCIの実施は見送りました。

    退院を決めた後もやはりNTG舌下が有効な胸痛が起こります。やはりPCIを実施すべきなのでしょうか。悩むところです。負荷心筋シンチを行って虚血が認められればもちろんPCIを実施するということで問題ないでしょうが、シンチで虚血をdetectできなかった場合、この方に虚血はないと言い切れるわけではありません。ある検査を実施して陽性なら実施、陰性なら実施しないというほど臨床の場でのdecision makingは簡単ではありません。

  1994年に勤務していた病院の部長になって以後、それは最終的なdecision makingは自分が責任を持つことになって以後というのと同義ですが、実施をするか否かで悩んだら実施しないというのをポリシーにしてきました。しかし、今回の狭窄部位はLAD take-offです。判断の先送りは許されません。

  

2 件のコメント:

  1. はじめまして。雪国で循環器内科をしています。当院もSTEMI以外は原則CT firstで診断するようにしておりますので、純粋なCAGというものは極端に少なくなってきました。先生に比べたらまだまだ若輩者ではありますが、同じようなスタイルで診療されていることに共感を覚え、書き込みさせて頂きました。

    ところでこの症例、spasmの可能性はいかがでしょうか?

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  2. コメントをありがとうございます。spasmの可能性は私も考えていましたが、冠拡張剤内服中ですのでやはり器質狭窄由来かと考えました。もちろん器質狭窄があるのでわずかなspasmで虚血になるのかもしれません。PCI後、胸痛なく経過しています。

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