2011年4月26日火曜日

心不全を繰り返す腎動脈狭窄の方がステント植込みを終え、本日退院です。

Fig. 1 Before renal A. stenting
 2011年4月13日付ブログ「繰り返す心不全患者への看護介入」2011年4月16日付ブログ「腎動脈狭窄の評価」に書いた方が本日退院されました。胸水もすっきりと消失し、右腎動脈のPSVも拡張前が180.1cm/secだったものが101.9cm/secに改善しています。


Fig. 2 After Renal A. stenting

Fig. 1は拡張前の造影です。当然ですがCTと同様に入口部に高度狭窄を認めます。私の基本的な手技ですが、6Fの25cmシースを挿入します。この長さのシースを用いることで腸骨動脈の蛇行があってもガイディングカテの操作は容易になります。次に4Fの造影カテで造影、このカテの中を通ってガイドワイヤーを腎動脈内に入れます。ガイディングカテはこのワイヤーを支えに腎動脈に近づけます。可能であればガイディングは腎動脈にはエンゲージさせずに手技を進めます。この方の場合にはIVUSカテを入れる時に、上から下に走行する腎動脈に入れることが困難であったためにカテはエンゲージさせました。IVUSで見るとfibrousな病変です。この像を見て、distal protectionはしないことにしました。腎動脈の治療の時には必ずIVUSを見ることにしています。再狭窄率を下げるためになるべく大きなステントを入れたいのですが、一方で過拡張のために腎動脈を穿孔させるわけにもいきません。このために正確な血管径の評価をするためにIVUSを必ず行うようにしているのです。この方の場合、血管の硬さをみるために4.5㎜のバルーンで前拡張を行いました。4気圧でindentationがとれました。次いでステントの植え込みです。Genesisの5㎜を植え込んで終了です。腎動脈入口部からわずかに大動脈内に顔を出すイメージで植込みができました。

前回の退院時にも説明した体重の管理を、もう一度おさらいして退院です。前回の退院時と今回の退院時で異なるのは腎動脈の状態です。今回の治療で心不全がうまくコントロールできれば幸いです。

2011年4月23日土曜日

プロフェッションとして自律し、社会に貢献する医師会や学会として

医師になって最初に教えられたことは、「時間のある時には寝ておけ、時間のある時には飯を食っておけ」ということでした。循環器をしていると、夜間に救急や急変で起こされることも少なくなく、食事を取れないことも良く発生しました。空腹や睡眠不足が、「やる気」を喪失することに繋がらないようにするための先輩からの教訓であったと思っています。そんな風に育ったために、時間があれば、たとえ10分であっても、すぐに眠ってしまいますし、飯を食う時間は極端に早いままです。

しかし、年齢でしょうか。目を閉じたら瞬間に睡眠に落ちていたものが、少し時間がかかるようになってきました。こんな時に床の中で悶々とするのは嫌なので本を読むことにしています。最近は、ケン・フォレットの「大聖堂」、「大聖堂 果てしなき世界」を寝る前に読んでいました。睡眠導入のために読んでいる本なのに、面白くてかえって目が覚めて困りました。

物語は、修道院を中心とする町、キングズブリッジの興亡の話ですが、その中で繰り広げられる権力闘争や、その中で翻弄される市民の生活が描かれます。 ペストに翻弄される町や市民の姿は「果てしなき世界」で描かれます。この物語の中心の一つは司教や修道士の存在です。これらの聖職者が、政治的な権力を握り、一方で医師として病気に立ち向かい、法律家として裁判に臨みます。

聖職者、医師、法律家は古典的なプロフェッションです。プロフェッションは皆の前で話すということが語源だそうです。皆の前で、宣言し、聖職者として社会に奉仕する仕事をプロフェッションと呼ぶのだそうです。古典的なプロフェッションは、現在の金銭をもらって働くことを意味するプロとは、意味が異なります。

自らを律した上での社会に対する奉仕、あるいは貢献です。こうした伝統からでしょうか、医師としてなすべきことは医師が決めるという国は少なくありません。自らを律するために多くの国で医師の不適切な行為に対する処罰は国家でなく、医師会でなされます。日本では医師会ではなく厚生労働省の医道審議会です。また、市場に投入される医療機器の認可は国家が行ってもその適応範囲は学会が決めるという国もあります。例えば、冠動脈に植込まれるステントは急性心筋梗塞に使ってはいけないというのが厚生労働省のルールですが、フランスでは、有効性が学問的に証明されていれば、学会としてその適応を認めています。医師として実施すべきことは国家に認可してもらうのではなく、自らが決定し実施するのです。。

今回の震災に対して、循環器学会・心臓財団は避難所への200台のAEDの無償の貸し出しを決定しました。日本心血管インターベンション治療学会は、被災地の県立大船渡病院にPCIができる医師を派遣しました。これらは、2011年4月3日付ブログ「避難所のAED」2011年3月26日付のブログ「震災関連死を減らすために循環器医ができること」に記載した内容と一致するものです。もちろん、私のブログが影響したとは思っていませんが、同じように考える学会のメンバーがいたから実現したのだと思っています。

私の知る限り、学会がこのように社会的な貢献を実際に行ったことは初めてだと思います。必要な医療器具や医薬品も国の認可をお願いするだけで、エビデンスのある治療法を学会として認め、学会として責任を持って社会に還元するというようなことも過去に例がありません。(もちろん、これは法的にはできませんが…) 今回の社会的な貢献の実施により、日本の学会も本来のプロフェッションに近づいたのかもしれません。また、他国の医師会や学会のように自律したプロフェッションに近づいてもらいたいものだと願います。

「大聖堂 終わりなき世界」では、主人公のカリスとマーティンはペストからキングズブリッジを守るために、町の閉鎖を決定し実行します。この結果、町は最小限の被害で、護られました。小説に過ぎませんが、町の経済に大きな影響のある決定を、町の存亡にかかわる決定を、ペストから町を守るためにプロフェッションとして実行します。

利益を誘導するために権力におもねる医師会や認可を行政にお願いする学会から、プロフェッションとして自律し、社会に貢献する医師会や学会への成長や発展を願ってやみません。

2011年4月21日木曜日

推理する医学 医師が描く誤ったシナリオと患者が語る真実

「推理する医学」は、バートン・ルーチェが書いた原因不明の病気の原因を推理小説のように解明していく話です。20年以上前に読んだために詳細を覚えている訳ではありません。また、第2巻が刊行されてことは知っていましたが、これも読んでいません。絶版になっているのだろうと思っていましたが、ロングセラーでまだ手に入るようです。

自分で書いた「繰り返す心不全患者における腎動脈狭窄の評価」を読んでいてふとこの本を思い出しました。繰り返す心不全の原因を患者に求めることは容易ですし、これに介入する話を書いた記事は最近私が書いたブログの中ではアクセスの多いものの一つです。しかし、腎動脈狭窄が原因と考えられる繰り返す心不全なのに、「あなたの生活習慣が悪い」と腎動脈狭窄を見逃している医師から責められる構図は、無実なのに「お前が犯人だ」と自白を強要される冤罪の構図に似ておぞましい感じがします。この構図にならなくて済んだのは、左室拡張末期径が60mm、左室駆出率が50%程度のなのに心不全を繰り返すのだろうかという疑問から検査を始めたからです。安易な考え方をすると、その程度でも心不全を繰り返す人も存在するし、見たこともあるよと片付けてしまいます。そんな人もいるよという考え方は危険です。

鹿屋ハートセンターには循環器系の疾患以外の方が受診することは稀です。2月ほど前に熱発と全身の筋肉痛(特に下肢)を主訴に受診された方がいました。心臓にも下肢の血流にも問題は見つかりません。CRPは高値でCPKは2000を超えていました。筋炎や膠原病を疑い、近くの病院の内科に紹介しました。帰ってきた返書には、尿路感染が見つかったので熱発の原因だと考え、抗生物質で治療しますとのことでした。ではCPKの上昇は何が原因なのか返書では分かりません。電話で聞いてみました。すると電話に出た若い先生は、動けなくて長期臥床していたのが原因だろうと上医から指導を受けた、CPK 上昇はそれで説明できるとのことでした。 長期臥床でCPKが上昇する人が存在することと、この患者のCPK 上昇が長期臥床のみが原因だと結論づけることには論理的なギャップが存在します。とはいえ、あれこれ言って気を悪くさせるのもと考え、それ以上は話しませんでしたが、その後CPK上昇は解決したのかということに関しては返事をもらっていません。

このように、こんな人もいるよ、見たことがあるよということから医師がシナリオを作り上げ、説明出来るというだけで次のステップに移っていくという誤りは少なくありません。無作為試験で得られるエビデンスとは異なる、患者から得られる証拠(エビデンス)から真実の診断に至る作業が必要です。その時に説明可能か否かではなく、自分は誤診を犯していないか、冤罪を作り上げているのではないかと疑問や惧れを持ち、証拠を集めることが大事だと思います。今回は、病気を見逃している藪医者が、患者を責めるという構図にならなくて幸いでした。

まだ読んでいない「推理する医学」の第二巻も含めて、また読み直してみましょう。

2011年4月18日月曜日

バンダアチェで食したカレー風味のワタリガニ 

Fig. 1
どこかで何かを食べたら旨かったというような話題を書くのがブログであれば、ブログなんてくだらないと2010年12月15日付のブログ「私がブログを始めた訳」で書きました。なのに今回は、これを食べたら旨かったという話です。

Fig. 2

2004年12月26日に発生した、スマトラ地震とそれに伴うインド洋大津波による被災に対する救援のため、タイのカオラック、インドネシアのバンダアチェに行きました。Fig. 1は、救援に入ったタイのタクアパ病院の近くの寺院です。この寺院は、遺体安置所となり、「一人残らず、遺体は家族に返す」というタイ政府の方針の元、詳細な検視が行われました。冷凍コンテナに保管された遺体を、一体ずつ、世界各国から集まった法医学者が検視を行うのです。この作業には莫大な時間がかかり、この寺院の周辺は死臭の漂う街となりました。この死臭から身を守るために、原発作業員のような姿で、マスクをしての作業です。


Fig. 3
 一方、Fig. 2は、この寺院の裏の光景です。どんなに死臭が立ち込めていても、嗅覚はマヒしてきますし、空腹はつのります。この寺院の周囲には屋台が並び、防御服のままで食事をする光景が当たり前でした。


Fig. 3は、2005年3月のインドネシア、バンダアチェです。普段は、バンダアチェの市場で買った食材を、寝泊りしていたゲストハウスで調理していました。 しかし、たまには外食をと考えるのも人情です。屋台のレストランで、サテとナシゴレンの夕食で一人150円位だったでしょうか。写真は、たまには贅沢をということで出かけたシーフードレストランです。豪華な食事が一人300円位だった記憶です。写真には残しませんでしたが、バンダアチェを去る最後の夜に被災した川沿いの別のシーフードレストランに皆で出かけました。メインは、ワタリガニのカレー風味の炒め煮です。カニの中では濃厚な味わいのワタリガニは日本では、三杯酢か土佐酢で頂くのが一般的だと思いますが、カレー風味です。カレー味にしてもったいないと思いながら口に含んだ瞬間、あまりの旨さに驚きました。火を通し過ぎるとぱさつくであろうカニがほど良く火が通されてしっとりとした食感、また、濃厚な味わいがカレー風味でより際立つ感じです。バンダアチェには冷えた清涼飲料水などありませんでした。敬虔なイスラム教徒がほとんどのこの地ではビールなどありません。食材も冷凍のものなどなく、すべてがこの日、水揚げされたものです。新鮮な食材と、絶妙な火加減。このワタリガニのカレー風味を食べるために、またバンダアチェに行きたいと思うほどの印象です。

このワタリガニのカレー風味を食している時、現地の方から、今年のカニはとりわけ旨いのだと言われました。どうして?と聞くと、津波に流された人を食べているからだよと笑えない冗談です。このような冗談は、タイでも聞かされました。タイのプーケットでは津波後1週間ほど経過すると、欧米人は何事もなかったようにビーチで遊んでいました。おそらく、キリスト教徒であろう欧米人も、仏教徒が多いタイ人も、イスラム教徒がほとんどのアチェの人も、悲しくないはずはないのに、笑って、たくましく、遊び、食事を摂っていました。このたくましさや明るさが復興の原動力のような気がします。津波直後には、二度とリゾートには戻れないと言われたカオラックもリゾートとして見事に復興しました。バンダアチェのザイノエル・アビディン病院はインドネシアで最も近代的な病院として生まれ変わりました。

関西で生まれ育った、私には馴染みがなかったボタンエビのお寿司を生まれて初めて頂いたのは仙台のすし屋でした。初めてサンマの刺身を頂いて、こんな食べ方もあるのかと驚いたのも、今回の被災地です。20年以上前の話です。牡蠣も帆立も東北の太平洋岸は旨い物の宝庫です。「忌」の文化の日本では難しいのかもしれませんし、原発による汚染の問題もあるのかもしれませんが、どんな悲劇があっても睡眠と食事は大切です。なるべく早くに今年の東北のシーフードは最高だぞと笑いながら腹いっぱい頂きたいものです。

2011年4月16日土曜日

繰り返す心不全患者における腎動脈狭窄の評価 Evaluation of Renal Artery Stenosis in Patients with Recurrent Cogestive Heart Failure

Fig. 1 Renal Arterial PSV
  前回のブログに書いた「繰り返す心不全に対する看護介入」の方は72歳の男性です。2/11付のブログで少し言及した2/10に緊急PCIを実施した方です。2/10に緊急で前下行枝近位部完全閉塞と、右冠動脈近位部の99%狭窄にステント植え込みを行い、救命できた方です。安定した状態で、心エコーで評価すると左室拡張末期径は60mm、左室駆出率は50%程度です。2/21付のブログに書いたように両側の浅大腿動脈の閉塞があります。CREは1.15mg/d lですから、CKD 3です。


Fig. 2 Left renal Artery evaluated by MDCT

Fig. 3 Right Renal Artery evaluated by MDCT

左心機能が若干低下し、左室もやや拡張していますがこの程度で心不全を繰り返すのだろうかという疑問が残ります。この疑問に対する一方の答えは、よほど生活習慣に問題があるのだろうということです。そこを看護介入で解決してゆこうというのが前回のブログの考え方です。一方で、他に心不全を繰り返す身体的な問題はないのだろうかということも忘れずにチェックしなければなりません。冠動脈に2枝病変があり両側SFAの閉塞です。腎動脈に問題はないのかとエコーでの腎動脈PSVのチェックを行いました(Fig. 1。) 右腎動脈のPSVは180.1cm/sと亢進しており、大動脈の流速が34.9cm/sと遅いために、RARは5.16と高値です。一方、左のRARは1.34と標準的な値です。左腎の長径は7.7cmと委縮しており、左の腎機能は期待できません。残りのひとつの腎臓を灌流する右腎動脈の狭窄が繰り返す心不全の原因の可能性が高いものと判断しました。 Cardiac Disturbance Syndromeです。生活習慣の問題だけではなくこのように身体的な問題も併せて存在すると、看護介入だけでは問題は解決しません。看護介入に加えて、腎動脈に対する介入 Intervention が必要です。


 

ガチガチの全身の動脈硬化、残りの一腎に対するインターベンションですから、インターベンション時の合併症の発生は、両側の腎機能の廃絶、腎不全を惹起しかねません。慎重な対処が必要です。腎動脈の性状をCTで評価することにしました。Fig. 2に左腎動脈、Fig. 3に右腎動脈を示します。右腎動脈は入口部で90%狭窄、狭窄部のdensityは低く、distal emboli の可能性も十分に考えられます。左腎の委縮を考えれば、distal emboli による右腎の機能低下を防ぐためにDistal protection が必要だろうと考えました。一方の左腎動脈にも近位部に50-60%程度の狭窄を認め、また、そのdistal に2か所の高度狭窄を認めます。こちらはエコーによるPSV の評価では全く発見できませんでした。これは、左腎の機能が廃絶しているために起きた現象でしょうか、あるいは少しdistal の病変であったために評価できなかったのでしょうか。後者であれば、PSVのみによるスクリーニングでは、このような少し末梢の病変は見逃しているということになります。繰り返す心不全患者における腎動脈の評価の戦略を考え直さなければなりません。



 

2011年4月13日水曜日

繰り返す心不全患者さんに対する看護介入の力を信じましょう

心不全を繰り返して、入院する患者さんが少なくありません。本日も前回の退院からわずか1カ月弱で再入院です。退院直前の体重から3kg増加しています。入院中にも退院前にも、水分制限、塩分制限の指導を実施し、毎日の体重測定をおこなうようにお話しますが、このような方が後を絶ちません。入院して、普段通りの内服を行っていると速やかに心不全は良くなります。本日の方ではありませんが、先日、やはり心不全を再発して入院してこられた方は、都会に住む娘さんが、水分をしっかり取らないといけないよと電話で話されたそうで、娘の言うことを聞いて喉も渇いていないのに水分を積極的に飲んでいて心不全になりました。繰り返して噛み砕いてお話しても、高齢の患者さんの記憶に残るのはお話したことの50%にもならないのだというのが実感です。ご家族がおられる家庭ではご家族に体重の記録をつけてもらい、2kg程度の体重増で、呼吸苦がなくても受診するようにお話しています。こうすると入院が必要になるような心不全には到りません。やはり心不全のコントロ-ルにもご家族の力が有効です。しかし、2/15付のブログで書いたように大隅半島の高齢の患者さんの多くは、息子や娘が大隅を離れて孤立しています。ご家族の力は期待できないのです。

もう、心不全を繰り返すことは仕方がないと諦めて、なってから重篤化しないように、苦しくなったらすぐに受診するようにお話しするしかないのかとも思っています。

そんな矢先、看護師さんが、不安定狭心症の治療後の再入院を減らすために患者指導のマニュアルの案を持ってきてくれました。 きちんとした内服、塩分制限、体重管理の重要性、脂質管理、DM の管理の重要性の説明とともに、症状の再発時に様子を見ないですぐに受診するように促す内容です。こうした看護師や栄養士による介入が、不安定狭心症患者の再入院率を減らすことはデータでも示されています。同じように心不全に対する看護介入が再入院を減らすことも知られています。医師が指導するだけではなく、看護師や栄養士による介入は、患者さんの生活の質を高め、医療費の軽減につながるものと信じています。心不全教室です。指導だけではなく、体重を管理してくれるご家族がいない患者さんには、ハートセンターから毎朝、「今朝は体重を計りましたか?」と電話を差し上げるのもよいかもしれません。Nursing interventionです。

指示を出す医師と、指示を受けて言われたことだけを行う看護師の関係から、それぞれの職能に応じて患者に対するケアの質を高めるべく、共同してそれぞれが介入する形へと変化を遂げようとしているのだと思います。

看護の力を信じて、看護師さんが始めた主体的な取り組みを邪魔しないようにしましょう。

2011年4月6日水曜日

この国の明るい未来のために

  • 化石燃料による発電を88%削減
  • 自動車の石油消費を38%削減
  • 輸入原油(現時点で1日1000万バレル)への依存を33%削減
  • 電力セクターの二酸化炭素排出量を95%削減
  • 自家用車による二酸化炭素排出量を38%削減
  • 二酸化炭素総排出量を48%削減
この高い目標は、だれが掲げたものでしょうか。日本国政府でしょうか、それとも今問題の東京電力でしょうか。いずれでもありません。一民間企業であるGoogleが2008年に提案した"Clean Energy 2030"です。ネット企業と思っていたGoogleです。この実現には2030年までに4兆4000万ドル(340兆円、85円で換算)のコストがかかるものの、5兆4000億ドル(459兆円)のreturnが期待できるとしています。この提案に沿って現実に米国のSmart gridの実現のためにGoogleはGEと提携しました。GoogleのClean Energy 2030とGEのEcomaginationのコラボレーションです。また、GEとの提携のみならず、「ITの力で、気候変動、貧困、疾病、といった現代のグローバルな諸問題に対処する」という方針のもとにGoogleは、太陽光発電や地熱発電に投資し、プラグインハイブリッドカーの普及に向けた取り組みを開始しています。このGEとGoogleの提携を知った時になんて壮大で夢のある話かと思ったものです。しかし、この提案のあった2008年当時、smart gridに関しては日本の電力供給は安定しており、日本は既にsmart gridのようなものだからこんな取り組みは不要だという意見が支配的でした。

しかし、今回の震災に伴う福島の原発事故で、日本の電力の供給は決して安定していなかったことが実証されたような気がします。先進国ではあまり例のない2つの異なる周波数の存在で西日本には余剰電力があっても東日本には供給できないなどの問題も明らかになりました。大前研一氏が3/25付の彼のブログで東西の交流周波数を統一させてやり取りが実現できるようにすべきだと提案していますし、3/28の日本経済新聞では日本にもスマートグリッドが必要だとの記事を載せています。交流電流の周波数の統一は終戦直後に議論されたことがあるそうですが立ち消えになったそうです。巨額な投資が必要な制度改革は平時には難しいのだと思います。今回の震災の復興が、元のレベルに回復することを目標にするだけではなく、新しい時代を切り開くものになってほしいと思います。

こうしたことをここ数週間考えてきましたが、、トヨタとマイクロソフトの提携が日本時間の4/7朝に記者会見で発表されるそうです。車載コンピューターの開発だけではなくプラグインハイブリッド車のためのスマートグリッド関連技術の開発も提携の目標となるそうです。この連携は、GEとGoogleの連携の目的にも似ているように思えます。全ての自動車が仮にプラグインハイブリッド車ないし電気自動車になった場合、従来のガソリンスタンドは今の形態で存続はできません。ハイブリッドではなくガソリンを使用しない電気自動車ではどうでしょう。ガソリンスタンドは不要になります。では、リッター10kmの燃費の車が400km走行するのに必要だった40リッターの燃料費6000円(リッター150円として)は誰に支払うのでしょうか。家庭にあるコンセントで充電して従来の電気料金体系で電力会社に支払えばよいのでしょうか。そうなった時に日本の電力供給は、今の体制で間に合うのでしょうか。化石燃料に頼る、原子力発電に頼るという形でよいのでしょうか。今回の震災がなくても次の時代に向けた電力供給は、日本にとっても大きなテーマであった訳です。今回の震災を機に当たり前と思っていた電力供給を考える機会ができました。

ネットワークに繋がった社会の明るい未来を信じる者として、そしてその実現には電力が不可欠であるわけですから、明るい未来が電力というエネルギーがボトルネックとなって実現しないということがないように活発な議論を期待したいところです。

しかし、海外への出張にビジネスクラスを使うのはけしからん、そんな無駄は仕分けだというのが政治主導というとすれば、日本の政治主導はコピー用紙の裏にメモを書けという程度のちっぽけなものになってしまいます。国会議員の給料を減らせという議論も同じようにちっぽけな議論に見えます。340兆円の投資をしても450兆円が返ってくるだけではなく、雇用も国の未来も創出されるだというような官僚にはできない大きな変革を提案し、実現させるのが政治主導だと思いたいものです。

2011年4月3日日曜日

避難所にはAEDは整備されているのでしょうか 筋道の整った介入は震災関連循環器疾患死を減少させるのではないか

急性心筋梗塞などの循環器救急に長く関わってきたために、今回の震災で発生するであろう震災関連循環器疾患に関心を寄せてきました。急性心筋梗塞、たこつぼ型心筋症、肺塞栓、急性うっ血性心不全等です。

疾患に対する対処には2つの局面があります。予防と治療です。

予防に関しては、肺塞栓症の予防のために使用された弾性ストッキングが有効であったとの報告も出てきていますし、予防のための体操を勧める先生もおられます。また、関連死の原因として最も多い、肺炎を防ぐための口腔ケアにも関心が高まっています。

治療に関してですが、発症した時にきちんと治療が受けられるように医療インフラが整った域外への広域避難が良いのではないかと述べてきましたが、被災地における医療インフラの再開に伴って、被災地の病院への人的物的支援が重要だと考えるようになりました。実際に心血管インターベンション学会から大船渡病院に循環器医が派遣されました。こうした変化は、災害初期の爆発的な医療の需要の急増期にDMAT等で人的な支援を行うやり方から、急性期を過ぎて被災地域の損なわれた供給を増加させる、あるいは復興させるというフェーズへの変化と捉えることでできると思っています。

今回の震災では、避難している方が大勢おられ、また、避難生活が長期化するだろうことが特徴的に見えます。また、高齢者が多いのも特徴かもしれません。治療にも2つの局面があります。病院での治療と、病院到着前のケア (prehospital care )です。病院での治療の形は不十分であっても改善はしてきていると思います。であれば、prehospital care が重要になります。避難所での突然死が報道されていますが、避難所にはAED (自動体外式除細動器)は整備されているのでしょうか。少なくない額を義援金として日本赤十字社に寄付をしましたが、こんなことを考えていてAEDを買って寄贈すればよかったかなとも思っています。ニュースを検索しても、AEDにはあまり触れていません。避難所におけるAEDの設置の状況はどうなっているのでしょうか。日本光電のweb siteを見ると30台のAEDの提供と、DMAT向けに100台の貸し出しの支援が行われているようです。Medtronic も90台のAEDを寄贈したそうです。きっとこれだけでは不十分だと思います。避難所でのAEDの使用の訓練も必要でしょう。誰かが避難所におけるAEDの設置状況をまとめてくれるとよいのですが…。 やはり支援には情報が必要です。

ドラマ 「ER」 や 映画 「ジェラシックパーク」の原作者、マイケル・クライトンはハーバードの医学生であった時に、心筋梗塞の患者を受け持ちました。その時のことを、「どうせ死んでしまう病気なのに、医師がみる必要はないのではないか、牧師が見たらよいのだ」と随筆に書いています。1960年代の末です。しかし、血栓閉塞した冠動脈を血栓溶解剤で再開通させれば死亡率は下がるのではないかと考えたKP Rentrop の血栓溶解療法やAndreas Gruentigによる冠動脈形成術などを経て、急性心筋梗塞症の患者さんの死亡率は劇的に低下しました。高い死亡率をみてあきらめる人と、そこに介入して改善を図ろうとする人がいます。マイケル・クライトンは作家になりましたが、医師のスタンスは常に後者でであるべきだと思います。大規模な震災後に急性心筋梗塞の発症が増えることは広く知られており、急性心筋梗塞症に対する治療法も確立しています。現実に起きることと対策を結びつける介入が震災関連循環器疾患による死亡を減少させるでしょう。ここに介入することが循環器医や学会の使命だと信じています。