2011年8月31日水曜日

本日8/31は私の誕生日です。 あっという間に57歳です。

 8月31日は私の誕生日です。57歳になりました。もちろん、こんな歳ですから嬉しくも悲しくもありません。今日を迎えて、考えるのは鹿屋ハートセンター開設後のことばかりです。51歳で、鹿屋ハートセンターの開設を決意し、52歳でオープンを迎えました。今年の10月で丸5年が経過します。

 6年前に独立の決意をせずにそれまでの病院に留まっていたならどんな57歳を迎えただろうかと思います。組織の幹部であった私に、自分の考えることを明らかにする自由は許されなかったでしょう。組織の論理の中で、自分の考えとの折り合いをつけ、本音半分、組織の論理半分の発言をしていたと思います。独立の決意で得たものは、自由な発言です。そしてそれを保障している一つの方法がこのブログであろうと思っています。

 独立を決意した時、医学的な情報を得るのにも不利な田舎で、遅れずに仕事をするにはネットが不可欠だと思っていましたが、実際、私の仕事はネットで支えられていると感じています。

 この5年間で変わったことと言えば、冠動脈CTを駆使して、PCI後の6-8月後の造影を止めたことでしょうか。診断カテは激減し、入院患者も減少しました。それに伴って医療収入も目立って減少しましたが、新しいモダリティーを得て、不要な入院、不要な検査が減少した結果ですから結構なことだと思っています。減収ですが減益にはなっていないので効率的な運営が可能になったと評価すべきと考えています。冠動脈CTを駆使するようになって変わったことは、有意とは言えないプラークを多く発見するようになったために、スタチンを中心とした予防に力を入れるようになったことです。スタチンの効果も、効果の不十分さも随分と考えさせられました。また、腎動脈狭窄に対する治療も随分と増えました。ドップラーとCTを駆使して狭窄を発見するだけではなく、治療の必要性を考える機会が独立以前と比較して格段に増えたように思います。
 
 心房細動患者のablationを当院では実施していませんが、CFAEを積極的に実施している鹿児島大学によく紹介するようになったことも変化の一つです。心房細動に対する考え方が5年前とは全く変わりました。

 開業前、学会にもなかなか行けないために一人で間違った方向に進んでしまうのではないかと危惧していました。これも、間違いを恐れずに考えをネットで公開することで、おかしな方向に進むかもしれない私の進路を修正してくれていると思っています。

 自由を得た私が、過ちを犯さぬように戒めるもの、それは私自身にほかなりません。それは、楽な形態ではありません。鳥かごにいる方が楽であったかもしれません。しかし、飛び立った私にはもう鳥かごはありません。目に見える現象は孤立であっても、ネットの力を借りて電子で繋がった同志とともに羽ばたき続けなければなりません。

2011年8月30日火曜日

心房細動患者に対するプラザキサの使用 現時点での私の考え

鹿屋ハートセンターに通っておられる患者さんで最も多い方は、狭心症や心筋梗塞でPCIを受けられた方です。次に多いのは心房細動の患者さんです。数百人の慢性心房細動や発作性心房細動の方が塞栓の予防のためにワーファリンを内服しておられます。

 2011年3月、心房細動患者に発生する塞栓症を予防する抗凝固剤として直接トロンビン阻害剤タビガトラン(プラザキサ)が日本の国内でも使用可能となりました。それまでのワーファリンでは、抗生剤や消炎鎮痛剤による作用増強や、逆に納豆などによる作用減弱で心房細動患者さんの生活や処方が制限されていました。他の薬剤との相互作用が少ない、食事の制限が不要などというメリットが強調され、市販はスタートを切りました。

 2011年8月現在、鹿屋ハートセンターで、このプラザキサを処方している患者さんは1名のみです。それも他院で処方された方の継続使用ですので実際には、当院で処方を開始した患者さんは一人もおられません。評判の薬を処方しない理由の一つは薬価が高いからです。ワーファリン1mgの薬価9.60円を2㎎飲む方の30日の薬価は9.60X2X30で576円です。一方、プラザキサは75㎎で132.60ですから標準量の300㎎に使用では30日の薬価は132.60X4X30で15840円となりワーファリンの30倍の薬剤費負担が必要になります。これに加えて、発売当初は2週間しか処方できませんから2週間ごとの受診が必要になります。

 PTの採血が不要になりなんでも食べられるようになる代わりに、薬剤費負担が増え、それまでの1月に1度の受診から2週間に1度の受診になるけれども薬を替えてほしいかと患者さんに尋ねましたが、一人として替えてほしいと言われた方はいらっしゃいませんでした。1年後の長期処方になったら替えてほしいと言われた方は少なからずおられますのでそれまでは、当院で処方を開始することもないだろうと思い、あまりこの薬の勉強もしていませんでした。

  そうした中で8/12に厚生労働省からこの薬剤に関する注意喚起のレターが発表されました。市販後8/11までの間に5例のこの薬剤との関連が否定できない出血性副作用による死亡があったので注意するようにとの内容です。また死亡に至らない出血性の副作用は死亡した5例を含めて81例であったとのことです。推定の使用患者数は6万4千人ということですので、出血性副作用による死亡は半年弱で0.008%、出血性副作用は半年弱で0.1%ということなります。5人も死んだ危ない薬と判断するのか、0.008%しか死亡をもたらさない安全な薬と評価するのかいずれが正しいのでしょうか。

 この薬剤の認可の決め手になったRe-ly試験の結果を見てみましょう。

Dabigatran versus Warfarin in Patients with Atrial Fibrillation. N Engl J Med 2009; 361: 1139-51

 この論文の中で1日220㎎のプラザキサを内服していたグループの死亡は年率3.75%でした。300㎎内服していたグループの死亡は年率3.64%でした。一方、ワーファリンを内服していたグループの死亡は年率4.13%でいずれのグループ間にも統計的な有意な差は認めませんでした。出血性の副作用の発現は、プラザキサ220㎎のグループで年率2.71%、300㎎のグループで年率3.11%、ワーファリンのグループで3.36%でした。220㎎のグループの出血の発現率は有意にワーファリンを内服していたグループより少なかったとの結果です。この数字を今回注意喚起された日本の数字と比較すると、日本はまだ5か月間のデータですから日本の数字に12/5を掛けてもRe-ly試験の結果よりも優れた結果ということになります。

 私は、新しく市場に投入されるステントも、薬剤も安易に飛びつかずに市場でよく評価されてからその結果を見て使い始めればよいといつも思っています。今回、注意喚起されたプラザキサですが、注意喚起されたにもかかわらず、私は安心しました。国内での使用で発生する問題は、現時点ではRe-ly試験の結果を大きく上回るものではなく逆に少ないという結果だったからです。

 患者さんに新たに何か薬を処方する時に「この薬を飲んでも大丈夫でしょうか?」とよく聞かれます。大丈夫とは言えないねというのが心の中で思っている答えです。A地点からB地点に行くのに高速道路を使って行くのと、一般道を使って行くのではどちらが100%の安全を保障できるのですかという問いに似ていると思います。どちらにも100%の安全はありません。少し高い高速料金を払って早く着く選択を取るのか、高速料金をケチって時間を失うかの選択です。高速道を選択しても一般道を選択してもきっと事故の発生率には違いはないものと思います。一般道の方が時間が長いために発生率は高いかもしれません。ただ一旦、事故が発生すると高速道では死亡事故になる可能性が高いかもしれませんし、一般道を選択すると死亡事故になる確率は低いかもしれません。こうした種々の条件を勘案しながら、100%の安全がない中で常に選択をしているのです。

 心房細動の中での選択は、ワーファリンを服用する、プラザキサを服用する、どちらも服用しないとの選択です。Re-ly試験での患者のCHADS2 scoreは2.1ですから、内服しないという選択の場合予想される塞栓症の発生は年率4.0%です。一方、Re-ly試験の結果ではプラザキサ220㎎のグループで塞栓症の発生は年率1.53%、300㎎のグループで1.11%、ワーファリンのグループで1.69%です。放置するという最も悪い結果が予想される選択を回避するために、それより少ないリスクを受け入れようというのが医学に他ならないと思っています。医師ができることはせいぜいその程度なのです。

 2012年3月まで、やはり私は今迄通り、プラザキサを処方することはないと思います。しかし、長期処方が可能になり、その時点の国内の結果が注意喚起された8/11までのデータと同じであれば、患者さんの選択を問うた上で、積極的にプラザキサを使うだろうと思っています。ただ唯一の要望は75mg錠を1日2回という選択を許して欲しいということです。この選択が許されれば、高齢者にはこの処方が良いような気がしています。

2011年8月28日日曜日

広瀬隆さんの講演に行ってきました。

 本日(2011年8月28日)、『東京に原発を!』1981年3月や、『原子炉時限爆弾 大地震におびえる日本列島』 2010年8月の著者である、広瀬隆さんの講演会が南大隅町でありました。もちろん、今回は福島第一原発の事故を受けてのことですが、もう一つは、南大隅町に高レベル放射性廃棄物の最終処分場の誘致計画があるために、それに反対する人たちが広瀬さんを招いてのことです。

典型的な田舎で、保守的な政治風土の南大隅町にこんなにもこの問題に危機感を持っている人たちがいるのかと思うほどの盛況でした。鹿屋ハートセンターに通っておられる患者さんの顔も見受けられました。

今回の、冷却停止に伴うメルトダウンや水素爆発は、津波による全電源喪失以前に起きた地震による配管の損傷が原因として考えられることなどを丁寧に説明していただきました。また、停止していた4号機の爆発で明らかなように、原発の停止だけでは、そこに燃料棒がある限り、地震や津波の発生時の危険は解消しないことなども理解できました。浜岡原発は、菅直人さんの要請で停止しましたが、地震や津波発生時のリスクは全く減少していないということです。

大隅半島は、域内で消費する食料の4倍の食料を生産し、域外に提供している土地です。食料自給率400%ということになります。例えば、水源となるダムの上流に危険な施設を作る人はいません。同じように重要な食料供給地に高レベル放射性廃棄物処理施設を 作るのは間違っていると私も思います。安全な施設ならばかつて広瀬さんが「東京に原発を」と指摘されたように都市部に作れば良いのです。危険で皆が嫌がるものは、札束で頬を叩いて、地方に押し付けるという発想は頂けません。私が、鹿屋で循環器をやろうと決めた理由の一つは、人口第2位の土地なのにインターベンションができる施設がなかったからですが、そこに導入した後、支えるべきものはこの土地の産業だと思っています。

批判が多々あるのも承知ですが、高名な広瀬隆さんの話を直に聞けたのは幸いでした。また、今回の公演で「チェルノブイリハート」という映画の紹介もありました。チェルノブイリの事故の後、発生した原因不明の心筋症を取り上げた映画です。最近、東京で上映されたようですが、大隅半島のような田舎では見る機会はないでしょう。しかし、このような放射線障害に起因する心筋症がチェルノブイリで発生したとすれば日本でも発生の可能性は十分にあるはずです。循環器医として頭に入れておきましょう。



2011年8月23日火曜日

払拭されない違和感 今回のDESの添付文書の見直しについて

 8/18付当ブログ「LMT病変に対する適切なPCIの実施」に記載した、今回の厚生労働省医薬食品局安全対策課長による課長通知(薬食機発 0720第2号)に対する違和感が消えません。

 当院でも5/26付当ブログ「LMTに対する治療 CABGかPCIか」や2/15付当ブログ「LMTへのPCIをしながら考えさせられたこと」に記載したようにLMTに対するPCIは絶対に実施すべきではないとの立場ではありません。このブログで記載したケース以外にも実施したケースは存在します。そして、この5年間で鹿屋ハートセンターで実施した保護されないLMTに対するDESの植え込みで、幸いにも手技死亡もありませんし、その後の再狭窄も突然死もありません。ですから感触としては、LMTに対するDESの植え込みはCABGの成績と肩を並べると考えています。

 しかしです。DESの承認にあたっては、臨床試験の成績の添付が必要です。その臨床試験で明らかになっていない部分はオフラベルとなって使用を制限されます。XIENCE V stentであればSPIRIT試験です。こうしたcrinical trialに基づく承認であれば、科学的な承認となり官僚の恣意がが入る余地はありません。今回のLMTへのDES使用の禁忌を外す決定にあたって、厚労省はどういったcrinical trialに基づいて決定を下したのでしょうか。7/20の薬事・食品衛生審議会医療機器安全対策部会資料によれば、Syntax試験を根拠の一つとし、また、現在進行中の国内の試験が根拠とされています。まだ、公表されていない試験結果がもう一つの根拠とされているのです。

 なぜ、国内で実施されている臨床試験の結果を待っての添付文書の見直しにしなかったのでしょうか。政治的な力が働いたのでしょうか。違和感が払拭されません。

2011年8月18日木曜日

左冠動脈主幹部病変に対する適切なPCIの実施

  投稿のエディターがうまく立ち上がらなかったために、またまた投稿の間隔があきました。今回は古いエディターでの投稿です。

鹿屋ハートセンターは2006年の10月にオープンしましたが、前の職場は2005年の10月に退職したために1年の準備期間という浪人時代を過ごしました。この間にも、狭心症だけれどもどうしたらよいかと頼られるケースがいくつかありました。今回の図の方もそうです。近くの病院で左冠動脈主幹部の狭窄を指摘され、ステント植込みを勧められていました。重大な部位の狭窄で分岐部へのステント植込みになるために関東から有名な先生に来てもらって治療してもらうという話になっていたそうです。しかし、その有名な関東の先生は、飛行機に間に合わないから自分たちでやっておきなさいと言ってその先生自身が治療をせずに帰ってしまったというのです。難しい治療だからと有名な先生に来てもらったのに地元の先生にしてもらってもよいのかというのが私に対する質問でした。左の図は、2011年4月のものですが、6年前の冠動脈も同様でした。左冠動脈主幹部に確かに狭窄はあるものの有意とは言えず、症状もないために治療の必要がない旨をお話ししました。有名な関東の先生は、私もよく知っている先生ですが、飛行機の時間にかこつけて、するべきではないPCIを避けたのだろうと私は理解しました。この方は、その後、2006年10月から鹿屋ハートセンターに通院中ですが、右冠動脈狭窄による狭心症でPCIを実施したほかは、この主幹部由来の狭心症の発作は1回も発生していません。

この方は、不要なPCIを避けることができましたが、PCIの実際の現場では、不要なPCI、不適切なPCIが実施されていることに間違いはありません。米国の調査では非急性のPCIのうち12%が不適切なPCIの実施であったと最近のJAMAで報告されました。

Chan PS et al. Appropriateness of Percutaneous Coronary Intervention. JAMA. 2011; 53-61

米国の民間保険会社は、営利のために必要な治療であっても保険による給付を渋るとよく言われていますが、その中でも12%の不適切なPCIが実施されているとすれば、公的な保険の日本の場合はもっと不適切なPCIが実施されている可能性があります。実際、保険の審査では適応があったか否かを支払基金から問われることもありませんし、冠動脈の画像を添付して詳記を書いても、画像など要らないと言われる始末です。不適切なPCIを防ぐシステムが日本に存在しません。 この検証がない日本のシステムが生んだ犯罪が奈良の山本病院でのなんちゃってPCIであったと考えています。

平成23年7月20日、 厚生労働省医薬食品局安全対策課長による課長通知(薬食機発 0720第2号)が出されました。この中で、従来禁忌・禁止とされた保護されない左冠動脈主幹部に対するPCIや急性心筋梗塞に対するPCIでの薬剤溶出性ステントの使用が禁忌から外されました。この結果、急性心筋梗塞や保護されない左冠動脈主幹部への薬剤溶出性ステント使用によるPCIは激増すると思います。DESの使用によって、LMT病変であってもDESが有効であるという結果が出ることを私も願っていますが、最初に示したようなケースにまで治療が広げられると、LMTに対するPCIの健全な治療法としての発展は阻害されてしまいます。今回の画期的な課長通知が出たからこそ日本のインターベンション医は、節度を持って適切なPCIを実施してほしいと切に願っています。

2011年8月11日木曜日

お盆がきます

 種々の理由で、今までかかってきた病院から、かかりつけを変える方がおられます。今までかかってきた先生が転勤になったからだとか、先生に叱られたからだとか本当に理由は様々です。入院可能な医療機関から入院可能な医療機関へかかりつけを変えるケースの一つの理由は「そこで家族が亡くなった」という理由です。

そこに行くと亡くなったご家族を思い出してしまうからとか、あるいは悪かった対応を思い出して腹が立つとかそれも色々です。

医療機関のホームページで、難しいケースが救命できたという話が公開されることはあっても、亡くなられた方のことに触れることは稀です。しかし、「死」は避けて通れない必然です。

お盆がきます。ハートセンター開設から約5年が経過し、亡くなられた方ももちろんおられます。ご主人が亡くなられてもハートセンターに通院を続けておられる奥様が少なくありません。本日もそのような方がいらっしゃいました。家族が受け入れることができる「死」であったと考えてよいのでしょう。ともに故人を偲ぶ大事なお盆です。

2011年8月6日土曜日

腎動脈末梢病変由来の繰り返す心不全 Cardiac Disturbance Syndrome due to Distal Renal Artery Stenosis

Fig. 1 Rt-Renal Artery wvaluated with 64-row MDCT
 症例は、74歳 男性。冠動脈3枝に強い石灰化を伴うびまん性病変があり、3枝すべてに薬剤溶出性ステントの植え込みを行っています。

 心エコーで評価した、心機能は、左室拡張末期径が60㎜、左室駆出率は45%と若干の収縮能の低下と左室の拡大を認めます。ドップラーで評価した推定右室圧は33㎜Hgでした。Creは0.84mg/dlです。

 この方が、2度、急性の起坐呼吸で夜間に救急搬送されました。ラシックスを1A IVするだけで翌朝にはケロッとして帰りたいと言われます。この程度の心機能でなぜ強い心不全を起こすのか不思議でした。腎動脈狭窄によるcardiac disturbance syndromeを疑いましたが、エコーで評価したPSVは速くありません。1度目の心不全時にはこのまま退院としましたが、2度目の心不全時に、CTで腎動脈を評価しました。結果が、Fig. 1です。右腎動脈の末梢に強い石灰化を伴う狭窄を認めます。


Fig. 2 Rt-Reanl A. before dilatation

 心不全を繰り返したり、多数の降圧剤を要する腎動脈狭窄に対して鹿屋ハートセンターでも数十例の腎動脈ステント植込みを行ってきましたが、ほとんどのケースは腎動脈入口部の狭窄です。本例のような末梢病変でcardiac disturbance syndromeを呈する患者の経験がないために、この部位の拡張に意義があるかどうか確信が持てませんでした。診療において重要なことの優先は、1) 病気を見つけ診断すること、2) 治療をすることで得られるものが失うものより大きいと判断すること(適応を決定すること)、3) 治療をきちんとすることの順番だと思っています。狭窄を見つけることに手間取りましたが拡張することは容易です。しかし、これで患者さんにメリットがあるのかどうか、判断がつかなかったのです。


Fig. 3 Rt-Renal A. after dilatation

 腎動脈の治療に多くの経験がある札幌心臓血管クリニックの藤田勉先生(2夜連続の登場です、許可なく名前を出していることを許してください)に電話をして意見を聞きました。やる価値があるのではないかとのご意見でした。この意見を受け入れて、実施したのがF1g. 2、Fig.3です。狭窄部は固く末梢用のバルーンが通過しないために冠動脈用のバルーンを使用しました。病変が固く2.5㎜径のバルーンで高圧で拡張してようやくindentationはとれたもののExtravasationを起こし、3.0㎜バルーンで長時間の低圧拡張を実施し、止血もできました。実施したのは2011年4月初旬です。

  問題は、この後の経過です。この後も心不全を繰り返せば、無駄な治療であったということになります。まだ4か月ですが、内服の変更なしに、まったく心不全発作は起こしていません。2か月続けて救急受診されていた方が4か月安定しているのですから、治療の意味があったと考え、本日アップすることにしました。

  腎動脈用のステントの最小径は4.0㎜でこのような末梢病変の治療を想定していません。本例のような末梢病変由来のcardiac disturbance syndromeが存在するとしたら、治療用のデバイスもそれに合わせてラインアップしなくてはなりません。また、診断も腎動脈本幹のドップラーによる評価だけでは不十分だということになります。このような病態が存在するのなら腎動脈狭窄に対する診療のあり方が大きく変わります。

2011年8月5日金曜日

不満に支配されるか、不満をばねに前進するか

 ほぼ2か月にわたってこのブログの更新を怠っていました。

 札幌心臓血管クリニックの藤田勉先生が時々、書いておられる悪い「気」に支配されている時には外に向かって何かを発信するべきではないとも思っていましたし、発信する気にもなれなかったのです。

 最後に記事をアップした6/17は、CVIT2011の開催予定まであと1か月というタイミングでした。この時点でプログラムは手元に届いておらず、学会に参加しようにも予定が組めなくてイライラしていました。宿泊の日程が組めずホテルの確保もしていませんでしたし、交通手段も確保していませんでした。「今度の学会事務局は最低だ」と思っていました。学会に参加するためには外来診療を止めなければならず、1月以上前からこの調整をしないと患者さんに迷惑をかけてしまいます。学会の準備が大変なのは理解できても、学会を準備する学会の中枢の先生方では、地方で少人数でPCIを維持している者の気持ちが分からないのだと大きな不満を抱いていました。

 ようやくweb上でプログラムが公開されたのが、学会の初日まで1か月を切った6/23です。公開されたプログラムを見てまたまた、不満の気持ちが高まりました。初日にライブがあり、最終日の最終時間帯に放射線防御の講習会です。どちらにも顔を出そうと思えば、長い期間の外来休診になってしまいます。このような日程だと参加者が増えるという目論見かもしれませんが、なるべく短い日程で外来患者さんに迷惑をかけずに学会参加しようと思う者にとっては厳しいプログラムです。

 この不満の気持ちに支配されての学会参加でしたので、放射線防御の講習会でも切れてしまいました。会場の部屋の前には何の案内もないのにもかかわらず今から始まるという時になって、3000円の受講申し込みを買ってきたものしか受講できないとアナウンスされたのを聞き、切れてしまったのです。会場の10階から受け付けの5階に下りて受講申し込みを購入するときに「ちゃんと、アナウンスしろよ」と責任のない担当者に文句を言ってしまいました。

 本当に悪い「気」に支配されていたようです。不条理と思うことがありそれに不満を持って解決しようとする心構えは、問題意識を持った改革への実践とも表現できます。これは「正」の気持ちです。一方で、言っても仕方がない不満を、「陰口」やネットを使った匿名性に隠れた「悪口」の公表などという手段で表明しても得られるものは何もありません。「負」の気持ちです。「負」の気持ちに支配されていては幸せになりようがありません。

 15年以上前、当時の上司との確執から鬱々とした日々を送っていた時に、置かれた環境を嘆くよりも新天地を求めて新しい挑戦のみに心を砕こうと決めました。その新しい挑戦が今の私を形作り、悪い「気」の支配から逃れられたと思っています。「私」が感じる不満や不遇の感触は、ほとんどが「私」に内在するもので環境の問題ではないと考えた方が良いようです。このような経験があり、「正」の気持ちで進路を決める行動パターンができていたために6年前の徳洲会の退職時にも、過去にとらわれずに明るい希望だけを持って前に勧めました。

 今思えば、この2か月間の不満や苛立ちは取るに足りない事でした。2010年12月15日付当ブログ「私がブログを始めた訳」に記載したように、学会に参加しなくても発信することは可能ですし、勉強することも可能です。また、私を支えてくれるものは、私を頼ってくれる患者さんをおいて他に存在しません。不満に支配された悪い「気」が去ってゆくのでしょう。新たな気持ちで日々の仕事に邁進しましょう。