Fig. 1 LCA before PCI |
Fig.1はPCI前の左冠動脈、Fig. 2は右冠動脈です。左冠動脈は#7でほぼ完全閉塞、右冠動脈は#1で不整形の透亮像を伴う90%狭窄です。#4PDから前下行枝に良好な側副血行を認めました。Jeopardized collateralです。こんなに危険な冠動脈の状態でも無症候です。この状態の方を心電図所見と心エコー所見で大丈夫と言ってしまうと突然死という形で痛い目に会います。CTで評価して正解でした。
Fig. 2 RCA before PCI |
CTで分かったことはこれだけではありません。Fig. 3は無名動脈が大動脈より分岐した直後ですが、ほぼ全周性に厚いプラークを認めます。また、Fig. 4は下行大動脈ですがやはり厚いプラークを認めます。カテは右上肢からのアプローチも下肢からのアプローチも危険です。より太い動脈の方が安全性が高いと判断し、カテは下肢からとしました。カテの出し入れ時が心配なのでシースはロングシースです。PCI時に意識したことは、血行動態が破綻した時にIABPは使えないということです。こんな大動脈の中でIABPを駆動させたら、塞栓は必発です。
初回造影時に、LADの完全閉塞を開けました。この時、ワイヤーによる穿孔で 心のう液が少し溜まりました。RCAへのトライには十分に時間をかけることにしました。穿孔がある中でヘパリン化はできないと考えたからです。また、右冠動脈がno reflowになった時にIABPが使えないとなれば致死的になりかねないからです。
Fig. 3 Aortic arch evaluated with MDCT |
平均在院日数の短縮が是とされ、大病院ではこの短縮化のプレッシャーは小さくありません。また、これを受けて短い入院日数で治療できるということを「売り」にする施設も医師も存在します。もちろん、それが可能なケースでは短い入院日数で日帰りでも1泊2日でもよいのです。しかし、このケースのようにJeopardized collateralでcollateralのfeederが不安定プラーク、さらにIABPも使用が躊躇われるというような場合には時間を十分にかけることが大切だと思っています。「『病』は時間が作るが、内服と時間が『病』を癒す」こともあると思っています。
Fig. 4 descending Aorta evaluated with MDCT |
10日間の何もしない入院期間中、退屈だと文句を言っておられたこの方は、シースを抜去した後の止血中に、今日安全に素早く治療ができて、待っていた意味が良く理解できたと言ってくれました。 同じ質の治療が提供でき、同じ結果が出るのなら入院期間は短い方がいいに決まっています。しかし、在院日数の短縮化が目的となって、機械的にパスに乗せ、1例1例を吟味するする時間や、内服の効果を期待して癒してくれる時間まで奪ってしまうのでは、安全で確実な治療結果という第一義を見失う危険を孕んでいると思えてなりません。
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