Wednesday, April 11, 2012

「医は算術」の象徴たる制度改変 一般名処方加算の新設に思う

しばらくは、当ブログで戦略を紹介したケースのその後を書こうと思っていましたが、本日は別の話題です。

4/1より今回の診療報酬改定で一般名処方に加算2点が算定できるようになりました。従来の商品名処方ではなく一般名処方にすれば20円処方箋料を多くとってよいよという制度です。

医療機関で処方される薬剤には、一般名・先発品の商品名・後発品の商品名とさまざまな名前がついています。PCIの領域でよく使用されるチクロピジンであれば、先発品のパナルジンの他に後発品のチクピロンやパチュナ・ビーチロン・ニチステート・ソーパー・ジルペンター・ソロゾリン等々10種類以上の名前が氾濫しています。同じ薬剤であるはずの薬を処方しようと思ってもこんなに名前がたくさんあればいくら頭が良いお医者さんでも覚えきれるはずがありません。聞いたことがない処方を見て、PCIをするのにチクロピジンを内服していないと危険だからとパナルジンを処方してしまうと2重処方になり危険です。このため、一般名処方にしてこうした危険な2重処方を回避するのが目的だと素直な私は思っていました。しかし、今回の一般名処方を促す目的は、患者の安全を高めるために医師の処方の作法を一般名処方に誘導しようというものではなかったようです。

図は当院で使用している電子カルテの処方箋の記載画面です。一般名処方をクリックすると自動で商品名処方から一般名処方に変換してくれるので何の手間もありません。でたらめに作った処方箋ですが、アーチスト10㎎には一般名のカルベジロールが変換されて出てきますが2.5㎎は変換されません。これは2.5㎎の製剤には後発品がないからです。後発品がない薬であれば薬品代が低下しないために一般名処方は認められないのです。医薬品に関わる医療費を下げることが目的で一般名処方を普及させようということが目的ではないからです。

一方、ザンタックには後発品があるにもかかわらず一般名には変換されません。これは厚生労働省が発表している一般名処方のマスターに記載がないからです。日本国内にある後発品6778品目中217品目しかマスターに記載されていないそうです。4/1から制度変更があったにもかかわらず厚労省の準備ができていないのです。厚労省は今後、マスターへの記載を増やしてゆくと言っていますが準備を十分にしないまま制度を変えてしまう危うさを感じずにはおれません。

最後のタケプロンですがランソプラゾールと一般名処方にちゃんと変換されます。この薬はPCIで一般的に処方される低用量のアスピリンを内服している方の消化管出血を抑制する目的で保険適応が認められている薬ですから循環器領域でなじみの深い薬です。しかし、低用量アスピリンを内服している場合に保険適応になるのは先発品のタケプロンだけで後発品にはこの適応はありません。用法特許というものがあるのでその特許が切れるまでは後発品にはこの目的での使用では保険がきかないのです。低用量のアスピリンを内服している方に一般名処方でランソプラゾールを処方した時に調剤薬局で後発品が実際に患者さんに渡された場合、適応のない薬を処方したとして処方医は薬剤費を負担しなければなりません。正しい目的で正しい処方をしたのに処方医が責任を負わされるのです。

一般名処方という文化を根付かせるというポリシーもなく、準備も整わないままに制度の変化は始まってしまいました。なぜ、準備も十分にしないまま急いでこのような制度の変化を厚労省は求めているのでしょうか。それは単純に後発品の処方を増やして医療費を削減しようという一点が目的だからです。しかし、正しい処方をしている医師に責任を負わせるような不十分な制度変化でこの目的すら達せられることはないような気がします。安い後発品の普及によって生じるかもしれない、2重処方や不適切な製薬のリスクをを負わせないようにという患者本位の制度改革であれば十分な準備が必要です、そろばん勘定だけで始める制度の改変は品格を失った厚生行政の象徴のような気がします。「医は仁術」という言葉に対する皮肉として「医は算術」という言葉が生まれました。この「医は算術」を率先する厚労省の姿勢のもとで医師も患者さんも苦しめられます。

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