ここ10日間ほどはこのブログを更新せずに当院に通院している方のデータ整理をしていました。
札幌の藤田先生が、カテーテル検査に伴う脳梗塞の発症は少ないものの、確実に存在するために、この取り返しのつかない合併症をなくすために不要なカテーテル検査を一切しないとよく言われます。不要なカテーテル検査を避けるために冠動脈CTを多用し、また、精度を高めるのだと言われます。この考え方に私は100%同意しています。
私にも忘れられない苦い経験があります。30年前に両側の腸骨動脈閉塞のためにSones法でカテーテルを実施した方が、カテーテル検査の直後に脳梗塞を発症され、寝たきりになってしまいました。脳梗塞発症後の脳血管撮影では両側内頚動脈の90%狭窄を認めました。カテーテル検査前には気づいていなかったのです。この反省から、現在ではカテーテル治療を受ける方の全例にエコーによる内頚動脈評価を行っていますし、不要なカテーテル検査を排除するために診断カテもフォーローアップカテも可能限りCTで代替しています。治療でカテーテル挿入が必要な場合も上行大動脈や鎖骨下動脈の状態をCTで見るように心がけています。30年前の忘れられない脳梗塞発症の経験から、脳梗塞発症に対する恐怖心が消えたことはありません。
循環器領域で脳梗塞を発症する最大の原因は、カテーテル検査ではなく心房細動の合併です。このため心房細動患者に対するワーファリンの投与は徹底的に行っています。CHADS2の0点であれば必ずしもワーファリンの投与は推奨されていませんが、若い方が脳梗塞になって失うものを考えるとワーファリンを使用した方が良いのではないかと思っています。こうした考え方からか最近上市された新規抗凝固薬でもCHADS2 0点 1点に対する投与が議論されるようになりました。
プラザキサの市販開始から1年が経過し長期処方が許されるようになりました。また、リバロキサバン(イグザレルト)の市販も始まりました。以前のブログにも書いたように当院では両薬剤ともまだ処方を開始したことはありません。しかしいつかは処方を始めることもあるでしょうからこの10日間は当院に通院している心房細動患者さんのデータを整理していたのです。
2012年3月に当院に受診された心房細動患者さんの内服内容やPT-INR値、eGFR値をまとめました。
全心房細動患者数は290人でした。うち慢性心房細動は133人、paroxysmalもpersistentも含んだ発作性心房細動は157人でした。慢性心房細動患者133人中130人(97.7%)の方がワーファリンを内服しており、PT-INRが1.6-3.0の範囲内であった方は75.9%でした。内服していない方は高齢に加えて他の出血のリスクも合併していた3人のみでした。発作性心房細動患者157人のうちワーファリンを内服している方は116人(73.9%)でした。ほとんど発作がない、左房径も小さい、CHADS2が0点など塞栓症のリスクが低い方と、逆に出血のリスクが高い方が内服していませんでした。それでも内服率は73.9%でしたし、内服している方の至適INR達成率は77.6%でした。
食事制限や併用薬剤に制限があり、また、頻回にPT-INRを測定しなければならないワーファリンにはアドヒアランスの問題があり、内服率が60%程度だと言われたり、至適INR達成率が60%程度しかないなどとよく言われてきました。このため、より制限が少なく、頻回の採血も不要な新規抗凝固薬の方がアドヒアランスが向上すると言われ、新規の市販の原動力になったと理解していました。しかし、当院のデータでは、慢性心房細動患者の97.7%がワーファリンを内服し、75.9%の方が至適INRを達成していました。当院のデータを見る限りワーファリンのアドヒアランスは低くないと言えます。
一方、ダビガトランの慎重投与が勧められている70歳以上、eGFR: 50未満、抗血小板剤の内服中の方を除外すると全慢性心房細動患者133人中、いづれにも該当しない方は27人(20.3%)のみでした。アドヒアランスはダビガトランの方がむしろ低いと言えます。自施設のデータを整理して正解でした。2剤の優劣を比較するRCTで出てくるデータと、リアルワールドで見ている患者に実際に適応できるかという議論には差があるのは当然ですが、RCTで議論になっていないアドヒアランスにまで議論を拡大するのは無理があったようです。
この結果からダビガトランを全否定するつもりはもちろんありません。Re-ly試験で示されたワーファリンに対する優位性が現実になるように、どのような方にどのような容量で投与するのが適切なのかを、よく考えたいと思います。データは手元にありますから多方向から検証してゆくつもりです。
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