「推理する医学」は、バートン・ルーチェが書いた原因不明の病気の原因を推理小説のように解明していく話です。20年以上前に読んだために詳細を覚えている訳ではありません。また、第2巻が刊行されてことは知っていましたが、これも読んでいません。絶版になっているのだろうと思っていましたが、ロングセラーでまだ手に入るようです。
自分で書いた「繰り返す心不全患者における腎動脈狭窄の評価」を読んでいてふとこの本を思い出しました。繰り返す心不全の原因を患者に求めることは容易ですし、これに介入する話を書いた記事は最近私が書いたブログの中ではアクセスの多いものの一つです。しかし、腎動脈狭窄が原因と考えられる繰り返す心不全なのに、「あなたの生活習慣が悪い」と腎動脈狭窄を見逃している医師から責められる構図は、無実なのに「お前が犯人だ」と自白を強要される冤罪の構図に似ておぞましい感じがします。この構図にならなくて済んだのは、左室拡張末期径が60mm、左室駆出率が50%程度のなのに心不全を繰り返すのだろうかという疑問から検査を始めたからです。安易な考え方をすると、その程度でも心不全を繰り返す人も存在するし、見たこともあるよと片付けてしまいます。そんな人もいるよという考え方は危険です。
鹿屋ハートセンターには循環器系の疾患以外の方が受診することは稀です。2月ほど前に熱発と全身の筋肉痛(特に下肢)を主訴に受診された方がいました。心臓にも下肢の血流にも問題は見つかりません。CRPは高値でCPKは2000を超えていました。筋炎や膠原病を疑い、近くの病院の内科に紹介しました。帰ってきた返書には、尿路感染が見つかったので熱発の原因だと考え、抗生物質で治療しますとのことでした。ではCPKの上昇は何が原因なのか返書では分かりません。電話で聞いてみました。すると電話に出た若い先生は、動けなくて長期臥床していたのが原因だろうと上医から指導を受けた、CPK 上昇はそれで説明できるとのことでした。 長期臥床でCPKが上昇する人が存在することと、この患者のCPK 上昇が長期臥床のみが原因だと結論づけることには論理的なギャップが存在します。とはいえ、あれこれ言って気を悪くさせるのもと考え、それ以上は話しませんでしたが、その後CPK上昇は解決したのかということに関しては返事をもらっていません。
このように、こんな人もいるよ、見たことがあるよということから医師がシナリオを作り上げ、説明出来るというだけで次のステップに移っていくという誤りは少なくありません。無作為試験で得られるエビデンスとは異なる、患者から得られる証拠(エビデンス)から真実の診断に至る作業が必要です。その時に説明可能か否かではなく、自分は誤診を犯していないか、冤罪を作り上げているのではないかと疑問や惧れを持ち、証拠を集めることが大事だと思います。今回は、病気を見逃している藪医者が、患者を責めるという構図にならなくて幸いでした。
まだ読んでいない「推理する医学」の第二巻も含めて、また読み直してみましょう。
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