急性心筋梗塞などの循環器救急に長く関わってきたために、今回の震災で発生するであろう震災関連循環器疾患に関心を寄せてきました。急性心筋梗塞、たこつぼ型心筋症、肺塞栓、急性うっ血性心不全等です。
疾患に対する対処には2つの局面があります。予防と治療です。
予防に関しては、肺塞栓症の予防のために使用された弾性ストッキングが有効であったとの報告も出てきていますし、予防のための体操を勧める先生もおられます。また、関連死の原因として最も多い、肺炎を防ぐための口腔ケアにも関心が高まっています。
治療に関してですが、発症した時にきちんと治療が受けられるように医療インフラが整った域外への広域避難が良いのではないかと述べてきましたが、被災地における医療インフラの再開に伴って、被災地の病院への人的物的支援が重要だと考えるようになりました。実際に心血管インターベンション学会から大船渡病院に循環器医が派遣されました。こうした変化は、災害初期の爆発的な医療の需要の急増期にDMAT等で人的な支援を行うやり方から、急性期を過ぎて被災地域の損なわれた供給を増加させる、あるいは復興させるというフェーズへの変化と捉えることでできると思っています。
今回の震災では、避難している方が大勢おられ、また、避難生活が長期化するだろうことが特徴的に見えます。また、高齢者が多いのも特徴かもしれません。治療にも2つの局面があります。病院での治療と、病院到着前のケア (prehospital care )です。病院での治療の形は不十分であっても改善はしてきていると思います。であれば、prehospital care が重要になります。避難所での突然死が報道されていますが、避難所にはAED (自動体外式除細動器)は整備されているのでしょうか。少なくない額を義援金として日本赤十字社に寄付をしましたが、こんなことを考えていてAEDを買って寄贈すればよかったかなとも思っています。ニュースを検索しても、AEDにはあまり触れていません。避難所におけるAEDの設置の状況はどうなっているのでしょうか。日本光電のweb siteを見ると30台のAEDの提供と、DMAT向けに100台の貸し出しの支援が行われているようです。Medtronic も90台のAEDを寄贈したそうです。きっとこれだけでは不十分だと思います。避難所でのAEDの使用の訓練も必要でしょう。誰かが避難所におけるAEDの設置状況をまとめてくれるとよいのですが…。 やはり支援には情報が必要です。
ドラマ 「ER」 や 映画 「ジェラシックパーク」の原作者、マイケル・クライトンはハーバードの医学生であった時に、心筋梗塞の患者を受け持ちました。その時のことを、「どうせ死んでしまう病気なのに、医師がみる必要はないのではないか、牧師が見たらよいのだ」と随筆に書いています。1960年代の末です。しかし、血栓閉塞した冠動脈を血栓溶解剤で再開通させれば死亡率は下がるのではないかと考えたKP Rentrop の血栓溶解療法やAndreas Gruentigによる冠動脈形成術などを経て、急性心筋梗塞症の患者さんの死亡率は劇的に低下しました。高い死亡率をみてあきらめる人と、そこに介入して改善を図ろうとする人がいます。マイケル・クライトンは作家になりましたが、医師のスタンスは常に後者でであるべきだと思います。大規模な震災後に急性心筋梗塞の発症が増えることは広く知られており、急性心筋梗塞症に対する治療法も確立しています。現実に起きることと対策を結びつける介入が震災関連循環器疾患による死亡を減少させるでしょう。ここに介入することが循環器医や学会の使命だと信じています。
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