1979年 NECからPC-8001というパソコンが発売されました。国産初の筐体型パソコンと言われているコンピューターです(本当は2番目)。確か、卒後2年目の1980年に購入しました。私が初めて買ったパソコンです。標準のメモリーは16Kで16万8千円が定価でした。32Kに増設し、別売りのモノクロモニターを買って、20万円位になりました。Floppy disk driveもなくBasicで作ったプログラムはテープレコーダーに記憶させるのです。カラーモニターや、Floppy disk drive・ハードディスクなどをつけると100万円を超える出費になり、医師になりたての私には手が届きませんでした。30年以上前の話です。
今、このブログを書いているパソコンのRAMは2.0Gですから、当時のPC-8001の100万倍のメモリ-です。ハードディスクの容量も250G、フルカラーのモニターを2台つないで20万円ほどです。30年前にこのスペックのコンピューターであれば数千万円になったかもしれません。当時と比較してパソコンの市場は急拡大したでしょうが、この比較を見て、パソコンは高度化し、ITに関わる費用は増大したと表現する人がいるでしょうか。普及による市場の拡大であって、高度化に伴う費用の増大と分析する人がいるはずがありません。
しかし、医療の世界ではこのような表現をされるのです。「医療の高度化に伴って増大する医療費」と表現されます。これも2012年1月23日付当ブログ「誰もが当たり前と思う言葉」です。これに対処するために消費税の増税を考えなくてはならないというのです。もうそろそろ月末になり、レセプトの点検が始まります。最近のPCIのケースの医療費は、IVUSを使用して1バルーンと1薬剤溶出性ステントを使用して80万円ほどです。このうち6-7割は道具に関わる費用です。医師の技術料は22万円ほどです。30年前、日本でPCIが始まった当時は、バルーンの性能も悪く病変をなかなか通過しないために複数のバルーンを必要としました。当時の出来の悪いバルーンの価格は30万円ほどでした。苦労して病変を拡張してもステントもなかった時代ですから、急性冠閉塞のために繰り返して当時の表現をすればPTCAを要したり、緊急手術になったり死亡したりも稀ではありませんでした。また、急場をうまく治療しても40%程度に再狭窄が発生したために創成期のPTCA後は3月後、半年後、1年後と繰り返し造影を行い、再狭窄があればまたPTCAを実施しました。このため年間の入院に関わる費用は数百万、ケースによっては1000万を超えたと思います。それが80万程度の入院1度で、あとは確認造影のための入院もなく、CTで評価するだけです。PCIの分野では医療の高度化に伴って個別の医療費は格段に安くなっています。パソコンと同じことが起きているのです。パソコンであれば、昔と比べれば機能の高い製品が安くなったよねと表現されるのに、医療の世界では昔よりも良い治療が安くなったよねとは表現されません。
何故でしょうか。「医療の高度化に伴って増大する医療費」と記述する新聞記者の不勉強のせいでしょうか。あるいはうがった見方をすれば医療費を下げるために、医療費が年々高くなっているとの嘘のキャンペーンをやっているのでしょうか、戦前の大本営発表と同様に厚生省発表・財務省発表をそのままに書いているのでしょうか。1例1例の医療費は数分の1になっているのにトータルの医療費が増大するのは治療の対象になる方が増えた普及の所為で、医師はより良い仕事を以前よりも安くより多くの人に実施しているのです。より良い仕事をより安く、より大勢にと良心的に頑張る医師が非難されます。医師の所為ではない医療費の増大を医師の所為にすればよく言われる「医療崩壊」に繋がります。本当の医療費増大の原因に目を向けた対策を望みたいものです。
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