2012年1月23日月曜日

誰もが当たり前だと思う「時代の言葉」に懐疑的であり続けたい

4年前に死んだ父は、大阪で土建屋でした。バブルの頃、仕事も順調で羽振りの良かった父のところには、株を買え、土地やビルを買え、新たに土地を造成して売り出そうなどという話が引きも切らずでした。父は、子供たちが物心がつくころになると小学生の子供に向かってでも「女遊びをしても賭け事だけはするな」と繰り返す人でした。そんな考えでしたからすべての儲け話を断り続け昔からの仲間からも馬鹿だと言われ続けました。その頃の新聞には一般紙であっても、株の運用ゲームのコーナーがあったりと日本中が浮かれていた時代です。そしてバブル崩壊です。父を馬鹿だといった昔からの父の仲間の多くが昔からの会社をつぶしました。こんな時代に投資をしないのは愚かだと言っていた新聞もバブル時代の経済政策を批判し始めました。馬鹿だと言われた父はバブル崩壊後も生き残ったのです。「時代の言葉」に左右されなかったからだと思っています。

「時代の言葉」はたくさんあります。最近では「東北の復興には除染が第一だ」という論調でしょうか。民主党も自民党も東北の自治体も新聞も口を揃えてそう言います。でも除染でかき集めた放射性物質はどうするのだろうという点や、最終処分地は福島県外にするという約束も他の土地を見つけられるのだろうかという疑問は残ったままです。

私たちの分野でも「心筋梗塞はプラーク破綻によっておこる」とよく言われますが、プラーク破綻は何をきっかけに発生し、どうすれば破綻が防げるかを考えなければ、意味のない呪文になってしまします。スタチンが有効だともよく言われますが、スタチンの使用で十数%のイベントが減少しただけで、すべての問題の解答にはなっていないのにスタチン神話が大きくなり続けます。

偉いと思われている人が言うこと、権威があると思われている人が言ったことを検証せずに受け入れることに危うさをいつも感じます。

最近気になる言葉は「消費税の逆進性」です。貧しい人からも豊かな人からも同じ税率で徴収される消費税は貧しい人にとってより大きな負担になる、逆進性の税だとよく言われます。逆進性を薄めるための調整が必要だという議論も既にあるようです。

鹿屋ハートセンターのある大隅半島は消費税導入を決めた時の自民党税調会長であった山中貞則さんの地元です。消費税の導入直後の総選挙では僅か28票差で落選されました。鹿屋で働くようになり色々な話を聞くようになりました。票を数え直させようという支持者に対して負けは負けだと恥ずかしい真似をするなと言われたと聞いています。また、秘書をしていたご子息が地盤を継承されるとばかり思っていましたが、ご子息の立候補は許さないと言っておられたことも伺いました。鹿屋に来る前に持っていた山中さんに対する印象は鹿屋にきて大きく変わりました。消費税導入についても山中さんの意図は都市から地方への税の再配分だったと聞くようになりました。貧しい地方に厳しいと言われる消費税ですが、経済活動が活発な東京などの都市部の消費税納税が圧倒的で、地方では支払う消費税よりも交付される税の方が多いのです。きちんと再配分されるならば、豊かな人や企業や都市部がより多く納税する消費税が地方や貧しい人たちにもたらされる筈です。どこに「逆進性」があるのでしょうか。消費税率を上げれば、更に消費が低迷し経済が悪くなるという人もいますし、消費税率を上げなければ財政が破綻するという人もいます。私にはどちらが正しいか分かりませんが、「逆進性のある消費税」には反対という議論には合点がゆきません。

「逆進性のある消費税」というような紋切り型の時代の言葉は、経済でも医学でもいつも危険だと思い、懐疑的なスタンスを取り続けようと思っています。これもバブル時代に馬鹿と言われた父から譲り受けた財産でしょうか、あるいは負債なのでしょうか。

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