2012年6月14日木曜日

PCI施行時の瞬発力と鈍感力

 今日は、外来開始直前の救急車、昼の救急車、夕の時間外の胸痛、夜になって救急車と落ち着きません。普段は、一人で仕事を回しているので、外来開始前の胸痛は、外来患者さんに待ってもらって緊急カテをするか、外来が終わってからカテにするか悩みます。朝の救急車のケースは2時間持続した胸痛で、来院時は胸痛は軽減してケロッとしているものの僅かにII, III, AVFでST上昇を認めます。

この方は以前に当院でLADにステント植込みを行っており、普段は当院に通院している方ですが、小倉ライブに出かけて私が留守にしている間に、近くの病院に胸痛で受診されました。元々あったLCX take-offの50%はそのままで、その末梢に90%狭窄が新たに出現しており、その病院でLCX take-offから長めのXience prime植込みを行われていました。鹿屋のPCI施設はどこの病院も術者が多いわけではないので、当番を決めて、交代で休めるようにしているのです。この当番制のおかげで私も学会に行けるようになりました。

この方が、ステント植込み後2週間で持続する胸痛で来られたのです。僅かなST上昇でしたから、大きな血管の閉塞ではないと判断し、外来後のカテとしました。上段の図は、左冠動脈straight cranial像ですが、他の病院で撮影した像ではLAD末梢まで造影されているのに、右の本日の造影では末梢まで造影されていません。distal embolismと判断しました。下の図は、本日のLAO caidal viewですがLCX take-offにステント内からhgh lateral branchまでもやもやとした血栓像を認めます。

LAD末梢の塞栓源はどこでしょうか?LCX take-offのステント内血栓が乱流でLADに流れ込んだのでしょうか。あるいは、この血栓がLMTに顔を出して、LADに流れたのでしょうか。ちなみにこのケースは洞調律です。このCXのステントはIVUSガイドで植え込まれており、きっとmalapositionはないと判断され、ステント植込みを終了したのだろうと思います。きちんとDAPTを服用されて、以前のステント植込み後にはステント内血栓はなかったケースです。やはりステント内に血栓が付く要素があったのでしょうか。当院にはIVUSはありますが、普段はOCTを置いていません。

IVUSで観察し、malapositionがあれば、CXのステントをしっかりと圧着させようかと考えましたが、今日はヘパリン化を継続するだけで何もしませんでした。LCXのflowがTIMI IIIであったこと、LADの閉塞はごく末梢で、保存的に見ても予後には影響しないだろうとの判断からです。一方、今日すぐに手を出した時にCXに向かっての治療でLADに塞栓を飛ばすリスクは少なくありません。LCX方向へのPCIでno reflowになると同時にLADへの塞栓では目も当てられません。十分な血栓溶解後にOCTを手に入れて、次の血栓症を防ぐ手立てを考えるのが安全と判断したのです。

1時間後に死に至る方でも、今、PCIをすることで救われる命があります。一方で、焦って十分に吟味しないままPCIに入って失われる命もあります。経過を見た時の最悪のシナリオ、緊急に手を出した時の最悪のシナリオを想定しながら、瞬発力を発揮したり、鈍感力を発揮したりが重要だと思っています。本日は鈍感力を優先しました。この判断が間違いであったとしてもすぐに瞬発力を発揮できるように、待機していましょう。

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