2015年5月30日土曜日

私の目指す心房細動患者に対する抗凝固療法 Anticoagulation at minimum bleeding risk for Atrial Fibrillation (3)  鹿屋ハートセンターで実施したワーファリンによる抗凝固療法の成績を振り返って

 最初の新規抗凝固薬は2011年に市販が始まったDabigtran(プラザキサ)です。私は、新しい薬が市販されてもすぐには処方しないようにしています。1年の成績を見てからのほうが安全だと思っているからです。2011年に市販が始まってそろそろ1年が経過した2012年2月に鹿屋ハートセンターに通院されている心房細動患者さんを調べました。

心房細動患者さんは290名で、うち246人の方にワーファリンを処方していました。率にして84.8%です。決して処方率が低いわけではありません。慢性心房細動に限れば、97.7%の方にワーファリンを処方していました。ワーファリンを処方していなかった方のほとんどは心房細動の発生がごくまれな発作性心房細動の方で、若くてCHADS2スコアの低い方でした。2012年2月の一時点でPT-INRが目標とする1.6-2.6に入っていた率は77.7%でした。コントロールも良好でした。(図1)

図2はこの246名のワーファリンを処方されていた方の2年間の追跡の結果です。2012年2月にエントリーして次の月にはもう来院されなかった6名を除いた240例のデータです。49歳から94歳の年齢分布で、男女比は大体2:1でした。腎機能も様々でクレアチニンクリアランスは13-142l/minと広く分布していました。個々のケースの2年間の%TRを算出し、平均値を見るとやはり2012年2月の一時点で治療域に入っていた率とほぼ同じの76.7%でした。

図3は2年間の結果です。8例の方が途中で行方不明となりご自宅に電話を差し上げても通じなかった方です。引っ越しをされたのか亡くなられたのかも分かりません。2年間の経過で亡くなられたことが確認できたのは9人の方です。年率にして1.9%です。この死亡率は、NOACのどのトライアルのNOAC群、ワーファリン群の成績と比べても低い数値でした。消息が分からなくなった方全員が亡くなっっていたとしても決して高い死亡率ではなかったと思っています。
亡くなったことがはっきりしている9名の方の死因ですが心不全死が4名、癌死が2名、脳出血死が1名、原因不明が2名です。やはり循環器科で診る心房細動患者さんの最大死因は心不全でした。

頭蓋内出血は2名で年率0.4%の発生で1名は前述のように亡くなられました。脳梗塞の発症は2名でやはり年率0.4%の発生でした。この頭蓋内出血の頻度はNOACの各トライアルのNOAC群に匹敵し、どのワーファリン群よりも低値でした。脳梗塞の発生頻度は、どのNOAC群よりもワーファリン群よりも低値でした。循環器学会のガイドラインよりも若年者では弱めのPT-INRの目標を設定し、論文に出ているようなTTRではなく%TRでコントロールしてこのデータでしたから、少なくとも間違ったことはしていないと考えています。

ただこの成績で満足しているわけではありません。頭蓋内出血で亡くなったお一人の方が気になるのです。図4。ワーファリンの治療域に入ってからの推移をみるとTTRは80%程度、%TRは75%ですから決して悪いコントロールではなかったと思っていますが、2剤の抗血小板剤を止めておればよかったのではないか、あるいはNOACでの抗凝固であれば頭蓋内出血死を防げたのではないか等と考えます。

図5はcTTR別に見たDabigatranの有効性、頭蓋内出血の頻度です。Dabigatranのweb siteからの借用です。どのようなTTRのコントロールであってもDabigatranの有効性はワーファリンよりも高く、どのcTTR群であっても頭蓋内出血の頻度はDabigatran群で低いとされています。すべてのNOACのデータの罪がこの図にも示されています。有効性の指標が脳卒中/全身塞栓症の頻度だからです。脳卒中の中には虚血性脳卒中も出血性脳卒中も含まれているので、どれほど虚血性脳梗塞を防ぎ、どれほど頭蓋内出血を防いだかが分かりにくいのです。

図6は図5の左の脳卒中/全身性塞栓症の数字から、右の頭蓋内出血のひいた虚血性脳卒中/全身性塞栓症の発生頻度です。引き算をして自分で作ってみました。そうするとオリジナルの図では分からなかったことが見えてきました。TTRが良好になればなるほどやはり虚血性脳卒中/全身性塞栓症は低下し、TTRが72.6%以上の施設での成績が最も良いのです。塞栓症を防ぐのであればTTRの高いワーファリンによるコントロールが最強でした。これはある意味当然だと思っています。私のワーファリンに対する思いが強いからではありません。コントロールさえよければ凝固カスケードの多くの作用点をブロックするワーファリンが、一ポイントしかブロックしないNOACよりも効果が強いのは当たり前です。

一方でこの最強の抗凝固作用を持つワーファリンの欠点はその最強の抗凝固作用でもあるのです。どんなにコントロールが良くても、その効果が強いがために頭蓋内出血はどのNOACと比べてもワーファリンでは増えてしまいます。良くコントロールされたワーファリンよりも劣る抗凝固作用こそがNOACの利点であるといえます。

今回のこのシリーズでの基本的な概念はAnticoagulation at minimum bleeding riskです。脳塞栓症を減らそうとして頭蓋内出血を起こしてはいけないというコンセプトです。NOACの講演をよくされるある先生は塞栓症を防ぎたければDが良い、出血を防ぎたければAが良い等と言われていました。しかし、脳塞栓が防げるのなら脳出血を起こしても良い等と言う人も、脳出血を防げるのなら脳塞栓症を起こしても良い等と言う人も存在するとは私にはとても思えないのです。どの抗凝固薬を使用してもある程度の塞栓症は発生します。最もよく塞栓症を防ぐのはよくコントロールされたワーファリンです。作用機序からも当然の結論だと思っています。しかし、塞栓症を減らせば減らすほど良いという訳ではありません。NOACと比較して頭蓋内出血の多いワーファリンだけでは最善の抗凝固療法は実現できないと考えるに至りました。少なくとも頭蓋内出血リスクの高いケースではワーファリンによる抗凝固療法を避けるべきだと考えています。実際に頭蓋内出血死された図4の方も頭蓋内出血のハイリスクの方でした。過去に頭蓋内出血の既往があったのです。鹿屋ハートセンターでは現在、頭蓋内出血の既往のある方に対しての抗凝固療法はどんなにワーファリンでのコントロールが良かった方でもすべてNOACとしています。さらに今後はMRIで評価をしてmicrobleedingの痕跡がある方にはワーファリンを使用しないつもりです。

繰り返しになりますがanticoagulation at minimum bleeding riskの概念で脳塞栓症や頭蓋内出血による悲劇を少しでも減らしてゆきたいと考えています。




2015年5月29日金曜日

私の目指す心房細動患者に対する抗凝固療法 Anticoagulation at minimum bleeding risk for Atrial Fibrillation (2)  より高いTTRを実現するために なんちゃってTTR(%TR)の勧め

脳塞栓症を減らすために、逆に脳出血を増やすようなことがないように適切な目標PT-INRを設定しても十分ではありません。ワーファリンによる抗凝固療法は不安定であり、測定のたびにPT-INRの値は変化します。食生活に大きな変化がなくても、他の薬剤を内服していなくてもです。抗凝固している期間の何%の日数が治療域にあったかが重要です。TTR (Time in Therapeutic Range)です。

TTRが高ければ脳卒中の発生は少なく、TTRが極端に低ければワーファリンを内服していない群よりも多くの脳卒中が発生すると言われています。TTRが50%程度であればワーファリンを処方されていない患者と比べて優位性はなく最低でも60%以上の管理が必要とされています。 (図1)

図2にINRが上がったり下がったりするケースをシミュレーションしました。INRが1.9から3.1に変化したような場合、治療域を横断している訳ですから治療域に存在した期間が当然存在します。直線的に変化したとして治療域に達していたであろう期間を想定する訳ですが、計算は相当に面倒です。Excel上で計算できるマクロも公開されていますが、自施設のTTRは幾つですよと公開してる病院はあまりありません。

鹿屋ハートセンターでは現在200名以上の方に対してワーファリンによる抗凝固療法を行っていますが、個々の患者さんのデータをExcelに入力し、個々の患者さんのTTR(iTTR)を計算していません。ですから施設のTTR (cTTR)も当然計算していません。

では個々の患者さんのPT-INRのコントロールが良好なのか、施設のTTRが適切なのかまったく評価していないのかと言われればそうではありません。図2に示すように仮に12回の測定機会があれば何回、治療域に入っていたかを見ています。何%の回数が治療域に入っていたかを見た数字です。一応%TRと私は呼んでいます。なんちゃってTTRです。図2の本当のTTRは70%を超えますが、%TRは8%です。大きく解離するので%TRは信頼できないのでしょうか? 私は図2のようなケースのTTRが70%を超えているから良好なコントロールとは思いません。変動性が高く、こうしたケースの脳卒中リスクは低くないと判断し、次の手を考えなければと思います。そう思えば%TRが低いという方が患者さんのためになると考えています。このケースのように多くの場合%TRは本当のTTRよりも低値になります。ですから%TRが70%を超えていれば間違いなく本当のTTRも70%を超えており、良好なコントロールができていると胸を張れると思っています。%TRは本当のTTRとよく相関し、少し小さな数値になる指標で十分にワーファリンコントロールを評価できる指標と考えています。

例外的に%TRが本当のTTRよりも高くなる場合は図3のようなケースです。治療域を横断するような変動がなく治療域の上下でうろうろする場合です。このように%TRが本当のTTRを上回る場合がない訳ではありませんが、現実のケースではこのようなケースは発生しません。図2のような場合には当然ワーファリンの量を増やすからです。

%TRを算出するのは簡単です。個人の%TRなら過去の検査結果を数えて割り算するだけなので1分もかからずに暗算で算出できます。また施設の平均%TRを見るのも簡単です。施設の平均%TRは、全測定機会の何%が治療域に入っていたかです。全患者のある期間の測定機会が3000回だったとします。治療域に入っていた回数が2100回であれば、個別に%TRを算出しその平均を出さなくても施設の%TRは70%に決まっています。また3000回で見なくてもそのうちの100回をランダムに抽出して見れば、%TRが70%の施設であれば100回のうち70回は治療域に入っていることが確認できる筈です。

現在、鹿屋ハートセンターには毎日10名強の方がワーファリンを処方されて通院されています。最近では、治療域を逸脱するPT-INRを見ることは1日に1人いるかいないかです。ですから最近の鹿屋ハートセンターの平均%TRは90%を超えていると思っています。以前は70%程度だったのが90%を超えるようになった理由は簡単です。%TRの低い方のほとんどでワーファリンによるコントロールを止めてNOACによる抗凝固療法に変えたからです。

NOACの成績が語られる時、良好にコントロールされたワーファリン群と比べて同等ないし良好な有効性を示し、安全性は上回っていると言われますが、図4に示すようにせいぜい60%程度のコントロールです。通院されている方で見れば、10人の患者さんがいたら毎日3-4人の方が治療域を逸脱しているようなコントロールです。その程度のコントロールのワーファリンと比べて良い成績でしたと胸を張るのは少し違うかなと思っています。

次回は鹿屋ハートセンターの設定した1.6-2.6というPT-INRの目標域で、かつ70%を超える%TRで得られた2年のフォローアップの成績を基に議論を進めようと思います。








2015年5月28日木曜日

私の目指す心房細動患者に対する抗凝固療法 Anticoagulation at minimum bleeding risk for Atrial Fibrillation (1)  ワーファリンでコントロールする場合目標とするPT-INRをどう設定するか


 2013年6月13日付当ブログ「脳梗塞で人生を奪われた父」に書いたように、父のような心原性脳塞栓症による悲劇が私が関わる患者さんに発生しないように、私が診る心房細動患者さんのほとんどに精力的にワーファリンによる抗凝固療法を行ってきました。しかし、この考え方にこだわるあまりかえって患者さんに迷惑をかけていないかと、自分が診る患者さんの成績を定期的に検証してきました。

そんな中で、一生懸命に脳塞栓症に対する抗凝固療法を実施したきたことに間違いはなかったかと考えさせられた研究結果が発表されました。少し前の発表ですが、4番目の心房細動に対する新規抗凝固薬として市販が始まったEdoxaban(リクシアナ)のENGAGE-AF試験の結果です。低用量群において虚血性脳卒中の発症はワーファリンに比べて多かったものの、総死亡は統計的な有意差はないもののワーファリン群やEdoxabanの高容量群と比べて少なかったという結果です。

脳塞栓症の発症をなるべく少なくしようと抗凝固療法を強化するあまり、逆に脳出血を増やしたり総死亡を増やしていないかという疑問を感じ始めたのです。

頭蓋内出血の発生は、ワーファリンと比べてNOACで明らかに少ないわけですから、頭蓋内出血を少なくしたいのであればNOACを使うべきだという考えは妥当だと思っています。しかし、ワーファリンしか使えない患者さんが存在するのも事実です。ですから今回のブログでは、一生懸命に抗凝固療法を行いすぎてかえって悪くしてしまわないように至適なワーファリンのコントロールのために目指すべきPT-INRはどの程度なのかと考えたいと思います。

図1は日本循環器学会が作成している心房細動患者さんに対する抗凝固療法のガイドラインです。70歳以上ではPT-INRの目標は1.6から2.6です。70歳未満の患者さんの目標は2.0から3.0です。このガイドラインを順守していて自分が診ている患者さんを守れるのでしょうか。

図3はJ RHYTHM Registryの70歳以上の患者さんのデータです。PT-INRが高まるにつれて青で示した塞栓症は減少するものの緑で示した大出血は増加していきます。塞栓症の発症と大出血の発生はトレードオフの関係になります。塞栓症の発生が最も少ないPT-INRが2.6-3.0の群ではワーファリンを内服していない(放置されている)患者に発生する大出血の4倍もの大出血が発生しています。こうしたデータを受けて70歳以上ではPT-INRの目標は1.6から2.6に設定されたと理解しています。

では図4の70歳未満の場合はどうでしょうか。70歳未満の患者数が少ないがゆえに結論的ではないとされていますが、PT-INRが1.6-2.0で塞栓症の発症は最少となり、2.6-3.0ではワーファリンを服用されていない方と比べて大出血はおよそ3倍にもなっています。また総死亡もワーファリンを処方されずに放置されている方のおよそ2倍になっています。脳塞栓症を減らそうと努力するあまり大出血を増やし総死亡を増やしても良いのでしょうか?良い筈がありません。元々塞栓症のリスクの低い若年者の方がより抗凝固療法を強化すべきという理由が分かりません。元々、PT-INRの目標を2.0-3.0に設定したのは欧米のガイドラインに合わせたからです。しかし、日本人を含む東アジア人は欧米人と同じコントロールでは出血が多いことが知られています。70歳未満であっても日本人にあった目標を設定すべきだと感じています。

ですから私が行う心房細動患者さんに対するワーファリンによる抗凝固療法の目標PT-INRはどの年代であっても1.6-2.6です。

よくコントロールされたワーファリンとNOACの成績を比較すると、総じて虚血性脳卒中や全身性塞栓症の発生には差はありません。ワーファリンとNOACの成績の差は出血の頻度、特に頭蓋内出血の頻度で生じているものと考えられます。繰り返しになりますが、一生懸命に塞栓症を減らそうとするあまり、出血を起こし総死亡を増やすのであればそれは最善の抗凝固療法ではないと考えます。現在の私が考える心房細動患者に対する最善の抗凝固療法は、出血リスクを最小にする抗凝固療法です。Anticoagulation at Minimum Bleeding Riskという概念がより良い成績に繋がることを願っています。この概念で何回かに渡ってこのブログで論を進めてゆきたいと考えています。



2015年4月21日火曜日

総腸骨動脈に対するカテーテル治療前後の血管エコー

2015年4月17日のブログに書いた方の血管エコーです。

左そけいで脈が触れないことからその中枢部に狭窄があることは検査をせずともわかることですが、エコーでも中枢側に狭窄があることが明白です。

図上段の狭窄部の流速は加速しておりPSVは350㎝/sを超えます。ただこの狭窄部位の同定は総腸骨動脈の起始部から順に血管エコーをして導き出したものではありません。

図中段のカテーテル治療前の浅大腿動脈の血流波形ですが、本来の3相波ではなく1相になっています。これは中枢側の高度狭窄のパターンですからこの時点で触診なしでもこの部位よりも中枢に狭窄があることが判明します。

図下段はカテーテル治療後の血流波形です。きれいな3相波ではないですが一応3相波になっています。

エコーの短軸像でarea stenosisを算出することよりも加速血流や、血流波形で臨床的にあるいは病的に意味のある所見かが見て取れます

かつては冠動脈においても75%狭窄だからカテーテル治療が必要だとかバイパス手術が必要だとかの判断をしましたが、、現在では単純な狭窄度よりも機能的にあるいは生理的に問題を起こしているかの判断も重要視されます。Physiological PCIのような概念です。

自覚症状、身体所見、狭窄度のような画像診断、機能的な評価の組み合わせで、より質の高い治療実施の判断、治療の成果を得なくてはなりません。


2015年4月17日金曜日

患者さんの訴えと身体所見で分かること、画像診断にとらわれて失ってはいけないこと。

 間欠性跛行を主訴とする患者さんの紹介を受けました。お話をうかがうと数メートル歩くだけで左足が痛くなると言われます。紹介状には血管エコーで左のSFAが72%狭窄でCFAが50%狭窄であったと記載されています。またABIは0.5と低値ですと記載されています。

最初にこの紹介状を見た時に違和感を感じました。この程度の狭窄でABIが0.5まで低下するのだろうか、この程度の狭窄でこんなにも強い症状が発現するのかという違和感です。添えられていたCT画像がFig. 2です。左のSFAに中等度狭窄を認めるのみです。なんか変だという違和感は添えられた画像で余計に高まります。

入院して頂き、再度血管エコーをして違和感はすぐに解消しました。エコー上、加速血流を認める部位は左の総腸骨動脈の最も近位部です。触診でも左のそけい部の脈は触れません。紹介状に記載されている部位よりももっと中枢側に病変はありました。改めてCT画像を見るとちょうどその部位だけが画像再構成されていません。CTで画像を作らなかった部位に狭窄があり、また血管エコーでもその部位の検索がなされていなかったのです。

左総腸骨動脈の最も近位部、右との分岐近くの高度狭窄との術前診断でカテーテル治療を行いました。エコーガイドで左のそけい部を穿刺し、逆行性にワイヤーを上げ、バルーンで拡張、ステントを置いて治療はうまくいきました。対側からの治療にせず、同側から逆行性に治療したり理由は、その方がステントの位置決めが容易だからです。Fig. 3 Fig. 4

非常に強い症状がある訳ですから閉塞ないし閉塞と同等の高度狭窄がある筈です。また手でそけい部を見れば、脈が触れなかった訳ですから、病変部位はそけいより近位部にある筈です。ここまでは何も検査しなくても診断できることです。であればCTや血管エコーの所見で近位部の評価が欠落していればそこを追究するのがリーダーである医師の責任だと思います。

強い症状がある、そけいで脈が触れないといった、自覚症状と身体所見だけでほとんどの診断がつくものが、診察室に届けられる検査所見だけで判断したミスであったと思われます。

画像診断が洗練され、画像や技師さんが届けてくれる所見だけに依存しているとこうしたミスを犯します。やはり、自覚症状、身体所見を大事にし、検査所見との整合性を考えなければなりません。

CTなどの画像を見て患者さんを見ないこと、画像診断の発展でやりがちな陥穽です。自分自身に対する戒めともしましょう。




2015年4月8日水曜日

発表される数字に対するリテラシーを高めることは医師の責務のように思えます

 図上段は、本日2015年4月8日に配信されたYahoo Newsです。横浜市立中学の元校長がフィリピンで25年間に未成年の少女を含む1万2千人の"買春"を行ってきたという記事です。少女を買春しその行為をデジカメで撮影しファイルに整理していたというこの人物を弁護する気は全くありませんがこの記事を見た時になんか変だなと感じました。うるう年の366日の年を考慮しなければ365日×25年は 9125日です。この25年間、ずっとフィリピンに滞在していた訳ではないようですからこの9000日をきっと大きく下回る日数で1万2千人もの買春が可能なのかという疑問です。1日に3人も4人も買春すれば可能かもしれませんが、ありうる話なのかと疑問に思います。元外務省の官僚である佐藤優氏の著書でも、スパイとして情報提供する人物で最も困るのが金銭を要求する人物で、金銭の要求に限度がないからだと言います。酒や異性を要求する人物のその要求には限度があるので対処しやすいという文章があったのを思い出します。このように性的な欲求には限度があるにもかかわらずこの1万2千人という数字をそのまま受け入れても良いのでしょうか?私は記事にする記者が、簡単に受け入れることができない数字だと考え検証したうえで配信すべきだと思います。

下段の図は、今年2月に日本家族計画協会が発表した日本人の累積性交経験者が5割を超えるのは29歳だと誤報した発表を検証した、TBS Radioの荻上チキSession 22のWeb siteです。この日本家族計画協会の発表の中には26歳から29歳の性交経験率は77%という記事もあったにもかかわらず、累積が50%を超えるのは29歳であったと矛盾した発表も併せて行われました。この矛盾に気づいた番組スタッフから日本家族計画協会に問い合わせが行き、日本家族計画協会も間違いを認めました。しかし、訂正されるまでに大手の報道機関、毎日新聞や時事通信がこの間違った29歳という数字を記事にしていました。

大本営発表をそのまま報道した戦前の報道機関のように現在の報道機関も公の機関から示された数字を検証しないまま記事にしてしまう事があるようです。少し数字を見つめながら考えれば浮かんでくるであろう疑問が浮かばずに受け入れてしまうことを怖いと感じます。今風に言えばリテラシーが欠如している記者が大手メディアで情報を拡散する危険と言えるかと思います。そうしたいい加減を含む記事に惑わされないために読者である私たちもメディアリテラシーを高めなければと思います。

ある医学研究会で、演者の先生が平均85歳の患者群に対してAという治療を行ったところ、その後の死亡率は年率2%であったと言われました。であれば対象となった患者すべてが死亡するまでに50年が必要であり、135歳まで生きる人が存在するのかということになります。しかしこんなことがある筈がありません。1年間、経過を見て死亡率は2%であったということと、等しく年率2%の死亡率であるということは全く異なる概念です。こうした発表される数字を見て誤解することは医師のデシジョンメーキングの中にも多々ありうることのように思えます。

発表される数字を真に受けずに検証する力、解釈する力、その数字を活かす力を身に着けなければなりません。発表される数字に対するリテラシーを高めることはエビデンスの世界で生きる医師の責務です。報道機関は訂正記事を書けば済むかもしれませんがリテラシーの低い医師の誤解は患者さんにとって取り返しのつかない結果を招いてしまうからです。

2015年4月1日水曜日

冠攣縮性狭心症の患者さんをみて考えること

Fig. 1
 朝方に胸痛を伴って10分程度、脈が乱れるとの訴えで来られた方です。CTで右冠動脈に中等度狭窄を認めました。朝方の胸痛ですから冠攣縮性狭心症を疑いました。

Fig.1はエルゴノビンで誘発したスパスムです。右室枝の末梢から完全閉塞です。この時、患者さんには胸痛の自覚はありませんでした。Fig. 2はニトロの冠注後1分、Fig. 3は2分、Fig. 4は3分、Fig. 5は5分後の造影です。完全閉塞の断端が徐々に末梢に移動しています。あるいは近位部から順次スパスムが解除されていきます。患者さんは3分後位にようやく少し胸の違和感を自覚されました。

この日からスパスムの予防のためにカルシウム拮抗剤であるジルチアゼム(ヘルベッサー)を処方し、以後、主訴となった胸痛はありません。
Fig. 2

この患者さんはカルシウム拮抗剤でコントロールできない難治性のスパスムではないので考える必要はありませんでしたが、カルシウム拮抗剤でコントロールできない冠攣縮性性狭心症の方にステント植込みを行ったという症例報告は国内外から数多く、報告されています。私はこの考え方に否定的です。あくまで冠攣縮性狭心症は、器質的な狭窄が強くない限り薬物でコントロールすべき疾患だと考えているからです。

この例が難治性であった場合、ステントを植込み部位はどこになるのでしょうか。器質的な狭窄の存在する右室枝の末梢でしょうか。スパスムは#3にも#4にも起きているわけですからこの部位だけの植え込みでは間に合いません。ではステントだらけにするのでしょうか?そんな治療が良いとはとても思えません。

Fig. 3
また、最近の薬剤溶出性ステントでは聞かなくなりましたが、第一世代の薬剤溶出性ステント植込みを受けられた方で内皮機能障害が発生し余計にスパスムが起きやすくなったという報告もありました。やはり安易に冠攣縮性狭心症の方にステント植込みを行うのは正しくないと思います。

Fig.4
ヘルベッサーの処方後、胸痛の自覚はないとはいえ、完全にスパスムが抑制されているのか分かりません。カルシウム拮抗剤内服下でも発生するスパスムに備えて、ニトログリセリン舌下錠をお渡ししています。どんなに軽くても胸に違和感を感じたらすぐに舌下してくださいと、くどいほど説明しました。しかし、この方の自覚症状は完全閉塞になってから数分経過してようやく軽く感じるという程度です。その程度で舌下してくれるとよいのですが、この程度なら様子を見るかと考え完全閉塞が遷延すると心配です。血流が再開した時に致死的な不整脈が出ないか心配です。ですから繰り返し、繰り返し、少しの違和感でもあればすぐにニトロを舌下するように説明するつもりです。

冠攣縮性狭心症は、ステントではなく薬剤と丁寧な説明で治療する疾患です。



Fig. 5