2011年6月7日火曜日

冠動脈疾患患者に対するOptimal Medical Therapy は本当に Optimal なのでしょうか?


Fig. 1 PCI on the Optimal Medical Therapy






 1980年に私は冠動脈造影検査を初めて術者として実施しました。卒後2年目のことです。1980年代初めから冠動脈形成術(PCI) に関わり始め、社会人としての人生のほぼすべてを冠動脈疾患の治療に費やしてきました。そして、現在も冠動脈疾患に対する治療を生業としています。その人生のすべてをかけてきたものを否定されると嬉しい筈はありません。2007年にPCI をしてもその後の死亡率も、心筋梗塞の発症も減らさないという論文が発表されました。Courage trial です。

Boden WE et. al. Optimal medical therapy with or without PCI for stable coronary disease. N Engl J Med 2007; 356: 1503-16

 

この論文は対象としている患者が安定狭心症ですから不安定狭心症に対するPCI をも否定しているわけではありません。2011年6月3日付当ブログ「スタチンによる十分な脂質管理下でも発症する急性冠症候群」のようにOptimalと思われる内科的治療を行っていても、他の枝に対するPCI後数年を経過して別の枝の狭窄を原因とする不安定狭心症が発症することはあります。だからPCIは無駄だという議論の方向は間違っていると信じたいものです。というのもこのケースもPCI で助かっているからです。

とはいえ、このCourage trial の発表後、PCI をする実施する私たち冠動脈インターベンション医に対する風当たりは小さくありません。同じ循環器医でもPCI をしていない先生から、予後も改善しないのに「カテ屋」は病気も見ないで狭くなった血管を広げるだけだと非難され、本来、助け合う仲間であるはずの心臓外科医からも、やりすぎだと非難されます。本当にそうなのでしょうか。よくあるインターベンション医からの反論は、Courage trial ではほとんど薬剤溶出性ステント(DES) が使われていないのでDESを使えば結論は変わるはずだというものです。しかし、私はこの反論は的を得たものではないと思っています。DESはBMSと比べれば再狭窄の発生を減少させますが、予後を改善するという証拠(エビデンス)を持っていないからです。きっと同じスタディデザインで今度はDESを使ってもCourage trialと同じ結果が出るだろうと思っています。

しかし、私もインターベンション医ですからPCI が無駄だという議論に与したいとは思っていません。PCI とOptimal Medical Thrapy を合わせて受けた群と Optimal Medical Therapy のみを受けた群の5年後の死亡と心筋梗塞を合わせた発症はそれぞれ19%と18.5%で確かに差はありませんでした。ここからPCI は予後を改善しない無駄な治療法だという議論が始まりました。では Optimal Medical Therapyだけの5年後の18.5%は優れた成績なのでしょうか。5年間で約20%が大きな問題を起こす治療法を Optimalと言ってよいのでしょうか。現状で Optimal と思われる治療を受けていたのに不安定化して新たに治療が必要になった方を、このブログだけでも2011年6月3日のケースだけではなく何人も紹介してきました。また、2011年2月3日付当ブログ「PCIの6ヶ月後の冠動脈造影を原則しないと決めました」で紹介したPCI後のnatural historyの論文でも3年間で20%のイベント発生を報告しています。PCI をしてもOptimal Medical Therapyをしても同様に数年間で20%程度のイベント発生ということであればどちらも無力だというのが現実的な見方のように思えます。PCI は風船を広げ、ステントを置いてくるというだけの治療ではありません。内科的な治療の基盤の上に成立する治療法です。その基盤となる治療法が予後を決定してしまえばPCIで予後を改善できるはずはありません(Fig. 1)。

Optimalと思われている現状の内科的治療が実はOptimalではないのではないかという議論の方が正しいと思います。 Courage trial でのOptimal Medical thrapy とは、アスピリン、ACE阻害剤、ベータブロッカー、スタチンです。これを超える治療法の確立が重要のように思えてなりません。

同じ冠動脈疾患患者を診るインターベンション医やインターベンションをしない循環器医や心臓外科医が、成績の悪い土俵の中で非難しあう構造は不毛です。より良いOptimal Terapy の確立に向けた共同の努力が必要だと思っています。

1 件のコメント:

  1. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20338496
    何が行われるべきか
    足りないものは何か
    Courage trialで行われたことを知れば見えてくると思います
    できないことではないし、できない人にはPCIがあるんだから

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