2012年6月21日付の当ブログ「バルーンのコンプライアンスと血管のコンプライアンス」についてFacebook上で思いがけず、昨夜から議論が盛り上がりました。2週間も経て議論が蒸し返されるのはFacebookの世界では珍しい現象だと思ってみていました。6/21のブログは、バルーンやステントに添付されているコンプライアンスチャートは、血管内ではない環境での性能だから、剛性のある血管内では意味がないという内容でした。こんなことは、PCIを真面目にやっている医師からすれば当たり前のことで改めて書く必要のないこととも思いましたが、基本的な考え方を文章にして残しておくのも悪くないという位の意味で書きました。
昨日来の議論では、バルーンの拡張時間はどの程度が良いのか、拡張回数は何回が良いのかと議論になっていました。30年以上もの歴史がある治療法で、何気圧で、何秒間、何回拡張すればよいのかといった基本的なことが議論になるのは不思議な気がします。しかし、現実にはこの基本的なことは解明されないまま30年が経過しているのです。
何気圧で拡張するのが良いかについては、血管のコンプライアンスを誰も知らないのだから、コンプライアンスチャートに頼らずにIVUSで拡張した結果を見て拡張不十分であれば十分な高圧で拡張するといった、結果を見ながら拡張圧を上げていって最適な結果を得るという方法で、何気圧で拡げるのが良いかなど考えなくて良いかもしれません。
バルーンは何秒間拡張させておけばよいのでしょうか。仮にインデフレーターで14気圧をかけると徐々に圧は低下してゆきます。バルーンに至る造影剤が通るルーメンの太さや、希釈した造影剤の濃度もしくは粘度、バルーンのコンプライアンス、血管のコンプライアンスによって、バルーンや血管が拡張するために時間がかかり、時間がかかった拡張に応じてバルーン内圧は低下してゆくからです。コンプライアンスを圧力に対するバルーンサイズの変化と定義すると、日本語で表現すると圧応答性というのが適切かと思います。バルーンが十分に拡張するまでの時間は時間応答性と表現すべきでしょうか。この時間応答性は、複数の因子によって規定されるために、バルーンやステントごとによっても異なりますし、血管の硬さが違う患者さんによっても異なる筈です。ですから適切な拡張時間という絶対値も存在しないということになります。とすれば、IVUSで見て十分に拡張していれば何秒間でも良いという結論になります。
何回の拡張が望ましいかについても、複数回の拡張の方がより大きなルーメンを確保できると最近よく言われていますが、最適な拡張回数は何回なのでしょうか。1度拡張したバルーンは圧応答性が高まる筈ですし、1度拡げた血管の圧応答性も高まっているはずです。これは1度拡げた血管に発生した解離が圧応答性を高めるという因子と、同じ最終の拡張径を得るのであっても小さなルーメンから拡張するよりもより大きなルーメンから拡張するほうが必要なシェアストレスは小さいという物理的な法則も一つの因子だと思います。この後者の考え方からRotablator後の拡張は低圧でも構わないという発想に繋がっています。これについても、1度目ですら血管のコンプライアンスが分からないのに2度目の拡張時の血管コンプライアンスを知る由もないわけですから、やはりIVUSで十分に適切な拡張を確認して拡張回数を決めるという方法しかないものと思います。
グダグダと書いてきましたが、結局、何気圧で、何秒間、何回拡張すればよいのかを誰も知らないままに施行しているPCIですから、結果を見ながら軌道修正するという当たり前の方法がベストということになろうかと思います。今でも、PCI時に施行したIVUSに関してはレセプトの詳記に記載しなければ、査定されます。PCIをするのになぜ造影をしたのかと聞かれることはありません。必須のことだからです。一方でIVUSを何故施行したのかの弁明は求められます。最適な結果を得るために不可欠な方法と保険請求の分野でも認知され、余計な詳記を書く必要がない時が早く訪れてほしいものです。
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