2012年7月8日日曜日

ガリガリ君と消臭元のコラボにみるこの国の浅薄な情報リテラシー

図1
図2

 友人がfacebookに寄せてくれたコメントの中にリテラシーという言葉がありました。もちろん、言葉は知っていますが、使ったことがありません。私にはどうも肌に合わない言葉のようです。

図1は小林製薬が6月から販売を始めたガリガリ君とのコラボ商品の紹介のweb記事です。夏らしいイメージで良いのではないかとこの情報を見て思う人もいるでしょうし、ビジネスモデル等という言葉が好きな人は、異業種がコラボしてビジネスチャンスを拡大する気のきいた企画だと思う人もいるでしょう。しかし、医師である私は口にすべきではない薬品を口にする商品のイメージで販売することには問題があるとこの商品を見た瞬間に思いました。

図2は、小林製薬がwebに記載している消臭元の使用上の注意です。はっきりと飲み物ではないと記載されています。小児の手の届かないところに置き、飲んでしまって異常があれば医師に受診しろとも記載されています。こうした商品を食品のイメージで販売することは妥当なのでしょうか。

救急外来で仕事をしていると、農薬や洗剤の誤嚥事故に良く遭遇します。誤嚥事故の原因の一つはペットボトルに入れられた農薬や洗剤です。誤嚥事故が後を絶たないために、中毒情報センターからもペットボトルにこれらの薬剤を入れないようにという注意喚起は繰り返しなされています。農薬危険と書いてあっても、字の読めない子供や視力の低下した人には認識できないのです。危険と書いてあることは言い訳にはなりません。

リテラシーの元々の意味は識字能力です。子供の識字は、文字としての認識ではなく図形としての認識から始まります。ガリガリ君のイメージのパッケージに消臭元と書いてあっても図形としての認識はガリガリ君です。どれほどに危険な薬品かは知りませんが、メーカー自らが口にすべきではないという製品であれば、口にする食品のイメージで販売すべきではないと思います。

図3
この商品を上市する前に会社ではどのような会議がなされたのでしょうか?はやりのコラボ企画で販路が拡大して良いのではないかとか、夏の涼しげなイメージで良いのではないかというような議論がなされたと思いますが、誤嚥の危険については議論がなされたのでしょうか?商品を世に問う時の惧れはなかったのでしょうか。あまりにも浅薄なビジネスモデルのように思えます。

図3は朝日新聞に掲載されたこのコラボ商品の紹介記事です。情報のプロである、情報リテラシーの達人である筈の朝日新聞の記者はこの商品の発売の情報を聞いて問題点がないかを検証した上で記事にしたのでしょうか。情報を集め、吟味せずに流すだけでは情報リテラシーのプロとは言えないと思います。

ネットの普及で爆発的に増加した情報を収集し、吟味し、意味のあるものに利用してゆく能力が情報リテラシーというのだと思います。今回のような企業から提供されたものをただ伝えたというのでは、なんと浅薄なリテラシーかと思えます。大本営発表や政権が発表する意図された情報を吟味せずに流すだけの能力しかないジャーナリズムであれば、有害だとさえいえるかもしれません。

医療者である私たちにも自社の製品がより多くのシェアを取るように意図された、あるいは修飾された情報が届けられます。それを単純に患者に適応するだけではなく、自らに届けられた情報を吟味し、解釈し、患者さんに役立つ情報とする浅薄ではないリテラシーが求められていると自らを律しましょう。

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