心房細動による脳塞栓の発症を予防するために、長くワーファリンが使用され、その有効性には確としたものがありましたが、ダビガトランや、リバロキサバンの登場によってワーファリンの価値が相対的に低下した印象を受けます。その中で、そんなにワーファリンは悪くないよというのが、私の立ち位置であることは繰り返し書いてきました。
その根拠として、当院に通院中の慢性心房細動133例中、130例(97.7%)にワーファリンを使用し、3月の時点でチェックしたところPT-INRが1.6-3.0の範囲内であった割合が75.9%と高かったことを2012年4月22日付の当ブログ「心房細動患者に対するワーファリンのアドヒアランス」に書きました。
Time in the Therapeutic Range(TTR)という概念があります。ワーファリンの治療域はINRで見て1.6-2.6だよとか2.0-3.0だよ言いますが、常にこの範囲内に入っているわけではないのでこの範囲内に入っていた時間が大事だよという考え方です。図に示した方は、ワーファリンの導入後1回は、治療域を外れていますが、その後、半年程度は100%の期間、治療域に入っています。
しかし、このように全員にTTRを算出する作業は大変だと思っていました。そこで、次のように考えたのです。仮に100日間観察して、100日間 INRがこの範囲内に入っていればTTRは、100%です。50日間しか入っていなければ50%です。ある瞬間にこの100%の人と50%の人のINRをチェックすると、100%の人は治療域で、もう一人の50%の人が治療域に入っている確率は50%ですから、ある瞬間に治療域に入っている人は2人全員のこともあるし。1人だけのこともあります。治療域に入っている人の割合は50%のこともあれば100%のこともあるとなります。一方、2人を100日間観察すると治療域に入っているのは150人X日で観察期間200人X日から見れば2人の平均のTTRは75%になります。ある瞬間に治療域に入っている人の割合と平均TTRはこの場合、解離します。しかし、こうした観察を行う人数 n が増えれば、ある瞬間に治療域に入っている人の割合と、観察人数 n の平均TTRは近似するはずですから、個別にTTRを算出して、その平均を出す作業をしなくても、nがある程度大きければある瞬間に治療域に入っている人数の割合を出せばよいと考えてきました。
この考えは、数学的には正しいと思います。しかし、本日、私はバカだということに気づきました。当院のワーファリン治療中の方の平均TTRは間違いなく、75%程度で論文などで示されるデータと比較して、非常に良好にワーファリンのコントロールができていると思っていました。しかし、問題は当院で診ている患者群の平均TTRではなく、個別に見て低いTTRの患者さんをどうするかだということにようやく気付いたのです。ACCF/AHA/HRSの心房細動管理のガイドライン重点改正の中でも、ワーファリンによるコントロールが良好な患者にとって新規抗凝固薬に変更しても得られるものはほとんどないと指摘されています。その通りだと思います。では、当院で良好なTTRが得られていない心房細動患者をどうするかがポイントだということになります。平均TTRの良し悪し等、何の意味もありません。おそらく、当院のデータからはTTRが不良の患者は全患者の25%程度になると思います。病院内の平均TTRが60%程度の施設であれば40%程度に不良の患者が存在することでしょう。平均値では見過ごされる個々の患者のケアを考えることこそ、現場の医師の仕事なのに、平均値が良好だからと、私は、ワーファリンのコントロールが上手だと思い込んでいました。大変な間違いです。
今後は、TTR不良例を中心にワーファリンではコントロールできないのなら、新規抗凝固薬を考えていきたいと思っています。ただ、25%のTTR不良例で、その中から高齢者、腎機能不良例、2剤の抗血小板剤投与例を外してゆくと、新規抗凝固薬の適応患者は全心房細動患者の10%程度かなと思っています。
無知の知ではないですが、自分が馬鹿だったと気付いたことは悪くなかったと思っています。
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