2012年1月31日火曜日

久々にstent fractureについて書きます


 2010年10月から2011年2月まで精力的にstent fractureについてブログを書きました。以後、ほぼ1年この問題について書いてきませんでした。

長く書かなかった理由の一つは、最近の薬剤溶出性ステントでめっきりとfractureを見なくなったからです。もう一つの理由はPMDAの体質です。

PMDAの国民の声という欄に何故、黒塗りなどするのかと問い合わせた後のPMDAの医療機器承認情報の検索画面が上段の図です。「本情報の内容を情報提供者に無断で複製、転載、頒布する等の行為を禁じます。」という一文がこの検索画面に表示されるようになりました。別にこの脅しに屈したわけではないのですが、呆れて書く気を失ったというのが本音です。

「この法律は、国民主権の理念にのっとり、法人文書の開示を請求する権利及び独立行政法人の諸活動に関する情報の提供につき定めること等により、独立行政法人等の保有する情報の一層の公開を図り、もって独立行政法人等の有するその諸活動を国民に説明する義務が全うされるようにすることを目的とする」と独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律の第一条に書かれています。この理念に基づき情報が公開され、インターネット上で誰もが見られるようになったのです。インターネット上に公開した文書を頒布することを禁じますというのはどのような神経なのでしょうか。インターネット上に公開した情報はもう既に国民のものでPMDAが口をはさむ余地のない情報と思えるのですが、霞が関の役人にはそのようには思えないようです。このような感覚の官僚にこのようなことは止めましょうよと言っても無駄に思えて書くのをやめたのです。

黒塗りは問題ではないのかとPMDAに問い合わせた後に承認されたステントの承認文書が中段です。ステントのクロッシングプロファイルの規格も測定結果も黒塗りです。真面目なPCI術者なら当然知っておきたい情報を明らかにすることでこの法人の競争上の地位は脅かされるでしょうか。以前にも書きましたが、優れた製品の規格や、その試験結果も公表されることでその法人の競争上の地位を高めますし、国民の利益にも一致します。PMDAは、法人のためにもならない、国民のためにもならない黒塗りをいつまで続けるつもりなのでしょうか。

最下段はFDAが、薬剤溶出性ステントの認可を行った際に、メーカーに送った書類です。この承認書類にはもちろん黒塗りはありません。また、承認した責任者の氏名とサインも記載されています。日本の承認書類にはこのような責任者の氏名は出てきません。

行政の無駄をなくせ、薬や医療機器の承認をスピードアップさせろ等の理由でPMDAは創設されたと理解しています。しかし、出来上がった組織は誰のためにもならない黒塗りを実行し、FDAのように責任者の名前を出すような組織ではありませんでした。このような官僚機構の体質を是正せずに行う行政改革っていったい何なのだと思うのが今回の久しぶりに書くfractureの記事です。かつての自民党政権時代にこのような問題に気付いたら、民主党の議員さんにこんなことはおかしいと思わない?と問題提起が可能でした。今はどうでしょう?こんな行政機構っておかしいでしょって言っても行政側に行ってしまった民主党は役に立たないでしょう。一方でそちら側に帰りたい自民党の皆さんも取り合ってくれないことでしょう。チェック機構が失われたことが2009年の政権交代を実現させた衆議院選挙の結果であったと考えれば、現在の政治の閉塞感の理解は容易かもしれません。

2012年1月27日金曜日

「医療の高度化に伴って増大する医療費」というまやかし

1979年 NECからPC-8001というパソコンが発売されました。国産初の筐体型パソコンと言われているコンピューターです(本当は2番目)。確か、卒後2年目の1980年に購入しました。私が初めて買ったパソコンです。標準のメモリーは16Kで16万8千円が定価でした。32Kに増設し、別売りのモノクロモニターを買って、20万円位になりました。Floppy disk driveもなくBasicで作ったプログラムはテープレコーダーに記憶させるのです。カラーモニターや、Floppy disk drive・ハードディスクなどをつけると100万円を超える出費になり、医師になりたての私には手が届きませんでした。30年以上前の話です。

今、このブログを書いているパソコンのRAMは2.0Gですから、当時のPC-8001の100万倍のメモリ-です。ハードディスクの容量も250G、フルカラーのモニターを2台つないで20万円ほどです。30年前にこのスペックのコンピューターであれば数千万円になったかもしれません。当時と比較してパソコンの市場は急拡大したでしょうが、この比較を見て、パソコンは高度化し、ITに関わる費用は増大したと表現する人がいるでしょうか。普及による市場の拡大であって、高度化に伴う費用の増大と分析する人がいるはずがありません。

しかし、医療の世界ではこのような表現をされるのです。「医療の高度化に伴って増大する医療費」と表現されます。これも2012年1月23日付当ブログ「誰もが当たり前と思う言葉」です。これに対処するために消費税の増税を考えなくてはならないというのです。もうそろそろ月末になり、レセプトの点検が始まります。最近のPCIのケースの医療費は、IVUSを使用して1バルーンと1薬剤溶出性ステントを使用して80万円ほどです。このうち6-7割は道具に関わる費用です。医師の技術料は22万円ほどです。30年前、日本でPCIが始まった当時は、バルーンの性能も悪く病変をなかなか通過しないために複数のバルーンを必要としました。当時の出来の悪いバルーンの価格は30万円ほどでした。苦労して病変を拡張してもステントもなかった時代ですから、急性冠閉塞のために繰り返して当時の表現をすればPTCAを要したり、緊急手術になったり死亡したりも稀ではありませんでした。また、急場をうまく治療しても40%程度に再狭窄が発生したために創成期のPTCA後は3月後、半年後、1年後と繰り返し造影を行い、再狭窄があればまたPTCAを実施しました。このため年間の入院に関わる費用は数百万、ケースによっては1000万を超えたと思います。それが80万程度の入院1度で、あとは確認造影のための入院もなく、CTで評価するだけです。PCIの分野では医療の高度化に伴って個別の医療費は格段に安くなっています。パソコンと同じことが起きているのです。パソコンであれば、昔と比べれば機能の高い製品が安くなったよねと表現されるのに、医療の世界では昔よりも良い治療が安くなったよねとは表現されません。

何故でしょうか。「医療の高度化に伴って増大する医療費」と記述する新聞記者の不勉強のせいでしょうか。あるいはうがった見方をすれば医療費を下げるために、医療費が年々高くなっているとの嘘のキャンペーンをやっているのでしょうか、戦前の大本営発表と同様に厚生省発表・財務省発表をそのままに書いているのでしょうか。1例1例の医療費は数分の1になっているのにトータルの医療費が増大するのは治療の対象になる方が増えた普及の所為で、医師はより良い仕事を以前よりも安くより多くの人に実施しているのです。より良い仕事をより安く、より大勢にと良心的に頑張る医師が非難されます。医師の所為ではない医療費の増大を医師の所為にすればよく言われる「医療崩壊」に繋がります。本当の医療費増大の原因に目を向けた対策を望みたいものです。

2012年1月25日水曜日

治療を完結させるために必要な医師やスタッフの共通の姿勢

本日は、カテ室で造影検査やPCIはなく、完全房室ブロックを伴った慢性心房細動に対するVVIペースメーカー植込み1件でした。脳梗塞の既往があり、初診時には、車椅子の上で寝ておられたために本人からは症状は聞けませんでした。ホルター心電図検査を行うこととし、翌日に拝見した時にも車椅子で寝ていて声をかけても返事ももらえませんでした。寝たままで全く返事も頂けない方が完全房室ブロックを伴う心房細動です。エコーで推定右室圧の上昇もあり、病気だけを見ればペースメーカー植込みが良いと思うのですが、この状態の方に植え込んでも仕方がないかもしれないとご家族にお話ししました。ご家族に自然に任せるか、ペースメーカーを入れるような治療を受けるかよく考えてほしいとお話ししました。その10日後、ペースメーカー植込み手術を受けたいと来院されました。拝見するとちゃんと覚醒しておられるだけではなく多少の認知症があっても会話が成立するのです。初診時に、それまでの内服を見て、1種類の睡眠導入剤と1種類の向精神薬を内服されていたのでこんなに寝てばかりであれば薬を止めた方が良いと思うとお話ししていたのですが、止めたら元気になってきたとのことでした。元気であれば、諦めて自然に任せる必要がないとのことでペースメーカー植込みを希望されたのです。

とはいえ、認知症があるのも事実ですから、ペースメーカー植込み後の安静や入院が短くなるように、リードは抜けにくい心尖部にスクリューインで入れ、縫合も埋没縫合としました。慣れない環境で退院したくなったらすぐに帰られるようにとの判断です。気合を入れて手術をしたらskin to skinで15-20分で手術は終了です。(図)

この方の手術をして、昔のペースメーカー手術を思い出しました。大きな病院の循環器部長になって間もない頃の話です。20年近く前です。近くの精神病院より統合失調症の入院患者が完全房室ブロックになったので受け入れてほしいとの依頼でした。もちろん、すぐに受け入れてペースメーカー植込みを行いましたが、循環器病棟の婦長(今でいえば師長)から「なぜ、分裂病(今でいえば、統合失調症)の患者など引き受けたのだ」と責められたのです。生命に関わる疾患になった時に統合失調だから治療をしないという選択は私にはありません。放っておけば命に係わるのだから当然だろうと師長に話しました。彼女も納得したのだと思っていましたが術後の回診の時に驚きました。他の患者への感染を恐れて二人部屋に入院していただいていたMRSA肺炎の方のもう一つのベッドをこのペースメーカー植込み直後の患者さんが使っていたからです。ペースメーカー植込み後に最も気を遣う感染予防すら二の次にし、MRSA肺炎の方と同室に隔離しようとしていたのです。すぐにペースメーカー植込み直後の方を一般の病室にだし、看護部長にこのようなセンスの看護師長とは働けない旨を宣言しました。彼女は更迭されました。ペースメーカー植込みを行った方は抜糸もせずに、2日後に元の精神科に転院され、そこで抜糸もしていただきました。この方の場合、統合失調症だからという点で病棟の負荷には全くなることはなかったのです。患者に対するシンパシーを持てない看護師長が一人で、病棟を掻き乱し、患者にリスクを負わせただけでした。

どんなに優秀な医師であっても一人で治療を完結することはできません。共同して治療を完結させる同じ方向を向いた看護スタッフやコメディカルが必要です。あのブラックジャックでさえ、ピノコという助手と一緒に仕事をしていたのです。鹿屋ハートセンターには幸いなことにかつての大病院時代の師長のような患者にシンパシーを持たないスタッフはいません。共に治療を完結させる時、技術よりも大切なのは、当然のことですが共通して患者の方に向いた姿勢だと思っています。鹿屋ハートセンターにはピノコのような小さな助手はいませんが、同じ方向を向いたスタッフに囲まれて私はストレスなく治療に臨めます。

2012年1月23日月曜日

誰もが当たり前だと思う「時代の言葉」に懐疑的であり続けたい

4年前に死んだ父は、大阪で土建屋でした。バブルの頃、仕事も順調で羽振りの良かった父のところには、株を買え、土地やビルを買え、新たに土地を造成して売り出そうなどという話が引きも切らずでした。父は、子供たちが物心がつくころになると小学生の子供に向かってでも「女遊びをしても賭け事だけはするな」と繰り返す人でした。そんな考えでしたからすべての儲け話を断り続け昔からの仲間からも馬鹿だと言われ続けました。その頃の新聞には一般紙であっても、株の運用ゲームのコーナーがあったりと日本中が浮かれていた時代です。そしてバブル崩壊です。父を馬鹿だといった昔からの父の仲間の多くが昔からの会社をつぶしました。こんな時代に投資をしないのは愚かだと言っていた新聞もバブル時代の経済政策を批判し始めました。馬鹿だと言われた父はバブル崩壊後も生き残ったのです。「時代の言葉」に左右されなかったからだと思っています。

「時代の言葉」はたくさんあります。最近では「東北の復興には除染が第一だ」という論調でしょうか。民主党も自民党も東北の自治体も新聞も口を揃えてそう言います。でも除染でかき集めた放射性物質はどうするのだろうという点や、最終処分地は福島県外にするという約束も他の土地を見つけられるのだろうかという疑問は残ったままです。

私たちの分野でも「心筋梗塞はプラーク破綻によっておこる」とよく言われますが、プラーク破綻は何をきっかけに発生し、どうすれば破綻が防げるかを考えなければ、意味のない呪文になってしまします。スタチンが有効だともよく言われますが、スタチンの使用で十数%のイベントが減少しただけで、すべての問題の解答にはなっていないのにスタチン神話が大きくなり続けます。

偉いと思われている人が言うこと、権威があると思われている人が言ったことを検証せずに受け入れることに危うさをいつも感じます。

最近気になる言葉は「消費税の逆進性」です。貧しい人からも豊かな人からも同じ税率で徴収される消費税は貧しい人にとってより大きな負担になる、逆進性の税だとよく言われます。逆進性を薄めるための調整が必要だという議論も既にあるようです。

鹿屋ハートセンターのある大隅半島は消費税導入を決めた時の自民党税調会長であった山中貞則さんの地元です。消費税の導入直後の総選挙では僅か28票差で落選されました。鹿屋で働くようになり色々な話を聞くようになりました。票を数え直させようという支持者に対して負けは負けだと恥ずかしい真似をするなと言われたと聞いています。また、秘書をしていたご子息が地盤を継承されるとばかり思っていましたが、ご子息の立候補は許さないと言っておられたことも伺いました。鹿屋に来る前に持っていた山中さんに対する印象は鹿屋にきて大きく変わりました。消費税導入についても山中さんの意図は都市から地方への税の再配分だったと聞くようになりました。貧しい地方に厳しいと言われる消費税ですが、経済活動が活発な東京などの都市部の消費税納税が圧倒的で、地方では支払う消費税よりも交付される税の方が多いのです。きちんと再配分されるならば、豊かな人や企業や都市部がより多く納税する消費税が地方や貧しい人たちにもたらされる筈です。どこに「逆進性」があるのでしょうか。消費税率を上げれば、更に消費が低迷し経済が悪くなるという人もいますし、消費税率を上げなければ財政が破綻するという人もいます。私にはどちらが正しいか分かりませんが、「逆進性のある消費税」には反対という議論には合点がゆきません。

「逆進性のある消費税」というような紋切り型の時代の言葉は、経済でも医学でもいつも危険だと思い、懐疑的なスタンスを取り続けようと思っています。これもバブル時代に馬鹿と言われた父から譲り受けた財産でしょうか、あるいは負債なのでしょうか。

2012年1月22日日曜日

当ブログのアクセス解析に見る最近のネット事情

当ブログのこの1か月のアクセス解析です。日本語のブログなので当然ですがほとんど国内からのアクセスです。しかし、3%ほどは国外からのアクセスです。間違ってたどり着いて日本語なので読まずにすぐに撤収した読者もいると思いますが、アクセスの多いアメリカ合衆国、ロシア、ウクライナ、シンガポールなどは毎月上位に顔を出します。これを見ると英語でブログを書いてみようかとも思います。でも私の英語力ではどれほど時間がかかることか。今月の上位以外にに過去1年を見るとオーストラリアや韓国、中国、マレーシア等も上位に顔を出します。南米やアフリカなど世界5大陸からアクセスがありました。

面白いです。

また、ブラウザ別ではIEが1番ですが50%程度です。ChromeやSafariがだんだんと増える傾向にありIEの凋落を感じます。OS別では、Windowsが圧倒的で、Macintoshはあまり多くありません。iPhoneからのアクセスがMacintoshよりも多いのが印象的です。iPhoneやAndoroidがパソコンからのアクセスを凌駕するときが来るのでしょうか。

興味深いです。

2012年1月20日金曜日

繰り返す腎動脈ステントの再狭窄に対して薬剤溶出性ステント植込みを行った1例

上段の写真は2010年12月21日付当ブログ 「64列MDCTで戦略を立てた腎動脈狭窄に対するステント植込み」のケースです。ステントが入口部より少し中に入って留置されているために再狭窄したのではないかとCT像より想像し、少し、大動脈に顔を出す形でステントを置こうと決めた方です。

その場のカテーテル治療がうまくいっても再狭窄してしまえば何も意味はありません。PCIであればバルーンによる治療しかなかった時代には再狭窄は40%程度あったわけですから再狭窄の発生があっても敗北感も罪悪感もあまり感じませんでした、薬剤溶出性ステントの時代になって稀になった再狭窄を見ると大きな敗北感を味わいます。

この方は、エコーで見ていてPSVが再上昇してきたために2011年5月に再治療しました。大動脈にステントの顔を出すだけでは再狭窄を免れることはできませんでした。2回の再狭窄ですから大きな大きな敗北感です。単純にバルーンで拡張するしかない昔の状況であれば再拡張のみですが、冠動脈治療に携わっている身にとっては薬剤溶出性ステントがあればと考えてしまいます。

このため2011年5月に鹿屋ハートセンターからの持ち出しでPROMUS stentを植え込みました。下段の写真は本日の写真です。大動脈に少し顔を出したステント内には全く再狭窄を認めません。ようやく治療に成功したとの実感を得ました。

当院での腎動脈に対するステント植込みは2011年が30件弱あったために通算40件弱です。この中で再狭窄のため再治療になった方はこの方を含めて2件のみです。腎動脈のステント植込みは再狭窄が少ない印象ですが、でも繰り返した場合に薬剤溶出性ステントがあればという気持ちは捨てきれません。

2012年1月19日木曜日

私の心房細動患者に対するワーファリンの使い方

  昨日のブログ「EES植込み後の2剤の抗血小板剤の投与」に記載した方のように心房細動がありなおかつ2剤の抗血小板剤を内服する方も少なくありません。こうした方の場合、何もマニュアルを持っているわけではありませんが、目標とするPT-INR値は低めに心の中で設定しています。心の中で思っている数値は1.6-2.2程度でしょうか。とはいえ、昨日の方のように1.57であれば目標を下回っているからワーファリンをすぐに0.5㎎増やすというものでもありません。文書化するのは初めてですが、私のルールはワーファリンを増量するときには慎重に、減量するときには迅速にと考えています。

上段の図の方のINRの変化のグラフです。89歳の慢性心房細動の方です。高齢ですのでやはり1.6-2.2程度のコントロールと思っています。グラフの前半の部分では効果が十分であったり不十分であったりだいたい月替わりです。この間、ずっとワーファリンは1.5㎎の処方です。効果が十分ではない時には、ちゃんと内服しているかビタミンK含有の多い食品を取っていないかを尋ねますが、ちゃんと内服していない人でも100%の方がちゃんと内服していると返事されます。「では、増量するしかないね」とお話しすると「あと1月様子を見てくれ」という方が多いようです。「では1か月は効果が十分でない状態の管理になるからマヒが出たりするようならすぐに連絡してください」とお話しします。翌月になると同じワーファリン量であっても効果が十分になっていることが多いのです。この時に、「やっぱりちゃんと内服していなかったんでしょう」等と言って患者さんを責めたりはしません。「効くようになって良かったね」とお話しします。1回効果が十分ではないからと言ってすぐにワーファリンを増量するとINRが3.0を超え5.0にもなることがあるのです。ですから増量は慎重にです。効果が不十分な状態での脳塞栓の発症リスクはCHA2DS2-VASc scoreが9点の方でも年率15.2%ですから月率1.3%程度です。この考え方でワーファリンの開始時にもローディングは行わずに維持量から投与するようにしています。

一方、2011年7月に突然この方のINRは同じ1.5㎎の内服の状態で4.16に上昇します。他の薬剤(抗生剤や鎮痛剤)の内服がないかを尋ねますが、理由が見つかることはむしろ稀です。INRが4.0を超える状態が1月続いた場合の出血リスクを知っている人はいないと思います。肝機能の低下や不明の出血性の要素があるかもしれませんし、なによりこの状態を知っていてそのまま様子を見ているうちに脳出血でも起きれば、責任を問われますし、医師として目覚めもよくありません。ですから減量は迅速にです。この方は1.0㎎に減量後に効果が不十分な状態が続きましたが、現在は1.5㎎の内服で本日のINRは1.76です。

下の段の方のINRの変化のグラフもだいたい月替わりです。効きの悪い時に増やさなければならないかなぁと口先介入するだけで翌月は改善します。

本日の外来再診患者は54名でした。そのうち、ワーファリンを内服されているためにPTを測定した方は9名でした。1月の外来日が24日あるとすると9人X24日で200名あまりの方がワーファリンを内服されていることになります。一方、ほとんどの方は35日周期で来院されているので9名X35日だと300名あまりの方がワーファリンを内服されていることになります。もちろん1日平均9名の方のワーファリン内服患者がいると数えた訳ではないので大体 鹿屋ハートセンターに通院しているワーファリン内服患者は200-300名の範囲内だという概算です。この中で、プラザキサを内服している方は一人もおられません。もうすぐ長期処方が解禁されますが、この1年、プラザキサが長期処方可能になればどうするかを考えてきましたが、今の気持ちは、匙加減の可能なワーファリンを従来通り中心にして心房細動を管理してゆくのだろうと思っています。

2012年1月18日水曜日

Everolimus Eluting Stent(Xience, PROMUS)植込み後の2剤の抗血小板剤投与

2011年5月18日付当ブログ「予断を排して、正しい診断に至る道」と2011年5月26日付当ブログ「LMTに対する治療 CABGかPCIか?」に記載した方が脳出血を起こされ近くの脳外科病院に入院されました。LMTにステントを植え込んだために2剤の抗血小板剤(プラビックス75㎎とバイアスピリン100㎎)を内服してもらっていました。更に不安定な発作性心房細動がありワーファリンも内服してもらっていました。脳出血を発症される前の直近のPT-INRは1.57でした。脳外科入院時のINRも1.6だったそうです。幸い、脳出血は軽症で意識もはっきりしておられマヒも軽いとのことです。

冠動脈内ステントの導入は、PCI後の急性冠閉塞を激減させPCIの安全性を格段に向上させました。また、薬剤溶出性ステントの出現によって再狭窄も劇的に減少し、PCIを完成した治療にしたと思っています。とはいえ、この治療成績は2剤の抗血小板剤(DAPT)の内服に支えられて達成されています。このため内服しないリスクよりも小さなリスクですがDAPTによって脳出血や消化管出血を起こすリスクは高まります。このためインターベンションに携わる医師にとってDAPTをいつまで続けるかは重要なテーマです。ましてこの方は、ワーファリンまで内服していましたからこれら3剤が脳出血のリスクになっていたことは間違いがありません。低いINRの目標で管理してきたつもりでしたが、出血は防げませんでした。


Impact of the Everolimus-Eluting Stent on Stent Thrombosis: A Meta-Analysis of 13 Randomized Trials. J Am Coll Cardiol 2011 Oct 4; 58:1569.

昨年10月のJACCに掲載されたMeta-Analysisでは、各種の薬剤溶出性ステントの比較でEESが他のステント(SES, PES, ZES)と比較してステント血栓症の発生が低いことが示されました。また、TVRも低いことが示されました。

当院で現在使用している薬剤溶出性ステントは、EESであるPROMUS、ZESであるEndeavorとNoboriです。このうち90%ほどはPROMUSを使用しています。PROMUSを使用し始めてもうそろそろ丸2年が経過しますが、当院でもステント血栓症の発生はPROMUSでは起きていません。再狭窄率も2%程度です。2010年12月13日付当ブログ「LADのCTOに対するretrograde approach」に記載した方は、フォローアップ中に外来受診を一時的に自己中断されたために1か月のDAPTの中断がありましたが閉塞は免れました。現在この方はバイアスピリンのみでフォローしています。

まだ印象に過ぎませんが、DAPTを早期に中止できることを売りにしているZESと同様にEESでDAPTの早期中止は可能かもしれません。本日 記載した方はLMTに対するEES植込みなのでDAPTの中止はためらわれるところですが、リスクの低い方や当院にすぐに駆け込める方などからDAPTの中止を試みたいと思っています。

2012年1月17日火曜日

昨日のPTRAの方のフォロ-です

昨日のPTRAの方です。slow flowになったので腎臓のダメージを心配していました。
CPK: 70U/L
ALT: 17U/L でした。

まだ1日ですが術前CRE: 1.01が今朝は1.10mg/dlです。

術前のPSV284.97が131.47cm/sです。

昨夜はいつもはしないヘパリンの持続点滴をして輸液負荷、ヘパリン化を行っていました。

ホッと一安心です。

2012年1月16日月曜日

腎動脈完全閉塞に対するPTRA

 本日の腎動脈ステント植込みの方です。75歳代中盤の男性です。安静時の胸痛があり年末に受診。2剤の抗血小板剤のローディングをして1/4に右冠動脈#1の90%狭窄に対してPROMUS stentの植え込みを行いました。

PCI患者さんにルチーンで検査している腎動脈エコーで右のPSVは284.97㎝/sで左は212.87cm/sとともに上昇しています。RARはそれぞれ3.41と2.55とやはり高値です。(Fig. 1)

病変の性状を見て、PTRAの戦略を立てようと施行したCTがFig. 2です。やはり右腎動脈には高度狭窄があり、開存している内腔も定かではありません。病変のCT値は低く石灰化は認めません。

CT所見より高度狭窄を予想するとともに、distal emboliを危惧し、distal protectionをするつもりで手技に入りました。ガイディングは4.5F ペアレントです。Fig.. 3は本日のPTRAのコントロール造影です。PSVの値がしっかりと出ていたので高度狭窄で閉塞ではないと思っていましたが完全閉塞でした。1/4のエコー検査から本日1/16までの間に閉塞したものと考えました。この間に腰部の症状は全くありませんでしたしクレアチニンの上昇もありませんでした。

ペアレントから末梢用のrunthroughで病変をクロスしようと試みましたが全く歯が立ちません。一番槍をサポートに使っても同様です。冠動脈用の3Gを使用してようやくワイヤーは進みましたが一番槍は通過しません。1.5㎜のMedtronic legendを使用してようやく病変通過。次いでIVUSでtrue lumenをとらえていることを確認し、3.0㎜でさらに拡張。最後にGenesis stent植込みを行いました。ワイヤー通過にもバルーン通過にも難渋したためにdistal protectionはできませんでした。

最終の造影で若干のslow flowを認めます。

冠動脈に対するPCIもそうですが、病変の通過や拡張ができなければ何も始まりません。しかし、拡張ができたからと言ってよいことができたかどうかは分かりません。今回の拡張・再開通で、萎縮気味であった右腎臓は甦ってくるのか、逆にslow flowを起こしたことで悪化するのかその評価が大切です。術後、夕方の回診では腰痛などの訴えはありません。明日は逸脱酵素のチェック、エコーでの評価です。そして少し長い目で腎機能を追っかけなくてはなりません。

2012年1月13日金曜日

PCI症例に見るこの国の不幸

昨日実施したPCIの方です。80歳代前半の男性、 4年前にLADの完全閉塞に対してPCIを実施し、Cypher stentを植え込んだ方です。その後再狭窄もなく安定していました。しかし、もともと、慢性心房細動があり時に心不全を起こされるためにワーファリンや、利尿剤を内服されています。

昨日の冠動脈造影では以前に植え込んだCypher stentのedgeに90%狭窄を認めた(Fig. 1)ために、PROMUS stent植込みを行いました(Fig. 2)。手技自体は単純なものでした。

この方の今回の入院のきっかけは全身の浮腫と呼吸困難です。Fig. 3に入院時の胸部レントゲンを示します。両側の胸水を認めます。

 この方は、独居です。この方の支援をしている支援センターの方に見てもらったところ、自宅には内服されなかった利尿剤が残されていました。高齢になり、ご自分一人では内服の管理や、塩分制限・水分制限のできない方は少なくありません。ご家族がいらっしゃれば、こうした管理をお願いするのですが独居であれば、支援センターからの支援と言っても24時間の管理は困難です。今回は大事に至りませんでしたが、こうした独居老人の孤独死は頻発しており、鹿屋の警察の方にうかがったところでは年間に100名を超える孤独死の検死を行っているそうです。

 この方のご家族は遠方にお住まいです。仕事の少ない大隅半島では東京や名古屋・大阪に仕事を求めて若い人は出てゆきます。ひどい心不全であること、突然死もありうること、カテーテル治療が必要なるかもしれないことを説明するために会いたい旨、連絡を入れました。無理して入院直後に鹿屋に帰ってこられたご家族に病状を説明し、心不全が落ち着けばカテーテル検査を実施したい旨お話しし、可能であればその場に立ち会ってほしいとお願いしました。しかし、何日も休みを取って職場を離れると生活ができないと言われ、いつ実施するか決めていない状況でカテーテル検査・カテーテル治療の同意書を頂きました。

そして昨日のPCIです。PCIには、ご近所の方が立ち会ってくださいました。PCI後、そのご近所の方にお話をうかがいました。食べ物を自分で用意できないので、そのご近所の方が食事を届けていること、掃除もままならないためにご自宅は、猫の糞にまみれ履物を脱いで部屋には上がれないことなどを聞きました。また、天井板は腐って垂れ下がっているそうです。こうした環境で、きちんとした内服や塩分・水分の管理ができるはずはありません。

支援センターの方が、死に至る前に連れて来て下さったこと、ご近所が支えてくれていることが幸いでした。しかし、こうした心不全を繰り返さないため、孤独死を回避するために何ができるのか難しい課題が残されました。こうした問題の解決はPCI以上に難しいと思っています。

「夢を両手に街に出て、何もつかめず帰るけど…」はアリスの秋止符の歌詞です。しかし、夢もつかめず、故郷にも帰れずに、都会で自分一人の生活に追われ故郷に残した親の世話もできない人たちがいます。

Working poorや若年層の失業率の高さなど、この国の不況や雇用状況の悪化は、孤独死に代表される地方に残された歳老いた親の悲劇を引き起こしながら不幸を増幅してゆきます。