日本の技術力の象徴的な製品である自動車やソニーの電化製品なども国外での評価は戦後のことです。国外に出た当初の評価は、今の中国製品と同様に「安かろう、悪かろう」でした。こうした低い評価の中で単身、多くの国に営業に出て行った企業戦士がいました。使い物にならないと罵られながら、指摘された問題点を製造部門にフィードバックさせ、高品質で低価格の製品に成長させ、徐々に高い評価を受けるようになりました。こうした営業力が技術の日本のブランドイメージを作り上げたのだと思います。物を製造するうえで最初から問題のない製品が出来上がることの方が稀で、市場に投入されてから問題点が浮かび上がりそれを修正することで製品としての完成度が高まるのだと思っています。このフィードバックを支えるものも営業力に他なりません。
私が生業としている冠動脈のカテーテル治療も同じです。バルーンしかなく急性期の合併症で死亡や緊急手術が必要だった時代に、急性期の安全性を高めるためにステントが登場しました。ステント登場で減少したもののまだ問題であった再狭窄をなくすために薬剤溶出性ステントが開発され市場に投入されました。市場に出た製品やサービスの問題を改善されるべき課題と考えるからこそ次の回答が出てきます。問題の発見や改善の答えは市場や顧客あるいは患者さんが持っているものです。そこを見る視点が重要で、机の上での技術論だけでは回答を得られないと思っています。
本日、ある製薬メーカーのMRさんが来院されました。17時頃です。ワーファリンのメーカーさんです。御用は何ですかと尋ねたところ、「ワーファリンの効果はどうですか?」と聞かれました。ワーファリンの効果の発現には個人差が大きく、1㎎で有効な治療域に達する方もいますし、10㎎でも効果が出ない方もいらっしゃいます。こんなことは医師なら誰でも知っていることですし、特に循環器の医師はこのことに詳しいのを知らないはずもないMRさんがこの質問です。最上級の愚問です。「くだらないことをことを聞くと馬鹿だと思われるだけだよ、そんなことを聞くために面談を申し込んだの?」と再度、尋ねると「ダビガトランとワーファリンの使い分けをどう考えているか教えてください」と言われました。私が、何度もワーファリンとダビガトラン使用についてブログに書いているにも関わらずです。
かつて、大病院の院長職を務め、日本最大の病院グループの専務理事をしていた私もある種の営業努力をしていました。医師不足を解消するために大学の医局に医師派遣をお願いする時、面談前にどういう経歴の教授なのか、研究テーマは何なのか、医局員は充実しているのかなどを下調べした上で会うようにしていました。何の下調べもなくいきなり医師の派遣などお願いできないからです。共通の興味やお互いのメリットなどを十分に議論できる背景無しに忙しい教授に時間を取らせることは失礼だと考えていましたし、実も上がらないと考えていたからです。
本日来院されたようなMRさんは、最近は稀ではありません。鳴り物入りで市場に投入された製品の説明に来たのに、顔も見せずに名刺とパンフレットだけ置いて帰るMRさんや顔は見せたものの製品の説明もできないMRさん等、この国の将来が心配になるような営業の人ばかり見るような気がします。
聞く耳を持ち、顧客(患者さん)のニーズをくみ取り、提供する製品やサービスの向上に努めて一流に育て上げてきた日本のサムライの営業力はどこに消えたのかと考えてしまいます。
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