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Fig. 1 Before PCI |
80歳代後半の男性です。過去に複数回のPCIを他院で受けておられます。掃除中に10分ほどの胸痛があったと来院されました。過去にPCIを受けておられる方の労作時の10分ほどの胸痛の訴えの場合、ほとんどの場合、どこかに問題のある狭窄が出現しています。もちろん必ずではありません。可能性が高いという段階です。冠動脈CTで評価できなかった昔は、こうした症状だけで冠動脈造影の適応と考えていました。たとえ負荷心電図が陰性であってもです。有意な冠動脈狭窄があっても負荷心電図が陽性に出る率は必ずしも高くないからです。こうした過去のやり方に馴染んでいる私は、今回、この方に冠動脈CTをせずに冠動脈造影を実施することにしました。相当に高い可能性で冠動脈狭窄があるのに、CTで造影剤の負荷をかけなくてもよいだろうという判断です。この考え方に異論があることも承知です。
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Fig. 2 IVUS |
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Fig. 3 After stenting |
Fig. 1にコントロール造影を示します。一見すると第一中隔枝近傍の狭窄は75%程度です。この程度の狭窄の場合、私はほとんどPCIを実施してきませんでした。「PCIをするかしないか悩んだら実施しない」というのがポリシーだからです。特にAd hocでするようになってから厳密にこのポリシーを貫かなければ、無駄なPCIをしてしまうことになるからです。カテ室の第一印象でやってしまうことによる過剰なPCIを恐れるからです。FFRを評価して適応を決めるという考え方も悪くないと思っています。FFR以上に私が大事に思っていることは、PCIが必要な状況があれば患者さんが教えてくれるという考え方です。同じようなケースで内服で管理をして何年も胸部症状のない方もいらっしゃいますし、まだしなくてもよいだろうと思っていたのに胸痛が繰り返し起こるために数か月後にPCIを実施したケースもあります。胸部症状で患者さんがそろそろPCIの時期だよと教えてくれるわけです。症状を改善することが第一の目的であるPCIで、症状よりもFFRの値や造影所見を優先して考えてしまうことには抵抗があります。緊急性のない安定狭心症では、「そろそろPCIの時期だよ」と患者さんが教えてくれるのを第一の指標に考えるのが妥当だと思っています。
このケースの場合、典型的な労作性狭心症の症状があります。既に患者さんは教えてくれているのですから、教えてくれるまで待つという選択はありません。この胸部症状が本当に虚血由来なのかどうか判断しなければなりません。FFRで評価という考え方は最もRationalだと思います。でも私はこの選択をしませんでした。このケースでPCIを実施するとなった時にIVUSの評価が不可欠だと考えたからです。FFRは適応を決定するツールで、IVUSはPCIの戦略決定に用いるツールですからその用途は全く異なるにもかかわらず、同時の実施は保険で査定される可能性が高いからです。Fig. 2は狭窄の近傍から分岐している中隔枝レベルのIVUS像です。2時方向に中隔枝が見えます。この近位部で最も狭窄が強く、全周性の石灰化でIVUSカテがやっと通過する程度の高度狭窄でした。高圧バルーンでも拡張がなかなかできず、ステントの植え込みもガイディングカテをdeep engageしてようやくステントをデリバリーできるという血管でした。退院後、掃除をしても胸部症状がないことを確認して治療の成功です。
診断に至る時、理学所見や症状・病歴が重要視され、レントゲンやエコーなどの検査はかつて「補助診断」と呼ばれ、その位置付けは一段低いものでした。しかし、最近はあまりこの「補助診断」という言葉を聞かなくなりました。種々の検査法の進歩で、種々の画像診断や機能診断が、曖昧な理学所見や病歴からの判断よりもrationalな判断に繋がるのですから当然と言えます。でも検査をするきっかけも症状が原点ですから症状の理解が最も重要であることは今も変わりはありません。
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