Friday, March 2, 2012

PCI時のワイヤーの挙動を決定する因子

Fig. 1 before PCI
昨日は、PCIのケースがなかったので3月の初めてのケースです。CTで分岐部病変と分かっているケースです。一応、Ad hocということになりますが分岐部病変で対角枝も大きいために複雑で多少リスクのあるPCIになるとお話ししていました。 Fig. 1はコントロール造影ですが、対角枝は前下行枝からほぼ直角に分岐しています。ワイヤーのクロスのイメージは、ガイディングカテから放物線状に降りるLADから反転して上向きに分岐し、更にクランクして降りるイメージです。もちろんLADへのワイヤークロスは容易でしたが、対角枝へのワイヤークロスに難渋しました。

Fig. 2 After LAD stenting
① 何が何でも先に対角枝にワイヤーを入れてからでないと対角枝が閉塞するリスクがあるという考え方と、② 前下行枝を拡張してからワイヤーを操作する空間を確保してクロスするという考え方の2つの考え方が成立します。原則は①ですが全くクロスできませんでした。ここでもぞもぞしているうちに対角枝の閉塞のみならず前下行枝への血流も落ちては話になりません。②の考え方で前下行枝を先に拡張し、ステント植込みまで行いました。ステントを植え込む前にできた空間で対角枝にワイヤーを入れるという選択もありますが、バルーンで拡張しただけのLADの中でワイヤーをゴゾゴソすることの方がリスクと考えたためにステントを先行させました。

Fig. 2はLADに対するステント植込み後です。完全に対角枝は閉塞しています。大きな対角枝ですから、胸痛も強く、STも上昇し、血圧まで下がってきました。「痛い、痛い」という声で術者である私の緊張も高まります。見えていた対角枝にもワイヤーをクロスするのに難渋したわけですから、このせき立てられる緊張感の中でやはりワイヤーのクロスがなかなかできませんでした。

Fig. 3 Wire cross to D1
Fig. 3はようやく対角枝にワイヤーが通過したところです。ワイヤーが入ったために角度も変わりましたが、放物線から反転して持ち上がり、クランクとなって降りるという形状にはなっていません。実はこの時、ガイディングカテはエンゲージポジションではなく冠動脈入口部から離れているのです。このためガイディングカテからLADに下りる角度が消失し、対角枝に向かってほぼ直線化しているのです。

ワイヤーが通過したことで対角枝に向かってストラットを拡張し、ステントを持ち込めました。前下行枝にわずかに出す形で植込み、LADを拡張して出っ張りをcrushし、Fig. 4のような仕上がりにできました。ちなみに対角枝に使用したワイヤーはTerumoのrunthrough hypercoatです。また、対角枝にはDESを入れたかったのですがストラットの中の通過が心配でMedtronic Integrityを初めて使用しました。するするとストラットを通過しました。このステントをプラットホームにしたDESであるResoluteの登場が待ち遠しくなります。

Fig. 4 Final CAG
ワイヤーの性能を決める因子にはトルクや、先端荷重、ワイヤーの滑りや、先端の形状記憶など色々なものがあります。そのワイヤーの性能だけではなく、マイクロカテーテルを使用した場合のマイクロカテーテルとワイヤーの位置関係や、今回のケースのようにガイディングカテとの位置関係でワイヤーの挙動は大きく変化します。

ガイディングカテとワイヤーの位置関係の修正だけでワイヤーを通過させることができて幸いでした。

5 comments:

  1. いつも拝読させて頂いております。
    本当に勉強になります。
    今後もアップを楽しみにしております。

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  2. 匿名様、このようなコメントを頂くと、続けようという意欲がわきます。ありがとうございました。私がブログをアップしたのは3/2の21:53ですから、コメントが3/2の15:58というのは不思議です。日本時間ではないということですかね。

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  3. 初めてコメントさせて頂きます。先日、このブログの存在を知り拝見させて頂いています。 本日の内容は非常に教育的な内容であり、勉強させて頂きました。 今回の症例はよく経験することであり、いつも先端のワイヤーシェイピングで何とかしようと考えますが、今回のようにガイディングをはずした場合、ワイヤーシェイピングはよくやるような、アンプラッツのような形ではなくJカーブでよろしいのでしょうか? ぜひ、ご教授頂ければ幸いです。

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  4. t2shimo様 コメントをありがとうございます。

    ある程度の大きさのある血管径から側枝を選択するには、血管径に合わせた回転半径を持ったカーブが必要です。一方、回転半径の大きなワイヤーは、狭窄部位や小血管の中ではそのカーブが伸ばされて直線的にしか機能しません。ですから、小さな回転半径のカーブも必要になります。先生の言われるような2段階のカーブが基本だと思います。

    このブログの記事を書いた後、クルセードを使えば一発で通過しただろうにというコメントをfacebook上でもらいました。よろしければFacebookでの議論を参考にしてください。

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    1. お答えいただきありがとうございます。 今後もブログを楽しみにしています。 クルセードの意見もありがとうございました。 個人的にはクルセードでのセレクトが苦手です。

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