2020年12月27日日曜日

医師すべてが等しく新型コロナ対策に注力すれば、通常の医療は成り立たなくなってしまう。やはり役割分担は必要だと思う。

 1日に2回、ブログを書くのは初めてかもしれません。わずか10万人の人口の鹿屋市で10名を超える2つ目のクラスターが発生したので危機感を持っているからです。最初のクラスターは若い大学生主体のクラスターでしたが、現在のクラスターは高齢者が中心です。

鹿屋市には感染症指定病床は4床しかありません。感染症指定病床だけで診るのならもう目いっぱいです。鹿屋市での新型コロナに対する対策会議は2020年3月に初回が開かれました。私はその会議で、コロナに対する対策も必要だけれども、医療供給体制の脆弱な鹿屋市や大隅半島では、通常の救急医療体制を維持する視点も忘れてはならないと意見を述べました。

鹿屋市には心臓外科手術ができる病院は一つしかありません。また、その病院のICUも一つです。もし、唯一の心臓外科手術が可能な病院までコロナ対策に使われるとしたら、同じICU内で心臓外科手術を受けた患者さんとコロナで呼吸器に繋がれたりECMOを回す患者さんを一緒に診るのでしょうか。そんなことはできるはずがありません。ですから、コロナを診る病院とコロナ以外の重症患者を診る病院に分かるべきだと主張しました。

幸いなことに12月までは鹿屋市でのコロナの感染確認は少なく、また、鹿児島県全体でも病床がひっ迫する状況ではなかったので、酸素投与が必要な中等症患者は鹿児島市内で診ることで鹿屋市内の医療は維持されました。しかし、ここにきて人口当たりでは東京を超える感染者の発生です。県都である鹿児島市内の受け入れが困難になった時、鹿屋でどうコロナを診て、どう普段の救急体制を維持するのかを改めて考えなければなりません。

最近読んだ日経メディカルの記事ですが、上海で勤務する日本人医師が書いた記事です。上海ではコロナを診る病院とコロナ以外を診る病院が厳密に分けられているという記事です。中国の体制が素晴らしいという気もありませんし、このような対策が日本では難しいことも理解しているつもりです。しかし、どの病院もコロナ患者を等しく診るべきだという考え方では、通常の医療を破壊してしまいます。救急に対応できない、なるべく早く手術をすべきがん患者さんの治療が後回しになってしまうなどの弊害が必ず起きると思っています。通常の医療を維持し、コロナにも対応する視点が必要だという、3月の私の考えに変化はありません。

世界一人口当たりの病床数が多い日本で「医療崩壊」するはずがない、「医療崩壊」するのは、私立の病院がコロナを引き受けずに一部の病院にコロナ患者を集中させているからだという批判があります。民間病院主体の医師会の怠慢が招いているのだという批判は少なくとも鹿屋市には当てはまりません。最初の会議から鹿屋では公的な病院、医師会、医師会に加盟していない私的な病院すべてが集まり、コロナへの診療体制の構築、普段の救急体制の維持のための方策(ここでは具体的な対策は書きませんが)を考えてきました。

普段の救急体制を維持し、コロナにも対応するための役割分担を、医師会の利益誘導や怠慢とネットで批判し拡散する人たちが、現場の努力を無にしないかと心配しています。

医師会長は正月休みを取るのかと批判し現場で働けという人たちはそんな批判で現場は救えると思っているのでしょうか?

 新型コロナの影響で出張して参加する学会もなくなり、ずっと鹿屋にいます。今年はお盆休みも取らなかったので2020年年明けから日曜日も含めて1日も休まず、今日(2020.12.27)まで患者さんを診ています。移動の時間がないので時間の余裕があります。色々なことを考えます。

医療崩壊するリスクを言い、国民に自粛を求める医師会長は、正月休みを取るのかと批判する人がいます。医師会長はご自身のクリニックは休診であっても、休まずにコロナ対策に取り組んでおられるだろうと私は思いますが、批判する人たちは誰もが前線で働けと言いたいようです。新型コロナのせいでいやな世の中になったものだと思っています。新型コロナの現場で働く医師、新型コロナは診ないけれど通常の心筋梗塞などの救急の現場を維持する医師、現場で解決できない制度的な問題の是正に取り組む医師会の幹部や行政の中にいる医師など役割分担をせずに、大変な時期だからみんなで竹やりをもって前線に行くべきだというような意見に感じられます。そんな戦いに勝ち目はないだろうと思っています。

二十数年前、私は神奈川県鎌倉市の病院から福岡県の病院に転勤しました。驚きました。私を含めて8名の医師が循環器のチームにいましたが、深夜に急性心筋梗塞が来ると全員集合で緊急カテーテルをするのです。午前3時に全員が集まり、術者の治療を見るだけで、その後休息も取らずに朝からの診療をするのです。全員が疲弊してしまいます。私は責任者になると仕組みを変えました。当直医とオンコールの医師だけで緊急カテーテルに対応するようにしたのです。2人で手に負えない時には私を呼び出しても良いが、他の医師は呼び出してはならないとしました。疲弊していない医師を温存し翌日以後の診療に支障がないようにするという仕組みです。戦力の逐次投入とも異なります。私たちの医療の世界の戦いに最終的な勝利はありません。勝って終わりではなく、次の瞬間にはまた新たな戦いが始まります。一人の医師が疲弊しているのだから全員が分かち合って同じように疲弊すべきというような発想では、安定して良質な医療は提供し続けることはできません。

イタリアやニューヨークでの第一波で、疲弊した医師がマスクの跡が残る痛々しい姿でStay Homeを呼びかけました。それに共感し、Facebookのプロフィール写真にStay Homeと記している人も少なくありません。医師会長がStay Homeを呼びかけることに反発があるのは現場の医師の呼びかけではなく幹部の呼びかけだからでしょうか?私は医師会長がStay Homeを呼びかけることについて全く異論はありません。ただ、Stay Homeを呼びかけるだけでは不足だと思っています。政策に影響を及ぼす力を持っているのですから、現場で汗をかかなくても良いから、汗をかいて疲弊している医療者を救うための制度改革を実現するために役割を果たしてほしいと思っています。新型コロナがあぶりだした日本のいびつな医療提供体制がこの機会に是正でき、災いを転じた明るい未来(国民にとっても医療者にとっても)が待っていると思いたいものです。

2020年12月10日木曜日

鹿屋ハートセンターでは2020.12.10現在、13例にエンレストを処方しました。私がエンレストを処方した患者さんたちをまとめ始めました。

なんども書いてきましたが、私は新薬が使用できるようになってもすぐには自分の患者さんに処方せず、なるべく長期処方ができるようになる発売1年後から処方するようにしてきました。この自分に課したルールを破って発売間もなくから処方を始めた薬が8月末から使えるようになったエンレストです。サクビトリルバルサルタン ARNIと呼ばれる薬です。

循環器診療をしていると、心不全で入退院を繰り返す方がおられます。鹿屋ハートセンターにも何人もそうした方がおられます。こうした方の入退院の頻度を減らし、長期予後の改善が期待できる薬です。8月末から使用可能となったばかりの薬ですが鹿屋ハートセンターで最初に処方した方は9月4日でした。以後、現在までに13例に処方しました。

入退院を繰り返す心不全の方に処方し始めたので、元の心疾患は色々です。まだわずか13例ですが、どんな方に処方をしているのかをまとめ始めました。

年齢は中央値80歳、平均年齢77.3歳の高齢者に処方していました。男女比は9:4です。元の病気ですが、意外なことに拡張型心筋症(DCM)の方は1例のみでした。また、陳旧性心筋梗塞(OMI)の方を含む虚血の方が3例でした。残り9例のうち8例がが心房細動でした。鹿屋ハートセンターで入退院を繰り返して困っている方の大半が心房細動関連でした。

なぜDCMの方が少ないのか、鹿屋ハートセンターでDCMと診断名がついている方もまとめてみました。まだすべてではありませんが毎日ピックアップして18例までチェックしましたが、14例の方は初診時から左室駆出率は改善し、左室拡張末期径も縮小しており心不全のコントロールに苦労しなくなっていました。残りの方も初診時から心機能の悪化もなく横ばいでやはり心不全のコントロールに苦労していませんでした。思い起こせば、ハートセンター開設以来14年で心機能が悪化し続け、心臓移植の待機例になった方は1例のみです。

ハートセンターでエンレストを処方し、心不全を何とかしたいと思っている方の心疾患はDCMではなく心房細動でした。このため、駆出率は必ずしも低くなく、左室拡張末期径もやや大きいという程度で、特徴的なことは左房径の拡大でした。中央値で50㎜、平均で48.8㎜でした。最も大きな左房径の方は60.8㎜でした。

高齢心房細動が中心ですからクレアチニンクリアランスの中央値は38,平均は43.8と低腎機能でした。エンレスト投与前のBNPは中央値で474,平均で393でした。

エンレストは初回1日量、100㎎の投与から開始し、200㎎、400㎎と増量するように添付文書の用法・容量に記載されている薬剤です。鹿屋ハートセンターでは1日量200㎎まで増量できた方は13人中2人しかいません。他の方はこれ以上血圧を下げられないという程度に血圧が下がったからです。このため、1日量400㎎まで増量できる方は日本に存在するのだろうかと思っています。13例中11例は入院で処方を開始し、2例は外来で処方を開始しました。2週間しか処方できないので2週間ごとの受診で患者さんは大変ですが今のところ、文句も言わずに2週間ごとに来てくださっています。

自分に課したルールを破り、1年間の全国での成績を見極めないで始めた処方です。拙速で処方したために患者さんを悪くしたということがないように投与後の経過を慎重に見てゆかなければと考えています。心不全という重い疾患の方に薬剤を処方するのは、手術などと同様患者さんの命を守る重大な責任ある医師の行動だと思うからです。


2020年12月8日火曜日

Gotoトラベルの是非は知りませんが、感染拡大に人の移動が関係しないはずはないと思っています。

鹿屋市は、人口10万人の地方都市です。鹿屋市にある感染症指定病床はわずか4床です。一方、鹿屋市にある介護施設には3000名の入所者がいます。このため、施設で新型コロナウイルスのクラスターが発生すればたちまち医療崩壊が現実になってしまいます。

このことに危機感を持った鹿屋市医師会と鹿屋市の介護施設の団体では、協同して介護施設でクラスターを発生させない、発生したとしても医療崩壊を起こさないを目標にしてきました。このために積極的な治療(人工呼吸器やECMOの使用)を望むかなどのACPの取得を夏ころから始めています。この話し合いのために作ったスライドが図です。

図は、日本の介護施設で発生した新型コロナウイルスのクラスターを分析したものです。初発患者の多くは20-30代の人でした。施設に出入りするこの年代の方は職員です。職員による持ち込みを防ぐために一般の方以上に自粛・自制をしましょうと呼びかけたのです。この成果か否かは分かりませんが、幸いなことに鹿屋市では1件のクラスターもまだ発生していません。発生は単発例だけで累計で人口10万人当たり3人だけです。

鹿屋市だけではなく全国で高齢者施設の多くで入所者に対する面会は禁止されています。新型コロナウイルスは自然に湧き上がってくるわけではないので、誰かが持ち込まない限り感染は起きるはずがありません。しかし、高齢者施設や病院でのクラスターは発生しています。

施設ではありませんが、同様に誰かが持ち込まなければ感染爆発が起きるはずがない、離島で感染爆発が起きています。与論島では今までに100人以上の感染がありました。人口5千人ほどの島ですから人口10万人当たりに換算すれば2000人です。欧州並みの頻度です。同様の離島での感染爆発は北海道奥尻島でも起きました。やはり人口10万人当たり2000人です。

Gotoトラベルが感染を広げているという人や関係ないという人の議論が起きています。Gotoトラベルが原因なのかどうか私にはわかりませんが、高齢者施設や離島での感染から考えれば人の移動が感染を拡大させていることに間違いはないと思っています。

国が実施する政策に口をはさんでも詮無いことだと思っています。ただ、自分がみている患者さんや鹿屋市の医療を守るために少なくとも我々医療者が感染を広げる役割を果たさないように自粛・自制を続けなくてはならないと思っています。Gotoトラベルは私たち医療者には無縁なのです。
 

2020年12月5日土曜日

我田引水、手前味噌な科学的根拠もない妄想と言われても仕方がない私のISCHEMIA試験の解釈

昨年発表され、今年のNew ENGLAND JOURNALに掲載されたISCHEMIA試験の結果は、冠動脈疾患のカテーテル治療をする私たちにとって大きなインパクトのあるものでした。心筋虚血があることが証明された患者を2群に分け、薬剤だけの保存的な治療を受ける群とカテーテル治療やバイパス手術などの侵襲的な治療をうける群とで5年間の経過を見た試験です。心血管死亡・心筋梗塞の発生・不安定狭心症や心不全による再入院・心肺蘇生を受けたというPrimary composite outcomeは、侵襲的なグループの方が比較を始めて2年までは多かったという結果です。患者さんに良かれて思って実施している治療が薬だけの治療よりも劣ると言われたら私たちは何をしていたのだろうと思ってしまいます。

私たちが実施しているカテーテルによる侵襲的な治療は、受けてたった半年で5%もの人が重大な問題を起こす治療なのでしょうか?鹿屋ハートセンターでは、半年以内に死亡したり心筋梗塞になったりという方をここ10年ほどは経験したことがありません。10年ほど前には、稀にステント血栓症を起こす方がいましたが、最近は皆無です。自分のやっている治療の経過とこの論文の結果の違いに驚いています。

では、なぜ研究に登録された患者では問題が多く起きたのでしょうか。欧米では日本の違ってIVUSできちんと拡張されたかなどを評価せずにステント植え込みがなされることが主流です。では、不十分で適切ではない治療が原因でしょうか?それならば2年以後に保存的な治療よりも成績が改善する理由が分かりません。

ここからは、私の妄想です。科学的な根拠もデータもありません。患者さんの薬の飲み残しをこの2年ほど調べてきました。なので、そこに情熱を持っているが故の我田引水、手前味噌です。下の図に示すようにステント植え込みを受け抗血小板剤を処方されている患者さんでも10%を超える残薬を認めました。ステント血栓症が起きれば死に至るリスクが高いと口を酸っぱくして話してきたにもかかわらずです。もし、研究の対象になった方々もきちんと内服していないとすれば、ステント植え込みを受けて抗血小板剤を内服していない方では、ステント植え込みをしていない人よりも血栓症による死亡リスクは格段に高くなります。そこを生き延びた人であれば時日が経過し、ステントが新生内膜に覆われるにつれ、抗血小板剤をきちんと内服していなくてもステント血栓症のリスクは低下し、狭窄を解除していない薬だけの人よりも拡張した効果で成績が上回ると考えました。全くの我田引水で科学的な証拠はありませんが、この仮説を立てて考えるとISCHEMIA試験の結果は納得できるのです。

ISCHEMIA試験の結果を受けてカテーテル治療など無意味だという医師も出てきました。しかし、保存的な治療で十分だとは言えないと思っています。たった2年で両群とも9%もの人が心血管死、心筋梗塞等を起こしています。ISCHEMIA試験の結果が正しいとしてもその解釈はいまだ冠動脈疾患に対する良い治療はないとすべきだと思います。私の解釈は違います。きちんとしたカテーテル治療に加えて適切な処方をきちんと内服してもらえれば望ましい経過を得られるというヒントを得たと解釈しています。

多くのRCTできちんと内服できていたか、残薬率は何%であったかなどが語られることはありません。患者の行動を知らずに統計だけで語られる「EBM」に懸念を覚えずにはおれません。
 

2020年12月2日水曜日

エンレスト(サクビトリルバルサルタン、ARNI)で心不全の治療をしていると体重が増加しても心不全が悪化していないことがある

近い将来、心不全患者が多数発生し、心不全パンデミックが起きるのではないかと言われています。入退院を繰り返す心不全患者で病床の多くが占有され、救急で治療の必要な患者の病床が確保できにくくなるのではないかと心配されています。

現在の新型コロナ患者の重症者増加で医療崩壊が起きるのではないかという議論と同様の議論が心不全に関しても数年前から言われ始めていました。実際、循環器病床を持つ医療機関では入退院を繰り返す心不全患者をほぼ常に抱えていると思います。肺うっ血があり軽労作で呼吸困難がある、右心不全があり下腿の浮腫がひどくなったなどで入院される多くの方は、入院だけで体重が減少し、うっ血所見が改善し退院していかれます。しかし、入院中は体重が増加しなかったにもかかわらず次の受診時にはまた、体重が増加し心不全の状態が悪化しているという方も少なくありません。心不全の状態を把握する最も簡便な指標が体重でした。

図の方は心不全で入院し、退院1週間後の受診で来られました。たった1週間で体重は2.1㎏増えていました。良い状態がたった1週間しか維持できなかったのかとがっかりしましたが、調べてみると胸写も心エコーも左が本日の分、右が退院直前のものですが、いずれも心不全の悪化を示すものはありませんでした。CTRは縮小し、TRPGは低下し、左房径も左室拡張末期径も縮小していました。

この方の心不全の治療には最近使えるようになったエンレストを処方しています。サクビトリルバルサルタン、ARNIと呼ばれる薬です。利尿剤で心不全をコントロールしていたころには見られなかった現象です。体重が増加していても心不全が悪化していないのです。そのような方はこの患者さん一人ではありません。どうして体重が増えたのか患者さんと話し合いました。食事がおいしくなり、やせた体重をもとに戻そうとしっかり食べていると言われました。その結果なのか、クレアチニンも退院前の1.26から1.02に低下しました。

利尿剤で無理やりうっ血をとると呼吸困難は改善し、浮腫みも取れ見かけは良くなります。しかし、無理な利尿で腎機能は悪化し長期予後は悪化します。利尿剤のように腎機能を悪化させる薬剤ではなく、長期予後を改善させる心不全薬はないものかと考えていましたが、期待に応えうる薬剤が登場したとわくわくしています。まだ、鹿屋ハートセンターではエンレストを使い始めて2か月余りです。長期予後をうんぬんする段階ではありません。この1年は2週間しか処方できないために患者さんの通院に負担のある薬ですが、当院で処方した患者さんは文句も言わずに2週間ごとに通ってきてくれています。注意深く患者さんの様子を観察し、患者さんとともにこの大切な薬を育ててゆくことができればと願っています。


 

2020年12月1日火曜日

Withoutコロナで成長する日本や世界の未来を早く見てみたい

新型コロナウイルス感染症に対する対策も必要だけど、経済も回さなければならないという議論をよく聞きます。このためGotoトラベルやGotoイートが必要なのだと耳にします。これに対して何かのSNSで私は日本の経済って旅行や飲食で成り立っているの?と疑問を呈しました。

図は各国の人口、Johns Hopkinsサイトから引用した感染者数、そして人口1億人当たりの感染者数を表にしたものです。暇だったのでちょこちょこっとExcelで作ってみました。世界で最も感染者の多い米国の1億人当たりの感染者数は412万人です。こんなに感染者がたくさんいたら旅行どころではないなと思います。欧州でも人口1億人当たり200万から300万人の感染者数です。これに対して日本は11.8万人ですから20分の1、30分の1の感染者数です。こんな数字を見て感染が少ないのは日本の民度が高いからだと言った大臣もいました。

一方、台湾の1億人当たりの感染者は2813人、中国は6636人、ベトナムは1418人です。日本よりも1桁あるいは2桁少ないのです。感染者数が少ないのが民度の指標であるのなら日本はアジアで最も民度の低い国だということになってしまいます。私はそうは思いません。

中国、台湾、ベトナムはこのコロナ禍にあっても2020年の経済成長はプラスです。欧州はマイナス7%だそうです。米国はマイナス3.5%の予想です。そして日本はマイナス5%の予想です。コロナを抑え込むことができている国ではプラスの経済成長を実現し、抑え込めていない国ではマイナス成長になっているように私には思えます。

Withコロナという私には理解できない言葉がよく使われるようになりました。コロナとともに経済成長などできるのでしょうか?

経済を回せという時に経済を旅行や飲食に矮小化せずに経済の回復を議論してほしいと願っています。コロナとともに経済成長する社会を私はイメージできません。Withoutコロナで成長する未来を早く見たいと私は願っています。


 

2020年11月7日土曜日

私が患者さんの残薬チェックに一生懸命な訳

一昨日(2020.11.5)、鹿屋市薬剤師会の皆さんに対して協力して鹿屋市の患者さんの残薬を減らしましょうという講演会を開きました。コロナ禍で初めての対面の講演会です。約60名の薬剤師さんに集まっていただきました。

2019年7月から、受診のたびに残薬を持ってきていただき、飲み残しがないか私自身がチェックしています。医師向けのWeb講演の時には忙しい外来の最中にそんなことができるのかとの質問を頂きましたが数秒のチェックで残薬は確認できます。受診時に必ず7日分の内服が余るように処方しているので残が7日分なのかそれ以上なのかを確認するだけの作業ですから数秒で確認できます。始めたころには数か月分も残っている方がおられたので数えるのは大変でしたが、今ではそんな方はいません。ですからアッという間に終わる作業です。

なぜ、残薬を数え始めたか、それは、抗凝固がNOACあるいはDOACの時代になったからです。上段の図はワーファリン時代の方です。概ねINRは1.6-2.6の間におさまっています。TTRを算出すれば90%を超えます。でもINRが極端に低い日も、INRが3近い日もありました。INRが低い日にはちゃんと内服していたかどうか、納豆などのビタミンK含有の多い食事をとっていなかったかなど、会話がありました。INRが高値の時には、なにか別の内服をしていないかなどを尋ねていました。ワーファリンの時代にはINRを挟んで患者さんとの会話があったのです。

NOACあるいはDOACの時代になり、こんな会話はなくなりました。ちゃんと内服していますかと尋ね、ほとんどの方はちゃんと内服していると答えられてそれでおしまいです。しかし現実は異なりました。残薬を確認すると1Xでも2Xでも10%を超える残薬がありました。こんなことで塞栓症を防げるはずがありません。残薬を挟んでなぜ内服しなかったかと会話をしなければちゃんとした結果は出ないと思い始めたのです。

下の図は残薬をチェックし始めて1年での残薬率の変化です。最初のチェックで残薬が最も多かったのは40歳代の方です。最も少なかったのは80歳代の方でした。よく内服アドヒアランスは高齢者で問題になるという人がいますが、現実は逆でした。また、高齢者ほど多剤処方になっていますから、よく多剤処方で内服アドヒアランスが低下するという先生がおられますが、そんな傾向も認められませんでした。アドヒアランスを低下させるために貼付剤を勧めるメーカーもありますが、最も残薬率の高かったのは貼付剤でした。

医師になって40年余、患者さんと向き合ってきたつもりですが、何もわかっていませんでした。もう間違いなくベテランの医師ですから多くのことを知っているつもりでしたが、基本的なことすら知らなかったのです。ワーファリン時代にあった患者さんとの会話がNOAC、DOAC時代になり途絶えたことに対する危機感から始めた残薬チェックで多くの気づきを得ました。残薬を挟んだ会話で現在では残薬率は1%程度です。このような成果を、地域で得たいと願っています。コロナ禍で延期されていた薬剤師会での講演を済ませました。次は、鹿屋市医師会の先生方に向けて話ができればと願っています。



 

2020年10月10日土曜日

初診からのオンライン診療を恒久化するという報道に接し、私は断固反対します。そして私は、決して初診のオンライン診療には手を出しません。

 私は2020年9月21日付 当ブログでインターネットの価値を信じ、ネットがなければ鹿屋のような地方で開業などできなかったと書きました。そして、地方にいながらネットを通じて情報収集に努め、情報を発信し、患者と交流も進めてきました。2020年6月30日には厚労省のオンライン診療研修も終了し、オンライン診療も始めました。古い話を持ち出せば、福岡徳洲会病院に勤務していたころ、カテーテル治療ができないばかりに急性心筋梗塞症の死亡率が高かった長崎県対馬の循環器救急を質的に変えるために、TV電話で緊急カテーテル治療をサポートする仕組み、遠隔PTCA(当時の表現)を立ち上げました。1997年のことです。オンラインでのサポートで長崎県対馬の急性心筋梗塞の死亡率は劇的に低下しました。デジタルの技術を使うことで死を回避できたのです。現在もこの仕組みは維持されていると聞いています。このように、言葉でネットを信じるというだけではなく幅広く有効利用してきたとの思いがあります。

そんな私ですが、2020年10月8日に発表された医療分野のデジタル化を進め、コロナ対策で一時的に認められている初診からのオンライン診療を恒久化するとの報道に驚きました。

胃が痛いので胃薬が欲しいと来院された方が実は心筋梗塞で、帰宅後急死した。風邪だと思い風邪薬を内服していたが実はウイルス性心筋炎で死亡した。頭痛があり鎮痛剤を内服していたが実はくも膜下出血で、死亡した。こんな例は枚挙にいとまがありませんし、少なくない訴訟が提起されています。こんな例を知るはずもない(あるいは知っているにもかかわらず)田村厚労大臣、平井デジタル改革相、河野行政・規制改革相が初診のオンライン診療を、専門家との協議なしに恒久化するなどというのは全く同意できません。

私は、コロナ感染が怖くて受診したくないという方の原病が悪化しないよう、もともとの治療を継続するためにオンライン診療を開始しました。また、介護施設に入所している方が医療機関を受診することで感染機会が増えることに対する対策としてオンライン診療も使用しています。本年7月に発生した大隅半島を襲った豪雨災害では道路が寸断されたために受診できない方が発生しました。この時にもオンライン診療は役に立ちました。オンライン診療は対象を明らかにし、その有効な状況を見極めることで非常に有効だと思っています。しかし、私は初診からオンライン診療を認めると言われても、決して初診のオンライン診療をすることはないと考えています。多くのまじめに患者に向かい合っている医師は同じ意見だろうと思います。

これを商機と捉え、初診のオンライン診療を始める医師がいると思います。そんな医師は、「勝手にやって訴えられればよい」と思わなくはないのですが、そこには亡くなってしまう患者がいます。勝手にやっておけと簡単には言えません。デジタルは万能ではありません。オンラインは有効な手段と誰よりも考えていますが、どのようなツールも使い方です。使い方を誤れば危険です。正しい使い方の議論をせずに進める拙速なデジタル化に、私は断固反対します。



2020年9月30日水曜日

心房細動に対するアブレーション後、いつまで抗凝固薬や抗不整脈剤は必要なのでしょうか?

鹿屋ハートセンターにはおよそ300名の心房細動患者さんが通院されています。開院以来、明日2020.10.1でまる14年が経過します。この14年、心房細動患者さんを見ていて感じることは、抗凝固やレートコントロールをしてその場の症状を軽くしたり塞栓症症のリスクを減らしても、長年のうちに心不全になり最後はつらい日を迎えるとということです。左心房が大きくなり心不全となった方にその後の改善を期待できる治療法はあまりありません。そんな感触を得て、三重の大西勝也先生が編集された「循環器診療プラクティス」には、不可逆的になる前にアブレーションをするべきだと思うと書きました。

そのような考えで、発作性心房細動患者さんだけではなく、比較的若く、左房径があまり大きくない方であれば慢性心房細動の方にも積極的にアブレーション治療をお勧めしています。とはいえ、アブレーションはアブレーションを得意とする医療機関に紹介して実施してもらっています。

上の心電図の方はアブレーション後、3年が経過した方です。3年間、抗不整脈剤も抗凝固剤も継続してきました。しかし、多くのアブレーションを実施する先生が方からは、安定していれば抗凝固も抗不整脈剤もやめればどうですかと言われます。そうした意見に逆らって内服を続けてきましたが3年も経過したのだからよいだろうと考え内服を中止ました。その後も再発がないことを2か月観察した後に、通院は不要ですよとお話ししました。その半年後に、臥床すると息苦しいと言われ受診されました。下の心電図がその時のものです。心房細動再発です。胸写では、CTRが大きくなり、エコーでも肺高血圧となっていました。幸いこの方は、アミオダロンで洞調律に復帰が可能で、CTRは元に戻り、心不全の治療薬を内服しなくても元気にされています。

 アブレーションをされる先生は、抗凝固も抗不整脈剤も不要と言われるのですが、このようなケースはこの方だけではありません。内服を中止して再発される方は確実におられます。この方は心不全で発症しましたが塞栓症での再発であれば取り返しがつきません。

最下段の図は、CABANA trialの再発のデータです。薬物治療だけよりもアブレーションした方が再発は少ないものの少なくとも20%程度の方は再発しています。 

循環器学会のガイドラインを見てもアブレーション後にいつまで抗凝固薬や抗不整脈剤を投与し続けるべきかという回答を私は見つけられませんでした。再発した時に失うものに対する不安とアブレーションをする先生方の中止しても良いという考えに挟まれて悩んでいます。 

















 



2020年9月23日水曜日

施設入所者に対する診療は、オンラインと親和性が高いと感じます

新型コロナウイルス感染の拡大後、医療機関での感染を恐れて、受診をためらう人が増えました。受診しないことで元の病気が悪化しないように、オンライン診療を準備してきました。そうした受診を恐れる個々の人よりも感染を恐れているのは介護施設です。密に接して介護しなければならない環境でクラスターが発生すれば、感染の拡大も高齢者であるが故の死も施設として心配なことです。

また、鹿屋市医師会では介護施設での感染拡大により鹿屋市の医療体制が崩壊するのではないかと危惧し、介護施設の団体と協議を重ねてきました。職員の自粛を求める・面会を制限する・新規入所者に対しては一定期間の観察期間を設けてからの入所にする・業者の入所を制限するなどの対策を考えてきました。残った課題は、施設入所者の受診です。このためハートセンターでは、施設に働きかけ、入所者のオンライン診療を呼びかけてきました。上の図は入所者と介助する施設の方を含めたオンライン診療の様子です。96歳の方です。過去に冠動脈にステント植え込みを行った方です。患者・患者家族に了解を得て、ブログに載せることにしました。厚労省のオンライン診療で言うところのD to P with Nです。 Doctor to Patient with Nurse、看護師を伴ったオンライン診療の形です。

下の図は、オンライン診療開始前に送ってもらった血圧記録・体重記録です。この他にも残薬も写真で送っていただきました。

顔色を見て、話し方を聞き、プロである職員の報告を聞いてですから、来ていただいての対面の診療に劣らないことができたと感じました。オンラインにすることで感染機会が減るだけではなく、職員やご家族の受診に要する負担も軽減されます。また、専門的な報告も受けられるので介護施設入所者の診療はオンライン診療と非常に親和性が高いと感じています。こうした入所者を守るためのオンライン診療ですが、積極的な施設もありますが、無関心な施設も少なくありません。よく施設の方と話し合って普及に努めたいものです。


 

2020年9月21日月曜日

ネットという無秩序に作物が植えられた畑にデジタル庁は秩序や方向性を持ち込めるでしょうか?

2020年9月16日、菅内閣が発足しました。新しい首相です。菅首相が作る未来に期待しています。この内閣の目玉はデジタル庁だそうです。

かつて地方で医師として働くことはあまり歓迎されませんでした。今でもあまり人気はありませんが… 大阪で生まれ育ち、都会の病院で働いてきた私ですが、30年前であれば鹿屋で働くことをためらったと思います。なぜなら最新の医学情報を得るのが困難であっただろうからです。2006年(平成18年)に鹿屋ハートセンターを開設した時にもインターネットがなければ鹿屋で開業をしなかっただろうと思いました。鹿屋ハートセンターの電子カルテは、インターネットを介して遠方のサーバーに情報が蓄積されるクラウド型の電子カルテです。また、画像サーバーは、以前は院内にのみ置いていましたが、今では画像も遠方のサーバーに保管されるクラウド型の画像サーバーです。また、今年は来院することでコロナに感染することを恐れる患者さんが少なくなく、オンライン診療の規制が緩められたこともありオンライン診療も普及し始めました。当院でも再診の方には希望されればオンライン診療を行っています。

日々の診療も、新しい情報を得るのも都会に住むのと同様に情報を得、発信可能です。特に今年は新型コロナウイルス禍の影響で学会もほとんどがWeb開催となり、コロナ後もネット上での学会開催でもよいのではないかという考えも良く聞くようになりました。それ以前から、学術誌もオンライン化しています。20年前のネット環境では考えられなかったことです。 ネットの進化が日々の診療の形を変え、学会の在り方も変えました。そのネットの進化の恩恵を受けながら私はこれで良いのかと思っています。今のネット上の進化は、ネットという畑に無秩序に植えられた作物ではないかと思うからです。

図は厚生労働省が発表した保健医療分野の情報化に向けてのグランドデザインの策定についてという文書です。なんと発表されたのは平成13年です。19年も前です。この時点では電子カルテを普及させようという程度でした。そして実際に電子カルテを導入する医療機関に少なくない補助金が出されました。しかし、補助を受ける電子カルテをその後、医療全体にどう利用するかという視点がなく、むしろ情報の共有化の障害になったかもしれないと思っています。次のグランドデザインではネットワークに組み込まれた電子カルテから診療情報を集め、得られた情報から医療を変えようというものでした。どこの医療機関に行っても過去の診療情報が取り出すことが可能で医療機関を変わるたびに同じ検査を受けなくても良い、集められた情報をもとに疾患ごとに有効な治療法を導き出したり、その疾患の対策にどれほどのコストがかかっているかなどを分析するなどと情報化のメリットが語られました。しかし、現実は19年の日々を経過しても一歩も前には進みませんでした。こうした医療の情報化、情報共有のためには医師の守秘義務のありようも、カルテ保管の義務も法改正が必要になります。こうしたネットによる情報共有のための医療にまつわる法改正が語られることもありませんでした。

IT化を進めよう、デジタル技術を普及させようとするとき、その技術を使って何を成し遂げるかが重要だと思っています。道路は作ることが目的ではなく道路を使って地域が活性化するかが重要なのと同じです。デジタル技術を使って何を成し遂げるかとと考えるとき、デジタル技術に詳しい人だけで実現できるのかと心配しています。道路建設のプロであっても地域を活性化するプロではないのと同じではないかと考えるからです。

現在の医療を正しく分析し、また無駄な医療で医療費が浪費されないために私は、医療分野のネットワーク化に期待します。きっと実現のためには何兆円も必要だと思います。医療分野だけで大変な予算が必要なわけですから他分野のIT化を含めれば日本がIT先進国になるためには莫大な予算が必要です。新設されたデジタル庁に莫大な予算をつける覚悟を新内閣に期待します。新しい形の公共事業です。まデジタル庁においては技術にとらわれず技術を使ってどんな国家を作り上げるのかというグランドデザインを考えてほしいと願います。国会には実現のための法改正を熟考していただきたいと思います。

ネットという畑に植えられた無秩序な作物に、日本を豊かにする秩序(規制ではなく)や方向性がもたらされることを期待しています。もちろん更なるITの進化のために無秩序な作物(イノベーション)も必要でしょうが…


 

2020年8月29日土曜日

明後日、2020年8月31日に66歳になる私が触れた安倍晋三総理の辞意表明

2020年8月28日、在任日数最長の安倍晋三首相が辞意を表明されました。必ずしも支持していたわけではありませんが、感じるところがないわけではありません。

安倍総理は1954年9月21日生まれ、おとめ座です。私は1954年8月31日生まれ、やはりおとめ座です。潰瘍性大腸炎は必ずしも加齢の問題ではありません。若い方でも苦労されている方は少なくありません。とはいえ、年齢を重ねて病を得て職を継続できない姿は他人事には思えないのです。私も昨年の8月には胆石で初めての入院や手術を経験し、いつまでも病気とは無縁ではないのだと実感したところです。明後日(2020.8.31)に私は66歳になります。冠動脈のカテーテル治療の現役医師としてはもう、九州で最年長です。最年少で現場を任されているのであればその後の未来は、長く輝かしいのでしょうが、最年長であればリタイアの時期や現役の去り際を意識しないではおれません。

第一次安倍内閣発足は2006年9月です。全くスケールは異なりますが鹿屋ハートセンターの開設も2006年10月です。2006年9月は開設直前の準備で忙しかったことを思い出します。同年齢ですから自分の人生の節目と重なるのは当然ですが、安倍総理の節目と私の節目も何か重なります。同時代を生きている人物が志半ばで病のために職を継続できない姿はやはり切ないものです。

でも命を失ったわけではありません。総理としてではなくてもできることはあるはずです。残りの人生もさらに意義のあるものになるように祈っています。昨日(2020.8.28)、辞意を固めるというニュースが流れる中、私は3年前に発症の心筋梗塞の方の慢性完全閉塞の左冠動脈前下行枝のカテーテル治療の最中でした。側副血行が少なく、逆行性のアプローチができそうになく、うまくいくだろうかと心配しながら順行性のアプローチで治療に臨みました。隣に立つ鹿大の先生の前で恥ずかしくない手技をしなければという思いもありました。そんな風に考えるのもやはり年齢を意識してのことだったなと思います。幸い、治療はスムーズに成功裡に終わりました。治療が終わりホッとしたところで知ったニュースです。まだまだ若い連中には負けないという気持ちよりも、恥ずかしくない現役カテーテル治療医としての去り際をいやでも意識させられるニュースにふれ、少し心は揺れています。
 

2020年8月26日水曜日

医師会発行の感染症対策実施医療機関のステッカーを手に入れました。

日本医師会が発行している感染症対策実施医療機関のステッカーを入手しました。東京都の飲食店が掲示するレインボーステッカーと同様にセルフチェックで入手できます。東京ではレインボーステッカー掲示店でのクラスター発生がありましたが、同じように医師会発行のステッカー掲示の医療機関でもきっとクラスターの発生はあるだろうなと考えてしまいます。セルフチェックだし、どんなに気を付けても感染はゼロにはならないからです。だからといって気をつけることは無駄だとは思いません。

掲示があるから安心ではないと思っています。ステッカーを得るためにセルフチェックをし、しなければいけない対策を確認し、実行することには意味があります。また、掲示がある医療機関であっても、来院される患者さんの協力がなければ意味はありません。ですから、きちんとルールを守ってくださいと言い続けることが大切だと思っています。

鹿屋ハートセンターでは前回のブログに書いたように毎朝、患者さんに協力をお願いしていますが、話を聞いた患者さんから、使いまわしの週刊誌が置いてある医療機関や、入れ替わり使用する血圧計が無造作に置いてある医療機関もたくさんあると聞かされます。ステッカーを得ることをきっかけに各医療機関の意識がさらに高まるように期待しています。
 

2020年8月22日土曜日

安心して受診していただくためには、安心して受診していただけるように努力し、その姿を見てもらわなければいけないと思う

 図は、少し前にFacebookにあげた、毎朝診察前に待合室で患者さんにお話ししている姿です。3月26日に始めたのでほぼ5か月が経過しました。待合室やてすり、ドアノブやトイレは職員の手で毎日清掃し、アルコールで拭きあげていることなどを説明しています。また、職員の努力だけでは足りないので、来院される方にもマスク着用をお願いし、来院時にも帰る時にもアルコールで除菌してくださいとお願いしています。時には、拍手を頂くこともあり照れくさいひと時です。受診のたびに聞かされるのですから「また同じ話か」と言われることもあり心が折れそうになることもありますが、もういいやと思うと気をつけようと思う気持ちが私も患者さんもなくしてしまうのではないかと思い、やめられません。

今朝は、「マスクなんて必要ない」、「コロナなど死亡率も低く恐れるほどの病気でもない」、「ワクチンなんかあてにならない」などという医師もいるが鹿屋ハートセンターでは対策を続けていきたいとお話ししました。

飲食店を例にとります。対策なんか意味がないと店主が言い、密の状態で皆が使いまわすトングなどを使って飲食を提供するお店があったらそんな店に行こうと思う人はいるでしょうか?コロナパーティーを開こうなどという人は行くかもしれませんが多くの人は敬遠すると思います。医療機関も同じだと思っています。精いっぱいの対策をし、その姿を見ていただかないと安心して来ていただけないだろうと思っています。それでも感染のリスクはなくなりません。病院やクリニックには怖くて行けないという人に心配しすぎだと言っても納得してもらえるはずがありません。ですからそんな方にはオンライン診療をすることにし、実際運用しています。心配する人に心配するなということほど空しいことはないと思っています。黙って言うことを聞いておけという姿勢は通用しません。心配を解消する努力を医療機関も飲食店も求められているのだと思っています。不安を理解する気持ちを持たなくてはいけないと思っています。その結果でしょうか、鹿屋ハートセンターの受診患者さんはほとんど減少していません。ありがたいことだと思っています。

聴診器を当てる前に、聴診器をアルコール綿で拭きあげてから聴診するようにしています。その姿を見て「先生も大変ですね」という方もおられますが、いつも返事は同じです。お一人ずつ聴診器を拭きあげることなど、全然大変ではない、ハートセンターに行ったらコロナになったというほうが大変だからと言っています。なってから慌てるよりもならないように対策する方が簡単だからとお話ししています。

完璧な対策などあるはずがありません。しかし、元の病気に対する治療の中断による悪化を防ぐために定期的な受診は続けてほしいと願っています。そのためには安心して受診できるように努力し、努力する様子も実際に見ていただくのが良いだろうと考えています。新型コロナ禍が終息し、あの頃は大変だったねと患者さんと笑って言いあえるように対策を継続し、ともに乗り越えましょうと話し続けようと考えています。



2020年8月12日水曜日

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぎ、感染拡大による医療崩壊を起こさないための鹿屋市医師会の行動、介護施設との協同。そんな努力ができる鹿屋市が誇らしい。

 7月以後、PCR陽性や抗原陽性者の数が増え続けています。4-5月の緊急事態宣言を上回る増加です。重症者が少ないから状況はひっ迫していないという人もいますが、ひっ迫してからでは遅いと思っています。

鹿屋市医師会では相当な危機感をもって対策を打たねばと考え4月末から新型コロナ対策委員会を立ち上げました。私もメンバーの一員になりました。鹿屋市医師会が危機感を持った理由は、鹿屋市を含む大隅半島の医療供給能力が脆弱だからです。新型コロナ以前、感染症指定病床は鹿屋市に4床しかありませんでした。現在は、あと4床は受け入れようと決まり8床です。また、仮にもう少し、受け入れを増やしたとすると、通常の救急を含む診療体制が維持できないのではないかと危惧したのです。


大隅半島内には緊急の心臓手術ができる病院は1か所しかありません。1か所で整形外科や脳外科もあり多発外傷に対応できる病院もありません。大隅では不十分な診療体制を複数の医療機関が協力し補完しあってなんとか救急に対応できる体制を維持してきました。何でもできる病院がない状況で施設の垣根を越えて協力し合う仕組みを鹿屋方式と呼んできました。その一つ一つが大切な役割を担っている施設で新型コロナ対応のために機能が低下してしまえば普段の救急診療にも支障が出ると危惧したのです。

新型コロナ委員会では、県や市が新型インフルエンザ特措法に基づく行動計画を作成する前に医師会の行動計画を作成しました。また、陽性者を早期に発見し感染を拡大させないために医師会で運営するPCRセンターも5月7日には開設しました。上段の図は、PPEなしでも検体採取できるように作成した検査用のボックスです。鹿屋市の理解を得て鹿屋市の予算で作成しました。移動可能であり、一度に大勢の検査が必要になった時にはその施設に持って行くことも可能です。

次に取り組んだテーマは介護施設での大規模クラスター発生を予防する、あるいは発生した時に医療機関がパンクしないための協力体制の構築です。6月から医師会と介護施設の団体との協議を重ねてきました。鹿屋市内の入所施設に入所する利用者は約3000名です。人口10万人の町ですから3%の方は入所者なのです。ここで大きなクラスターが発生すれば、たちまち医療崩壊です。下の図は、もうすぐ開催される入所施設向けのPPE着脱訓練と入所者に対するACP取得のための勉強会の告知です。介護施設への感染経路は、面会者・職員による持ち込み、入所者の施設外への受診時の持ち帰り、新規入所時くらいしかありません。その経路を断つ努力の意識付けを施設と医師会で共同で行いたいと考えています。また、実際に発生し、入院ベッドが確保できないような状況が生じても、それゆえに感染拡大させないための感染管理の勉強です。勉強はすべての入所施設が対象でオンラインで行いますが、大隅地区の感染症認定看護師が希望する施設には出向いてゾーニングのアドバイスをするよう計画しています。また、今の段階から発症した場合、入院を希望するのか住み慣れた施設での療養を希望するのか入所者や家族の意思を確認してゆきます。


崩壊が起きてから慌てるよりも、崩壊しないように準備しておく方が良いに決まっています。ひっ迫していない今だからこそすべきことだと考えています。そのためには医師会の努力だけでは足りません。市などの行政や、それまで関係が希薄であった介護施設との連携が不可欠です。そうした連携を模索できる今の鹿屋市の問題意識を素晴らしいと感じています。そんな積み重ねが、感染拡大や医療崩壊を防ぎ、市民の不安の解消に繋がれば言うことはありません。

2020年6月6日土曜日

1本のステントが、患者さんの人生を変える、そこを目撃するカテーテル治療医のよろこび

 7年前にステント植え込みを行った方です。7年前には50歳代でしたが60歳を超えました。現役の大工さんです。初診時の主訴は起坐呼吸でした。明確な胸痛の既往はありません。初診時の心電図はまだSTの上昇した前壁梗塞です。心筋逸脱酵素の上昇はありませんでした。2番目の図は初診時の心エコー所見です。左室拡張末期径は69㎜、左室駆出率は20%です。発症時期不明の前壁梗塞による心不全と診断しました。

3番めの図はステント植え込み前のCAGです。左冠動脈前下行枝が中隔枝のすぐ後で完全閉塞でした。幸い、再開通はうまくいきましたが、時間が経過した心筋梗塞だったのでどれほど心機能が回復するか自信がありませんでした。

もちろんCTでは経過を見ていましたが冠動脈造影は7年ぶりです。以前植え込みんだステント部位の再狭窄もなく良好な結果でした。

その下の図は最新の心電図です。以前に心筋梗塞をしたのだろうなというのは分かりますが、初診のころの心電図とは印象が異なりいわゆるおとなしい心電図です。

その下の図は最新の心エコー所見です。左室拡張末期径は58㎜とやや拡大していますが左室駆出率はなんと74%です。



ステント植え込みを行う前、行った直後にはどれほどの心機能の回復が起きるのか全く分かりませんでした。左室駆出率20%の方の人生は容易ではありません。とても大工仕事ができるとは思いませんし、安静時でも苦しみ入退院を繰り返す人生だったかもしれません。しかし、現在では、以前使用していた利尿剤もやめ、少ない内服で元の仕事が支障なくできているのです。冠動脈完全閉塞を再開通させることで劇的に心機能が回復した症例などとこうした治療の評価が定まる前であれば症例報告されるようなケースです。今ではこうしたケースは少なくないので学会報告するほどのケースではありません。今回、7年ぶりに冠動脈造影のために入院していただき、普段の通院よりは少しゆっくりとお話しできました。そして1本のステントが心機能を回復させ、初診時に心配したような悲惨な人生ではなく、本来の人生を取り戻されたことを同年代のものとして素直にうれしく思いました。私は若い先生にカテーテル治療を指導するときに、カテを持つ医師の手の中に患者さんの命があることを忘れるなと言ってきました。これからは、命だけではなく治療を受ける患者さんの人生も手の中にあることを忘れるなと言うかもしれません。










2020年5月13日水曜日

国内での経験の少ない薬剤を初めて処方し、肝を冷やしました。

 新型コロナ感染症の拡大が4月にありましたが、5月に入って新規感染者も減少傾向にあります。もちろん、もう安心というわけではないので、油断せずに毎日の診療に励みたいと思っています。

今日は、COVID-19とは違う話です。最近、アップしたペースメーカー植え込み患者に対する私の失敗に続く、やはり失敗の話です。

50歳代の男性で、拡張型心筋症の方です。左室拡張末期径は約70㎜、左室駆出率は約30%の方です。2019年に原因不明の失神発作があったために植え込み型除細動器が入っています。拡張型心筋症の方も、まったく心機能の改善が望めない方ばかりではなくβブロッカーの内服で徐々に心機能が回復し、正常化される方も少なくありません。でも、この方はβブロッカーを長く内服されていますが、心機能は回復してきませんでした。

βブロッカーを内服していても心機能は回復傾向にない、過去にアミオダロン内服下で失神発作があり、ICD植え込みを受けているという状況を見ていると何か次の一手はないものかと考えます。そこで処方を開始したのがコララン(イバブラジン)という昨年11月から日本でも使われるようになった薬です。洞結節に作用し、低左心機能患者の予後の改善が期待される薬剤です。洞調律で心拍数が75以上、βブロッカーによる治療を受けていても改善が認められない心不全のケースが投与の対象です。この薬剤を知った時に、そんな患者さんはそれほど多くなくて、鹿屋ハートセンターにいるかなとまず思いました。そんな折、この患者さんを診て、まさにこの薬剤を投与すべき患者さんだと思ったのです。この薬で過度に徐脈化するようなことはICDが入っているからあり得ないので余計に安心だと思っていました。

最上段の心電図は処方する直前の心電図です。最小容量の2.5㎎ 1日2錠の処方開始日からわずか6日後に、ドキドキすると電話で相談を受けました。すぐに来てもらって撮った心電図が中段の心電図です。持続性心室頻拍です。肝を冷やしました。意識下のショックがかからないようにVTではショックがかからない設定でしたので、このまま来られたのです。しばらくして自然に洞調律に戻りました。最下段は洞調律に戻ってすぐの心電図です。著明にQTが延長しています。この方はその後、コラランを中止し、現在では元のQTに戻っています。

私は、自分に課したポリシーとして発売間もない薬剤はすぐには使用せず、長期処方が可能になるまでの1年間に発生する副作用を見て処方を開始しようと決めています。この方ではそのポリシーに反して発売後数か月で処方をしました。そしてこの結果です。投与によって、予後が改善し、左室駆出率も改善するケースも報告されているという良い効果の話に引きずられたのです。すべての薬剤に副作用は存在します。この方が長く内服されているアミオダロンという薬でも間質性肺炎で亡くなる方もおられます。しかし、そうした副作用をよく知っているために些細な咳でも気にかけているので、間質性肺炎を起こされた方はおられますが、重篤化した方は鹿屋ハートセンターでは経験していません。やはり、自分の経験が少ない、また、国内での経験が少ない薬剤は怖いと改めて思います。

この薬剤の価値をすべて否定しようとは思いません。しかし、このようなケースがあることは報告すべきと考えましたし、処方される先生は是非、早期に心電図でQTをチェックし、また、動悸や失神の訴えに耳を傾けてほしいと思います。この患者さんご本人にも奥様にも、多くの先生にも知ってもらいたいのでブログに載せてよいかと許可を求めたところ、他の先生の役にたつなら是非ともと返事を頂いたので、公開することにしました。

新型コロナウィルス感染症に有効ではないかと取りざたされている薬剤にも不整脈を誘発させる可能性がある薬剤もあります。現場に臨む臨床医は、良い効果だけに目を向けずに、起こりうる副作用にも注意を怠ることなく、最善の結果を求め続けなければと改めて思っています。

2020年5月1日金曜日

軽症新型コロナウィルス感染症の方をホテルに受け入れて大丈夫かと心配しています。

新型コロナウィルス感染症の拡大のための医療崩壊を防ぐために軽症者はホテルで受け入れようという話が進んでいます。そんな話を聞いていて思い出されることがあります。

25年ほど前の話です。虚血性心筋症で診ていた方で50歳代の比較的お若い方でした。どの冠動脈も細く、カテーテル治療もバイパス手術もできそうにないために薬剤で診ていた方でしたが、ある日、心停止になり亡くなったのです。亡くなった時の様子をお母さまに伺いましたが、マンションの8階に住んでいたので救急隊も蘇生をしながらは狭いエレベータでは1階に下ろすことができなかったというのです。たまたま病院近くのマンションであったために病院から救急外来の医師が来てくれたが、やはり部屋の中での蘇生ですから十分な処置ができないまま亡くなったというのです。

この話を聞いてから私は高層マンションには住むまいと考えるようになりました。ストレッチャーが乗れるようなエレベーターを備えたマンションを知らないからです。院外の心停止の蘇生率は非常に低いので心停止になれば1階に住んでいようが高層階に住んでいようが一緒だという考えもあるかもしれませんが、やはり年を重ねるとわずかでもチャンスのある環境に身を置きたいと考えるのです。建築基準が改正され、タワーマンションにはストレッチャーが乗るエレベーターの設置が義務付けられない限りタワマンは私には恐怖の存在です。

軽症新型コロナウィルス感染症の方を受け入れるというホテルにはストレッチャーが乗るようなエレベーターはあるのでしょうか?在宅で急変し亡くなった軽症者がおられたようにホテルでの経過観察でも急変はあり得ると思っています。軽症者を受け入れると名前が出ているホテルにストレッチャーが乗るようなエレベーターがあることを私は知りません。私たちが目にしないだけでサービス用のエレベーターにはストレッチャーがのるのでしょうか?5月1日現在、ホテルでの急変による軽症者の死亡はないようですが、それは圧倒的に在宅者と比べて人数が少ないからではないかと心配しています。急変があったときに、そのホテルに待機している医師や看護師、行政の職員は、エレベーターに乗せることもできずどれほどつらい思いをするだろうかと思います。もちろん搬送に苦労をしてそれゆえに結果が悪くなるかもしれない患者さんのことも心配です。

発症していない濃厚接触者をホテルで受け入れるのはありだと思いますが、軽症者を設備が整っていないホテルに受け入れて大丈夫なのかと心配でなりません。簡単ではなくても武漢のような専用施設での管理が良いのではないかと昔を思い出して思っています。

2020年4月19日日曜日

院内感染対策にはハードだけではなく、そこに働く職員の意識や行動が大切だ

今回の新型コロナ禍で、感染症の専門家という方がTVによく出てきます。感染症の専門家という人はどんな人なのでしょうか?

感染症の診断の専門家、ウィルス学者、ワクチンなどを開発する予防の専門家、抗インフルエンザ薬や抗菌剤に詳しい治療の専門家、 防疫の専門家、感染の広がりを検証する公衆衛生学者など感染症の専門家といっても様々だと思います。マスコミの世界に医学を勉強した人などほとんどいないので、ごちゃまぜに専門家が出演されるのでフォーカスが定かではない印象を持っています。

2004年、私は徳洲会の専務理事に任命されました。そして当時の徳洲会理事長の徳田虎雄先生からグループ全体の感染対策の責任者になれと言われたのです。循環器の中でも冠動脈インターベンションを専門にしてきた私に、感染対策の知識などある筈がありません。しかし、徳田理事長はそんなとっぴな人事をよくする人です。任命されてできないなどとは言いたくありません。既に福岡徳洲会循環器科の部長や大隅鹿屋病院の院長の経験があった私は、できない・知らないことまで自分で考えて方針を出すのではなく、専門家の教えを乞うという方法を身に着けていました。

そこで、そんな専門家もまったく知りませんでしたが、治療の専門家より院内感染対策の専門家を探しました。結果、辿り着いた先生の一人は、日本プロ野球機構や相撲協会にアドバイスをされ、時にTVにも出てこられる現東北医科薬科大学の賀来満夫先生です。お会いした当時は東北大学の感染制御の教授でした。きさくな先生で色々と教えて頂きました。また、スマトラ沖地震で救援に伺った時にお世話になったインドネシアのハラパンキタ病院でMRSAのアウトブレークが起きた時には医局員を派遣して下さり、感染拡大を防ぐためのアドバイスなどもしてくださいました。

もう一人、院内感染対策で知り合った先生が、波多江新平先生です。今も感染環境学会の理事を務められています。明治製薬でイソジンに関わり、退社後はヨーロッパの病院の院内感染対策などを日本に広げる活動をICHG研究会を率いてしてこられました。今では誰もが使うスタンダードプレコーションという言葉も波多江先生が日本に紹介されたと聞いています。初めてお目にかかった時は、自宅近くの駅で待ち合わせをした後、自宅に寄っていけと言われ、夕飯まで御馳走になったのは良い思い出です。

2004年に専務理事になり2005年には徳洲会を辞めたので徳洲会の中での感染対策はほとんどできませんでした。しかし、波多江先生の教えを守って鹿屋ハートセンターを立ち上げました。

ここで紹介する鹿屋ハートセンターの設備は、みな波多江先生に教えて頂いたものです。

最上段の図は、すべての病室内にある手洗いです。古い設計の病院では一病棟に一つのトイレや手洗いしかないことも少なくありません。一行為一手洗いが院内感染対策の基本だといっても実行するのが難しい設計も少なくないのです。今では多くの病院の病室前にある使い捨て手袋を置いておく棚や、自動水栓、石鹸に消毒液などを置くことなども教えて頂きました。患者さんの手洗いだけではなく看護師の一行為一手洗いを実現するためのものです。

2番目の図は病室の窓です。二重窓の中にブラインドが内蔵されています。ですからブラインドに埃がつくことはありません。ブラインド内蔵ですので窓にカーテンをぶら下げる必要もありません。断熱の効果や結露予防の効果が期待できます。病室の窓さえも感染対策なのです。ブラインド内蔵の二重窓は壊れやすいと言われていたので当初は心配していましたが、開院から14年弱の期間、まったく故障はありません。

次の2つの図は病棟のトイレです。3番目の図のトイレは各病室にある車椅子も利用できるトイレです。便器は床置きではなく、壁に取り付けてあり、便器の下の掃除を容易にしています。4番目の図のトイレの床で分かりやすいかと思いますが、床材は可塑性の高い素材でできており、床材を壁側に持ち上げるように曲げてあります。直角の立ち上げにせずRをもたせて掃除を容易にしています。

 下から2番目、3番目の図は、掃除用具室と掃除用具です。掃除に使ったモップはすぐに洗濯をし、乾燥器で乾かしています。ですから、掃除用具室に雑巾臭さはありません。年に1回の業者による床洗浄以外は毎日、職員による掃除です。環境整備は医療者の責務と考えるために業者には依頼していないのです。

こんな風に鹿屋ハートセンター内で院内感染は起こさないを目標にハードを設計しました。15年前の設計です。院内感染を起こさないというこのような設計でも、外から新型コロナ感染の方が来られた時には無力です。けれども、院内感染を起こさないということを目標にした設備を目の当たりにし、毎日、そこを掃除する職員の意識は、違うはずだと思っています。新型コロナの流行を受けて、一層、手に触れる部分のアルコールや次亜塩素酸によるふき取りを徹底するようになりました。

最下段の図は、鹿屋ハートセンターのものではありません。15年以上前に掃除に訪れた病院の換気孔です。院内感染対策室もあるような病院でしたが、埃まみれで掃除もされていない換気孔でした。理論はもちろん大切ですが、その理論を活かすのはそこで働くものの意識や行動です。マスクや防護服をつけているから大丈夫なわけではありません。設計や用具といったハードだけでがなく、その正しい使用法を知ることや、患者を守るという意識や行動がなければ、感染対策の理論は絵に描いた餅にすぎません。




2020年4月17日金曜日

過而不改、是謂過矣。過ちて改めざる、是を過ちと謂う

 10年以上前に、低左室駆出率で診るようになった患者さんです。初診時の左室駆出率は37%でした。現在の左室駆出率はカルベジロールの内服を続けた結果、70%です。カルベジロール開始前から2:1房室ブロックがあり左胸にDDDペースメーカーを植え込んでいます。

植込み後3年を経て心室ペーシングが頼りなくなり、心室リードの断線と判断しました。上の図の矢印部分がリード断線部位です。このため右胸に新たにDDDペースメーカー植込みを行いました。過去にこのようなケースがあった場合には、新たな植込み手術時に古いペースメーカーはとり出していました。しかし、この時は、何を思ったか、ペースメーカーをオフにするだけで良いだろうと考えたのです。

その後、7年以上を経過し、ペースメーカーチェックも順調でした。ところが時々、ドキドキすると言われるようになりました。それで実施したホルター心電図が下の図です。下段の記録では順調に心房心室ペーシングがなされていますが、上段の記録では新しいペースメーカーの作動とは関係なく、ペーシングスパイクが出ており、T波の上のスパイクも時にキャプチャーされて、いわゆるSpike on Tの状態になっています。危険なペースメーカーによる誤作動です。当初、何が起きているか分かりませんでしたが、メーカーに問い合わせたところ、ペースメーカーをオフにしていても、電池寿命が近づくと、ペースメーカーはオンになりバックアップモードで心室ペーシングを開始する設計になっているというのです。

知らなかった私のミスです。古いペースメーカーを取り出さずにオフにするだけにしていた私が招いた危機でした。新しい側の電池寿命も近づいていたために右側の電池交換を行い、古い左のペースメーカーは取り出しました。メーカーに聞いたところ、新しい機種ではオフにしてあるペースメーカーが勝手にオンになることはないとのことでしたから、この現象はいつか消えてなくなります。ただ、このような例が他にあってはいけないと考え、患者さんの了解を得て私の失敗を公開することにしました。

失敗してしまったことに目をつむったり、隠したりしていると成長はありません。また、失敗を共有することで同じ失敗をする医師が少なくなればと思います。

失敗をした私が言うのも変ですが、誰にも失敗はあります。こんなことを考えていて思い出した言葉がタイトルの「過ちて改めざる、是を過ちと謂う」です。

新型コロナの流行による経済の危機に、条件を付けて各世帯30万円を給付するという方針が閣議決定されたにもかかわらず、一律に10万円を給付すると方針が変わりました。これに対して一律10万円の支給を主張していた野党からも「朝令暮改」だと批判の声が上がっています。どちらが正しい方針かは分かりませんが、一度決めた方針だから決して変更はしないというよりも、よりよい方針があるのなら改めるという方が良いのではないかと思います。

野党の皆さんは「過ちて改めざる、是を過ちと謂う」という言葉を知らないのかもしれません。

2020年4月11日土曜日

鹿児島県や鹿児島県医師会の危機感の薄さにおののいています。

 2020年4月10日現在、鹿児島県で確認された新型コロナ PCR陽性者は4名です。東京都と比べればまだ僅かです。

一方、緊急事態宣言の出された東京都では、1日に確認される陽性者は連日、最多を更新し累計1528名です。Facebook仲間の先生方の投稿をみても、医療崩壊が現実に近づいていると感じます。

最上段の図は東京都医師会のWeb siteです。危機感の高まりを感じ、都民への行動の自粛を促すメッセージには現場を担う当事者としての悲壮感も感じます。医療者として現場に立ち、自らも感染のリスクを背負いながら使命を全うしようとする姿に医師の本来のあり方を感じます。

4月10日現在、陽性者の出ていない岩手県の県医師会Web siteが二つ目の図です。やはりトップに新型コロナに関する情報のリンクがあり、県としての最新の情報は4月10日付です。

同様に陽性者の出ていない鳥取県医師会のWeb siteでは、すぐに目に留まるようなバナーはないものの新着情報の欄に書かれた最新の情報は4月10日付です。

私の住む鹿児島県はどうでしょう。最下段の図が鹿児島県医師会のWeb siteです。メインは診療報酬改定です。右隅に小さくバナーは存在します。しかし、そこから辿り着く最新の情報は3月16日付です。もちろん、日本医師会や厚労省へのリンクはあるものの県医師会としての発信はほぼひと月前が最後です。

自分の住む鹿児島県の医師会の危機感の薄さに愕然とします。鹿児島県のWeb siteも同様です。 4月10日に出された鹿児島県新型コロナウィルス感染症に係る緊急対策第2弾の、最初の項目は終息後のにホテルや飲食店で使える商品券やクーポン券を発行するという終息後の経済対策です。

1名も陽性者が出ていない岩手県も鳥取県も危機感を持っているのに鹿児島県も鹿児島県医師会も何を寝ぼけているのだと思っています。最優先は県民を新型コロナから守ることだろうと思います。

大隅半島の遅れた循環器医療を何とかしなければと考え、2000年に鹿児島に来ましたが、この体たらくをみて、果たして20年前の私の選択は正しかったのかとさえ思ったりします。しかし、後悔しても始まりません。この鹿児島のコミュニティで嫌われても、ちゃんとしましょうよと発言し続けなければと自分を奮い立たせなければいけません。


2020年4月4日土曜日

対策はするけれども慌てない、普段のやりかたを守ると決めました。

 図は、2020年2月に左冠動脈前下行枝に薬剤溶出性ステントの植え込みを行った方です。本日、退院後2回目の受診です。階段を登っても、以前感じた胸痛は全くなくなったと喜んでおられました。次回の受診は、5週間後です。残薬の確認のためにあえて1週間分の残が出るように処方日数を調整しています。

今回のコロナ禍で、受診を恐れる方もおられます。このため普段はしない90日処方なども一般的になってきていると耳にします。私は、ビビりなので、ステント植込み後1ヶ月程度の方に90日処方をする勇気がありません。地域にコロナが蔓延し、とても来て頂く状況ではないとならない限り、今までのやりかたを守ろうと思っています。

鹿児島県では2020年4月4日時点で新型コロナ陽性の方は3名確認されています。英国から帰ってきた方が1名、関西から帰ってきた方が2名です。感染経路不明の方はおられません。

パンデミックになってから慌てても遅い、今のうちから対策するのだという気持ちもよく分かります。一方で慌てすぎて、3月後にパンデミックになっていたとすると、今から90日処方にしていたらステント植込み後半年以上も顔を見ていないという状況になってしまいます。また、こちらの危機感が上手く伝わるとよいのですが、医療者と患者さんが一緒に恐れおののくさまも、どうかなと思っています。パニックは伝染すると思っています。

陰では十分な対策をしてやせ我慢でも、どっしりと落ち着いているようにふるまいたいと思っています。余裕のあるうちは今までのルチーンを守ろうと決めました。

2020年3月21日土曜日

医療崩壊は需要増だけではなく供給減でも発生する

イタリアで医師不足に対処するために、医師資格試験を免除し、試験前の医学生を医師として現場に投入するというニュースを目にしました。2つの驚きでした。

一つはこの新たに投入される医学生の数が約1万人という点です。人口が日本の半分の約6000万人のイタリアの新卒医学生が1万人もいるのかという点です。日本では最近2つの医学部が新設され1学年の定員は増えましたがそれでも9300人程度です。日本の人口当たりの医学生の数は医師不足と言われるイタリアの半分ということになります。

もう一つの驚きは、医師資格試験に合格していないものを医師として現場に投入するという政府の決定そのものです。日本でも戦前・戦中の医師不足に対処するために医学専門学校(旧制医専)が作られました。今回の決定は、医師の質よりも数が必要だという戦時の発想です。そこまでイタリアは追い込まれているのかと改めて思いました。

図は前回のものを少しアウトブレークに合わせて修正しました。災害と異なり、需要の増加が短時間で終息しないこと、供給も経時的に低下することを荒っぽく表現しました。医療の需要を超えないようにピークを抑制させる施策としてイベントの自粛や外出の自粛をするのだと言われました。そのような図も盛んにTVなどで紹介されました。これは、供給が減少しないことが前提です。前回も書きましたが、中国でもイタリアでも日本でも医師や看護師などの感染は少なくありません。であれば、流行に伴って供給も減少してしまうことを意味します。死に至った医療者の補給には何年もかかります。アウトブレーク終息後も、亡くなった医療者が担っていた医療の供給は低下したままです。

医者は患者のために24時間働いて当然だという患者さんも決して少なくはありません。数日前から具合が悪かったが、仕事が忙しかったのでと言って、夜中や休日に受診される方もおられます。何日も前から具合が悪かったのなら、時間外や休日でなくても受診できたでしょなどとそんな方に話をすると、医者は患者の都合に合わせて働くのが当然だなどといわれます。医療者も生身の人間です。そこを理解して上手に社会のインフラである医療を利用しないと、医療の需給バランスが崩壊し、医療者だけではなく医療を利用する患者も困ってしまうのです。

医療者だけではありません。自衛隊も警察も消防も私たちの社会のために必要なインフラであり限られた資源に他なりません。税金で食っているのだから納税者である国民のために24時間働いて当然だという発想は蛸が自らの足を食うような発想です。今回の新型コロナ禍を通じて、このような公共のインフラの持つ意味をもう一度考え、上手に有効に、こうした公共サービスが維持される社会に成長できたなら、このコロナ禍も悪いだけではない経験になるのかと思っています。

2020年3月19日木曜日

医療者が頑張るだけではなく、医療者を守る視点が必要

2004年12月26日にスマトラ沖地震が発生しました。当時、徳洲会の専務理事をしていた私は救援隊長として、タイのタクアパやインドネシアのバンダアチェに行きました。循環器医ですから外傷の治療ができる訳でもなく現地に行って何ができるのかと不安に思ったものです。

タイのタクアパ病院は海岸から離れた立地であったために病院自体は被災しませんでしたが津波発生直後の殺到する患者増のために疲弊していました。一方、インドネシアのバンダアチェで支援に入ったザイノエル・アビディン病院は、病院そのものが被災し、機能が低下していました。また、医師や看護師も犠牲になっていました。医療の需要が急激に増加した急性期だけではなく、その後も長期にわたって病院機能が低下していたために需要に長く応えることができなかったのです。このため、急性期の災害支援だけではなくその後の復興の支援も行ったのです。災害支援だけではなく復興支援がなぜ必要かということを理解してもらうために15年前に作ったスライドが図です。

15年前に作ったこのスライドを見ていて、現状の新型コロナ禍でも同じように需要に対する供給不足はこのように表すことが可能だと思いました。急激な感染拡大で需要が増えるだけではなく、医療者が感染することで供給力も低下すると、医療の破綻は大規模で長期のものになりかねません。

武漢でも日本でも医療者の感染が報告されています。医療の需給を維持するために、医療者が頑張るだけではなく医療者を守る対策も必要だと改めて思います。バンダアチェでは、日本だけではなくオーストラリアやドイツなどが大規模な復興支援を行いました。しかし、今回の新型コロナ禍では他国からの支援は受けられないのですから。

2020年3月15日日曜日

きれいな言葉で装われた社会の本心を新型コロナが表出させる

一昨日2020.3.13には循環器学会で京都にいるはずでした。しかし新型コロナウィルスの騒動のために学会は延期され、急な空白ができました。ゆっくりすればよいのに生来の貧乏性ゆえでしょうか? 何かしなければと考え、日帰りで九州大学病院を訪問しました。残薬チェックの先達である先生に相談に伺ったのです。

感染のリスクを減らすために自動車での往復です。もちろん自動車内ではマスクなんかしません。しかし、九大病院に到着後にはマスクを付けました。感染が怖かったからではありません。マスクをせずに病院を訪ねると白い目で見られるのではないかと思ったからです。そんな風に考えた自分の気持ちを振り返って鹿屋ハートセンターに来られる方のことを考えると、感染予防というより付けてこないと居心地が悪いからという理由でつけてくる方も少なくないのではないかと思い始めました。実際、鼻を出していたりすき間だらけだったりで予防の役に立たないだろうという方も少なくありません。

マスクを着けていない人が暴行を受ける映像を見ると感染よりも人の目を恐れてマスクをつける人も少なくないと思います。日本国内でもマスクをせずに咳をした人が電車内で口論になったりというニュースも目にします。

ちょうど9年前に発生した東日本大震災時に盛んに「絆」という言葉が使われました。日本中、世界中の人が力を合わせて復興に取り組もうとか、「被災者」を非被災者が助けるのだという意味だったのかと思いますが、おなじ人間が他者と同じふるまいをしないとまずいのではないかと考えるのを不思議に思います。他者の視線を恐れ、他者と同化しないことを恐れる感情です。大地真央さんに「そこに『絆』はあるんか?」と聞いてもらいたい気持ちです。非被災者が余裕をもって被災者に「絆」というのは決して醜いとは思いません。しかし、自分も感染するリスクを負ったときに他者と同化しないとまずいと考える心情は「絆」とは対極にある気がします。他者と力を合わせようという気持ちと他者の目を恐れる気持ちの同居です。被災者も非被災者も、日本人も外国人も同じ人間だから助け合うのだというコミュニティで、生きていくためには同化しないと生きづらいのであればそのコミュニティの「絆」は何か嘘くさいと感じてしまいます。「絆」と言っていた、モラルや民度が高いといわれた日本の社会はトイレットペーパーを買い占めたり、マスクを分かち合うのではなく高額で転売するような社会でした。

「自由」「平等」「友愛」を憲法にも載せるフランスで「コロナは出ていけ」という落書きが中国人の経営する日本食レストランになされました。街を歩いていてもアジア人は「コロナめ」と罵声を浴びせられることもあると聞きます。「自由」「平等」「友愛」を憲法にも載せるフランスは、「自由」「平等」「友愛」の先進国ではありませんでした。「自由」「平等」「友愛」と言い続けなければ、憲法に書かなければ、「自由」「平等」「友愛」が保てない国だったと思います。おまえはRacist人種差別主義者だという表現は人を非難する言葉です。これもRacistを非難することで自分の心の中の人種差別を否定して安寧を図っているだけかもしれません。

新型コロナの騒動で、自分を含めて誰もがリスクを負う局面に立った時、心の奥に隠していた・気づかなかった感情が表に出てきました。新型コロナは感染していない人の心までも、あらわにするウィルスのようです。医学的な公衆衛生的な解決をいつか得て「人間」は「科学的」に成長すると思います。これだけではなく、この騒動を機にきれいにな言葉で繕ってきた他者の視線を恐れる心情や他者を蔑む感情などにも気がつき成長すればよいと思います。嘘できれいに装った「良い」社会よりも本音で築き上げられた社会がより良い社会であればと願わずにはおれません。

2020年3月3日火曜日

「新型コロナの検査はできんのか、しゃあないな、それなら、家帰って芋食うて屁ぇこいて寝よ」とはなりませんよね

youtubeより
私は今、鹿児島県鹿屋市に住み働いていますが、生まれも育ちも大阪です。大阪人というとボケたり突っ込んだりして会話をするんですよねと言われることもありますが、そんなことを大阪の学校で教える訳でもなくすべての大阪人がそんなことを良しとしているわけではありません。関東で働いている時には大阪人は下品だとか、粋じゃないなどと思う人が多くて多少のつらさもありました。すべての大阪人が下品なわけではありませんが、確かに大阪には広く普及している下品な言葉もあります。

「芋でも食うて、屁ぇこいて寝よ」などは代表的な大阪人の下品な言葉です。他の文化圏の人には意味が分からないと思います。意味は大阪出身の私にもよく分かりませんが…

ややこしいケンカになった時、難しいことを言われてよく分からない時などに、その面倒なことに終わりを告げるために「もうええわ、家帰って芋でも食うて屁ぇこいて寝よ」と使うのが一般的だと思います。

新型コロナのPCR検査で感度は〇%で、特異度は〇%、陽性的中率は〇%だから必ずしも検査をして陰性だからといって安心という訳でもないし、症状のない時に検査しても感染している人だって陽性にはならないのだから急いで検査を受けても仕方がないよと説明してどれほどの人が納得してくれるでしょう。まして心配だから検査をしてくれとネットに多くの情報があっても来られた方です。

本日の加藤厚労相の会見では新型コロナ検査の自己負担分は公費で補助するとのことでした。つまりただ、無料です。どれほどの人が必要もない検査を求めてこられるんでしょう。気が遠くなる思いです。

患者さんが「よう分からんけど、それやったら、家帰って屁ぇこいて寝よ」と言ってくれ、そんな会話で自宅待機が促されるのであれば言うことなしだと思います。しかし、今の時代にはそんなことは夢物語に違いありません。

2020年3月2日月曜日

このパニックに「こころの処方箋」でも読んでこころを落ちつかせましょう

もう何年も前からほぼ毎月、臨床心理学の勉強会に参加しています。鹿屋体育大学の臨床心理学の教授をされていた先生の主催です。長く参加しているからでしょうか、臨床心理士の資格を取るために受験をしたらどうかと勧められました。医師の資格で十分に仕事ができているので、あまり気が進まないのですが、いやとも言えずハイと返事をしてしまいました。

ここ数日、受験のための参考書や問題集がその先生から大量に送られてきます。問題集をみるとちんぷんかんぷんです。これは大変だと、読みやすい物から眺めてみるかと読み始めたのが図の河合隼雄先生の「こころの処方箋」です。文庫本が送られてきましたがKindle版もあります。

引き込まれました。新型コロナの騒動でこころが落ち着かなかったせいかもしれません。

2章の「ふたつよいことさてないものよ」では、何か悪いことが起きた時に、いつもいつも良いことばかりではないなと考えると不思議とこころが落ち着くのです。自分の人生を振り返っても良いと思った後につらいことがあったり、これは大変なピンチだと思ったことがあとの成功に繋がったりと、良いことばかりも悪いことばかりも続かなかったな等と思い出されるのです。「ふたつよいことさてないものよ」と呪文のように言っていると、こころが落ち着くのを感じます。

13章の「マジメも休み休み言え」もうんうんと言いながら読みました。新型コロナに関わる医師の投稿でも医師以外の投稿でも、エビデンスがどうだとか、和を乱すなだとかどうして喧嘩しているのと思うバトルがネット上にあふれています。正しい情報を得て行動することを否定はしませんが、益のない争いをするよりも「マジメも休み休み言え」位のスタンスが良いのではないかと思えるのです。

27章の「灯を消す方がよく見えることがある」は、灯りを失って方向を失った小舟で松明を燈しても見えなかった方向性が、灯を消すことで遠くの浜辺のぼんやりとした灯りを見つけて方向を知るという話です。あまりの情報過多に方向性を失っているのではないかと感じます。一度、灯りを消してたち止まって遠くを眺めることで見えてくる未来もあるように思えます。

正しい情報を一生懸命に勉強しても見えないウィルス相手です。こころの平静なしに立ち向かっても大きな失敗を冒しかねません。

21章の「ものごとは努力によって改善しない」です。医師も医師以外の方も陥っているパニックだからこそ「こころの処方箋」でも読んでこころを落ちつかせてはどうかと思います。