2014年3月12日水曜日

高齢の心房細動患者における抗凝固療法で、低体重、低腎機能、抗血小板剤との併用は悩ましい課題です。


 90歳の男性です。17年前から繰り返しPCIを受けておられます。3枝にステントが入っています。当院では2年前に薬剤溶出性ステントの植え込みを行っています。この方は慢性心房細動です。心不全もあり高齢ですからCHADS2 scoreは2点です。抗凝固療法が必要ですがクレアチニンは1.4で、体重は47.9㎏しかないのでクレアチニンクリアランスは24ml/minです。

高齢、低体重、低腎機能、抗血小板剤内服中ですからいずれの抗凝固薬を使っても大出血のハイリスクです。現場で心房細動患者さんを診ているとこのような方は少なくありません。

図1は、各NOACsの試験時の除外基準と、発売後の禁忌の基準です。Apixabanは25以下で除外となっていますが現実にはAristotle試験でCCRが30未満25以上でエントリーされた方は全世界で137名にしかすぎません。日本国内からエントリーされた方はわずかに4名のみです。ですから他のNOACと同様にCCRが30未満の方のデータはないと言っても過言ではありません。

にもかかわらず、市販時の低腎機能の禁忌の基準は各NOACで違いがあります。RivaroxabanとApixabanの禁忌の基準は15ml/minなのです。なぜデータやエビデンスがないのに広い範囲で認可されたのかPMDAの意図が理解できません。

上記の方はDabigatranでは禁忌になるのでワーファリンでの抗凝固療法を行っていましたが、3㎎ 4㎎と増やしていってもPT-INRは低値のままでした。高齢、低体重、低腎機能、抗血小板剤の併用という条件で流石にワーファリンを5㎎も内服してもらうのは怖くなり、2012年6月からDabigatranを処方しました。禁忌の症例にDabigatran 1日 150㎎の処方です。腎機能を見れば禁忌ですし、処方量も認可基準よりも少ない量です。これで2年近く大出血もなく経過しました。Dabigatran内服中のaPTTは53.6秒と程よく延長していました。

他の選択肢のない中での決断でしたが、問題なく2年近く経過してホッとしていました。他の選択肢のない中であっても大出血をすれば私の決断が責められるのは決定的です。Apixabanの長期処方解禁に伴いApixaban 1日 5㎎の処方に変更しました。これで添付文書通りの処方になりました。

図2は75歳以上の方でのRe-ly試験の大出血のデータです。75歳未満であれば大出血を抑制していたDabigatranですが高齢になるとワーファリンと成績が変わらないばかりかやや大出血の頻度は増します。ですからDabigatranは70歳以上では慎重投与とされています。

図3はCCR別に見たRe-lyの大出血のデータです。やはり腎機能が低下してくるとDabigatran低用量であっても大出血の頻度はワーファリンのそれを下回りません。腎排泄が多いことが関係していると考えられています。このためCCRが30ml/min未満は禁忌とされたのです。

Dabigatranは本当に高齢者や低腎機能の例では成績が劣るのでしょうか。本日 提示したようなケースでは今後Apixabanを使えばよいではないかと言えばそれまでですが、本日のケースで示したようにDabigatran 1日 150㎎では高齢者や低体重、ある程度の低腎機能でも使えるのではないかと考えます。まだ現場で使い始めて3年しか経過していない新しい薬です。この先、2剤の抗血小板剤との併用のスタディーも計画されていると聞いています。高齢者の心房細動の多くを占める低体重や低腎機能患者における低用量の知見も出てこないかと期待しています。

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