2020年2月4日火曜日

残薬チェックは善意でするのではなく療養担当規則に書かれた保険医の義務です

 2019年7月から始めた徹底した残薬チェックですが、その効果もあり鹿屋ハートセンターに通院されている方の残薬は1ヶ月に1-2回のみ忘れるという程度に劇的に改善しました。こんなに徹底して取り組んでいるのはうちくらいじゃないかと思っていました。

図は、保険医が守らなければならない規則。療養担当規則です。いわゆる療担規則です。医師になって40年以上になるのに下段の20条のロ 診察を行う場合は、患者の服薬状況及び薬剤服用歴を確認しなければならないという条項を知りませんでした。服薬状況を確認するということはのみ残しがないか確認するということです。私が取り組んできたことは特別ではなく保険医としての義務であったのです。多くの先生に、先生のところの患者さんの残薬はどれほどですかと聞いてもその答えをもちあわせている先生と出会ったことはありません。私だけではなくほとんどの先生が療担規則に記載されている義務を果たしていないと思います。

よく袋一杯、箱一杯に飲み残しの薬を持っている患者さんがいるという話を聞きます。医師がきちんと処方した薬を内服しないのは患者の自己責任だという考えも分からない訳ではないですが、服薬状況を確認するのが保険医の義務であれば患者の自己責任で処方した医師には責任はないとは言えないと思います。

多くの保険医の先生が療養担当規則に記載された義務を果たし、その結果として残薬が減少しより良い治療効果が上がることを願います。

2020年1月30日木曜日

残薬を減らすための鹿屋ハートセンターの工夫 たいして手間はかからずに残薬は大幅に減少しました

 2019年7月から、飲み残しの薬のチェックを始めました。始めて半年が経過しました。当院に通院されている方のほぼすべてが残薬を持ってこられるようになりました。当初、15%超の残薬があったものが、今では数%にまで減少しています。こうした成果を、あちこちで講演させていただくようになりました。よく質問されるのはどのように患者さんを指導しているのですかということです。

答は全く指導していないとなります。

当初、次回受診日までの処方を行い、残りがあれば持ってきてくださいと言っていました。

もちろん、すべて内服された方は持ってくる薬がない訳ですから何も持ってこられません。一方、残薬のある方も全部内服したから持ってこなかったと言われる率が低くありませんでした。ですから全部内服したという言葉を信じて残薬率を出すと1%程度でした。
100日処方して1日しか飲み忘れないなんてにわかには信じられません。(厚労省のデータでは1%ですが…)

なにか工夫がないかを考えて始めたやり方は、次回受診日に1週間分が残るように処方するというやり方でした。当初は、毎回1週間分多く処方して金儲けのつもりかと怒り出す方もいらっしゃいましたが、次回受診日の処方は余った1週間に加えて次回受診日までの処方ですから、多く処方するのは最初の1回だけです。今では皆さんが納得してくれるようになりました。

このやり方だと、すべての方に持ってくる残薬がある訳ですから、全部内服したから残りはないよという言い訳はできません。このやり方を始めて1回目の残薬率は14%でしたが、2回目、3回目とドンドン残薬は減少し、数%の残薬に減少しました。診察室で私自身が残薬を確認するので大変ではないかと聞かれることもあります。上の図は残薬のなかった方です。1X処方の薬剤が7個ずつ、3X処方の薬が21個、ひと目で分かるので飲み残しのない方のチェックに要する時間は10秒もありません。こうした飲み残しのなかった方にはちゃんとされてて感心しましたなどと言っています。

下段の図の方ですが、1Xの薬が3種類、7個ずつ残っています。2Xの処方は14個残る筈なのに、やはり7個しか持ってこられませんでした。14個ある筈なのにおかしいね等と話していると、叱られないように1週間分だけ持ってこようとして間違えたと言われます。叱られないために真実を隠そうとされる患者さんは少なくありません。嘘をついて医者をだましても誰も得はしませんよねとだけ話しています。

ワーファリンの時代には、PT-INRの値をみながらの会話がありました。飲み忘れはなかったか、納豆を食べなかったか、他の薬を内服しなかったか等です。NOACの時代になって処方は格段に容易になりました。しかし、患者さんとコミュニケーションする材料がなくなって私は物足りなさを感じていました。しかし、今は残薬を挟んで会話が成立し、その会話を通じて患者さんが自らきちんと内服しなければならないと考えたり、きちんとするための工夫を考えてくれたりするようになってきたのだと思っています。

上から指導をしても、患者さん自身が受け入れてくれなくては改善は期待できません。ですから指導なんてしていないのです。患者さんと私との間に話し合う材料さえあれば気づいてくれると信じていますし、実際に残薬は驚くほど減少しています。


2019年7月15日月曜日

患者さんの姿や患者さんの話す内容は必ずしも真実を伝えていない?


図1は、当院に軽度の冠動脈狭窄をもった冠攣縮性狭心症で通院されている方です。図のようにいつも日付を書いたISDN tapeを貼って来られていました。こんな方なので間違っても貼り忘れはないと思っていました。図2は、薬局で残薬調整をしてもらって修正した処方箋です。35日処方に対して24枚のテープの貼り忘れがありました。この2か月前にも残薬調整をしていたので、何か月分もがたまった結果ではありません。いつもきちんと日付をつけてこられるので貼り忘れなどないと思っていたとお話ししたところ、よく忘れるから日付をつけるようにしたのだと言われました。言われればもっともな話です。今やっている残薬チェックで最も残薬が多いのがこうした貼付剤です。しかし、この方のように診察時に貼っていない方を見ることはほとんどありません。診察時には叱られないように、あるいはばれないように貼って来られているのです。

診察時に見る姿や話される内容は必ずしも患者さんの本当の姿ではなかったのです。

ちゃんと内服していますかとたずねればほとんどの方がちゃんと内服していると答えられます。たとえ1錠でも残っていたら持ってきてくださいと何度もお話ししてようやく持ってきてくれた別の患者さんの残薬は数か月分でした。何年も前に狭心症でステント植込みを行い、また浅大腿動脈の閉塞に対してもステント植込みを行った方です。浅大腿動脈のステントは閉塞し、わずかな距離の歩行でも跛行が出る方です。再度のカテーテル治療をお勧めしても、本人は受けると言われるのですがご家族が100%成功する保証がなければ受けないと反対され閉塞を放置している方です。血圧も不安定です。どうして内服しなかったのかと聞くと、薬を飲むよりも飲まない方が健康だろとカテーテル治療に反対してきたご家族が言われました。確かに薬を内服しないで何も問題のない状態は健康ですが、健康に問題が生じても内服しない方が良いという理屈は成り立ちません。内服しなかったのは持ってこられた数か月分だけではなくずっと内服していなかったと言われました。何年も通院されていたのに気付けませんでした。

どんなに医学知識があっても、どんなにエビデンスに精通していても一人一人の患者さんの行動を理解していなければ、期待される成績を得ることはできません。エビデンス読みのエビデンス知らずになってしまいます。今年の春で医師になって40年が経過しました。普通に考えれば大ベテランです。そんなキャリアでも私は何も分かっていなかったと感じます。今までは正午には終わっていた午前の外来診療が、最近は13時頃までかかるようになってきました。一人当たりではわずかに診察時間が長くなっただけです。このわずかに伸びた時間が患者さんの理解に繋がり、患者さんのより良い結果に繋がることを願うばかりです。

2019年7月14日日曜日

残薬15%超のインパクト

鹿屋ハートセンターに通院している方の残薬率は、分1の薬も分2、分3の薬も15%を超えていました。鹿屋ハートセンターに通院している方はいい加減なんでしょうか?図1は、イグザレルトの市販後調査であるXapass studyにおける脱落率です。

Xapassの年率12.1%の脱落に対して、鹿屋ハートセンターのそれは、死亡を含めて年率3.6%であり、真面目に通院するという点では当院の患者さんはXapassの患者さんよりも熱心だと言えます。

一方、図3に示したXapassの内服完遂率は、93.06%と当院の患者さんの完遂率を大きく上回ります。35日処方で1日飲み忘れるとおよそ3%の飲み忘れですから35日で2回のみ忘れる平均ということになります。脱落は少なくないのにきちんと内服しているということに疑問を感じた私はメーカーにどのように残薬をチェックしたのかを質問しました。答えは、患者さんにちゃんと内服しているとたずね、「ハイ」と言われた方は残薬なしとカウントしたということでした。

前回の記事に書いたように、きちんと内服していない方も、ちゃんと内服しているのかとたずねればほとんどの方がハイと返事されます。質問しただけで得られる残薬率には信憑性がないと私は思います。

当院の15%超の残薬率がもし一般的なものであればどのような意味があるのでしょうか?ちゃんと内服していないために脳塞栓症が増えるだけではありません。

平成28年度の薬局で調剤された薬剤料は5兆3千億円でした。循環器用薬に限ってもおよそ1兆円でした。15%が内服されずに無駄になったとすると全薬剤で約7500億円、循環器用薬だけでも1500億円が無駄になっている計算です。残薬の管理ができていないことで生じる日本の医療費の無駄使いは小さくない意味を持っていると感じます。厚生労働省の統計では年間500億円が無駄になっているとされていますが、残薬が1%のみだという統計はとても信じられるものではありません。厚労省はどのように残薬をカウントしたのでしょうか?

福岡で熱心に取り組まれ、鹿児島や東京にもこの残薬バッグは普及しつつあります。薬剤師会が中心です。当初、私は、薬局でのチェックの内容を聞くだけでしたが、なにかこの方法だけでは残薬が減らないと感じていました。今は、薬局にカウントしてもらうために私自身が残薬を見せてもらい、どうしてこんなに残ったのだろうと患者さんと話をするようにしました。多くの方は、なぜだか分からないと言われます。一方で、理由を明確に述べられる方の中には抗凝固剤を内服して血圧が下がりすぎたからとか体重が減ったから、便秘をするようになったからという方もおられます。そんな理由で無断で脳塞栓症を減少させる薬を自分の判断でやめていることを非常に危険だと感じます。

残る薬を介して患者さんの考えていることを知ることができ、患者さんとの距離が縮んだと感じます。薬剤師会に任せるのみだけではなく、診察室の医師も積極的に残薬に目を向けることをお勧めしたいと思っています。

2019年7月10日水曜日

どんな良い薬ものまなければ効きはしない。残薬チェックで見えてきた世界。

1年以上ぶりの投稿です。最近、患者さんの薬の飲み忘れを最小限にしようと頑張っています。ワーファリンで抗凝固を行っていた時には患者さんが飲み忘れるとPT-INRの値が小さくなるので忘れているなと想像できましたが、NOACやDOACと呼ばれる直接型トロンビン阻害剤(DTI)やXa阻害剤では血液検査で内服の状況を把握するのは困難です。当たり前のことですが、どんなに良い薬も内服しなければ期待される良い効果を得ることはできません。そんな中、鹿児島県薬剤師会がおくすり整理そうだんバッグ(図1)を使って残薬を減らす試みをしていることを知りました。それにすぐに飛びついたのです。どうせ残薬をチェックするなら、抗凝固剤だけではなく鹿屋ハートセンターに通院する方全員の残薬をチェックしようと考えました。

ただこのチェックは結構大変でした。余っている薬があればすべて持ってきてくださいと言ってもなかなか持ってきてくれないのです。残っている薬を持って来たらどうして飲んでいないのだと叱られると思ったのでしょうか?絶対に怒らないからと何度も話をして少しずつ持ってきてくれるようになりました。


図2は冠攣縮性狭心症の方が持ってきてくれた残薬です。飲み残しはありませんと言っていた方です。冠攣縮性狭心症できちんと内服しなかったせいで亡くなった方を少なからず経験した私は、口を酸っぱくしてきちんと内服しないとどれほど怖いかを説明してきたつもりでした。しかし、この有様です。正しい診断をし、正しい治療方針を立て、内服の必要性を説明してきたつもりですが不十分でした。内服していない患者さんの行動を理解できていなかったのです。残薬のチェックをするようになって本当に良かったと思います。長く通院していて分かったつもりになっていた患者さんのことを理解できていなかったと知ったからです。

図3はまだ100人余りの方の集計ですが、1日1回の薬も2回でも3回でも全処方剤数に対する飲み忘れ率は同様に15%を超えていました。1日当たりの率というのは分かりにくいと思いますが、100日に1度の飲み忘れだと1日1回の処方では飲み忘れ剤数は1%、1日2回では0.5%になってししまい、同じ1回の飲み忘れでも分母が剤数だと1Xよりも2X、3Xの方が飲み忘れが少ないというような誤解をしてしまうので分母を剤数ではなく日数にした数字です。やはり2X、3Xの薬の内服完遂率は低くなります。また予想していなかったことですが、テープ剤の貼り忘れは群を抜いて高率でした。

机やパソコン・書籍に向かって勉強をし、エビデンスを知っていても、患者さんの行動を知らなければ求める成果をあげることはできません。改めて医師の仕事は診察室にあり、患者さんとの日々のやり取りでしか仕事の果実を得られはしないと思えます。

残薬を知ることで患者さんとの新たな物語が始まる予感です。

2018年3月15日木曜日

鹿屋ハートセンターにおける抗凝固療法(2018年2月) 事務職員が私のこの分野に対する関心を忖度してデータを持ってきてくれました。

図1 鹿屋ハートセンターでの抗凝固療法 人数


2012年2月に鹿屋ハートセンターで心房細動患者に対して抗凝固療法を行っている方は240名でした。すべてワーファリンです。その後、この240名の経過をフォローしています。合わせて、処方内容の変化を見るために毎年、処方人数、処方割合をチェックしています。

最初の240名から亡くなられたり、通院されなくなったりで残っている方は少なくなりました。一方、新たに抗凝固療法を始めた方もおられます。

2018年2月の時点で当院で抗凝固療法を行っている方は291名でした。

2012年にワーファリンを処方している方は240名でしたが6年後の2018年2月には79名と激減していました。

図2 鹿屋ハートセンターでの抗凝固療法 処方割合(%)
最も多く処方していたのはApixaban エリキュースで115名の方に対してでした。次いでEdoxaban リクシアナで64名の方に対してです。31名の方に処方しているRivaroxaban イグザレルトはAFIRE studyに登録した方です。わずか2名のDabigatran プラザキサ処方の患者さんは新規抗凝固薬が使えるようになった初期の方で消化器症状もなく若く腎機能の良かった方で変える必要もないかと考え残っている方です。

2012年の100%処方から2018年2月ではWarfarinの処方率は27%に激減です。Trombin阻害剤、Xa阻害剤を併せた処方率は73%です。時代が変わったと感じます。

毎年、2月に私が見直していること知っている事務職員がなにもリクエストしていないのにこのデータを作って持ってきてくれました。事務職員までもが診療の質を気にかけてくれていることをうれしく思います。

2018年3月13日火曜日

日本のTAVI実施施設137施設は妥当なのか?

長く狭心症と言われて多くの内服をしてきた方が最近、当院に入院されました。結果、冠動脈には狭窄はなく、心エコー上の最大圧較差が140mmHgを超える大動脈弁狭窄症でした。受診したその日に大動脈弁狭窄症であることが判明し、翌日には冠動脈に狭窄のないことが判明したわけですから診断まで2日間です。一方、狭心症と言われて内服していた期間は10年以上です。すぐに診断がつく病気ですから専門医ではない先生方は安易に狭心症と診断して内服を開始する前に是非、一度専門医に紹介して下さればと願います。

大動脈弁狭窄症は高齢者の病気です。根本的な治療である大動脈弁置換術に耐えられない方は諦めるしかなかった病気ですが、最近は経カテーテル的弁置換(TAVI)が可能になってきました。

TAVIに関しては2014年11月5日付当ブログ「TAVIの国内需要はいかほどで実施施設はどれほど必要か」で私なりの予想を書きました。この中で国内のTAVIの症例数は年間1500件ほどかなと書きました。図は循環器学会が実施した循環器疾患診療実態報告書に書かれたTAVIの件数です。2016年で1600件余りでした。2014年の私の予想を少し上回りました。おそらく2017年にはもっと症例数が増えるでしょうから将来は2000件程度で落ち着くのかなと思っています。

一方、TAVR関連学会協議会のWeb siteを見ると施設基準を満たした実施施設は2018年2月の時点で137施設と書かれています。仮に2000件のTAVIがあったとしても1施設当たり20件にも満たない症例数です。実際には年間100例を超える実施数の施設も存在する訳ですから、年間に10例も実施できない施設もあり得ます。これで十分に習熟した技術でTAVIは実施できるのでしょうか?

年間10例としてその医療費はおよそ6000万円くらいだと思います。この売り上げで心臓外科専門医を3名、循環器専門医を3名、CVITの専門医を1名抱えて、ハイブリッド手術室を整備してペイできるのでしょうか。設備も専門医も症例数が多くても少なくても必要な固定費です。なぜ、ペイする筈のない投資をする病院が多く存在するのか不思議で仕方がありません。

私は私立の病院が無謀な投資をすることにとやかく言うつもりはありませんが、137のTAVI実施施設には公的な病院も少なくありません。確実にペイできない投資を税金が投入される公的な病院に何故許されるのでしょうか。当地、鹿児島県のTAVI認可施設は大学病院と国立病院の2施設です。人口170万人の鹿児島県にTAVI実施施設は2件必要でしょうか?鹿児島県だけではありません。お隣の宮崎県の実施施設は大学病院と医師会病院の2施設ですが、人口110万人の宮崎県に2施設必要でしょうか?更に人口76万人の高知県にも公的病院と私立病院の2施設がTAVI実施施設になっています。公的病院の方は莫大な赤字が問題になっている病院です。

病院ののれんのために赤字必至の投資が税金でなされることに納得できません。また、診療の質が妙なのれんのために損なわれることにも危惧の念を覚えます。学会や会計検査院がこんな無謀な投資を制限すべきだと私は思っています。

追記: ブログのアップの後、情報をもらいました。2017年の日本のTAVI件数は約5000件だそうです。爆発的に増加しています。でも137施設で割ると1施設当たり35件程度ですからTAVI先進国のドイツの1施設当たりのTAVI件数200件と比較すると貧弱なのには違いはありません。