|
Fig. 1 Before PCI 5m ago |
|
Fig. 2 After PCI 5m ago |
医師になって34年目です。年をとったせいか昔のことをよく思い出します。最近はそんな人を見ることはまずありませんが、若い頃に受け持ちになった心胸郭比(CTR)が100%の僧帽弁狭窄症のことなどを思い出します。まだ私が20歳代の頃です。よく弁膜症の方は心房細動になるのをきっかけにして心不全が悪化しますが、その方は末期の心不全になってから洞調律に自然と復しました。徐脈です。それでも洞調律に復帰したので心不全の管理は楽になるかと思いましたが、逆に心不全のコントロールは不良になり、心室細動を繰り返しました。末期の心不全ですので除細動も叶わず、死に至ると思っていましたが急場を凌ぐことができました。蘇生後に、キリストに会ったなどと話されたのでよく覚えています。30年も前の患者さんですから今は生存されているはずもありません。この方の最期には転勤で立ち会えませんでした。
苦労して急場を乗り切った方もその後、必ず最期を迎えます。誰も死なせない医療などできる筈もなく、死に至らせないことを医師の最終のゴールとすれば、医師の仕事は100戦100敗の空しい仕事になります。死に至るわけではない疾患で命を失わないように、苦しんで死に至らないように、死に至るまでの「生」が意義のあるものになるように手伝うことなどを医師としての目標におかなければ、医師の仕事に価値はないように思えます。
|
Fig. 3 Five months after stenting |
本日の患者さんです。80歳代半ばの透析患者さんです。 9年の透析歴です。2009年に胸痛があり、最初のPCIを#3に対して実施しました。この時にはステントを持ち込めずにバルーンだけで終了です。当然のように再狭窄し、その後は子カテを使って薬剤溶出性ステントの植え込みを行ってきましたが、Xience V、Endeavor、NOBORI、PROMUS elementいずれも再狭窄です。今回も胸痛があり造影したところステント部は完全閉塞でした。最近の閉塞でしょうから、再度のPCIは可能でしょうが今回はPCIをしませんでした。PCIで拡張できても、再狭窄を回避する手段を持ち合わせていないからです。狭窄であればその次の段階の閉塞時に病態が悪化するのではないかと考え、PCIを実施したに違いありませんが、この閉塞した状況で心電図所見の悪化も心エコー上の心機能の悪化もありません。閉塞により急激に悪化する病態が発生しないと思うと、血管を開けることを仕事にしてきた医師として不謹慎かもしれませんがホッとした気持ちにもなります。
Fig. 4に示すようにこの方の外腸骨動脈は両側で閉塞しています。いつもPCI時にはその閉塞の上を穿刺してきましたが、石に針を刺すような感触で次のPCI時にはもう穿刺できないかもしれないとも思ってきました。幸い、左冠動脈には問題がないので多少の胸痛はあってもうまくコントロールしてゆけるだろうと思っています。
|
Fig. 4 Angiograhy via Femoral sheath |
命を護ることは当然としても、絶対に死に至らない医療は存在しません。目の前の狭窄を拡張することだけがPCIを行う医師の目標ではありません。拡張した状態で冠動脈を維持することはできませんでした。しかし、これからが医師としてこの方に何ができるかの正念場のように思えます。
0 件のコメント:
コメントを投稿