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2020年12月5日土曜日

我田引水、手前味噌な科学的根拠もない妄想と言われても仕方がない私のISCHEMIA試験の解釈

昨年発表され、今年のNew ENGLAND JOURNALに掲載されたISCHEMIA試験の結果は、冠動脈疾患のカテーテル治療をする私たちにとって大きなインパクトのあるものでした。心筋虚血があることが証明された患者を2群に分け、薬剤だけの保存的な治療を受ける群とカテーテル治療やバイパス手術などの侵襲的な治療をうける群とで5年間の経過を見た試験です。心血管死亡・心筋梗塞の発生・不安定狭心症や心不全による再入院・心肺蘇生を受けたというPrimary composite outcomeは、侵襲的なグループの方が比較を始めて2年までは多かったという結果です。患者さんに良かれて思って実施している治療が薬だけの治療よりも劣ると言われたら私たちは何をしていたのだろうと思ってしまいます。

私たちが実施しているカテーテルによる侵襲的な治療は、受けてたった半年で5%もの人が重大な問題を起こす治療なのでしょうか?鹿屋ハートセンターでは、半年以内に死亡したり心筋梗塞になったりという方をここ10年ほどは経験したことがありません。10年ほど前には、稀にステント血栓症を起こす方がいましたが、最近は皆無です。自分のやっている治療の経過とこの論文の結果の違いに驚いています。

では、なぜ研究に登録された患者では問題が多く起きたのでしょうか。欧米では日本の違ってIVUSできちんと拡張されたかなどを評価せずにステント植え込みがなされることが主流です。では、不十分で適切ではない治療が原因でしょうか?それならば2年以後に保存的な治療よりも成績が改善する理由が分かりません。

ここからは、私の妄想です。科学的な根拠もデータもありません。患者さんの薬の飲み残しをこの2年ほど調べてきました。なので、そこに情熱を持っているが故の我田引水、手前味噌です。下の図に示すようにステント植え込みを受け抗血小板剤を処方されている患者さんでも10%を超える残薬を認めました。ステント血栓症が起きれば死に至るリスクが高いと口を酸っぱくして話してきたにもかかわらずです。もし、研究の対象になった方々もきちんと内服していないとすれば、ステント植え込みを受けて抗血小板剤を内服していない方では、ステント植え込みをしていない人よりも血栓症による死亡リスクは格段に高くなります。そこを生き延びた人であれば時日が経過し、ステントが新生内膜に覆われるにつれ、抗血小板剤をきちんと内服していなくてもステント血栓症のリスクは低下し、狭窄を解除していない薬だけの人よりも拡張した効果で成績が上回ると考えました。全くの我田引水で科学的な証拠はありませんが、この仮説を立てて考えるとISCHEMIA試験の結果は納得できるのです。

ISCHEMIA試験の結果を受けてカテーテル治療など無意味だという医師も出てきました。しかし、保存的な治療で十分だとは言えないと思っています。たった2年で両群とも9%もの人が心血管死、心筋梗塞等を起こしています。ISCHEMIA試験の結果が正しいとしてもその解釈はいまだ冠動脈疾患に対する良い治療はないとすべきだと思います。私の解釈は違います。きちんとしたカテーテル治療に加えて適切な処方をきちんと内服してもらえれば望ましい経過を得られるというヒントを得たと解釈しています。

多くのRCTできちんと内服できていたか、残薬率は何%であったかなどが語られることはありません。患者の行動を知らずに統計だけで語られる「EBM」に懸念を覚えずにはおれません。
 

2016年1月11日月曜日

時代を画するもの、画期的とは? あるいは新たな世代とは?

昨日、2016年1月10日、福岡で開催された新しい薬剤溶出性ステントの発売記念の研究会に参加してきました。第3世代の薬剤溶出性ステントという触れ込みです。ステントのストラット厚は薄くなり今までの製品の中では最も薄いものです。また吸収されるポリマーを使用し、薬剤はabluminal側のみの塗布で内皮が早期にはりやすく長期成績の改善が期待されるとされています。

ではこの製品は第3世代なのでしょうか。私は3男で兄が二人います。次兄は長兄よりも背が高く、私は次兄よりも長身ですが3兄弟は同世代に決まっています。ステントストラット厚が薄くなったことだけで画期的とも新世代とも言えないように感じます。また吸収されるポリマーも片面のみに塗布された薬剤も今までにも存在したコンセプトです。既存の製品の改良がなされるたびに新たな世代という表現を使用していると冠動脈ステントの製品寿命を考えると5年後には第7世代とか第10世代と呼ばれるのでしょうか?10年後に第20世代のステント等という表現をしたら滑稽に違いありません。

冠動脈インターベンションの世界で画期的な変化は確かにありました。ステントのなかった時代とステント以後の時代では急性期の合併症の頻度が大きく変わりscaffoldという概念が時代を変えたと思います。画期的新製品です。このBare Metal stentの欠点であった再狭窄を劇的に減少させた薬剤溶出性ステントの登場も時代を画した製品の登場と位置付けられます。

第一世代の薬剤溶出性ステントは時代を画しましたが、欠点もありました。ポリマー由来の炎症の問題、いつまでも内皮がはらないことに起因する晩期の血栓症の問題です。これらの問題解決に投入された新しい薬剤溶出性ステントは時代を画すほどのものではなくても新し世代、第2世代の薬剤溶出性ステントと呼んでよいと構わないと思います。ポリマーの問題、長期に内皮がはらないことに対する問題解決の範囲内の解決で留まっていれば同世代の製品の改良と位置付けるのが正しいような気がします。

ステルス戦闘機は第5世代が中心となり、第6世代のコンセプトも固まりつつあるそうです。しかし、第3世代から第4世代の変化に明確な定義づけがあったわけではなくメーカーが営業戦略で勝手に名づけたとも言われています。ですから世代を規定するコンセプトがないままに第4.5世代ステルス戦闘機というのも存在します。定義がなければ各国で次々と開発されるステルス戦闘機に次々と第〇世代と名付けてゆくのでしょうか?

医師になって38年目です。現在の循環器診療は38年前と比較にならないほどに変化しました。時代は変わり急性心筋梗塞の分野でも安定狭心症の分野でも治療成績は格段に向上しました。しかし、今でも解決できない問題は残っており、それを解決するためのイノベーションを医師や研究者は意識して行わなければなりません。小さな改良のつみ重ねのみでも新たな時代の構築や世代の交代は実現できるかもしれませんが、小さな改良のみでも新たな時代と医師や研究者が考えているのであれば本当のイノベーションは起きないような気がします。

メーカーの販売戦略にのり安易に新世代だと飛びつくことには危惧を感じずにはおれません。医師として研究者として冷静に時代を画す努力を期待したいものです。

2015年12月3日木曜日

心房細動患者に実施される2剤の抗血小板療法(DAPT)の期間短縮や中止は冠動脈カテーテル治療医が頑張らないと実現できない


心房細動患者に冠動脈内ステント植込みを行った際の、2剤の抗血小板剤の処方(DAPT)をどうするかの最終回です。

上段の図のEHRA practical guide 2015では、Bare metal stentや新しい世代の薬剤溶出性ステント(DES)を待機的に植込んだ時にはDAPT期間は1ヶ月としています。その後6か月ないし12か月の1剤の抗血小板剤と抗凝固薬の2剤の処方の期間を経て、1年以後は新規抗凝固薬(NOAC)単剤にするというシナリオです。3剤の処方は1ヶ月で十分だというエビデンスも、1年以後はNOAC単剤で良いという十分なエビデンスもありません。

1年以後に関しては複数の研究がスタートしていますし、1ヶ月で十分ではないかという検証試験はもうすぐスタートする予定です。

こうした抗凝固薬を内服している患者でDAPT期間を短縮した場合、出血性合併症は確実に減少するでしょうが、最も大きな懸念は、ステント血栓症のために死亡事故が起きないかという点です。

このシナリオが一般的になった時、ステント植込み後の患者を診ているかかりつけの先生は1年が経過したから抗血小板剤を止めると決断できるでしょうか?ステント血栓症が発生し苦しくなった時に救急で受け入れる形ができていなければ自信を持って中止できないだろうと考えます。もうステント血栓症が発生する可能性は低いけれども、もし発生した時にはすぐに対応するから我慢しないで連絡してくださいと冠動脈のカテーテル治療医がお話ししないとこのシナリオは実現できないのではないかと思います。

循環器診療が専門だといっても循環器領域の中でさえ専門分野の細分化は進行しています。不整脈を専門にする先生や冠動脈のカテーテル治療を専門にする先生といった具合です。不整脈を専門にしている先生が診ている患者さんに冠動脈ステント植込みがなされた場合、DAPT期間の短縮やDAPTの中断はなかなか決断しにくいだろうと思います。

かかりつけ医や不整脈専門医と冠動脈のカテーテル治療医の連携、あるいは急変時の冠動脈カテーテル治療医のバックアップがあってDAPT期間の短縮や中止は可能になると考えます。そう考えれば、日本循環器学会の心房細動治療ガイドラインにステント植込み後の患者の管理について記載がないのも頷けます。冠動脈カテーテル治療を専門にする医師が委員になっていないからです。

来るべき改訂版では、カテーテル治療医も参加してこの分野のガイドラインが日本でも完成するように願っています。

2015年12月1日火曜日

心房細動患者さんに対する薬剤溶出性ステント植込み後にDAPTは必要でしょうか。 ステント血栓症予防の歴史から考えました。


 昨日は、一般的な薬剤溶出性ステント(DES)植込み後の2剤の抗血小板剤(DAPT)の投与期間について書きました。本日は、DAPTの投与期間についてさらに難しい問題がある心房細動患者での薬剤溶出性ステント植込み後の管理について考えたいと思います。

心房細動患者に少なからず発生する脳塞栓症や全身塞栓症を減少させるためにワーファリンや新規抗凝固薬(NOAC)による抗凝固療法は必須です。こうした抗凝固療法を受けている方がDES植込みを受けた場合、どうすればよいのでしょうか。DAPT+Warfarinの処方を受けた患者と、Thienopyridine+Warfarin (アスピリンの処方なし)の処方を受けた患者での成績をみたWOEST trialの結果が最上段です。明らかに3剤の処方では出血性合併症が増えました。それでもステント血栓症を防ぐために3剤の処方が必要なのでしょうか。

そもそもステント植込み後にDAPTが必要なのかから考えたいと思います。2番目の図は、Patmatz-Schatz stentの最初の使用経験の成績です。ステントが人体に使われ始めた頃の成績は惨憺たるものでした10%を超えるステント血栓症が発生し、当初は使い物にならないという評価だったのです。ステント血栓症予防のために使用された薬剤はワーファリンでした。図に示すようにASA+Dipでは防げなかったステント血栓症がワーファリンによって防げたのです。ワーファリンにはそもそもステント血栓症を防ぐ効果があるのは明らかです。STRESS試験でもBENESTENT試験でもステント血栓症予防に使われた薬剤はワーファリンです。



しかし、ワーファリンによるステント血栓症予防の時代はイタリアのコロンボ先生の論文で終わりを告げました。IVUSでしっかりと拡張を確認したステントではワーファリンを使わなくてもステント血栓症はASA-Ticropidineで防げること、出血性合併症が劇的に減ることが示されたからです。ステント植込み後にワーファリンを使用していた時代のガイディングカテは8Fでしたし、そけいからのアプローチでしたから止血に難渋することが多かったのです。その頃からPCIに関わってきた私にとってその止血から解放されたのは大きな喜びでした。こうしてDAPTの時代が始まりました。わずか20年前のことです。そしてワーファリンにはステント血栓症を予防する効果があるということは忘れ去られたといえます。

 ワーファリンでステント血栓症を予防する効果があるとすれば、DAPTは必要なのでしょうか。抗凝固療法を受けている心房細動患者さんでは、ワーファリン+1剤の抗血小板剤、特にTienopyridine1剤で十分なのではないでしょうか。3剤の処方を受けて脳出血死される方を減らすために検証が必要だと思います。

 一方、抗凝固療法の主役はワーファリンからNOACに変わりました。ではNOACにはワーファリンと同じようにステント血栓症を防ぐ効果があるのでしょうか?

Dabigatran、Rivaroxaban、Apixabanのそれぞれでステント植込みを受けた急性冠症候群の患者に投与された成績が公表されています。

Dabigatranは少ない投与量でも出血性合併症を増加させました。この研究ではステント血栓症を減らしたか否かは記述されていませんが、D-dimerを低下させたと記載されています。ただ、ステント血栓症を減らすかどうか分からないのに、D-dimerが低下したから出血を増やしてでも処方しようという気にはなりません。

Rivaroxabanはどうでしょう。出血性合併症をやや増やすものの死亡率を減らし、ステント血栓症も減らしています。

Apixabanもエンドポイントを減らしています。また、Apixabanの研究ではClopidgrelを処方されていない患者のデータも示されていますが、ドーズに依存して出血を増やすもののエンドポイントを減らしていることが示されました。

Ribaroxabanでの検討では1万例以上の大規模で検討されていますが、DabigatranやApixabanでの検討の対象は少数です。ですから、安易にNOACにもワーファリンと同様にステント血栓症を減らす効果があると結論できませんが、どうもそうした効果があるように思えます。

日本だけで24万人の方がPCIを受け、そのうちの10%はおそらく心房細動合併です。2万4千人です。3剤の抗血栓薬が処方されることで1%の方が脳出血を起こすとすれば年間に200人以上です。全世界ではその何十倍だと思います。

ステント血栓症の予防の歴史から考えて、次々と抗血栓薬を増やしてゆく考え方は間違っているような気がしてなりません。おそらくNOAC+Tienopyridineで十分な効果が出て、3剤処方よりも脳出血が減るだろうと予測します。現在の戦略で脳出血死される方を減らすためにも早急に3剤の抗血栓剤処方を改めるための研究が必要だと思えてなりません。

2015年11月30日月曜日

ステント植込み後のDAPT期間は長期が良いのでしょうか、あるいは短期なのでしょうか? DAPT studyやDAPT scoreを読んで考えました。

虚血性心疾患に対する治療として薬剤溶出性ステント(DES)の植え込みは標準的な治療として地位を確立し、決して短くない月日が経過しました。 DES植込み後にはステント血栓症を予防するために2剤の抗血小板剤(DAPT)の投与は不可欠と考えられています。第一世代のDESの場合には最低1年間のチエノピリジンの処方と生涯にわたるアスピリン製剤の内服が必要とされました。しかし、長期のDAPTには出血性合併症を増やすという面もあり、ステント血栓症が防げるのであればなるべく短期間のDAPT投与が望ましいという考えもあります。

最近の新しい世代のDESではより短いDAPT期間でステント血栓症が発生しないとの報告が多くなり、DAPT期間は短縮化がトレンドとなりつつありました。しかし、このトレンドに対し昨年、DAPT studyの結果が示され、単純に短縮化するのが良いのか議論が再燃しています。

Table 2に示されたように短期でDAPTを終了した群では長期にDAPTを継続した群に比べて優位にステント血栓症が多かったのです。一方、Table 3に示されたように出血性合併症は長期に投与された群で有意に増加しました。

ステント血栓症はステント植込み後1年以上を経過していても発生することはあり、これを減らそうと思えば最近のDAPTの短縮化の流れとは異なり長期の処方を要します。一方、出血を恐れれば、一定のステント血栓症の発生があったとしてもDAPTの期間は短い方が良いとなります。どちらを選択するかは難しい判断です。Table 2を見ると長期の投与の方が死亡率はわずかに高めです。ステント血栓症が怖いから死亡率が高くても構わないという論が成立する筈がありません。

このDAPT studyのFirst authorであるDr. Mauriは、今年の夏のCVITに来られていたのでナマで講演もうかがいました。講演を聞いて、冠動脈近位部にDESを入れた方ではステント血栓症による死亡リスクが高い筈ですから長期のDAPTのメリットが大きくなり、末梢にステントを植え込んだ方ではステント血栓症による死亡リスクは高くないために出血によるリスクが相対的に高くなるだろうから短期のDAPTの成績が良くなるだろうなと感じました。冠動脈病変の位置、あるいは潅流域の大きさでリスクを考えると良いと考えたのです。

今年のAHAではDr. Mauriのグループから患者個別の長期のDAPTのリスクを評価するDAPT scoreが提案されました。それを受けてDr. Mauriらの属するHarvard Clinical Reseech Instituteから"DAPT could be individualized"というpaperも発表されました。

個々の患者によってDAPT期間を考えるべきだとこの夏に考えていた通りのコンセプトだと感じました。しかし、DAPT scoreを見て少し失望しました。スコアに関係する因子は年齢、糖尿病、喫煙、過去の心筋梗塞歴ないしPCI歴、心不全あるいは低駆出率で病変部位や潅流域の情報がなかったからです。Index procedure characteristicsの中にVein graftは入っていますが病変に関わる項目はこれだけです。

左冠動脈主幹部にDESの植え込みをしたから長期のDAPTも止むを得ないだとか、回旋枝の末梢だから短いDAPT期間でもステント血栓症による死亡は起こらないだろうという風にPCIの術者が普通に考えていることが反映されていないScoreで大丈夫なのでしょうか?

DAPTの期間は個別の患者で考えるべきであるというコンセプトには大賛成ですが、冠動脈を長く見てきた立場からは物足りなく感じるDAPT scoreです。


2014年1月20日月曜日

長いびまん性の病変にあえて長いステントを使用せず、短いステント2本で仕上げました。

1964年の東京オリンピック時に私は10歳でした。初めて教室にテレビが持ち込まれ教室でオリンピックを観戦しました。記憶にあるのはヘーシンクに 神永昭夫が決勝で負けたことでしょうか。ただ今思えばその試合が授業時間にあったのか定かではありません。インパクトの強かったニュースをその場で見たように思い違いしているだけかもしれません。

 その頃、スーパーマーケットはほとんどなく、近くの商店街で買い物をするのが常でした。お使いを頼まれ味噌などを買いに行く時には袋にパックされた味噌などありませんでしたから桶の上で山になっている味噌を量り売りで売ってもらっていました。お砂糖なども量り売りだった記憶です。

 本日のケースは10年以上の糖尿病歴があり、近医で冠動脈CT検査を受け、強い石灰化があるからと精査を勧められた方です。Fig. 1、Fig. 2に示すように右冠動脈入口部の高度狭窄と、回旋枝のびまん性の狭窄を認めました。それぞれにステント植込みを行い、上手く治療できました。(Fig. 3、Fig. 4)

 右冠動脈入口部の治療ではその高い再狭窄率を少しでも低くするために入口部からごくわずかにステントを出すように神経を使いました。

 一方、回旋枝の場合にはステントを持ち込めるかを心配していました。左冠動脈主幹部から90度以上の角度で分岐しているだけではなく石灰化し、また狭窄もあるからです。バックアップを強くするためにEBUを使用し、前拡張の後のステント植込みは12㎜と15㎜の2本のステントを用いました。サイズは2.25㎜です。最終の拡張径は2.5㎜のつもりです。合計27㎜長のステント植込みですから28㎜1本でステント植込みを実施できれば医療費は節約可能です。一方で、28㎜で挑戦し持ち込めなかった場合、次に2本のステントを用いれば合計3本のステント使用となりコストは増大します。こうした屈曲した石灰化病変を越えてのステント植込み時には長いステントよりも短いステントの方が通過性は確実に優れています。ですから最初から2本に分ける戦術としました。結果、上手くいきましたが、27㎜長であれば1本で良かったのではないかと保険者からケチを付けられないかと心配です。(と言ってもある程度覚悟の上ですが…)

ステント1本で27㎜をカバーしても、2本でカバーしても患者さんが受ける恩恵は同じです。同じ効果の治療を受けるのであれば、同じコストで良いではないか等と思ったりします。ステントの量り売りです。何本のステントを使用したかではなく、何㎜をカバーしたかで診療報酬を決めれば良いのになどと思います。1㎜で1万円でこのケースだと27万円です。この価格だと現状より大幅に安くなってしまうので1mmで1.3万円で35万円くらいが妥当でしょうか。この方式だと診療報酬を下げるためにと最近よく使われる長いステントは不要になります。メーカーもラインナップを増やすことによる在庫コストも圧縮できますし、PCIの術者も査定を恐れて無理に長いステントを使用しなくて済みます。患者さんも無理な手技での合併症のリスクを回避できます。

こんなことが実現するはずがないと十分に承知しています。1960年代のビジネスモデルが現代に通用するはずがありません。しかし、より安く治療を完結しろというプレッシャーの中で、患者も術者もより大きなリスクを抱えていることも現実です。コストとアウトカムのバランスがもう少し改善しないかと思うばかりです。


2013年9月13日金曜日

Xience prime stent植込み後2か月でOCT検査を行いました。 内皮化が完成しています。

Fig. 1 Two months after Xience prime stent implantation
札幌ハートセンターの藤田先生が「心臓の病気で死なせない」という著書を出されました。心筋症などで実際にはすべての心臓病で死を免れない訳ではありませんが、藤田先生や私が専門とする冠動脈疾患では、受診されない方は別にして、ほとんどもう心臓死はしないだろうと思っています。日本人の死因の1位が悪性疾患で2位が心臓、3位が肺炎ですから、心臓死を免れる方の多くは悪性疾患で亡くなられるのだろうと思っています。ですから心臓では死なせないぞと思う一方で、悪性疾患を見逃さないようにしなければといつも考えています。

「今回は胃薬を出しておいてください」と言われても私は安請け合いをしていません。最近内視鏡検査を受けたかを聞いて、受けている方には処方しますが、受けていない方にはまず内視鏡検査をお勧めしています。すると続々と胃癌の方が見つかります。また「便秘薬を下さい」という方にも同様です。下部内視鏡検査をお勧めしています。OCT像を示した図の方も便秘を訴えられたので内視鏡検査をお勧めした方です。悪性疾患が見つかりました。この方は2か月前に薬剤溶出性ステントを植え込んだばかりの方です。わずか2ヶ月で抗血小板剤を中断して手術をしていただいても良いのかと思いましたが、最近の薬剤溶出性ステントでは内皮化が早く完成すると言われているので本日OCTで評価しました。ほぼすべてのストラットで内皮で覆われていました。もちろん、だからといって抗血小板剤を中断してステント血栓症が起きないという保証はありませんが可能性は低いと判断しました。手術を受ける施設も近くなのでなにかあればすぐに対処するように考えています。

この1ヶ月で悪性疾患の手術を控えて、OCT検査を実施した方はこの方で3例目です。今年になって10例以上です。その中でこの方が植込み後 最も早い段階で見つかった方です。早く見つかったことで良い将来が来ることを祈っています。ステントの内皮化が完成しており、手術の邪魔になりそうではないので幸いでした。

注 この方は悪性疾患の存在を告知されており、ステント植込み後2か月で手術可能か否かを断言できる医師はいないのでこの2か月後のOCT像をUPさせて頂いても良いかとお聞きし、了解を得ました。

2013年4月7日日曜日

2.25㎜の薬剤溶出性ステントのリリースに際して考えること

ちょうど1週間前の土曜日にAbottさんのXience prime stentの2.25㎜が発売されるとのことで小さな研究会が福岡で開催されました。鹿屋に引っこんでから人前で話すことはほとんどなくなりましたが、久留米大学のU先生から何かを話せと言われたので出かけてきました。その場で話したことの備忘録として本日のブログを書いておこうと思います。

小径の血管に対するステント植込みはBare Metal stentであればバルーン単独のPCIよりも長期成績が悪いという考えもありあまり需要はありません。しかし、薬剤溶出性ステントであれば再狭窄を抑制する可能性が高いので良いのではないかとリリースされたものと思われます。既にBostonさんからはPromus element 2.25mmがリリースされています。

小径の血管でも再狭窄なしに拡張可能であれば、良いではないかとの考えもあるとは思いますが、基本的に小径の血管が潅流する範囲は小さく、あまりにも小さな潅流域の小径の血管はPCIをせずに内服でコントロールで良いではないかというのが私の基本的な考えです。2.25㎜のステントが登場することで重要度が低い小さな冠動脈までPCIが実施されてしまうのではないかと懸念しています。

では2.25㎜のステントには活躍する余地がないのでしょうか。2.25㎜のPromus element植込みを行ったケースです。Fig. 1は労作性狭心症で来られたケースの初回の造影です。LADの近位部に強い石灰化を伴う90%狭窄がタンデムに存在します。また、その末梢はdiffuseに狭窄が続きます。このケースにはロータブレーターが必要と考えいつもお願いする先生に治療して頂きました。Fig. 2はROTA-STENT後です。#6の狭窄は解除され再狭窄はないのですが末梢の狭窄は残っています。ROTAに紹介する時にROTAをして下さる先生は末梢をどう処理されるのだろうと関心を持っていましたが、あまりにも細い血管のために手を付けないという選択をされたのです。この選択は私も同意する妥当なものと思っています。(当時2.25㎜DESはリリースされていなかったのです)

このROTA-STENT後も労作時の胸痛は続きました。このためLADの末梢もPCIが必要と考え実施した後がFig. 3です。Promus elementの2.25㎜を18気圧で植え込みました。コンプライアンスチャート通りであれば2.5㎜になります。もっと拡張が必要であれば拡張限界径はこのステントの場合2.75㎜です。diffuseなこのケースのような病変の多くは硬く拡張には十分な拡張圧が必要です。一方で最近のDESであるPromus elementやXience primeはcompliantなバルーンにマウントされているので拡張に要するような高圧をかけると拡張径の目標を超えて拡張してしまい血管が破れるリスクが出てきます。それを恐れて低圧で植え込んでしまうと狙った拡張径は得られません。このケースでは2.5㎜径に拡張したいと思っていましたからPromus element2.25㎜を高圧で植え込もうと考えていたのです。福岡での発表では2.25㎜のDESを使ってPCIをする時の拡張目標は2.25㎜ではないと話してきました。この考え方ならばならば広い潅流域をもつびまん性の病変での2.25㎜DESの意義があろうと思っています。

Xience prime2.25㎜はPromus elementよりもなおcompliantなバルーンにマウントされています。この2.25㎜のXienceの構造は3.0㎜のものと同じですから最大拡張径は3.0㎜を超えます。この理解がなければ想定以上の拡張をしてしまうリスクがあり、そのリスクはPromus elementより高いと思われます。一方、びまん性の病変の末梢に合わせて2.25㎜ Xience primeを植込み、近位部になるにしたがって高圧をかけたり、大きなバルーンで拡張することで1本のステントでびまん性の病変に対処することが可能かもしれません。生体内ではその値通りには決して拡張しませんが、コンプライアンスチャートを理解し、最大拡張径を理解することで2.25㎜DESの使い道があると思っています。

使用する道具の特性を理解することで診療の幅が広がります。道具には罪はありません。使用する医師の側に罪や功が存在します。新たに使用できるようになった道具が患者さんにも医師にも福音となるようにその特性を理解し、良い使い方を考えていきたいものです。


2012年12月27日木曜日

多重のステント植込みが原因と考えられる虚血性心不全

  2006年から近くの病院で繰り返しステント植込みをなされた方です。急性の呼吸困難で夜間に救急受診されました。2か月前の心エコーでは左室拡張末期径52㎜と左室の拡大はなく、左室駆出率も56%です。心エコー上の推定右室圧は18mmHgでした。
  
 この程度の心機能の悪くない方が著明な喘鳴でリザーバーマスクでもSP02が70%しかないために気管内挿管を行いFiO2: 100%で人工呼吸器管理を行いました。利尿は良好で翌日には酸素化の状態は改善し、抜管できました。嵐のような心不全がやってきてすぐに去っていきました。このような心不全は腎動脈狭窄でよくみられます。Cardiac Disturbance Syndromeです。しかしこの方の腎動脈PSVは左右とも100cm/s以下です。

 主要冠動脈のどこかに危機的な狭窄があるのではないかと本日、冠動脈造影を行いました。しかし、左冠動脈前下行枝の入口部に50-75%狭窄を認めるのみで嵐のようにやってきた心不全を説明する病変は認めません。しかし、過去にも同じ造影剤を使用して問題がなかったにもかかわらず、また、造影剤の使用量は20ml程度であったにも関わらず、造影直後に胸苦を訴えられ、血圧は45mmHgまで低下しました。造影直前の
PCWP=28mmHg、 PAP=54/25/38でした。著明なPCWPの上昇があったので造影を躊躇いましたが、冠動脈が原因であれば待つことが致命的になると考えて造影に踏み切ったのです。しかし、前述のように主要冠動脈に有意な狭窄は認めませんでした。安易なカテコラミンの使用は危険と考えIABPを使用しました。

一体、何が原因でこの嵐のような心不全がやってきたのでしょうか?この方には日常の生活でNTG舌下が有効な胸痛があります。心筋虚血は存在するのです。最下段に示すように左冠動脈には入口部から前下行枝末梢までステント植込みがなされ、回旋枝も末梢までステント植込みがなされています。右冠動脈も同様です。ステント植込みの詳細は分かりませんが繰り返し、何重にも植え込まれたステントのせいで目に見えるような冠動脈には狭窄はないもののステントによって小血管の血流が障害されているのではないかと考えています。過去にも同様のケースの経験があります。勝手に多重ステント心筋症と呼んでいます。

この仮説が正しいとすれば治療は困難です。主要冠動脈の狭窄による虚血であればカテーテル治療やバイパス手術で虚血は解除されますが、主要冠動脈の大部分をステントが覆いこれが虚血を引き起こしているのであればカテーテル治療もバイパス手術も意味がありません。ましてバイパスの吻合部になる部分もステントで覆われています。

多重債務ではありませんが、多重のステント植込みによる開存した主要冠動脈にも拘らず発生する虚血性の心不全のようです。私自身はこのようなステント植込みを行ったことはありません。常にバイパス手術というオプションを残すことを心掛けてきたからです。自分ならこんな治療はしないけれどと言っても仕方がありません。良い対処を考えなければなりません。

2012年12月13日木曜日

Cypher stent植込み後6年を経過したステント内再狭窄

2006年の12月にACSのためにCypher stentを植え込んだ患者さんです。その後、再狭窄なく経過していました。最近になり 症状が出てきたために再入院です。CTではstent fractureは認めません。

Fig. 1にPCI前のCAGを示します。#3にinstent restenosisを認めます。いわゆるlate catch-upです。Fig. 2には前拡張後の造影です。拡張したstent内からdistalに向けて解離です。STも上昇し胸痛も出現しました。このような状況でIVUSやOCTで解離の様子を観察する先生もおられるようですが私はしません。解離が進行しないうちにさっさとstentを置くのが良いと信じています。Fig. 3はstent植込み後です。fractureが起きにくいとされるMedtronic社製のResolute integrityを古いステントを十分に覆うように植え込みました。全長を覆ったのは古いステントとの間にfractureの原因になる支点を作らないためです。

このケースではPCI前にOCTで評価をしていました。stent distalからstent内まで同様のfibrousな一連の病変です。最近話題のinstentのneoatheroscrelosisでしょうか。こうした例ではinstent restenosisであっても解離が発生しFlow limitingになるということだと、このケースで理解しました。

最近、薬剤溶出性ステントの植込みから1年・2年と経過してきた人でLMT病変などのリスクの高いstentingではない人からパナルジンやプラビックスを止めようと思っています。ステント血栓症のリスクも高くないのに出血のリスクを冒すのは賢明ではないと思い始めたからです。しかし、Cypherを植え込んだ方についてはDAPTの中止を躊躇っています。非常に遅れてでもステント血栓症が発生するのではないかと心配だからです。また、逆にこのケースのようにステント内再狭窄の発生もCypherで多いのではないかと心配しています。役割を果たし功の大きかったステントですから否定的なことだけを言いたくはありません。しかし、Cypher植込み患者さんが今は最も心配です。幸いなことに2006年に開業した当院ではCypher stentを植込んだ方は多くありません。しかし、鹿屋市内には他院で1枝に3本も4本も植え込まれた患者さんが少なからずおられます。日本で発売された2004年から時日を経過しているCypher stent植込み患者さんが問題を発生した時の対策を考えておかなければなりません。

2012年9月26日水曜日

ステント内閉塞をした患者さんを見て思う

Fig. 1 Before PCI 5m ago
Fig. 2 After PCI 5m ago
医師になって34年目です。年をとったせいか昔のことをよく思い出します。最近はそんな人を見ることはまずありませんが、若い頃に受け持ちになった心胸郭比(CTR)が100%の僧帽弁狭窄症のことなどを思い出します。まだ私が20歳代の頃です。よく弁膜症の方は心房細動になるのをきっかけにして心不全が悪化しますが、その方は末期の心不全になってから洞調律に自然と復しました。徐脈です。それでも洞調律に復帰したので心不全の管理は楽になるかと思いましたが、逆に心不全のコントロールは不良になり、心室細動を繰り返しました。末期の心不全ですので除細動も叶わず、死に至ると思っていましたが急場を凌ぐことができました。蘇生後に、キリストに会ったなどと話されたのでよく覚えています。30年も前の患者さんですから今は生存されているはずもありません。この方の最期には転勤で立ち会えませんでした。

苦労して急場を乗り切った方もその後、必ず最期を迎えます。誰も死なせない医療などできる筈もなく、死に至らせないことを医師の最終のゴールとすれば、医師の仕事は100戦100敗の空しい仕事になります。死に至るわけではない疾患で命を失わないように、苦しんで死に至らないように、死に至るまでの「生」が意義のあるものになるように手伝うことなどを医師としての目標におかなければ、医師の仕事に価値はないように思えます。

Fig. 3 Five months after stenting
本日の患者さんです。80歳代半ばの透析患者さんです。 9年の透析歴です。2009年に胸痛があり、最初のPCIを#3に対して実施しました。この時にはステントを持ち込めずにバルーンだけで終了です。当然のように再狭窄し、その後は子カテを使って薬剤溶出性ステントの植え込みを行ってきましたが、Xience V、Endeavor、NOBORI、PROMUS elementいずれも再狭窄です。今回も胸痛があり造影したところステント部は完全閉塞でした。最近の閉塞でしょうから、再度のPCIは可能でしょうが今回はPCIをしませんでした。PCIで拡張できても、再狭窄を回避する手段を持ち合わせていないからです。狭窄であればその次の段階の閉塞時に病態が悪化するのではないかと考え、PCIを実施したに違いありませんが、この閉塞した状況で心電図所見の悪化も心エコー上の心機能の悪化もありません。閉塞により急激に悪化する病態が発生しないと思うと、血管を開けることを仕事にしてきた医師として不謹慎かもしれませんがホッとした気持ちにもなります。

Fig. 4に示すようにこの方の外腸骨動脈は両側で閉塞しています。いつもPCI時にはその閉塞の上を穿刺してきましたが、石に針を刺すような感触で次のPCI時にはもう穿刺できないかもしれないとも思ってきました。幸い、左冠動脈には問題がないので多少の胸痛はあってもうまくコントロールしてゆけるだろうと思っています。

Fig. 4 Angiograhy via Femoral sheath
命を護ることは当然としても、絶対に死に至らない医療は存在しません。目の前の狭窄を拡張することだけがPCIを行う医師の目標ではありません。拡張した状態で冠動脈を維持することはできませんでした。しかし、これからが医師としてこの方に何ができるかの正念場のように思えます。

2012年8月30日木曜日

右冠動脈入口部に植え込んだ薬剤溶出性ステントの変形 Radial forceは強ければ良いのでしょうか?

Fig. 1 IVUS imaging just after stenting 6m ago
70歳代後半の女性です。 2007年に右冠動脈の近位部に90%狭窄を認めたためにCypher stentの植え込みを行いました。狭窄部位は入口部から少し中に入った部分でしたので入口部にはステントはかかっていません。

しかし、今年2月にCTで検査したところ入口部に高度狭窄を認めました。このため入口部にステント植込みを行いました。Fig. 1は植込み直後のIVUSですが3.5㎜バルーンで後拡張を行い、この程度の拡張であればと終了しました。IVUSでも入口部から少しステントが顔を出していることを確認しました。植え込んだステントはRadial Forceが強いと言われているT社のものです。

Fig. 2 Coronary CT 6m after stenting
Fig. 2は半年後のCTです。古いステントには再狭窄を認めないものの2月に入れたステントはペチャンコになっています。このため再度PCIをすることにしました。Fig. 3はPCI前のCAG像です。今回は、4.0㎜に拡張することを目標として、ステントはA社のものを選択しました。入口部から前回よりももう少し外に出して終了です。

右冠動脈入口部へのPCIは再狭窄の発生が多いことが昔からよく知られています。しかし、ここのところ当院で植え込んだ右冠動脈入口部の薬剤溶出性ステントでは再狭窄を免れるケースばかりでしたから、このようにステントが潰れてしまうことにはショックを受けました。今回植え込んだのは、以前から再狭窄の少なかったA社のものですがRadial ForceはT社のものには劣ると言われています。これでもステントが潰れて再狭窄するようであれば1枝病変ですがCABGも考えなければと思っています。

Fig. 3 Before 2nd PCI
Radial Forceは、冠動脈の軸に向かって潰れる力に抵抗する力です。リコイルする力に抵抗できないふにゃふにゃのステントではもちろんステントの意味をなさないでしょうが、Radial forceは強ければ強いほど良いのでしょうか?既に発売が中止になったJ社のステントはA社のステントよりもRadial forceは強かったと思いますが、再狭窄率はA社のステントの方が低いと信じられています。

Radial forceが強いほど再狭窄率は低いだとか、Fractureに強いというエビデンスを私は知りません。なのに安易にRadial Forceが強いステントを使用すべきだと思い込んでいました。BMSから数えれば20年近くもステントを使っているのにこんな概念しか持っていなかったのかと反省です。

Fig. 4 PMDA approval data
しかし、個別のステントのRadial Forceを知っていて悪くはありません。T社のDESのRadial forceを調べようとPMDAの承認資料をPMDAのweb siteから見てみました。Fig. 4です。相変わらずすべて黒塗りです。Radial forceの強いステントと言われて販売されているステントの承認資料は公表されません。患者の生活や命に係わるデータが黒塗りなのは東京電力だけではなく、東京電力に黒塗りを止めろと命じた政府の機関も同じでした。

2012年8月22日水曜日

薬剤溶出性ステントのバリエーションが増えることでの悩み

Fig. 1 beferoe PCI 5m ago
50歳代後半の女性、20年以上の透析歴です。5か月前にFig. 1に示すような狭窄がありPROMUS stentの植え込みを行いました。Elementではありません。当院でXience VもしくはPROMUS stent植込みを行った方の再PCI率は1%ほどで再狭窄率の低いことに関しては十分に満足していました。しかし、Fig. 3に示すように#3でステント内再狭窄です。
Fig. 2 After PROMUS stenting 5m ago

透析患者であること、右冠動脈の屈曲部位へのステント植込みが再狭窄の原因でしょうか?今回はconfirmabilityの高いPROMUS elementの植え込みを行いました。Fractureもしにくいと言われるPROMUS elementで再狭窄を免れることができれば幸いです。
Fig. 3 Five months after PROUS stenting

2012年9月にMedtoronicのResolute integrityも日本で使用可能になります。国内で使用可能な薬剤溶出性ステントはこれで
MedotronicのEndeavor
MedtronicのResolute integrity
BostonのPROMUS element
AbotのXience Prime
TerumoのNobori

ということになります。

それぞれに2.5㎜、2.75㎜、3.0㎜、3.5㎜のサイズがあり、長さも8㎜から5-6種類あります。4つの拡張径に6つの長さということになると1つの製品を1本ずつ在庫するだけで24本の在庫です。一人の患者さんに同じステントを2本植込む状況も考えて2本ずつの在庫にすると48本の在庫です。すべてのメーカーの薬剤溶出性ステントを在庫すると4メーカーであれば48X4でおよそ200本の在庫ということになります。

今年の当院におけるPCIは例年と比べて少なめに推移していますが、昨年までのおよそ年間200件、月間16件で計算すると、200本の在庫をすれば薬剤溶出性ステントは1年1回の回転率ということになります。

日本に特有の置き在庫システムで、病院にとっては不良在庫にはならないものの、ディーラーさんやメーカーさんにとっては不良在庫です。また、こうした不良在庫でも良しとする日本のシステムの中で、医用材料は諸外国と比較して高値が維持されてきました。しかし、ここ最近の保険償還価格の低下で不良在庫でも良しとする日本のビジネスモデルは維持できないだろうと思っています。

いざという時のためにありとあらゆる医用材料を在庫しておくのだというのは綺麗ごとだと思っています。実際にはメーカーさんやディーラーさんとの共存した医療機関の経営のために、患者さんが不利益を受けない範囲で在庫の整理が必要であろうと思っています。来月の新しい薬剤溶出性ステントのリリースに向けて薬剤溶出性ステントの整理をしなければと思っています。

なければないで困らないけれども、捨てるのには惜しいステントもあります。こうした状況を「鶏肋」と言うのでしょうか。

2012年7月27日金曜日

薬剤溶出性ステント植込み後の非心臓手術 DAPT中止の決定に際してOCTによる評価

2008年に前下行枝に対してCypher stent植込みを行った方です。再狭窄があり2011年5月にPromus stent植込みを行いました。DES in DESです。その後再狭窄なく経過していましたが、腹部に侵襲の大きな手術の必要が生じ、抗血小板剤の中断は可能かと外科からの問い合わせです。

薬剤溶出性ステントの植込み後、長期にわたる2剤の抗血小板剤(DAPT)の投与には問題があるとの考えもあり、3か月で、6か月で、あるいは1年で中断可能などと様々な意見があります。もちろん、DAPTの必要な期間はステントによっても異なると考えられています。私は、出血や外科手術の必要な状況がなければ、積極的に止める必要もないだろうとの考えで積極的に中止する考えを持っていません。ステント植込みを受けるような方で、新規冠動脈病変の発症、脳や他の動脈の狭窄の進行などもあるからです。一方、積極的に可及的早期にDAPTを中止しようとの考えでOCTで内皮化を観察して内皮化が完成していれば中止するとの考えも広がりつつあります。私はこの考えに否定的でDAPTを中断するか否かを見る目的だけで冠動脈内にデバイスを入れるのは大袈裟だと考えてきました。

しかし、本日、内皮化の度合いを見る目的での初めてOCTを実施しました。図に示すように1年2か月を過ぎた、PROMUS stentの表面はほぼ内皮化が完成しています。ごくわずかに露出しているように見えるところもありますが、面積としてはごくわずかです。これならDAPTの中止は可能だろうと判断しました。もちろん、絶対にないとは言い切れないので、周術期に胸部症状が発現すればすぐに連絡をしていただくように外科にはお願いしました。

OCT所見に基づき、外科に方針をお伝えするという考えは悪くないと思います。今後も、外科からの問い合わせにはこうした根拠を持った返事ができるように努めたいものです。

2012年3月26日月曜日

当院のPROMUS element2例目の植え込みです

Fig. 1 Before PCI
 本日のPCIの方です。80歳代前半の女性です。4年半前に胸部圧迫感で受診され、CAGを施行。有意狭窄ではないとの判断をしました。今回、NTG舌下で軽快する胸痛があったとのことで久々に受診されました。

Fig. 2 After PCI
Fig. 1に示すように中隔枝近傍に狭窄を認めます。IVUSで観察すると近位側の中隔枝近傍で高度狭窄です。屈曲した病変であること、stent deliveryが容易そうであることより、最近使えるようになったPROMUS elementを使うことにしました。当院で2例目の使用です。ワイヤーが入っていない状態で測定した屈曲の角度は117度でした。Fig. 3に示すワイヤーもステントも入った状態では、この角度は158度に伸びています。この角度はワイヤーを抜くと146度にまた屈曲しましたがコントロールと比べれば進展した状態です。confirmabilityの低い剛性のステントであれば、ワイヤーを抜いてもFig. 3のように進展したままでしょうが、このステントではワイヤーを抜いたとたんにステントは屈曲しました。

Fig. 3 After stenting with guidewire
これをconfirmabilityが良いと判断し、シェアストレスがかかりにくいために、stent fractureや再狭窄を防ぐために有効に働くのではないかと考えてこの病変に選択しました。しかしこの仮説が真であるかは不明です。この仮説の検証がこのステントの今後の運命を決めるように思います。短縮しやすい構造であることとのトレードオフのconfirmabilityです。今後の経過に関心を持ってフォローしてゆくつもりです。

2011年6月17日金曜日

去りゆくヒーローに対する感慨  Cypher stentの製造・販売中止に思う

Johnson & Johnson社が2011年6月16日、Cypher stentの製造、販売の中止、後継の薬剤溶出性ステントとして位置づけられていたNEVO stentの開発中止を発表しました。

驚きました。

Palmaz-Schatz stentの上市以来、Johnson & Johnson社はこの分野のリーディングカンパニーであり、私たちの分野である冠動脈インターベンションでの確とした地位を維持されてきました。初めての冠動脈ステントであるがゆえに市場を席巻すると同時に、改良された他社のステントの追い上げにあい、それが故に更に改良されたステントが登場するという歴史を繰り返してきました。やはり世界で初めての薬剤溶出性ステントを世に問うたJohnson & Johnson社は、他社の改良された薬剤溶出性ステントが市場に投入されても、さらに改良した薬剤溶出性ステントを投入するだろうと思っていました。ビジネスとしてみれば、見事な引き際だと思います。日本国内だけでも1万本の在庫が残っていると聞きましたが、保険償還価格で計算すると約35億円の損失です。傷口が大きくならない内に損切りをして次の時代に備えるというのは口で言うのは簡単ですが、なかなかできない決断です。本当に見事だと思います。

Cypher stentは初めての薬剤溶出性ステントとして、冠動脈インターベンションのアキレス腱と言われた再狭窄を見事なまでに減少させました。この再狭窄減少効果でどれほど多くの患者が恩恵を受けたでしょうか。また再狭窄が少ないということで左冠動脈主幹部に対するカテーテル治療の道筋も開けたと思っています。Cypher stentの「功」は計り知れません。

一方、再三このブログで取り上げてきたstent fractureの問題、late catch-up、late thrombosis、他の薬剤溶出性ステントと比べると内皮機能の障害が大きいのではないかという問題と、薬剤溶出性ステントにも問題が残っていることを私たちに提起もしました。これはCypher stentの「罪」とも言えますが、問題点が明らかになることで次世代の薬剤溶出性ステントの改良に繋がったと考えればこれも「功」なのかもしれません。

時代を切り開いたヒーローがその役割を終え、見事なまでの引き際で去っていきます。Cypher stentに人格はありませんが、時代のヒーローが批判に反論せずに去ってゆく姿に感慨の念を禁じ得ません。日本で認可された平成16年から去ってゆく平成23年まで、Cypher stentは、私たちの時代のヒーローであったことは忘れてはいけない歴史です。ヒーローであったCypher stentは引退しますが、その選手を世に問うたチームであるJohnson & Johnsonは残ります。この分野の治療のゴールはまだ先です。Johnson & Johnsonが世に問う新たなヒーローに期待しましょう。

2011年5月26日木曜日

LMTに対する治療 CABGかPCIか? 患者の選択と医師の信念

Fig. 1 Before LMT stenting
 2011年5月18日付のブログのケースに対して薬剤溶出性ステント植込みを実施し、無事に退院となりました。入院してヘパリン化後は、全く無症状で、十分にバイアスピリン、プラビックスのローディングをしてからのPCIができました。

主幹部病変ですからCABGが良かったのかもしれません。患者さんやそのご家族には、PCIの良いところ、CABGの良いところを説明させて頂いて治療法を選択していただきました。PCIを選択してもCABGを選択しても手術に伴う死亡リスクには差はないこと、CABGの方が長期成績が良いこと、PCIの方が入院期間は短くすみ、治療費も安くつくことなどです。こうした説明を聞かれて、ご本人・ご家族がPCIを選択されましたが、これは患者サイドの選択で私の選択ではないので責任はないというつもりはもちろんありません。

After LMT stenting
患者・家族が選択すれば医学的に問題のある治療法を医師が実施するのに免罪符を与えられたわけではありません。例えば手術することで得られるものがない末期のがん患者が手術を希望したからという理由で手術を実施するのは明らかに医の倫理に反します。今回の場合、患者さんが比較的若く、バイパスが問題になる時期、10-15年後のことを考えると今はPCIで乗り切り、もう少し年をとってから再度CABGを必要とする問題が発生した時に生涯に1度の有効な治療としてCABGをとっておいた方が良いのではないかという私の意思が存在したために、PCIを選択した方が良いという方向で言外に説明していたからの患者・家族の選択であったという方が正直であろうと思っています。

とはいえ、若いうちはPCIでという考え方も、その成績が受容可能なものでなければなりません。今回はPROMUS (Xience) stentを4mmで植え込みました。当院でのPROMUS stent植込み後半年のTLRは約1%です。また、PROMUSを使用し始めて1年3か月が経過しましたがステント血栓症の発生はいまだにゼロです。十分な実績に裏付けられて、PCIをお勧めしても妥当であろうという考えからの説明とその選択です。自らの信じるものを明らかにせず、実績も持たないままに説明した上での選択だというのは間違ったインフォームドコンセントであろうと思っています。

2011年2月23日水曜日

公務員の無謬性という名の誤謬 PMDAにフランシス・ケルシーは登場しないのでしょうか

Fig. 1 Answer from PMDA to my Question
  毎週の、あるいはこの1月のアクセスランキングを見ると、常にstent fractureに関わる、投稿が上位に顔を出します。比較的、新しい投稿にもかかわらずこのブログ開設以後すべての投稿の中でも3つのPMDAに関する投稿は上位10位にランキングされます。それほどに関心が高いのだと思っています。しかし、1/29以後、しばらくこの話題は投稿しませんでした。


Fig. 2 Masked PMDA document

医療機関の監督官庁である厚生労働省と関係の深いPMDAに対する批判が、当院の運営にマイナスにならないかと少し危惧したことが一つの理由です。やはりお上にたて突くには少しの勇気が必要なのです(ただ、たて突く気持ちもありませんし、たて突いているとも思っていませんが…。)投稿しなかったもう一つの理由は、おかしな人間だと思われたくなかったからです。ありもしない行政とメーカーの癒着を騒ぎ立てたり、科学的な検証もせずに怖い薬だとか医療機器だとかと騒ぎ立てたりする人間だと誤解されるのではないかと危惧したからです。

ブログの投稿後、ステントメーカーの対応は驚くほど真摯でした。PMDAの承認書類の存在を教えてくれたのも、試験にBOSEのマシンを使用していることを教えてくれたのもステントメーカーです。あるメーカーは、東京からわざわざ学術の方が鹿屋まで来られて、stent fractureに危機感を持っており、新たな試験方法を検討していることまで教えてくださいました。メーカーが発生している問題についての正しい認識を持ち、対策を真面目に考えてくれているのであればこの問題は必ず解決するものと信じます。それが故に、真面目な対応をして下さるメーカーのステントを使い続けたいと思っています。

一方、PMDAはどうでしょうか。このようなことをするとやはりストーカーのような人間と思われないかと少し心配でしたが、PMDAの国民の声というコーナーにどうしてPMDAは、透明性をうたいながら黒塗りなどするのかという質問を投げかけました。そして、本日PMDAのそのコーナーに返事が掲載されました(Fig. 1。) 思っていたように、PMDAは事実を隠して、利権を得る伏魔殿ではありませんでした。回答をくれるだけ、PMDAが創設された意味があると思っています。

ただ問題は内容です。『「独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律」に基づき、(中略)、法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報等について、マスキングを行っております。』とのことでした。Fig. 2は、やはりPMDAが公開しているステントの承認文書ですが、ステントの基本的な情報、ストラットの厚さや幅の情報です。やはり黒塗りされています。ステントのストラット厚はメーカーが公表している基本的なスペックです。メーカーが公表しているスペックをPMDAが公開することはメーカーの権利や競争上の地位、正当な利益を害するのでしょうか。また、私が問題にした、試験方法までなぜ隠さなければならないのかという点ですが、正しい試験方法で耐久性が確認できたという内容であれば、メーカーの競争上の地位は高まり、正当な利益も高まるはずです。そこを隠してしまうからこそ、疑念が生じてしまっているように思えてなりません。こんなことを言っては失礼かとも思いますが、マスキングした担当者には、国民に公表すべきデータとメーカーの利益を保護するために公表すべきではないデータとの区別をつける能力が欠如しているのではないでしょうか。

今回の回答は独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律の第五条 二 イに記載されている通りです。この条文に基づき不開示にしたものであるから、マスキングしたことについて瑕疵はないとのことだと思います。公務員の無謬性です。
一方、この法律の最も大事な目的を記載した第一条では「この法律は、国民主権の理念にのっとり、法人文書の開示を請求する権利及び独立行政法人等の諸活動に関する情報の提供につき定めること等により、独立行政法人等の保有する情報の一層の公開を図り、もって独立行政法人等の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的とする。 」と記載され、独立行政法人等の有するその諸活動を国民に説明する責務がうたわれています。
さらに第七条では「独立行政法人等は、開示請求に係る法人文書に不開示情報が記録されている場合であっても、公益上特に必要があると認めるときは、開示請求者に対し、当該法人文書を開示することができる。 」と記載され、法人の利益よりも公益が優先すると記載されているのです。
メーカーからどうして公開したのかと責任を問われないために最も確実な方法は公開しないことです。無謬性が担保されます。しかし、こうした構造は、公務員の無謬性を担保するために公益を侵してしまう誤謬のように思えてなりません。正しい情報が、正しい医薬品や医療機器の進歩に繋がり、メーカーや国民の利益が担保されるのだと思います。
メーカーや議員からの圧力に屈することなく、サリドマイドの米国における認可を阻止したFDAのフランシス・ケルシーのような人物は、PMDAに登場するのでしょうか? 彼女のような存在があれば、PMDAの権威やPMDAへの信頼は高まり、国家戦略である日本発の医薬品や医療機器の市場の創設が前に進むのではないかと思います。