2020年4月19日日曜日

院内感染対策にはハードだけではなく、そこに働く職員の意識や行動が大切だ

今回の新型コロナ禍で、感染症の専門家という方がTVによく出てきます。感染症の専門家という人はどんな人なのでしょうか?

感染症の診断の専門家、ウィルス学者、ワクチンなどを開発する予防の専門家、抗インフルエンザ薬や抗菌剤に詳しい治療の専門家、 防疫の専門家、感染の広がりを検証する公衆衛生学者など感染症の専門家といっても様々だと思います。マスコミの世界に医学を勉強した人などほとんどいないので、ごちゃまぜに専門家が出演されるのでフォーカスが定かではない印象を持っています。

2004年、私は徳洲会の専務理事に任命されました。そして当時の徳洲会理事長の徳田虎雄先生からグループ全体の感染対策の責任者になれと言われたのです。循環器の中でも冠動脈インターベンションを専門にしてきた私に、感染対策の知識などある筈がありません。しかし、徳田理事長はそんなとっぴな人事をよくする人です。任命されてできないなどとは言いたくありません。既に福岡徳洲会循環器科の部長や大隅鹿屋病院の院長の経験があった私は、できない・知らないことまで自分で考えて方針を出すのではなく、専門家の教えを乞うという方法を身に着けていました。

そこで、そんな専門家もまったく知りませんでしたが、治療の専門家より院内感染対策の専門家を探しました。結果、辿り着いた先生の一人は、日本プロ野球機構や相撲協会にアドバイスをされ、時にTVにも出てこられる現東北医科薬科大学の賀来満夫先生です。お会いした当時は東北大学の感染制御の教授でした。きさくな先生で色々と教えて頂きました。また、スマトラ沖地震で救援に伺った時にお世話になったインドネシアのハラパンキタ病院でMRSAのアウトブレークが起きた時には医局員を派遣して下さり、感染拡大を防ぐためのアドバイスなどもしてくださいました。

もう一人、院内感染対策で知り合った先生が、波多江新平先生です。今も感染環境学会の理事を務められています。明治製薬でイソジンに関わり、退社後はヨーロッパの病院の院内感染対策などを日本に広げる活動をICHG研究会を率いてしてこられました。今では誰もが使うスタンダードプレコーションという言葉も波多江先生が日本に紹介されたと聞いています。初めてお目にかかった時は、自宅近くの駅で待ち合わせをした後、自宅に寄っていけと言われ、夕飯まで御馳走になったのは良い思い出です。

2004年に専務理事になり2005年には徳洲会を辞めたので徳洲会の中での感染対策はほとんどできませんでした。しかし、波多江先生の教えを守って鹿屋ハートセンターを立ち上げました。

ここで紹介する鹿屋ハートセンターの設備は、みな波多江先生に教えて頂いたものです。

最上段の図は、すべての病室内にある手洗いです。古い設計の病院では一病棟に一つのトイレや手洗いしかないことも少なくありません。一行為一手洗いが院内感染対策の基本だといっても実行するのが難しい設計も少なくないのです。今では多くの病院の病室前にある使い捨て手袋を置いておく棚や、自動水栓、石鹸に消毒液などを置くことなども教えて頂きました。患者さんの手洗いだけではなく看護師の一行為一手洗いを実現するためのものです。

2番目の図は病室の窓です。二重窓の中にブラインドが内蔵されています。ですからブラインドに埃がつくことはありません。ブラインド内蔵ですので窓にカーテンをぶら下げる必要もありません。断熱の効果や結露予防の効果が期待できます。病室の窓さえも感染対策なのです。ブラインド内蔵の二重窓は壊れやすいと言われていたので当初は心配していましたが、開院から14年弱の期間、まったく故障はありません。

次の2つの図は病棟のトイレです。3番目の図のトイレは各病室にある車椅子も利用できるトイレです。便器は床置きではなく、壁に取り付けてあり、便器の下の掃除を容易にしています。4番目の図のトイレの床で分かりやすいかと思いますが、床材は可塑性の高い素材でできており、床材を壁側に持ち上げるように曲げてあります。直角の立ち上げにせずRをもたせて掃除を容易にしています。

 下から2番目、3番目の図は、掃除用具室と掃除用具です。掃除に使ったモップはすぐに洗濯をし、乾燥器で乾かしています。ですから、掃除用具室に雑巾臭さはありません。年に1回の業者による床洗浄以外は毎日、職員による掃除です。環境整備は医療者の責務と考えるために業者には依頼していないのです。

こんな風に鹿屋ハートセンター内で院内感染は起こさないを目標にハードを設計しました。15年前の設計です。院内感染を起こさないというこのような設計でも、外から新型コロナ感染の方が来られた時には無力です。けれども、院内感染を起こさないということを目標にした設備を目の当たりにし、毎日、そこを掃除する職員の意識は、違うはずだと思っています。新型コロナの流行を受けて、一層、手に触れる部分のアルコールや次亜塩素酸によるふき取りを徹底するようになりました。

最下段の図は、鹿屋ハートセンターのものではありません。15年以上前に掃除に訪れた病院の換気孔です。院内感染対策室もあるような病院でしたが、埃まみれで掃除もされていない換気孔でした。理論はもちろん大切ですが、その理論を活かすのはそこで働くものの意識や行動です。マスクや防護服をつけているから大丈夫なわけではありません。設計や用具といったハードだけでがなく、その正しい使用法を知ることや、患者を守るという意識や行動がなければ、感染対策の理論は絵に描いた餅にすぎません。




2020年4月17日金曜日

過而不改、是謂過矣。過ちて改めざる、是を過ちと謂う

 10年以上前に、低左室駆出率で診るようになった患者さんです。初診時の左室駆出率は37%でした。現在の左室駆出率はカルベジロールの内服を続けた結果、70%です。カルベジロール開始前から2:1房室ブロックがあり左胸にDDDペースメーカーを植え込んでいます。

植込み後3年を経て心室ペーシングが頼りなくなり、心室リードの断線と判断しました。上の図の矢印部分がリード断線部位です。このため右胸に新たにDDDペースメーカー植込みを行いました。過去にこのようなケースがあった場合には、新たな植込み手術時に古いペースメーカーはとり出していました。しかし、この時は、何を思ったか、ペースメーカーをオフにするだけで良いだろうと考えたのです。

その後、7年以上を経過し、ペースメーカーチェックも順調でした。ところが時々、ドキドキすると言われるようになりました。それで実施したホルター心電図が下の図です。下段の記録では順調に心房心室ペーシングがなされていますが、上段の記録では新しいペースメーカーの作動とは関係なく、ペーシングスパイクが出ており、T波の上のスパイクも時にキャプチャーされて、いわゆるSpike on Tの状態になっています。危険なペースメーカーによる誤作動です。当初、何が起きているか分かりませんでしたが、メーカーに問い合わせたところ、ペースメーカーをオフにしていても、電池寿命が近づくと、ペースメーカーはオンになりバックアップモードで心室ペーシングを開始する設計になっているというのです。

知らなかった私のミスです。古いペースメーカーを取り出さずにオフにするだけにしていた私が招いた危機でした。新しい側の電池寿命も近づいていたために右側の電池交換を行い、古い左のペースメーカーは取り出しました。メーカーに聞いたところ、新しい機種ではオフにしてあるペースメーカーが勝手にオンになることはないとのことでしたから、この現象はいつか消えてなくなります。ただ、このような例が他にあってはいけないと考え、患者さんの了解を得て私の失敗を公開することにしました。

失敗してしまったことに目をつむったり、隠したりしていると成長はありません。また、失敗を共有することで同じ失敗をする医師が少なくなればと思います。

失敗をした私が言うのも変ですが、誰にも失敗はあります。こんなことを考えていて思い出した言葉がタイトルの「過ちて改めざる、是を過ちと謂う」です。

新型コロナの流行による経済の危機に、条件を付けて各世帯30万円を給付するという方針が閣議決定されたにもかかわらず、一律に10万円を給付すると方針が変わりました。これに対して一律10万円の支給を主張していた野党からも「朝令暮改」だと批判の声が上がっています。どちらが正しい方針かは分かりませんが、一度決めた方針だから決して変更はしないというよりも、よりよい方針があるのなら改めるという方が良いのではないかと思います。

野党の皆さんは「過ちて改めざる、是を過ちと謂う」という言葉を知らないのかもしれません。

2020年4月11日土曜日

鹿児島県や鹿児島県医師会の危機感の薄さにおののいています。

 2020年4月10日現在、鹿児島県で確認された新型コロナ PCR陽性者は4名です。東京都と比べればまだ僅かです。

一方、緊急事態宣言の出された東京都では、1日に確認される陽性者は連日、最多を更新し累計1528名です。Facebook仲間の先生方の投稿をみても、医療崩壊が現実に近づいていると感じます。

最上段の図は東京都医師会のWeb siteです。危機感の高まりを感じ、都民への行動の自粛を促すメッセージには現場を担う当事者としての悲壮感も感じます。医療者として現場に立ち、自らも感染のリスクを背負いながら使命を全うしようとする姿に医師の本来のあり方を感じます。

4月10日現在、陽性者の出ていない岩手県の県医師会Web siteが二つ目の図です。やはりトップに新型コロナに関する情報のリンクがあり、県としての最新の情報は4月10日付です。

同様に陽性者の出ていない鳥取県医師会のWeb siteでは、すぐに目に留まるようなバナーはないものの新着情報の欄に書かれた最新の情報は4月10日付です。

私の住む鹿児島県はどうでしょう。最下段の図が鹿児島県医師会のWeb siteです。メインは診療報酬改定です。右隅に小さくバナーは存在します。しかし、そこから辿り着く最新の情報は3月16日付です。もちろん、日本医師会や厚労省へのリンクはあるものの県医師会としての発信はほぼひと月前が最後です。

自分の住む鹿児島県の医師会の危機感の薄さに愕然とします。鹿児島県のWeb siteも同様です。 4月10日に出された鹿児島県新型コロナウィルス感染症に係る緊急対策第2弾の、最初の項目は終息後のにホテルや飲食店で使える商品券やクーポン券を発行するという終息後の経済対策です。

1名も陽性者が出ていない岩手県も鳥取県も危機感を持っているのに鹿児島県も鹿児島県医師会も何を寝ぼけているのだと思っています。最優先は県民を新型コロナから守ることだろうと思います。

大隅半島の遅れた循環器医療を何とかしなければと考え、2000年に鹿児島に来ましたが、この体たらくをみて、果たして20年前の私の選択は正しかったのかとさえ思ったりします。しかし、後悔しても始まりません。この鹿児島のコミュニティで嫌われても、ちゃんとしましょうよと発言し続けなければと自分を奮い立たせなければいけません。


2020年4月4日土曜日

対策はするけれども慌てない、普段のやりかたを守ると決めました。

 図は、2020年2月に左冠動脈前下行枝に薬剤溶出性ステントの植え込みを行った方です。本日、退院後2回目の受診です。階段を登っても、以前感じた胸痛は全くなくなったと喜んでおられました。次回の受診は、5週間後です。残薬の確認のためにあえて1週間分の残が出るように処方日数を調整しています。

今回のコロナ禍で、受診を恐れる方もおられます。このため普段はしない90日処方なども一般的になってきていると耳にします。私は、ビビりなので、ステント植込み後1ヶ月程度の方に90日処方をする勇気がありません。地域にコロナが蔓延し、とても来て頂く状況ではないとならない限り、今までのやりかたを守ろうと思っています。

鹿児島県では2020年4月4日時点で新型コロナ陽性の方は3名確認されています。英国から帰ってきた方が1名、関西から帰ってきた方が2名です。感染経路不明の方はおられません。

パンデミックになってから慌てても遅い、今のうちから対策するのだという気持ちもよく分かります。一方で慌てすぎて、3月後にパンデミックになっていたとすると、今から90日処方にしていたらステント植込み後半年以上も顔を見ていないという状況になってしまいます。また、こちらの危機感が上手く伝わるとよいのですが、医療者と患者さんが一緒に恐れおののくさまも、どうかなと思っています。パニックは伝染すると思っています。

陰では十分な対策をしてやせ我慢でも、どっしりと落ち着いているようにふるまいたいと思っています。余裕のあるうちは今までのルチーンを守ろうと決めました。