2020年9月30日水曜日

心房細動に対するアブレーション後、いつまで抗凝固薬や抗不整脈剤は必要なのでしょうか?

鹿屋ハートセンターにはおよそ300名の心房細動患者さんが通院されています。開院以来、明日2020.10.1でまる14年が経過します。この14年、心房細動患者さんを見ていて感じることは、抗凝固やレートコントロールをしてその場の症状を軽くしたり塞栓症症のリスクを減らしても、長年のうちに心不全になり最後はつらい日を迎えるとということです。左心房が大きくなり心不全となった方にその後の改善を期待できる治療法はあまりありません。そんな感触を得て、三重の大西勝也先生が編集された「循環器診療プラクティス」には、不可逆的になる前にアブレーションをするべきだと思うと書きました。

そのような考えで、発作性心房細動患者さんだけではなく、比較的若く、左房径があまり大きくない方であれば慢性心房細動の方にも積極的にアブレーション治療をお勧めしています。とはいえ、アブレーションはアブレーションを得意とする医療機関に紹介して実施してもらっています。

上の心電図の方はアブレーション後、3年が経過した方です。3年間、抗不整脈剤も抗凝固剤も継続してきました。しかし、多くのアブレーションを実施する先生が方からは、安定していれば抗凝固も抗不整脈剤もやめればどうですかと言われます。そうした意見に逆らって内服を続けてきましたが3年も経過したのだからよいだろうと考え内服を中止ました。その後も再発がないことを2か月観察した後に、通院は不要ですよとお話ししました。その半年後に、臥床すると息苦しいと言われ受診されました。下の心電図がその時のものです。心房細動再発です。胸写では、CTRが大きくなり、エコーでも肺高血圧となっていました。幸いこの方は、アミオダロンで洞調律に復帰が可能で、CTRは元に戻り、心不全の治療薬を内服しなくても元気にされています。

 アブレーションをされる先生は、抗凝固も抗不整脈剤も不要と言われるのですが、このようなケースはこの方だけではありません。内服を中止して再発される方は確実におられます。この方は心不全で発症しましたが塞栓症での再発であれば取り返しがつきません。

最下段の図は、CABANA trialの再発のデータです。薬物治療だけよりもアブレーションした方が再発は少ないものの少なくとも20%程度の方は再発しています。 

循環器学会のガイドラインを見てもアブレーション後にいつまで抗凝固薬や抗不整脈剤を投与し続けるべきかという回答を私は見つけられませんでした。再発した時に失うものに対する不安とアブレーションをする先生方の中止しても良いという考えに挟まれて悩んでいます。 

















 



2020年9月23日水曜日

施設入所者に対する診療は、オンラインと親和性が高いと感じます

新型コロナウイルス感染の拡大後、医療機関での感染を恐れて、受診をためらう人が増えました。受診しないことで元の病気が悪化しないように、オンライン診療を準備してきました。そうした受診を恐れる個々の人よりも感染を恐れているのは介護施設です。密に接して介護しなければならない環境でクラスターが発生すれば、感染の拡大も高齢者であるが故の死も施設として心配なことです。

また、鹿屋市医師会では介護施設での感染拡大により鹿屋市の医療体制が崩壊するのではないかと危惧し、介護施設の団体と協議を重ねてきました。職員の自粛を求める・面会を制限する・新規入所者に対しては一定期間の観察期間を設けてからの入所にする・業者の入所を制限するなどの対策を考えてきました。残った課題は、施設入所者の受診です。このためハートセンターでは、施設に働きかけ、入所者のオンライン診療を呼びかけてきました。上の図は入所者と介助する施設の方を含めたオンライン診療の様子です。96歳の方です。過去に冠動脈にステント植え込みを行った方です。患者・患者家族に了解を得て、ブログに載せることにしました。厚労省のオンライン診療で言うところのD to P with Nです。 Doctor to Patient with Nurse、看護師を伴ったオンライン診療の形です。

下の図は、オンライン診療開始前に送ってもらった血圧記録・体重記録です。この他にも残薬も写真で送っていただきました。

顔色を見て、話し方を聞き、プロである職員の報告を聞いてですから、来ていただいての対面の診療に劣らないことができたと感じました。オンラインにすることで感染機会が減るだけではなく、職員やご家族の受診に要する負担も軽減されます。また、専門的な報告も受けられるので介護施設入所者の診療はオンライン診療と非常に親和性が高いと感じています。こうした入所者を守るためのオンライン診療ですが、積極的な施設もありますが、無関心な施設も少なくありません。よく施設の方と話し合って普及に努めたいものです。


 

2020年9月21日月曜日

ネットという無秩序に作物が植えられた畑にデジタル庁は秩序や方向性を持ち込めるでしょうか?

2020年9月16日、菅内閣が発足しました。新しい首相です。菅首相が作る未来に期待しています。この内閣の目玉はデジタル庁だそうです。

かつて地方で医師として働くことはあまり歓迎されませんでした。今でもあまり人気はありませんが… 大阪で生まれ育ち、都会の病院で働いてきた私ですが、30年前であれば鹿屋で働くことをためらったと思います。なぜなら最新の医学情報を得るのが困難であっただろうからです。2006年(平成18年)に鹿屋ハートセンターを開設した時にもインターネットがなければ鹿屋で開業をしなかっただろうと思いました。鹿屋ハートセンターの電子カルテは、インターネットを介して遠方のサーバーに情報が蓄積されるクラウド型の電子カルテです。また、画像サーバーは、以前は院内にのみ置いていましたが、今では画像も遠方のサーバーに保管されるクラウド型の画像サーバーです。また、今年は来院することでコロナに感染することを恐れる患者さんが少なくなく、オンライン診療の規制が緩められたこともありオンライン診療も普及し始めました。当院でも再診の方には希望されればオンライン診療を行っています。

日々の診療も、新しい情報を得るのも都会に住むのと同様に情報を得、発信可能です。特に今年は新型コロナウイルス禍の影響で学会もほとんどがWeb開催となり、コロナ後もネット上での学会開催でもよいのではないかという考えも良く聞くようになりました。それ以前から、学術誌もオンライン化しています。20年前のネット環境では考えられなかったことです。 ネットの進化が日々の診療の形を変え、学会の在り方も変えました。そのネットの進化の恩恵を受けながら私はこれで良いのかと思っています。今のネット上の進化は、ネットという畑に無秩序に植えられた作物ではないかと思うからです。

図は厚生労働省が発表した保健医療分野の情報化に向けてのグランドデザインの策定についてという文書です。なんと発表されたのは平成13年です。19年も前です。この時点では電子カルテを普及させようという程度でした。そして実際に電子カルテを導入する医療機関に少なくない補助金が出されました。しかし、補助を受ける電子カルテをその後、医療全体にどう利用するかという視点がなく、むしろ情報の共有化の障害になったかもしれないと思っています。次のグランドデザインではネットワークに組み込まれた電子カルテから診療情報を集め、得られた情報から医療を変えようというものでした。どこの医療機関に行っても過去の診療情報が取り出すことが可能で医療機関を変わるたびに同じ検査を受けなくても良い、集められた情報をもとに疾患ごとに有効な治療法を導き出したり、その疾患の対策にどれほどのコストがかかっているかなどを分析するなどと情報化のメリットが語られました。しかし、現実は19年の日々を経過しても一歩も前には進みませんでした。こうした医療の情報化、情報共有のためには医師の守秘義務のありようも、カルテ保管の義務も法改正が必要になります。こうしたネットによる情報共有のための医療にまつわる法改正が語られることもありませんでした。

IT化を進めよう、デジタル技術を普及させようとするとき、その技術を使って何を成し遂げるかが重要だと思っています。道路は作ることが目的ではなく道路を使って地域が活性化するかが重要なのと同じです。デジタル技術を使って何を成し遂げるかとと考えるとき、デジタル技術に詳しい人だけで実現できるのかと心配しています。道路建設のプロであっても地域を活性化するプロではないのと同じではないかと考えるからです。

現在の医療を正しく分析し、また無駄な医療で医療費が浪費されないために私は、医療分野のネットワーク化に期待します。きっと実現のためには何兆円も必要だと思います。医療分野だけで大変な予算が必要なわけですから他分野のIT化を含めれば日本がIT先進国になるためには莫大な予算が必要です。新設されたデジタル庁に莫大な予算をつける覚悟を新内閣に期待します。新しい形の公共事業です。まデジタル庁においては技術にとらわれず技術を使ってどんな国家を作り上げるのかというグランドデザインを考えてほしいと願います。国会には実現のための法改正を熟考していただきたいと思います。

ネットという畑に植えられた無秩序な作物に、日本を豊かにする秩序(規制ではなく)や方向性がもたらされることを期待しています。もちろん更なるITの進化のために無秩序な作物(イノベーション)も必要でしょうが…