2014年5月14日水曜日

2540円。冠動脈造影用のカテーテルの価格です。こうした保険償還価格の値下げで日本の医療に関わる製造が維持されるのか不安です。

かつて150万円程もしたDDDペースメーカーも今年4月の保険償還価格改定でIII型であれば56万7千円と随分と安くなりました。同じ治療を受けるのであっても、昔と比べて患者さんの負担や保険者の負担は大きく軽減されました。治療を受ける側や、患者さんの治療費を補助する保険者の負担はそちら側から見ればもちろん善です。かつては内外価格差が大きく、日本の患者さんや保険者が高額な負担を求められることに改善の余地があると思っていました。しかし、この内外価格差は本当に小さくなりました。日本で治療を受けても外国で治療を受けても材料費についてはそんなに大きな差がなくなってきたのです。良い方向だと思っていました。

しかし、日本の医療材料の供給にはかつてと変わらない問題点が改められないまま残っています。医療機関に対する置き在庫制度です。昔の富山の置き薬と同じような仕組みです。医療機関にある在庫の持ち主はメーカーであったり、ディーラーであったりで、使った分だけ医療機関は支払うというものです。この仕組みだと医療機関にとっては在庫するコストを負担しなくても良いのでメリットのあるシステムです。一方で、在庫リスクを顧みない医療機関が滅多に使わない、あるいはまず使わないものまで在庫するように求めるとディーラーやメーカーは在庫リスクを抱えます。日本のこうした仕組みのためにメーカーやディーラーは少なくないデッドストックを抱えます。あるメーカーさんから聞いた話では2.25㎜で長さ9㎜のステントは1000本作っても滅菌切れまでに使用されるのは3本程度だそうです。わずか0.3%の歩留まりです。こんな負担をメーカーに求めながら内外価格差を解消しろというのでは片手落ちです。日本の医療機関も国際的に見て標準的な在庫管理をすべきだろうと思います。

カテーテル検査に使われる診断カテーテルは2880円であったものが4月から2540円に償還価格が下がりました。およそ12%の値下げです。この価格から医療機関に納入される時にはある程度の値引きがあり、残った売り上げからディーラーの取り分や配送経費、製造原価や人件費がかかります。メーカーにはいくらの利益が残るのだろうと心配になります。かつてPCI件数の4倍程度が診断カテでした。しかし病院によってやり方は異なりますが、診断カテの代用としての冠動脈CTの役割が大きくなり診断カテは激減しています。当院ではPCI件数と診断カテのみで終わる件数の比は1:1程度です。日本のPCI件数は約25万件ですから、当院のようなスタイルが標準であれば診断カテ件数は25万件です。1件当たりのカテの使用が2本であれば診断カテの市場は50万本、12.7億円の市場ということになります。診断カテの割合はいくら多くても1:3程度でしょうからこの3倍、38.1億円にはならないだろうと思っています。

当院で使用している診断カテのメーカーさんの全国の市場シェアは約20%だそうです。ですからこのメーカーの売り上げは多く見積もっても10億円です。この中から値引き、ディーラーの取り分、全国への配送費、滅菌切れ、製造や営業に関わる人件費、製造原価を引けば何も残らないだろうなと感じます。こんなことを考えていると4月以前と同じ割合で値引きを求めることは酷だと考え要求しませんでした。間違いなく必要なものを作っているメーカーに倒れて欲しくないからです。現実にかつては診断カテを作っていたメーカーの中にも撤退したメーカーも存在します。当院に納入してくれているメーカーさんは製造コストを下げるために外国に製造拠点を移すそうです。日本の保険財政を維持するために国外の労働者にしわ寄せが行くのもいかがなものかと感じました。また、国外移転のために国内で製造に関わっていた労働者が職を失ってよいものだろうかとも思います。

日本の食料自給率は低いと言われています。そんな中で世界的な食糧不足時に自給率が低くて日本が守れるのかという議論があります。食糧安保等と言われている考えです。日本の保険財政を維持するために、必要な医療器具が日本で製造できないほど低い保険償還価格に抑えられつつあります。万一の事態に日本で必要な医療器具や薬品は手に入るのでしょうか。国内の製造業を維持する安全保障という考えは成立しないのでしょうか?

メーカーは叩けば叩くだけ良いのだと言わんばかりの保険償還価格の改定に何か不安を覚えます。


2014年5月2日金曜日

IEのセキュリティ上の欠陥に対する米国安全保障省の警告を見て思う

当ブログの2014.5.1のアクセス

当ブログの直近1月のアクセス
米国安全保障省からInternet exploreのセキュリティ上の欠陥から危険性があるとのことで他のブラウザーを使用するように警告が出ました。この報道を受けて各種のニュースなどで日本でもIEは50%ほどの人が使っているなどと報道されています。

図は当ブログのアクセス解析です。上段の図はこの1日のアクセス解析ですが訪問して下さった方が使用しているブラウザーの1位はSafariで35%の方、2位がChromeで19%でした。IEは報道後にも関わらず未だ17%の方が使用されています。

下段の図はこの1月のアクセス解析です。やはり1位はSafariで40%ですが2位はIEで30%の方でした。2つの図を比較すると報道後にIEのシェアが急落したのが分かります。ただこうしたアクセス解析には以前から注意を払ってきましたが、このブログを開始した3年前にはIEのシェアは60%を超えていましたからIEの凋落はこの報道以前から始まっていたと認識していました。3年前にはほとんどなかったIphoneからのアクセスも最近は20%を超えます。また医師にMacユーザーが多いからでしょうか、報道以前から最近ではSafariがトップシェアでした。このような傾向を見て私はMicrosoftは買えないな等と思っていました。

当院の電子カルテはカルテ情報を院内ではなく遠隔地に置き、インターネットを介してデータをやり取りするクラウド型のものです。モバイルではiOSに対応していますが、デスクトップではIEのみに対応しています。4/29の警告後、4/30にはVPN下でデータをやり取りしているのでIEであっても電子カルテ使用上のリスクはないと電子カルテメーカーからアナウンスがあり、安心しました。またインターネットに接続している端末ですから、電子カルテ用の端末からも一般のWeb pageにアクセスもしますが、私は基本的にChromeユーザーなので心配もしていません。院内の職員にも電子カルテ以外のインターネット使用にはIE以外を使用するように指導することにしました。

しかし、不安も残っています。当院の画像サーバーからの画像のWeb配信です。かつて時価総額世界一であったメーカーが提供するシステムですが、数年前から大きな不満を持っています。Web配信といいながらIEにしか対応していないこと、OSのバージョンやIEのバージョンにも依存しているためにIEのセキュリティの問題が発生してもIEのバージョンアップがすぐにはできないのです。ですからこの画像配信のためにセキュリティの問題を解決できません。この件に関してはこの世界有数のメーカーに対してセキュリティのためにOSやIEのバージョンアップにすぐに対応するように求めてきましたが、対応は遅々として進みません。また、Web配信というのであれば他のブラウザーにも対応するように求めてきましたが、例えばiPad等でも閲覧できるように求めると、既に画像サーバーがあるにもかかわらず高額のサーバーをもう1台建てろなどと訳の分からない対応です。今回の警告に対してもまだ何のアナウンスもありません。患者情報をWeb配信するシステムを提供しながらセキュリティに関してユーザーに何のアナウンスもしないふざけた企業だと感じます。

かつてコンピュータの世界を席巻したIBMの凋落、今回の報道以前から感じ始めたMicrosoftの凋落だけではありません。経営の神様などと言われたJack Welchが率いたこの企業もこのような対応をしていると再びの凋落を予感させます。