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2011年3月14日月曜日

クリティカルな状況でなすべきこと 危機回避か説明責任か  

Fig. 1 CT image 2 years after RCA stenting
報道される震災の惨状を見ているとどうしても明るい気持ちにはなれません。しかし、どんなにつらい気持ちの時にも目の前に解決すべき問題を持っている患者さんがいれば、やる気を振り絞って前に進むしかありません。本日のケースです。右冠動脈の近位部にdiffuse long lesion があったために2年前にstent植込みを行っています。硬く長い病変であったためにstent植込みに難渋し、proxymalにはTAXUSを植え込めましたが、そのdistalにはVISIONしか植え込めなかったケースです。


DMです。一時は6.6%まで下がったA1Cは7.4%に上昇し、最近のコントロールは悪くなっていました。胸部症状はありません。2年ぶりにCTで評価しました。Fig. 1に示すようにstent 内に再狭窄を認めませんが矢印の#3 に非常にdensity の低い狭窄を認めます。このため本日のCAGとなりました。

Fig. 2 Before PCI


Fig. 2のCAGではやはりstent内再狭窄は認めませんが、CTで見えた部位は一部血栓がついたような強い狭窄です。proxymalの矢印の部位は強いhairpin curveです。前回stent植込みに難渋した記憶が甦ります。バルーンは持っていけるでしょうがstent は通過しないかもしれません。閉塞性の解離が生じた時にstentが持ち込めなければcriticalな状況が発生します。ご家族に非常にリスクの高いPCIになることを説明し、PCIを開始しました。

Fig. 3 During PCI

AL1をガイディングカテに選択し、Runthrough Extra floppyで病変をクロスしました。TAZUNA 3.0mmX20mmは容易に病変を通過しました。この時、一緒にPCIをしていた鹿大のK先生には、ここでballoonを拡張すると後戻りできない、point of no returnだよと話しました。predilatation後のCAGがFig. 3です。解離に加えてslow flowです。STの上昇も遷延しています。distal emboli + dissection です。解離だけでも処理しなければなりません。選んだstentはMedtronic Driver 3.5mm X 15mmです。明らかに病変長は15㎜を超えていますがHairpin curveを超えるのに長いstentは無理だろうとの判断からです。DESははなから無理だと思っていましたが3.5㎜径であればBare Metal stentも悪くないとの判断もしていました。1個目のstent植込み後slow flowは更にひどくなり、血圧は50mmHgまで低下、心拍数も40です。2/21のケースではIABPを回避しましたが、今回はIABPを使うことを決断しました。IABPを入れるぞと宣言してから作動までカテの記録を見ると4分です。いつでも使える心づもりをしていてくれよと言っていたこと、この4年間のスタッフの習熟の成果です。

  
Fig. 4 After successful stenting

IABP作動後、もう1個のDriver stent植込みを行いFig. 4のような結果になりました。STも若干上昇しているものの胸痛も取れ帰室できました。帰室後しばらくはIABPを作動させましたが、長期の作動は合併症発生の元です。3時間後には抜去しました。

PCI後、ご家族に心臓が止まりかけたこと、IABPで補助しながら最終的にはstent植込みに成功し、状態は安定したことを説明しました。


目の前に危機が発生している時に最も大事なことは危機を回避する最大限の努力をすることだと思っています。今回はうまく危機を回避できましたが、医療の現場では危機が回避できないことももちろん起こりえます。本日のケースで危機が回避できずに最悪の結果になった時、なぜ途中で逐次、状況を説明しに来なかったのだとお叱りを受けたかもしれません。そうしたお叱りを避けるために目の前にある危機に全力で立ち向かわずに、お叱りを受けるのを避けるための努力を10%でもするのは間違っていると思います。結果が悪ければお叱りを受けるのは当然です。それを恐れるより、最悪の結果を恐れて100%の力で危機を回避する努力をするのが正しいと思っています。このように考えると、爆発や被ばくの危険の中で、最悪の事態を避けようと勇敢に福島の原発で危機に立ち向かっている現場の専門家や作業員の皆さんに共感を覚えます。逐一、説明しろなどという声が現場に届かず、彼らが危機の回避に専念できることを願っています。取り返しのつかないことになるにしても、彼ら以外に危機に立ち向かえる者はいないのです。彼らが雑音に悩まされずに成功裏に危機を回避できることを願って静かに祈っていましょう。


2011年2月21日月曜日

PCIに伴って発生する危機的な状況 IABPに対する考え方

Fig. 1 RCA before PCI
   本日のPCIの方です。1月に#6-8のびまん性の99%狭窄のためにACSとなり、ステント植込みを行った方です。石灰化したびまん性の病変のために一部にステントを置けずに解離を残して終了しました。このためRCAのPCIは時期を開けることとして本日のPCIとしました。右冠動脈有意で回旋枝は小さく、本日のTaegetは#4AVですが潅流域が大きいので適応と考えました。

1月前にPCIを右そけいから行ったために小さな硬結があり、本日は左そけいのアプローチです。腸骨動脈の蛇行が強く25cmのシースもキンク気味です。


Fig. 2 RCA during PCI, #4AV occlusion due to dissection

LADは、解離を認めるものの血流は良好であり、予定通りRCAへのPCIを開始しました。Fig. 1はPCI前のものですが末梢の矢印がTargetです。近位部に透亮像が見えます。このような形態は石灰化の強い透析患者によく見られます。一見、狭窄は強くないのですが、強い石灰化を伴った狭窄であることがほとんどです。IVUS で見ると全周性の石灰化で偏心性病変です。ただ、IVUS が通過するのでそのままstentも通過するかもしれないと考え、#4AVのpredilatationを行いました。次いで、sten t植込みを図ったところやはり、近位部の矢印の部分でstentは通過しません。このため近位部にもpredilatationを行いstent植込みを行うことにしました。4㎜でpredilatationを行っていたにもかかわらず、stent はやはり矢印の部分を通過せず、やむなく入口部から4mmのVISONを植え込みました。これで矢印の部分にもstent植込みができると考えたのですがやはり通過できませんでした。こうしてstentが持ち込めないままに、もたもたしていると胸痛の訴えが出てきて、II, III, AVFでST上昇です。


Fig. 3 RCA After stent implantation

      Fig. 2に示すように、前拡張した#4AVが解離のためにほぼ閉塞です。潅流域が大きいため、血圧も下がり、除脈にもなり状況は危機的です。そもそもこのもたもたの原因は、左腸骨動脈の蛇行のためにガイディングカテのコントロールが十分ではなかったからです。蛇行が強い動脈にIABPを入れるのはハイリスクです。ステントも通過が困難です。ステントも植込み困難、IABP もハイリスクの状況で起死回生の一手と考えたのは右そけい穿刺でした。右そけいからMedikitの45cmシースを挿入し、ガイディングカテのコントロール性を改善した上でbackupのよいSAL1.0を持ち込みました。さらにこの中にTERUMOの5F Heartrail straightを入れ、stent の入っている#1を超えたところでFig. 1の近位部の矢印の部分に4.0㎜のステント植込みが可能になりました。この後、5Fカテを更に進めて#4AVにもステント植込みが可能となりました(Fig.3)。

胸痛はなくなり、STは正常化し、血圧も安定です。肝を冷やしましたが、危機を脱出です。

血行動態が破綻し、ステントも持ち込みづらい状況では、IABP はよい適応です。必要な状況で、IABP に伴うリスク以上の危機的な状況であれば、IABP を使用することに何もためらいはないのですが、私はIABPをなるべく使いたくないと考えています。IABP に伴う、腹部血管や下肢への塞栓症のリスクを考えるからです。冠動脈解離などであればさまざまな手技で多くの場合、制御可能です。しかし、IABP に伴う合併症の場合、いったん発生すれば制御できません。IABPは、神様任せの手技ともいえます。ですから、自分で制御可能であるうちは、なるべくIABPを使用しないように心がけています。一方、IABP を使わないということに拘泥しすぎると、助かるチャンスを失うこともあり得ます。IABP をなるべく使わないで危機を脱する方法を考えながら、IABP の使用を想定し、使用するタイミングを図るというのが正しい考え方のように思います。今日のケースでも、右そけいからの45cmシース挿入が、起死回生とならなくてもIABP挿入のシミュレーションにはなりました。一つの策を実行しながら、その次の策も計るという考えです。一つの策に固執することは危険です。常にオプションを持ち続けなくてはなりません。

そうした考えで臨んできたからでしょうか。鹿屋ハートセンター開設後、4年間の約900件のPCIでIABPを使用したケースは10例あまりです。年間に数例のIABP使用ではもちろんIABPのスタンバイはペイしませんが、これも万一に備えた必要な損失と考えればよいことです。