2014年11月26日水曜日

PCIを「実施するリスク」と「実施せざるリスク」

株式投資をする人としない人がいます。しない人のしない理由は投資する余裕がないということもあるでしょうし、株式投資には元本割れというリスクがあるからと躊躇っている方もいると思います。この株式投資の世界には「持たざるリスク」という言葉が存在します。

野田政権の解散から今回の衆議院解散までの約2年間に日経平均株価はおよそ100%上昇しました。多くの投資家は投資額の倍の資金を得ました。その間、定期預金に預けていたとしてもほぼ金利はゼロですから投資しなかった人は得られる利益を失っていたとも解釈できます。これが「持たざるリスク」です。

だから投資するのだと思っているわけではありませんが、この「持たざるリスク」という考え方と患者さんを診た時に「介入するリスク」と「介入せざるリスク」を考えながら意思決定するというプロセスは似ていると思うことがあります。

11/21-11/13に福岡でカテーテル治療を中心とする新しい学会が開催されました。ARiA2014(Alliance for Revolution and Interventional Cardiology Advancement)です。
私も役員として参加しましたが、11/21の朝1番のライブで見たケースに私はPCIを実施すべきではないと意見を述べました。胸部症状もなく心筋シンチでも虚血の所見がなかったからです。虚血を意味するFFRの低下があったとしてもPCIはしない方が良いと意見しました。PCIをしても患者さんが得るのはステント血栓症や再狭窄のリスクだけだと話しました。

当日の夜に開催されたCx5という会は症例検討の会です。この会で検討された患者さんは2週間前に胸痛発作があり前胸部誘導でST上昇があった方です。2週間後には前壁誘導は異常Q波となっていました。この方の冠動脈造影ですが左冠動脈主幹部にプラーク破裂したような形態の50-75%狭窄と前下行枝の50-75%狭窄の所見でした。このケースでは私はFFRが低くなくてもPCIを実施すべきだと意見を述べました。この意見を言いながら、朝には自分は違うことを言っていたなと思っていました。

自分は朝と夜では違うことを発言するいい加減な人間なのかと会期中ずっと考えてきました。朝にはFFRが低くてもPCIを実施すべきではないと発言し、夜にはFFRが低くなくてもPCIを実施すべきだと発言したのは何故かと考えていました。

自分なりの結論ですが、PCIを実施するリスクとPCIを実施しないリスクという基準で朝のケースと夜のケースで違う判断をしたと考えました。FFRが低くても実施するリスクが「せざるリスク」を上回れば実施しない方が良いと結論し、FFRが低くなくても「せざるリスク」が実施するリスクを上回ればPCIを実施した方が良いという考えで一貫していると考えました。

未来の分からない投資の世界でも医療の世界でも実施するリスクと実施せざるリスクは正確には比較できません。だからと言ってリスクアセスメントをせずにFFRという数値だけに依存してリスクのある治療であるPCIを実施するのもいかがなものかと思っています。

PCIを実施する時、介入後に起こりうる合併症をシミュレーションしながら実施前から対処を考えておくというだけではなく、「実施するリスク」や「実施せざるリスク」をも図るのが治療医の責任だと考えを整理しなおしました。

2014年11月5日水曜日

経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)の国内の需要はどれほどあり、実施施設はどれほど必要なのでしょうか?

昨日は、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)のハートチームについて書きました。この中でTAVIという治療の需要はどれほどあるのかとも書いたので少し考えてみました。

少し古い資料ですが2008年の胸部外科学会の報告では大動脈弁単弁置換(AVR)の患者数はおよそ7000件であったそうです。この中のどれほどの方がTAVIで治療を受けることになるのか、あるいは低侵襲な治療であるため外科的な大動脈弁置換の適応とならなかったケースでどれほどTAVIで治療を受けられるのかですが、私の勝手な推測ですがAVR7000件の約20% 1500件くらいが日本では最大に見積もった件数かなと思っています。

一方 現在施設認定を受けてTAVIが実施できる施設数はTAVI-WEB.comやTAVR関連学会協議会のWeb siteを見ると全国で30施設ほどです。既に施設認定を受けた施設以外にもTAVIの実施施設の認定を目標にhybrid OPE室の整備を進めている医療機関のうわさも良く耳にします。

既に認定を受けている施設だけで30施設ですからTAVIの需要が年間1500件であれば1施設当たりのTAVIの件数は平均で50件です。更に施設数が増えればこの1施設当たりの件数は減少します。はたしてその程度の年間の実施数でTAVIの治療としての質は担保できるのかと心配しています。

またハイブリッド手術室に加えて、心臓血管外科専門医3名以上、循環器専門医3名以上、カテーテル治療学会の専門医1名以上の人員を施設基準を満たすために揃えなければなりませんから設備に対する投資も人件費も決して少なくはありません。

ある実施施設のWeb siteを見るとTAVIに関わる医療費はおよそ600万円です。年間に50件実施する施設で診療報酬は年間約3億円ですからこれで材料費や設備投資・人件費が賄えるのだろうかと心配です。

自分が投資する訳ではないので余計なお世話だと言われてしまえばそれまでですが、TAVI 1500件に対して30施設でも治療の質を担保するためにも経営的に安定させるためにも過剰な施設数に思えてなりません。更に施設数が増えれば状況はまた悪化します。

日本の心臓外科手術を実施する施設数やPCIを実施する施設数は他の先進国と比較して極端に多く存在します。これに対して1施設当たりの件数が少なくなれば成績が落ちる可能性があるので集約化すべきだという議論が心臓外科学会を中心に展開されたことがあります。この議論は一方で正論ですが、急性の大動脈解離や緊急バイパス手術など搬送も難しい患者さんも存在するのでアクセスをよくするために施設数が多いのも仕方がないという面もあります。一方TAVIはどうでしょうか。よほど悪化するまで内科治療を引っ張らなければ緊急でTAVIを実施しなければならないという場面は発生しないと思っています。ですからTAVIの実施施設は集約化しても構わないと思っています。心臓外科学会ではTAVIの施設基準の議論だけではなく集約化の議論をされているのでしょうか?

経営的に成り立たなくては施設の維持も人員の確保もできません。より良い治療を実現するためには経営的な安定は不可欠です。高コストが容易に想像できるTAVIを導入しようとする施設が多く存在することが不思議です。経営的な面で考えなくてもTAVIのような治療は1施設当たりの件数が多い方がきっと質も高まる筈です。安易にTAVIの実施施設が増加し、この治療法が荒まないことを願っています。

2014年11月4日火曜日

経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)を実施するためのハートチームとは何かと考えさせられました

 大動脈弁狭窄症が増加傾向と言われています。かつての二尖弁やリウマチ性ではなく動脈硬化性のものです。高齢化に伴って増加しているものと理解しています。心不全を起こしてきた大動脈弁狭窄症の標準的な治療は開胸・開心による大動脈弁置換術です。しかしながら高齢化に伴って増加しているこの疾患では手術が困難なほど高齢の方も少なくありません。この高齢者の大動脈弁狭窄症に対して最近では徐々に経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)が普及してきました。

残余寿命の短い80歳代あるいは90歳を超えた方に高額な治療法を実施するのですからどれほどの需要があるのかと考えもしますが、この治療法があることで価値のある人生を得る方も必ずいる筈だとも思っています。

図の方は90歳を超えておられました。手術を勧められた時には手術を拒否され、それから10年以上も内科的に治療を受けてこられました。そしていよいよ内科的にはどうしようもなくなってきました。利尿剤にも反応せずこのままでは命は時間の問題だと思いました。このため開胸ではなく最近ではTAVIという方法もある旨をお話ししたところ是非受けたいとのことでした。

上段はTAVIができる施設に転院する前に当院で撮影した胸写です。下段はTAVIを受けずに当院に帰って来られた時の胸写です。

TAVIはリスクが高いからやめた方が良いと主治医から言われ続け、そう言われながら受けるとも言えずに帰ってこられたのです。帰って来られる前に聞くとノルアドの持続点滴をしているとも言われました。

私には訳が分かりませんでした。内科的な治療では死を待つばかりだからと紹介したのにリスクが高いから施術しないという考えが分からなかったのです。座して死を待つ以上のリスクとは何なのだろうと思いました。また後負荷が問題の重症大動脈弁狭窄症で更に後負荷を増大させるノルアドを何故 持続点滴しているのかも分かりませんでした。

紹介した病院の部長になぜノルアドを持続投与しているのかと尋ねても主治医がしたことで理由が分からないとも言われました。投与を決めた先生に尋ねると体血圧が低かったからだと言われます。造影CTを受け、冠動脈造影を実施され、ノルアドを投与され心不全が悪化して戻って来られました。そして頑張ってくると笑っておられたのに、長く見慣れた景色を見ながら旅立ちたいと言われ、自宅で息を引き取られました。

TAVIを実施するのにハートチームが重要だと言われます。循環器内科医、心臓外科医、臨床放射線技師、エコー技師、看護師などがその能力を結集し、一人の患者の救命に努める姿は素晴らしいと思います。しかし今回の例を見て、チーム医療を勘違いしないで欲しいと思います。チームには共通の目的があり、リーダーが存在し、そのガバナンスの下にその能力を活かすポリシーが存在するはずです。ガバナンスや指揮系統が存在しないままでの各職種の結集は1+1+1+1というような足し算にはならずに混乱をもたらすだけのように思えます。

TAVIのハートチームに限らず、チームにはリーダーやガバナンス・指揮系統が必要です。その根本原則がないままに力を合わせて頑張っているという姿を私は美しいとは思いません。チームという美名のもとにTAVIという画期的な治療法の発展が損なわれることのないように祈るばかりです。

2014年10月23日木曜日

経済分野におけるラッファー曲線と治療効果の最善を考える思考

経済の分野で語られるLaffer cuveを知ったのはトム・クランシーの小説であったと思います。

税率がゼロである時、もちろん税収はゼロですが、収入に対する税率が100%であるならば、収入を得ても得なくても手元に残る税引き後収入はやはりゼロですから誰も働かなくなります。ですから図のようカーブを描くことができ、税率を上げればあげるだけ税収は増える訳ではないという考えです。 Lafferはレーガン大統領の経済顧問を務めた経済学者で、レーガンは図の右側に位置しているのだから税率を下げることで税収は増加すると主張しレーガノミクスを実行します。結果的には税収は減少し米国の財政状況は悪化しました。このLaffer curveをトム・クランシーから知ったのは、トム・クランシーがレーガンの支持者であったからかもしれません。

Laffer curveの考え方が正しいのか否かは経済音痴である私には分かりませんが、薬剤や治療は施せば施すほど効果が強くなるわけではないということを理解するのにLaffer curveのような考え方をすることがあります。

例えば冠動脈バイパス術で全枝の血行再建を目指して生命や心機能に影響しない血管にまでバイパス手術を施すと手術時間は長くなり手術成績も悪化します。私の専門とするカテーテル治療の分野でも同じです。ステントでJailになった小血管を再開通させるために延々と数時間もワイヤークロスする努力をしたために本来の大きな冠動脈に血栓形成を起こしショックになった例を身近で見たこともあります。

薬剤も同様です。このブログでよく書く心房細動患者における抗凝固療法も、実施しなければ塞栓リスクは高いままですし、抗凝固療法を強めれば出血リスクが高まります。程よいポイントがLaffer cuveと同様に存在するはずです。ところが新規抗凝固薬の場合、患者の腎機能や体重・年齢は様々であるにもかかわらず処方量は1用量ないし2容量で固定です。ワーファリンのように受診するたびに採血するようなコントロールは不要でも、新規抗凝固薬でも一人一人の患者に最善の結果が表れるようにドースを設定する必要があるのではないかと思えて仕方がありません。それが前回紹介したDabigatranの血中濃度をモニターすることで出血性のイベントを減少させることができるかもしれないという論文の趣旨にも一致するように思えます。

本日、改めて機械弁患者でもDabigatranを使用可能か否かを検討したRE-ALIGN試験の結果を読み直しました。この試験はワーファリン群と比較してDabigatran群で出血や脳卒中が多く死亡も多かったために中止になった試験です。この結果を受けて機械弁患者におけるDabigatranの使用は禁忌になりました。こうした結果を見てトロンビンだけを阻害するDabigatranでは機械弁における血栓形成を防げず、複数の経路をブロックするワーファリンの方が優れていたのだというような解説を聞いてきました。しかしRE-ALIGN試験の結果を見るとSystemic embolismはDabigatran群 ワーファリン群いずれでも発生していません。血栓塞栓症の発生を示したKaplan-Meier曲線は示されていますが、発生したイベントは出血とも梗塞とも書かれていないStrokeと心筋梗塞と記載されているだけです。本当にDabigatran高容量で実施されたRE-ALIGN試験で血栓塞栓症は増加したのでしょうか?

いまさら機械弁患者でもDabigatranや他のNOACが有効かもしれないというつもりもありませんし、そんなことを検証する試験も実施すべきではないと考えています。ただ出血のリスクを最小にしながら塞栓症のリスクを下げるというバランスの中でかじ取りをする医師として、出血か梗塞かも定かではないStrokeの発生率でものを考えるというのには違和感を禁じ得ません。

Laffer curveが正しいか否かは知りませんが、最大の効果が出るためにはどうすればよいかを一人一人の患者さんで常に考えていきたいと思っています。Laffer curveなど持ち出さなくても昔から「過ぎたるは及ばざるがごとし」と言われてきました。一人一人の患者さんにとって及ばざるポイント、過ぎたるポイントを考えていきましょう。

2014年10月16日木曜日

Dabigatranに対する訴訟や和解、British Medical Journalの批判を読んで思う

近く4番目の新規抗凝固薬(NOAC)としてEdoxabanが使えるようになります。リクシアナという商品名です。この製薬メーカーからEdoxabanの対する私の捉え方を話してほしいと言われて営業所で話してきました。唯一の国産の薬剤なので応援したい気持ちは十分にあります。しかし1日1回の内服で良い成績が出るか心配だと話してきました。また、この話をするためにまたNOACに関して集中して勉強もしました。

勉強をする中でDabigatran内服患者で発生した出血性合併症に対して、米国で4000人ほどの方が訴訟を準備していたこと。メーカーが法廷で争うという選択をせず約650億円で和解する途を選んだことを知りました(Fig. 1)。私もハートセンターで数は多くありませんがDabigatranを処方しています。しかし、米国で出血性合併症を発症した患者さんと和解したなどという話はメーカーから聞いていませんでした。そういえばもうこのメーカーのMRさんは半年以上も当院に来られていません。
 更に今年7月のBritish Medical Journalにはこのメーカーが重要なデータを隠蔽して認可を得たという批判記事が掲載されました(fig.2)。このBMJの批判に対するメーカーの反論もメーカーからプレスリリースが出ていますが少なくとも私のところにはメーカーから連絡はありません。

Fig.3はこのメーカーに所属する研究者が書いた論文の中の表です。

The Effect of Dabigatran Plasma Concentrations and Patient Characteristics on the Frequency of Ischemic Stroke and Major Bleeding in Atrial Fibrillation Patients. J Am Coll Cardiol. 2014;63(4):321-328. 


この表を見ると1日220㎎を内服している患者でのDabigatran濃度は内服直前の測定でも1.15-608と大きくばらつくことが分かります。また1日300㎎では1.04-809とばらつきます。そしてこのDabigatran濃度と出血の頻度には関係があるというのです。

この結果を見て、私がかつてこのブログで1日150㎎の投与でも十分にaPTTが延長する患者さんがおりこうした患者さんには220mgを処方すべきではないと思うと書いたことが間違っていなかったと確信しました。2013年6月14日付当ブログ{プラザキサ75㎎ 1日2cap 2Xの処方で得られた・・・」

認可に向けた試験では1日300mgと220㎎の処方で良い結果が出たのだから1日150㎎の処方は不適切だとメーカーの講演会で演者の先生方が強調されます。平均体重80㎏の患者群で示された結果だから体重50㎏の患者でも220㎎使用するのがエビデンスに沿った治療と言えるのでしょうか?何か乱暴な論理のように思えます。日本でDabigatranの処方を受けている患者の約10%はこの1日150㎎の処方を受けていると聞いたことがあります。ルールを守らない不適切な処方をすべきではないと演者の先生方は強調されますが、私はこの10%の先生方はルールを守っていないけれども患者を守るために真剣に考えている先生方だと思います。

Dabigatranだけの問題ではないと思います。腎機能や年齢・体重を無視してTrialの用量通りに投薬すればよいのだという論理は破綻したように思えます。Trialのデータは承知しながらも、種々の状況を鑑みて治療したいと思います。たとえ不適切と言われても考えるのが医師の仕事ですから・・・


2014年9月8日月曜日

9/5 鹿屋ハートセンター開業前にお世話になった群馬のT先生が鹿児島に来られました。

日本にはPCIを実施できる施設は1000施設以上あります。このように数が多いことには当然のようにメリットデメリットがあります。数が多いことで施設当たりの症例数が少なくなり、スキルが高まらないという批判もあります。確かなデータはないものの実施件数の多い方が成績が良いという考えもあります。

一方で実施可能施設が多いことで日本の津々浦々でカテーテル治療が受けられるというメリットもあります。急性心筋梗塞症などに対する一刻を争う治療であれば多く施設が存在することは循環器救急患者さんにとっては貴重です。

私個人の考えですが、都市部に症例数の少ない施設は不要で、交通の便が悪く時間的に容易に治療が受けられない土地では小規模施設も必要だと思っています。

2006年、鹿屋ハートセンターは交通の便の悪い地方の小規模施設として誕生しました。このような小規模のカテーテル治療実施施設は、当然ですが鹿屋ハートセンターが初めてではありません。既に成功した事例があり、その多くは抱える人口も多い土地に存在しましたが、そのような小規模施設での成功の例があり、そうした例に勇気づけられて地方における可能性を求めて鹿屋ハートセンターの企画を考えました。

正直、不安でした。過去の例の多くは新幹線の沿線であったり、県庁所在地に存在する施設であったからです。鹿屋ハートセンターの企画段階でその不安から、当時最も成功をおさめていた愛知県のTハートセンターに見学に行きました。そこでカテクリニックを作るなら、群馬県のTクリニックに行って勉強してこいと、TハートセンターのS先生から紹介して頂いたのがTクリニックのT先生です。写真の先生です。開業前にT先生から頂いた刺激は貴重でした。

この先生が9/5に鹿児島に講演に来てくださいました。鹿屋ハートセンター開業前に教えを乞うたきりでしたので9年ぶりの再会です。楽しい時間を過ごすことができました。

T先生の御開業後、愛知県のS先生も滋賀県のT先生も、比較的後には北海道のF先生もご自身の開業前にこのT先生のところに勉強に行かれています。T先生の指導を受けた全国の施設で実施されるPCIは年間に1万件を超えるだろうと想像しています。

是非はともかく、国内のどこでもPCIが受けられるという世界に例を見ない日本型のPCIの普及に果たしたT先生の貢献は偉大だなと考えながら御講演を拝聴しました。

どれだけペーパーを書いたか、どれだけ新しい治療コンセプトを提案してきたかだけではなくこのような地域医療に対する貢献を評価する学会の姿勢はないものだろうか等とも考えました。

しかし、冷静に考えればそのような貢献をする先生が、学会に誉めてもらいたいと考える筈もありません。学会の姿勢を問うよりも、私個人として感謝の気持ちを忘れないように再度、心に刻んでおきましょう。


2014年9月3日水曜日

iPhone6のリリース間近ですが、最近の私はAndroidに目覚めてしまいました。

医師の使うコンピュータといえばMacの人気は格別です。私も若い頃はMacを使っていましたが、最近はWindowsばかりです。それは電子カルテや画像サーバーなどがWindowsで稼働していることが多いことが原因です。今このブログをかいているPCもWindowsです。しかし、Apple製品に対する捨てがたい気持ちからか携帯はiPhone5sを使用しています。

しかしiPhone5sも最新製品を求めて5sにしたわけではありません。2013年9月27日付当ブログ「そんなやつ、おらんやろ」に書いたようにそれまで使っていた4sを2年縛りを終了した後も継続して使うよりも携帯キャリアを変更し、機種も5sに変更した方が2年間の支払総額が安くなるために変更したまでです。2年間機種料金を払った後もほぼ同額を請求し続けるキャリアのビジネスモデルを今でもえげつないと思っています。キャリアを変えたために下取りしてもらえなかった4sはそのまま家に残り、Wifi環境下でiPodのように息子が使っていました。

最近、格安simが続々と出てきました。キャリアの通信網を借りて多くの企業がこのMVNOと呼ばれるビジネスに参入してきました。通信容量の制限はあるものの月1G程度の通信であれば月の通信料は1000円程度と格安です。4sが余っているし、これに格安simを入れてみようと考えました。音声通話は050にすることとしてデータ通信のみの契約です。こうしてデータ通信が復活した4sは外出先でも使用可能になりました。それまで彼が使っていたiPhoneは契約解除です。これで月の携帯料金は約6千円節約できました。

私の5sと息子の4sの違い、画面の大きさの違いと3Gと4Gの違いはありますが同じバージョンのiOSですから使えるアプリに差はありません。差はあってもその差はとても2年間で10万円以上をキャリアに支払っても良いという差ではありません。

もうすぐiPhone6がリリースされようという時期に水を差すようですが、新製品の価値は2年間に10万円以上余計に支払うに値する価値なのでしょうか?WindowsやOfficeのバージョンアップもそうなのですが初めて使った頃のExelやWordと比べて最新のものは毎回更新をする価値があるほど機能は変わったのでしょうか?高度な使い方を知らない私にとっては何も変わった気がしません。長く使われると新規の売り上げが発生しないためにあたかも価値のあるバージョンアップのように宣伝され、それに幻惑されているだけではないかとさえ感じます。

格安simに目覚めた私は、2年縛りが終わろうとしていた女房の4sの更新に、白ROMのandroid携帯を入手し、格安SIMを入れて使うようにそそのかしました。機種はauの2014年夏モデルですから最新機種です。写真のSONY Xperia ZL2を3.5万円で楽天で購入し、音声通話付の格安SIMを入れました。月の通信費は税込1700円程度です。大手キャリアとの契約と比べると2年間の支払総額はやはり10万円以上安くなります。画面が大きく綺麗で入力やブラウジングも楽になりました。LTEで通信も速く、フルセグTVの視聴が可能で、おさいふ携帯も使えるので普段の買い物はこの携帯で支払っているようです。カメラの機能も、音質も最新のWalkman相当です。聞いたこともなかったMVNOに契約して機嫌の悪かった女房も今はiPhone以上に気に入っているようです。

iPhone6にもNFCも付くとのうわさですが、日本のSuicaやnanacoやWaonに対応できるのでしょうか?Androidを知らずにAppleのパクリでしょ位の認識しか持っていなかったので恥ずかしいくらいです。

SIMフリー端末や格安SIMの登場は、大手キャリアの寡占による不当とも思えるビジネスの中で感じていた閉塞感に風穴を開けたかのような解放感を感じさせます。

先日書いた、機能も変わらないのにバージョンアップが必要だから3千万円かかりますと言い出した医療の世界の大手も、バージョンアップに価値があるのではなくその内容に価値があるのだという当たり前の認識を持ってくれると良いのですが…

2014年9月2日火曜日

左鎖骨下動脈閉塞のために狭心発作を繰り返したLITA-LAD bypassの1例

ブログに書こうと思ってチェックしていた患者さんですが、3月間ブログを書いていなかったのでタイムリーではなくなってしまいました。

透析患者さんです。軽労作で胸痛があり、透析中に血圧が下がるとのことで紹介されて受診されました。回旋枝は完全閉塞ですが、左Radial Aを使用したバイパスが開存しています。Fig. 1のように前下行枝は90%狭窄ですがCTで評価したLITAは開存し 、native LADのFlowとcompeteしています。CTの情報があったためにこの造影を見ただけで選択的にはLITAは造影していませんでした。最初の診断カテ時にはバイパスが開存しており狭心症の理由が分かりませんでした。透析用のシャントは右にあります。

透析施設にお返しましたが、やはり胸痛が続きます。左Radial aがないために気付くのが遅くなりましたが左鎖骨下動脈の完全閉塞があり、造影上のsubclavian stealになっていることにしばらくして気がつきました。その閉塞の末梢から分岐するLITAがLADに吻合されているわけです。LADへの血流は右椎骨動脈からWillis輪を経て左椎骨動脈を逆流し左鎖骨下動脈にいたりそこからようやく内胸動脈を通りLADに潅流していたのです。

16年前にLADへのPCIが不成功に終わりCABGとなった方です。LADに対するPCIは容易ではないだろうと考えました。このため左鎖骨下動脈のangioplastyを行うことでLADへの潅流は良くなるだろうと考え左鎖骨下動脈に対するEVTをすることにしました。ワイヤーがクロスし、4.0mmバルーンがようやく通過し拡張した時点で手が止まりました。狭窄がLITAの入口部近くまで及んでいることに気がついたからです。このまま手技を続ければステントを置くことになりLITA入口部をJailにしてしまうと思ったからです。こうした考えに至って手技を終わりました。

もちろん、こんな中途半端な治療で狭心症が良くなるとも思っていません。患者さんの軽労作での胸痛は続きました。LADの狭窄を解除することがベストと考え、宮崎のS先生にRotablatorをお願いしました。そしてそのPCIに成功してもうすぐ6か月です。LADへのROTA後狭心痛は全く起きません。LADから鎖骨下動脈へのstealが起きて狭心発作がでないかと心配していましたが全くありません。16年間役割を果たしたLITAですが十分に働いたと思います。狭心痛がないのであればLADからのstealを心配して鎖骨下動脈を開けておくべきなんて考えなくてよいかと今は思っています。

CABG後、あるいはPCI後の経過が長い方が増えてきました。その分、冠循環のバリエーションが増えます。患者さんの治療戦略をパズルに例えると不謹慎かもしれませんが、そこに謎解きをするような興も確かに存在します。


2014年8月31日日曜日

本日は60歳の誕生日です。「悪くないと思うわけ」と言い続けることができる人生を歩みたいと思っています

最近気になっているコマーシャルがあります。桃井かおりさんの化粧品のコマーシャルで「これで63歳、悪くないと思うわけ」というものです。63歳になっても肌がきれいでしょというだけではつまらないのですが、年齢を重ねることを否定的に考えず、自分でもこんな歳の取り方だと悪くないと思えることは素敵だなと思います。

本日2014年8月31日で60歳になりました。還暦です。既に5月に大阪に住む母親が大阪で還暦のお祝いをしてくれたので誕生日だからといって改めての感慨があるわけではありません。5月の時点でも還暦のお祝いなんてと思って最初は気乗りしませんでしたが、途中から気が変わって赤いちゃんちゃんこを着て弾けようと考えました。それは還暦は私の祝いではなく母のお祝いだと思ったからです。例えば35歳で得た子供が還暦を迎えると親は95歳です。何%の親が子の還暦を祝えるでしょうか?私は母が25歳の時の子なので母は85歳ですが、子供の還暦を親が祝える幸せって誰にも味わえるわけではないよなと考え、母の前で弾けようと思ったのです。

この5月の時点で私の還暦は終わったと思っていましたが、60回目の誕生日はやはり特別なのようです。臨床心理とは全く畑違いの私が毎月参加している臨床心理の事例検討会「鹿屋渓蓀塾」の皆さんが昨日、お祝いの会をしてくださいました。写真はその時に頂いた名前を刻印した屋久島の焼酎 三岳です。例年はこのような特別な会もないのですが今年はこうしてお祝いしてくれる機会が少なからずあり、だから特別なのだと思えます。

60歳を迎えて考えること。「若い頃の俺って凄かったんだぞ」なんて言わない日々を送らなければと思います。今の自分を評価されるあるいは評価できるようでありたいと思います。子供のように好奇心旺盛で行動でも知的にも挑戦し続けなければと思っています。若い頃の私って美人だったのよというより、これで63歳、悪くないと思うわけという方がかっこよいですもんね。

2014年8月29日金曜日

惚れ込んでいたHealthymaginationにさよならを言う日が来たようです

鹿屋ハートセンターは19床の小さな有床診療所です。月曜と金曜日に鹿大から心カテの手伝いに来てくれる先生はいますが、基本的に医師一人で運営しています。そうした小規模・少人数でも効率的に画像を管理し、スムーズで正確な意思決定ができるようにカルテは電子化し、電子化されたカルテに接続された画像サーバーを運用してきました。詳細は2011年3月31日付当ブログ「ネットワーク中心の医療」に書きました。地方で患者数も多くないところでこのような投資をして大丈夫かなと心配する部分もありましたが、"Healthymagination"を謳うメーカーとのコラボで当院のような地方の小規模施設でもネットワークの構築が可能でした。"Healthymagination"はこのメーカーの造語です。特別な高性能をな製品を提供するだけではなく導入しやすい製品を提供することでより多くの患者さんに高度な医療を提供するというコンセプトです。この辺りも2010年10月6日付当ブログ「EcomaginationとHealthymagination」に書きました。

このシステムの導入からもう少しで8年になります。システムを構成するRaidのサポートが切れるそうです。この話を頂いた時には深刻には何も考えていませんでした。4TのRaidですから10万円-20万円で手に入る装置だと認識していたからです。このメーカーからの最初の提示は医療用のRaidなので1000万円ですと言われました。どんなに高くても数十万円の装置を1000万なんて言ったらいけませんよとお話ししました。またRaidに医療用のものなんかある筈がありません。

こうしてひどい話はしないでねとお話していたところ、今の手に入るRaidでは現状のサーバーに適合しないのでサーバーごと更新する必要があると、だから1000万円なのですと話が変わってきました。コンピューターに詳しいわけでもない私ですので、サーバーの種類は何で、Raidとの接続のインターフェイスや通信プロトコールは何なのですか、代替の装置は手に入らないのですかと質問していました。答は代替のRaidは存在しない、サーバーを更新するしかないと再度言われました。更に同じようにサポートがなくなる装置で支えられている画像処理も更新した方が良いから総額は3000万円になるとさえ言われました。

そんな高額な投資をするほど地方の小規模施設に余裕がある筈がありません。かつて"Healthymagination"と言っていたこの会社のコンセプトはもう放棄したのかとさえ感じました。このためコンピューターに詳しい人の力を借りて当院で維持するしかないのかと考え始めました。そのために装置のオーナーである当院にある筈のマニュアルや仕様書を探すのですが院内には見つかりませんでした。フルメンテナンスをお願いしていたので院内のスタッフは今まで見る必要がなかったのです。そこでマニュアルと仕様書を導入時から頂いていないので下さいと申し入れました。しかし、メーカーからの返事はそのようなものはないというのです。マニュアルや仕様書なしにメンテナンスできる筈もありませんからない筈はないのにないと言われるのです。ではないのなら以前に調べて欲しいと言ったRaidとサーバーの接続インターフェイスや通信規格はどのように調べたのかと聞くと調べずにそのような代替の装置はないと返事したとまで言われるのです。

呆れました。調べもせずにそんな装置はないからすべて新しい装置を購入するしかないと虚偽の説明でした。私が調べると画像サーバーはWindows 2000 serverでこのサーバーに接続できるRaidはいくらでも市販されています。私の理解では嘘をついて出費を要求する行為を詐欺だと言うのだと思います。

このメーカーと私の付き合いは20年を超えます。より少ない投資で購入できる製品を提供することで高度な医療を地方などにも展開できるようにし、より多くの人に貢献したいという"Healthymagination"というコンセプトに惚れ込んでいた私は初心すぎたようです。

2014年8月27日水曜日

エボラ出血熱で亡くなられたボーボー先生に心から哀悼の意を捧げたいと思います

アフリカで猛威を振るうエボラ出血熱に立ち向かっていたリベリア人医師アブラハム・ボーボー先生が期待された新薬であるZmappを投与されていたにもかかわらず亡くなられました。

こうした死亡率が高い感染症に立ち向かって亡くなる医療者は少なくありません。2003年には当時世界を震撼させたSARSに立ち向かったイタリア人医師カルロ・ウルバニ先生もそのSARSで亡くなられました。

私は、感染症を専門としているわけではないですが、その使命感から自らにふりかかるリスクをおして病気と向き合い、亡くなられた先生方の報道に接してなにか戦友を失ったような喪失感を感じます。

死亡率が高い感染症のみならず不眠不休で救急患者に向き合い若くて亡くなる先生もおられます。私が専門とするカテーテル治療の分野でも夜間の急患に対する対応だけではなく、放射線防護処置をしても完全には被爆から免れ得ない環境で、発癌リスクを恐れずに放射線を浴びながら患者さんに向き合う多くの循環器医がいます。

新型インフルエンザの流行時などにも真っ先に患者に向き合うのは医師です。そうした仕事であることを自覚して自ら選んだ道ですから賛辞や敬意は求めませんが、医師は不老不死ではありませんし、当然ながら家族もある生身の人間であることは知っていてほしいと思います。

会ったこともない先生ですが、仲間の死として最大の哀悼の意を捧げたいと思います。


2014年8月25日月曜日

より安全性の高い選択をしても100%の安全のない現場で仕事をするには強い心が必要です。

Fig. 1 before PCI
毎年夏にTOPIC (Tokyo Percutaneous Cardiovascular  Intervention Conference)という東日本最大のカテーテル治療の会が開催されます。私自身は参加したことはないのですが、FB友達であるコースディレクターのO教授が毎年シラバスを送ってくださいます。毎年アップデートされた記事が豊富で勉強になります。今年もシラバスを送ってくださいましたが、その際に来年こそは参加してくださいとおっしゃってくださいました。来年こそは万難を排して参加しようと今から決意しています。

Fig. 2 After LAD stenting
その今年の会の抄録集に鹿屋の施設からの症例報告が記載されていました。報告した病院とは異なる医療機関で左冠動脈主幹部にステント植込みがなされ、その部位の血栓閉塞のために亡くなられた方の報告です。比較的若い女性の患者さんの報告です。その報告を見た時に私が治療した患者さんかと考えました。Fig. 1に示すように大きな対角枝が分岐するところでの前下行枝の狭窄です。

前下行枝にステント植込みを行い、対角枝にワイヤーを入れなおそうとしてもなかなかクロスできず、そうこうしているうちにFig. 2に示すように左冠動脈主幹部に解離が発生しました。対角枝を拾うよりも主幹部の閉塞を起こさないことが優先です。対角枝を諦めて主幹部にステントを置きました(fig. 3)。対角枝は閉塞したままです。

Fig. 4はその2か月後の造影です。対角枝は再開通しています。また心エコーで評価しても側壁はダメージを受けていませんでした。

Fig. 3 After LMT stenting
主幹部にステントを植込まなければいけない危機的状況でしたし。CABGよりもこうした場合はステント植込みの方が救命的だと今現在も信じています。その後、もう6年が経過しました。再狭窄もなく2剤の抗血小板剤(DAPT)も止め、バイスピリン単剤にしていました。

この方が亡くなり報告されたとばかり思っていましたが、数日前に元気に再診に来られました。報告された方はこの方ではなかったのです。

どうせ後から再開通する対角枝を拾いに行ったばかりに主幹部にステント植込みをする羽目になり同部の血栓閉塞の元を作ったとか、DAPTを中止したのがまずかったのかなどと考えてきましたが、元気な姿を見てホッとしました。

Fig. 4 two months after stenting
緊急時の判断はその場では正しくても患者さんに長期の視点で見ればリスクを負わせることがあり得ます。その場の判断は正しくてもあの時、違う選択をしておればと振り返ることは頻度は高くなくても存在します。DAPTの中止も血栓閉塞を見れば中止を後悔しますし、脳出血などを見ればDAPTを中止しなかったことを後悔するだろうと思います。

相反するどちらの判断をしても意図とは異なる結果が発生する可能性はゼロではなく、どちらの選択を行ってもリスクが付きまといます。より安全である可能性が高い選択しかできない臨床の現場には心配だらけです。

こうした心配から逃れる唯一の途は医師を辞めることだけです。ただこの途は、病に苦しむ患者さんを放り出して逃げる途です。

現場にいる限り付きまとう心配は解消しませんが、常に最も妥当な選択をするとともに、その選択でも起こりうる意図しない問題に対処する強い心を持ち続けなければなりません。現場にいる限り心を奮い立たせましょう。



2014年8月24日日曜日

今流行のIce Bucket Challenge for ALSに思う

ほぼ3か月ぶりのブログ更新です。書こうかと思うテーマはたくさんあったのですが、書かないことの「楽」に慣れていました。反応を見る必要もなくネットから距離を置くとこんなにも楽なのかと思っていました。しかし、書かないのかと盛んに言われるのでまた書いてみようかと思い始めました。気負わずに行こうと思っています。

私が30歳の頃、胸痛を主訴に受診された50歳代の男性がいました。お豆腐屋さんです。手作りの豆腐で、早朝に冷水に手を入れて作業をします。この作業中に胸が痛むのです。早朝の冷水を扱う仕事で惹起される胸痛ですからいかにも冠攣縮性狭心症です。果たして冠動脈造影でもエルゴノビンによる誘発テストで右冠動脈が完全閉塞するような冠攣縮が誘発されました。

現在であればカルシウム拮抗剤とニトログリセリンを処方して冠動脈造影の翌日には退院ですが、30年ほど前の当時はもう少し入院中の検査もゆっくりというか丁寧でした。カルシウム拮抗剤の内服下であれば豆腐作りをしても発作が起きないかを見るために内服下に寒冷昇圧試験を行いました。氷水の中に手首を入れ、心電図をモニターしながらST変化を観察するのです。一度目の内服下の検査ではあっという間にSTは上昇しました。房室ブロックも起きそうになり危険な状態です。このためカルシウム拮抗剤を変更して再度、寒冷昇圧試験を行い、発作が誘発されないことを確認して退院としました。主訴である豆腐作り中の胸痛が解決できなければ意味がないのですから…

退院後の通院ではどの季節でも早朝の冷水作業でも胸痛が起きないと喜んでおられました。地元では美味しいと有名な豆腐屋さんでしたが、私自身は一度も口にしたことはありませんでした。そんなことが今でも何か悔やまれます。

この昔話を思い出したのはここのところ盛んにIce bucket challenge for ALSがニュースで流されたからです。ジョージ・W・ブッシュ前米国大統領の動画もニュースで見ましたが確か、彼は狭心症でステント植込みを受けていた筈です。狭心症の方の冷水暴露は危険です。短い人では1分足らずでSTが上昇し、房室ブロックや心室細動が惹起されることもあります。ですから私は私が診ている患者さんにはかき氷を食べたり冷水の作業を行うことのリスクを説明し注意するようにお話ししています。

チェーンメールのような指名の是非や、難病支援のキャンペーンをこのような形で展開することの是非はここでは言いませんが、狭心症の方や狭心症になってもおかしくない世代の氷水の暴露は危険です。そんな狭心症の方へのいたわりもなく指名を続ける人が言う難病への理解とはいったいなんだろうと思えてなりません。

2014年6月12日木曜日

全国有数のPCI供給が可能な鹿屋市の急性心筋梗塞死亡率は、見かけ上は低下していませんでした。しかしこれは、より充実した循環器診療があぶりだした正しい現実のようです。 31回小倉ライブに参加して(2)

 循環器医になろうと思った時にはそんな風には思っていませんでしたが、循環器医の中でもカテーテル治療医になろうと考え医師の人生の大半をPCIの世界で努力してきたのは何故かと聞かれれば、急性心筋梗塞になった方を救命したいと思ったからだと答えます。カテーテル治療が始まる以前の急性心筋梗塞の死亡率は20%を超えていました。不整脈や心不全のコントロールを主眼とするCCUのシステムが確立する以前の急性心筋梗塞の死亡率は30%を超えていました。それが閉塞した冠動脈を再開通させることで死亡率は5%程度まで低下したのです。

私が医師になった頃には急性心筋梗塞に対する再潅流療法は始まっていませんでしたから、再潅流療法の出現によるドラスティックな変化をこの目で見てきました。

上段の図は1997年当時、私が勤務していた福岡徳洲会病院と、その後にPCIを導入した対馬いづはら病院の心筋梗塞の死亡率を比較したものです。両病院の成績とともにPCIと血栓溶解療法の成績を比較したPAMI trialの成績も載せました。PCIを積極的に実施していた福岡徳洲会病院の急性心筋梗塞の死亡率が4.0%に対して、まだ血栓溶解療法のみを行うしかなかった対馬のそれは15.8%でした。格段により良い成績が出る治療法が既に国内に存在するのに、その恩恵を受けられずに亡くなっていく方を放置することは許されるのだろうかと思いました。そして何とかしなければと始めたのがTV会議システムでサポートしながらの対馬でのPCI導入です。対馬での急性心筋梗塞の死亡率は中段の図に示すように劇的に改善しました。16%の死亡率が6%に完全したのです。PCIが実施可能な方では急性期死亡はゼロでした。

こうした経験が私の人生を決定づけました。恵まれた環境にいて良い成績を誇る偽善を捨て、PCIの恩恵を受けることができない土地での仕事に志向を変えたのです。最も遅れた土地、鹿屋が私の選んだ土地でした。

昨日のブログに書いたように鹿屋は数年で全国でも最も濃厚にPCIが提供できる土地に変わりました。きっと急性心筋梗塞の死亡率は低下しているに違いないと思ってきました。下段の図は昨日のブログにも示しましたが、説明を省きました。最下段のAMIの症例数の横のカッコ内の数字は死亡例の数です。鹿屋市のPCIを提供する4施設の合計の成績ですが、2012年の死亡率は9.4%、2013年のそれは11.7%でした。日本一PCIが身近に受けられる町、その結果、心筋梗塞になっても最も死亡率が低い町を作り上げようと思っていたのに、急性心筋梗塞の死亡率は決して低くなっていませんでした。これが、この14年間の私の努力は何だったのだろうと落ち込んでいた原因です。原因を突き止め、14年前の志を貫徹するために対策を考えなければと思いなおしています。

小倉での発表の後、最も高い死亡率であった病院の先生から電話を貰いました。多く亡くなったのは事実だが、その多くは超高齢者で、うち3人はPEA(無脈性電気活動)の方だったとのことでした。4つの施設での死亡例を持ち寄り、より正確に検証はするつもりですが、どうも避けられない死亡であった可能性が高いようです。

一般に日本では人口10万当たりの心筋梗塞の発症は40-50人と言われています。鹿屋の4病院が引き受けたAMIは85例と102例ですから全国の水準を上回る例数です。鹿屋での心筋梗塞発症が特別に多いわけではないと思っているので、他の地域では病院に辿り着けなかった心筋梗塞の患者さんも、鹿屋ではほぼもれなく早期に受け入れられた結果だと思えてきました。現実にいわゆる「たらいまわし」は心筋梗塞に関しては鹿屋では発生しません。一次救急から高次救急にというような時間のロスも発生せずに鹿屋の心筋梗塞は受け入れられているので、そうした体制では、心筋梗塞と診断されないままに亡くなっていく方も、鹿屋ではきちんと心筋梗塞と診断され、その分、死亡率が高く表現されている可能性が高いものと思えてきました。であれば高い死亡率を卑下する必要はありません。

欧米各国に比べると、日本では虚血性心臓疾患は少ないが、高齢者人口の増加につれて患者数は増えつづけ、3大死因の1つになっている。急性心筋梗塞症だけで言えば、その発症数は年間約15万人で、そのうち30%の方が死亡している。


上記の文章は、国立循環器病センターが提供する循環器病情報センターに記載されている文章です。現在、県立静岡総合病院におられる野々木先生の名前で上記の文章が書かれています。心筋梗塞の発症が15万人であれば10万人当り125人の発症です。死亡率30%っていつの時代のデータなのだと驚きました。この数字に根拠がないわけではありません。厚生労働省の人口動態・保健統計課から出されている死因簡単分類別に見た性別死亡数・死亡率には急性心筋梗塞による死亡者数は平成22年で42629人、死亡率33.7%と記載されています。この厚労省のデータから算出すると年間の心筋梗塞の発症は13万人余りということになります。一方、DPC病院に入院した急性心筋梗塞症の方の人数は、平成24年で5万8千人余りです。これなら人口10万当りの心筋梗塞発症は48人です。同じ厚労省から出ているデータにもかかわらず、急性心筋梗塞の発症数も大きく解離しています。循環器学会が発行している急性心筋梗塞診療のガイドラインにも疫学データとして、小規模のコホート研究から10万人当り40-100人くらいではないかと記載されているだけで正しい発症数は学会も把握していないようです。ですから正しい全国平均の死亡率も産出される筈もありません:。急性心筋梗塞は対策を取るべき重要な疾患として厚労省からピックアップされている疾患ですが、どうも厚労省の統計も循環器学会も正しい現状を把握していないのです。2012年の循環器学会総会で採択された全国急性冠症候群コホート研究のレジストリーの成功を期待したいと思います。

個々の病院の成績では見えない、地域の成績や日本の現状はいまだ把握されていません。日本で最も遅れた土地を、地方の小都市であっても日本で最も進んだ地域に生まれ変わらせたいとの夢を持ってやってきた14年前を忘れては自分の人生を否定することになります。もう落ち込んでいる暇はありません。



2014年6月11日水曜日

日本のPCI領域のUndeveloped, developingそしてdeveloped area 31回小倉ライブに参加して(1)


  2014年6月6日から6月8日まで、北九州小倉で開催された第31回小倉ライブに参加してきました。その中の6/7に開催された急性心筋梗塞のセッションで鹿屋市における急性心筋梗塞治療の現状というテーマでお話しさせていただきました。

 毎日の仕事だけに向かい合っていると、自分の仕事が正しい方向に進んでいるのか否かを見失うことがあります。折角の機会だと思い、2000年に鹿屋に来てからの仕事をざっと振り返りました。

2000年に私が鹿屋に転勤してくるまで鹿屋市では冠動脈のカテーテル治療 PCIを実施する施設はありませんでした。ですから、鹿屋市内のPCI件数は0件です。日本最下位のPCI供給体制であった訳です。もちろん小規模な離島などでPCIができない土地は存在しますが、当時、鹿屋市は鹿児島県内2位の人口の町でしたので、こうした県2位の町でPCIができないのは全国で鹿児島県、鹿屋市だけでした。規模があるにも関わらず、PCIの恩恵を受けることができないPCI領域の未開の地(undeveloped area)にPCIをもたらそうと思って転勤してきたのが2000年です。

上段の図は少し古いデータになりますが、2007年のPCI件数です。人口10万5千人の鹿屋市で794件のPCIが実施されました。人口10万人当りの件数は752件で、当時全国2位でした。当時の1位は千葉県松戸市です。小倉ライブのこのセッションには松戸の先生も参加されており、松戸の症例数には千葉県全域からあるいは全国から来られる患者さんが含まれているので松戸の住民だけではないと説明を頂きました。であれば、他地域からPCIを受けに来られる方がいないであろう鹿屋が地域住民に対する供給という意味では全国1位ということだなと理解しました。2000年まで全国最下位の未開の土地であった鹿屋市が僅か7年で全国1位の先進地(developed area)に変貌しました。このデータに興味があり、全国の10万人当りの件数等を調べましたが、2007年当時の全国最下位は東京都江東区でした。46万人の人口に対して90件余りのPCIしかなかったのです。東京23区平均は人口10万人当り200件程度でした。東京は発展途上地域(developing area)でした。最も進んだ地域ではありませんでした。ちなみに2007年当時全国で約20万件のPCIが実施されましたが、現在は約25万件と言われています。10万人当り約200件です。

では全国平均の約200件が標準で鹿屋の数字は過剰なのでしょうか?北九州市や熊本市、豊橋市といった件数の多い土地のPCI件数は200件をはるかに超えますし、それを含んで平均200件ですから200件を下回る地域が少なからず存在し、その結果の全国平均200件です。日本中くまなくPCIが供給されればPCIの需要は人口10万人当り200件を確実に超えると思います。まだ日本全体のPCI市場はdevelopingなのだと思っています。

国内でPCIの市場が飽和に達した地域が他にあるだろうかと思いますが、鹿屋市は確実に飽和に達しているものと思っています。飽和に達した後の経過はどうなるのでしょうか。下段の図に示すように2012年も2013年もPCIの件数は2007年に対して約20%の減少です。個々の医療機関のPCI件数は様々な要因で変化しますが、20%の減少は地域全体での減少です。実数にして173件の減少、10万に当たり164件の減少です。2007年の10万当たりのPCI件数の全国平均は166件ですから、こうした現象が全国でも起こればPCIの市場は壊滅的となります。ただ全国のPCI市場はまだ飽和していなくてdevelopingなので壊滅にいたることはあり得ません。

飽和した市場での20%の減少はおそらく薬剤溶出性ステントによる再狭窄減少がもたらしたものだと考えています。市場の開拓が進まなければこの20%のPCI減少は今後 全国で発生するものと思います。全国に存在するPCIを提供する2000施設のうち400施設が消滅しても不思議ではないインパクトです。

「医療が高度化することで医療費が増大する」とよく言われますが、PCI領域では医療の高度化が確実に医療費を低減させているものと考えています。2014年4月から待機的PCIの手術料は約10%下がりました。同じ診療報酬でも既に20%の市場の縮小が始まっている中での診療報酬の低減ですから、医療機関がPCIを提供し続けることの困難が進んでいます。そしてこの困難の中で確実に必要な急性心筋梗塞に対するPCIすら提供できない時代が来るのではないかと、飽和の後のPCI領域の「医療崩壊」を心から心配しています。


2014年5月14日水曜日

2540円。冠動脈造影用のカテーテルの価格です。こうした保険償還価格の値下げで日本の医療に関わる製造が維持されるのか不安です。

かつて150万円程もしたDDDペースメーカーも今年4月の保険償還価格改定でIII型であれば56万7千円と随分と安くなりました。同じ治療を受けるのであっても、昔と比べて患者さんの負担や保険者の負担は大きく軽減されました。治療を受ける側や、患者さんの治療費を補助する保険者の負担はそちら側から見ればもちろん善です。かつては内外価格差が大きく、日本の患者さんや保険者が高額な負担を求められることに改善の余地があると思っていました。しかし、この内外価格差は本当に小さくなりました。日本で治療を受けても外国で治療を受けても材料費についてはそんなに大きな差がなくなってきたのです。良い方向だと思っていました。

しかし、日本の医療材料の供給にはかつてと変わらない問題点が改められないまま残っています。医療機関に対する置き在庫制度です。昔の富山の置き薬と同じような仕組みです。医療機関にある在庫の持ち主はメーカーであったり、ディーラーであったりで、使った分だけ医療機関は支払うというものです。この仕組みだと医療機関にとっては在庫するコストを負担しなくても良いのでメリットのあるシステムです。一方で、在庫リスクを顧みない医療機関が滅多に使わない、あるいはまず使わないものまで在庫するように求めるとディーラーやメーカーは在庫リスクを抱えます。日本のこうした仕組みのためにメーカーやディーラーは少なくないデッドストックを抱えます。あるメーカーさんから聞いた話では2.25㎜で長さ9㎜のステントは1000本作っても滅菌切れまでに使用されるのは3本程度だそうです。わずか0.3%の歩留まりです。こんな負担をメーカーに求めながら内外価格差を解消しろというのでは片手落ちです。日本の医療機関も国際的に見て標準的な在庫管理をすべきだろうと思います。

カテーテル検査に使われる診断カテーテルは2880円であったものが4月から2540円に償還価格が下がりました。およそ12%の値下げです。この価格から医療機関に納入される時にはある程度の値引きがあり、残った売り上げからディーラーの取り分や配送経費、製造原価や人件費がかかります。メーカーにはいくらの利益が残るのだろうと心配になります。かつてPCI件数の4倍程度が診断カテでした。しかし病院によってやり方は異なりますが、診断カテの代用としての冠動脈CTの役割が大きくなり診断カテは激減しています。当院ではPCI件数と診断カテのみで終わる件数の比は1:1程度です。日本のPCI件数は約25万件ですから、当院のようなスタイルが標準であれば診断カテ件数は25万件です。1件当たりのカテの使用が2本であれば診断カテの市場は50万本、12.7億円の市場ということになります。診断カテの割合はいくら多くても1:3程度でしょうからこの3倍、38.1億円にはならないだろうと思っています。

当院で使用している診断カテのメーカーさんの全国の市場シェアは約20%だそうです。ですからこのメーカーの売り上げは多く見積もっても10億円です。この中から値引き、ディーラーの取り分、全国への配送費、滅菌切れ、製造や営業に関わる人件費、製造原価を引けば何も残らないだろうなと感じます。こんなことを考えていると4月以前と同じ割合で値引きを求めることは酷だと考え要求しませんでした。間違いなく必要なものを作っているメーカーに倒れて欲しくないからです。現実にかつては診断カテを作っていたメーカーの中にも撤退したメーカーも存在します。当院に納入してくれているメーカーさんは製造コストを下げるために外国に製造拠点を移すそうです。日本の保険財政を維持するために国外の労働者にしわ寄せが行くのもいかがなものかと感じました。また、国外移転のために国内で製造に関わっていた労働者が職を失ってよいものだろうかとも思います。

日本の食料自給率は低いと言われています。そんな中で世界的な食糧不足時に自給率が低くて日本が守れるのかという議論があります。食糧安保等と言われている考えです。日本の保険財政を維持するために、必要な医療器具が日本で製造できないほど低い保険償還価格に抑えられつつあります。万一の事態に日本で必要な医療器具や薬品は手に入るのでしょうか。国内の製造業を維持する安全保障という考えは成立しないのでしょうか?

メーカーは叩けば叩くだけ良いのだと言わんばかりの保険償還価格の改定に何か不安を覚えます。


2014年5月2日金曜日

IEのセキュリティ上の欠陥に対する米国安全保障省の警告を見て思う

当ブログの2014.5.1のアクセス

当ブログの直近1月のアクセス
米国安全保障省からInternet exploreのセキュリティ上の欠陥から危険性があるとのことで他のブラウザーを使用するように警告が出ました。この報道を受けて各種のニュースなどで日本でもIEは50%ほどの人が使っているなどと報道されています。

図は当ブログのアクセス解析です。上段の図はこの1日のアクセス解析ですが訪問して下さった方が使用しているブラウザーの1位はSafariで35%の方、2位がChromeで19%でした。IEは報道後にも関わらず未だ17%の方が使用されています。

下段の図はこの1月のアクセス解析です。やはり1位はSafariで40%ですが2位はIEで30%の方でした。2つの図を比較すると報道後にIEのシェアが急落したのが分かります。ただこうしたアクセス解析には以前から注意を払ってきましたが、このブログを開始した3年前にはIEのシェアは60%を超えていましたからIEの凋落はこの報道以前から始まっていたと認識していました。3年前にはほとんどなかったIphoneからのアクセスも最近は20%を超えます。また医師にMacユーザーが多いからでしょうか、報道以前から最近ではSafariがトップシェアでした。このような傾向を見て私はMicrosoftは買えないな等と思っていました。

当院の電子カルテはカルテ情報を院内ではなく遠隔地に置き、インターネットを介してデータをやり取りするクラウド型のものです。モバイルではiOSに対応していますが、デスクトップではIEのみに対応しています。4/29の警告後、4/30にはVPN下でデータをやり取りしているのでIEであっても電子カルテ使用上のリスクはないと電子カルテメーカーからアナウンスがあり、安心しました。またインターネットに接続している端末ですから、電子カルテ用の端末からも一般のWeb pageにアクセスもしますが、私は基本的にChromeユーザーなので心配もしていません。院内の職員にも電子カルテ以外のインターネット使用にはIE以外を使用するように指導することにしました。

しかし、不安も残っています。当院の画像サーバーからの画像のWeb配信です。かつて時価総額世界一であったメーカーが提供するシステムですが、数年前から大きな不満を持っています。Web配信といいながらIEにしか対応していないこと、OSのバージョンやIEのバージョンにも依存しているためにIEのセキュリティの問題が発生してもIEのバージョンアップがすぐにはできないのです。ですからこの画像配信のためにセキュリティの問題を解決できません。この件に関してはこの世界有数のメーカーに対してセキュリティのためにOSやIEのバージョンアップにすぐに対応するように求めてきましたが、対応は遅々として進みません。また、Web配信というのであれば他のブラウザーにも対応するように求めてきましたが、例えばiPad等でも閲覧できるように求めると、既に画像サーバーがあるにもかかわらず高額のサーバーをもう1台建てろなどと訳の分からない対応です。今回の警告に対してもまだ何のアナウンスもありません。患者情報をWeb配信するシステムを提供しながらセキュリティに関してユーザーに何のアナウンスもしないふざけた企業だと感じます。

かつてコンピュータの世界を席巻したIBMの凋落、今回の報道以前から感じ始めたMicrosoftの凋落だけではありません。経営の神様などと言われたJack Welchが率いたこの企業もこのような対応をしていると再びの凋落を予感させます。


2014年4月8日火曜日

新しい抗血小板剤が間もなく日本にも登場します。プラスグレル(エフィエント)です。冷静に現場で評価しようと思っています。

医療の世界は日進月歩だと言われます。医師になって35年が経過しましたが、この間にも新しい薬剤や新しい治療器具が次々と誕生しました。特に私が専門とする冠動脈のカテーテル治療の分野ではこの30年間に次々と新しい道具が上市されてきました。そもそも私が医師になった1979年にはPCIもなかったのです。

新しい治療法が誕生し、新しい道具が使えるようになります。また、新しい薬剤も使えるようになります。そうした変化に対して、今までの治療で困っていないからと新しい有益な治療法や薬剤を受け入れないでいると、患者さんにより良いものを提供できなくなります。一方ですぐに新しいものに飛びついても、実はあまりよくなかったという経験もこの35年間にありました。新しいものは常に「良い」評価とともに登場します。そして現場で揉まれて生き残るのか消えてゆくのかが決まるのだと思っています。

間もなく、冠動脈ステント植込み後に欠かせない薬剤である抗血小板剤に新しい仲間が登場します。Prasugrelです。商品名はエフィエントだそうです。今、ほとんどの患者さんに使っているClopidogrel プラビックスで何も困っていないけどなという気持ちはあってもこのような考えにとらわれてはいけないと思い、PCI領域における抗血小板療法の勉強をし直しました。

バルーンしかなかった頃のアスピリンとペルサンチンの時代、Bare metal stentが登場し、ワーファリンを併せて使用していた短い時代、ミラノのコロンボ先生のIVUSを使用して高圧でステントをしっかりと拡張し、パナルジンを使うことで、ステント血栓症が劇的に減少するという報告を受けてパナルジンを処方していた時代、などを懐かしく勉強しなおしました。パナルジンによる汎血球減少などの重篤な合併症の発生を減らし、より安全でより早くより効果的なチエノピリジンを求めてプラビックスに至り、現在の安定した成績に十分な満足感を持っていました。しかし、パナルジンと比べて優れていると言われたプラビックスも、ここ数年は一緒に内服するPPIによってはその効果が減弱してしまうだとか、プラビックスが十分に効果が発現しないpoor metabolizerが存在することなど、問題が指摘されるようになってきました。

そうした中でのPrasugrelの登場です。CYP2C19によるmetabolizeをあまり受けない、それ故にClopidgrelのようにPPIの影響を受けたり、Genotypeによっては抗血小板作用が十分に発現しないなどということが少ないと言われています。

図は、日本で行われたPRASFIT-Electiveの成績を表にしたものです。下図に示すように国際共同研究であるTRITON-TIMI38で見られたようなClopidgrelと比べて出血が多いというような現象は見られません。国際共同研究と比べて日本では低用量で試験した成果だと思います。この低用量であってもClopidgrelと比較してより良い成績に見えます(図1)。こうした比較試験の結果を見ると期待が膨らみます。

ただ気になることがないわけではありません。Genotypeなど調べずにほぼ全例でプラビックスを使っていますが、鹿屋ハートセンターでElectiveにDESを植え込んだ方でステント血栓症を起こした方はここ数年、皆無です。また、non-fatal MIも皆無です。PRASFIT-electiveのように270日間の追跡でnon-fatal MIがPrasugrelの3.2%、Clopidgrelの6.5%のように発生するのでしょうか?何か日常の診療の成績との解離を感じます。

新しいものは常に鳴り物入りで、それまでのものを悪く言いながら登場します。しかし、その後の運命は現場で市販後に決定づけられます。期待を持ちながらも、冷静に新薬を受け入れたいと思います。


2014年3月26日水曜日

新規抗凝固薬を内服中の心房細動患者さんにステント植込みを行いました。

 40歳代の若い男性です。数年前まで当院に通院されていました。発作性心房細動です。いつしか通院されなくなりました。数年ぶりに来られました。普通に歩いて来られたので脳梗塞にならなくてラッキーだったねとお話ししましたが、実は脳梗塞になったのだと言われます。Dabigatran(プラザキサ)の処方も受けておられました。心電図では既に心房細動は慢性化していました。今回受診されたのは軽労作で胸痛があるからです。

Fig. 1に示すように前下行枝#7に99%狭窄を認めます。薬剤溶出性ステントの植え込みを行いました(Fig. 2)。

経口抗凝固薬に加えて2剤の抗血小板剤の投与が必要になります。経口抗凝固薬に加えて2剤の抗血小板剤を内服すると出血性の合併症の頻度は跳ね上がります。最下段の図にDabigatran+DAPTの成績をみたRe-DEEM試験の結果を載せましたが、容量が増えるにつれて出血のリスクは高まっています。そしてこれはDabigatranに限った現象ではなく、RivaroxabanやApixabanで検討された急性冠症候群での3剤の併用の結果も同様です。

出血のリスクが高まるので、抗血小板剤の投与期間が短くて済むBare Metal stentにしようかとも考えましたが、選択したステントはMedtronicのResolute integrityです。当院で使用している薬剤溶出性ステントはAbbottのXienceとMedtronicのResoluteのみですが、添付文書上のDAPTを求める期間には差があります。Xienceは1年でResoluteのそれは6か月です。ただ更に短い期間のDAPT投与でもステント血栓症は少ないというデータも最近は少なくありません。出血のリスクのあるこの方の場合、相当に短い期間でDAPTを止めるのが賢明かと思っています。もちろん十分な血圧のコントロールもした上です。

患者の安全を考えての方針ですが、不安がないわけではありません。添付文書が求める期間よりも短い期間の投与でステント血栓症が発生した場合、添付文書の求め通りにDAPTを処方しなかったと非難される可能性もあるからです。より短い期間のDAPTでも安全だよというデータがそろって来ても添付文書の記載が修正されないことで患者も医師もリスクを負います。何とかならないものかと思います。

当院に通院されている心房細動患者さんの約3割はこうしたステント植込みや、他の血管の問題で抗血小板剤を内服されています。最近は抗血小板剤をなるべく早くに止めてしまうのが良いかと考え、抗血小板剤をどんどんと中止しています。ただ最近の新規抗凝固薬のすさまじい予算を使った講演会などのプロモーションを見ると、抗血小板剤との併用の領域でより安全な対策を講じる試験に予算を使えないものかと考えてしまいます。国内の心房細動患者さんは100万人存在すると言われます。その10%であっても10万人です。この少なくとも10万人における安全な抗凝固療法と抗血小板剤の併用はニッチな問題ではない筈です。プロモーションのための講演に使うエネルギーを患者さんのために使いたいものです。


2014年3月18日火曜日

4月からの診療報酬改定で急性心筋梗塞に対するPCIの報酬は増額されました。これで国内の循環器救急の体制は改善されるのでしょうか?

 本日午前11時6分に当院外来に初診で受け付けの方です。胸背部痛の訴えでした。最上段の図のECGでは前胸部誘導でSTが上昇しています。急性心筋梗塞です。このECGは11:11に撮ったものです。救急車での受診では到着後すぐに心電図を撮りますがウォークインだと問診を聞き取ったりで時間がかかることもあり得ます。受付がすぐに症状のある旨を外来看護師に伝え、外来看護師はすぐに心電図を撮ってくれたので迅速な診断ができました。

1人でやっている外来中ですから、待っている方に断りを入れて緊急カテです。#6の完全閉塞で血栓吸引後にステントを植込み、症状も消失し安定しました。

緊急カテを終了し、外来に戻っても待たされたからと苦情を言う方は一人もおられません。かつては待たされるのなら帰ると怒って帰る方もおられましたが今は皆無です。待っておられた方の診察時にお待たせしたことを詫びても、逆にお疲れさまでしたと労われました。

同じような内容の投稿は過去にもしましたが、今回、改めて急性心筋梗塞に対する緊急カテーテルを投稿しようと思ったのは2014年4月から診療報酬が変更されるからです。

急性心筋梗塞に対するPCIも予定のPCIも手技料は同じでしたが来月からは急性心筋梗塞に対するPCIは、ステントを植込みを前提に考えれば24万3800円から34万3800円に大幅に点数が増えます。10万円のアップ、41%のアップです。このような大幅な診療報酬の増額は見たことがないと言うレベルです。救急で苦労する医師に報いる点数改定のように見えます。

一方、PCIの大多数を占める予定のステント植込みは、24万3800円から21万6800円への減額です。11%の減額です。1時間もかからない急性心筋梗塞に対するPCIは増額されても長時間かかる難しいPCIは減額です。

全PCIに占める急性心筋梗塞に対するPCIの頻度を考えればPCI全体で見れば診療報酬は減少するものと予想します。急性心筋梗塞に対するPCIだけを実施するPCI術者は存在しません。普段の予定のPCIを実施しながら急性心筋構想に遭遇すれば緊急事態に対処しているのです。緊急へのご褒美はあげるけれども、日常の報酬は減額するよというような形で診療報酬体系が構築されて緊急のPCIの診療体制は維持されるのでしょうか?普段の飯が食えないのに緊急に対応する形が各施設で維持できるような気がしません。安定したPCIが実施できる仕組みがあって初めて、安定した循環器救急が提供できるのだと思います。こんな仕組みを作った厚労省は現場を分かっているのでしょうか?

最下段の図はある要件を満たせば深夜や休日の手術料は大幅に増額するよという改定です。要件を満たせば160%の加算がつきます。加算の要件を満たす医療機関とは一定以上の救急入院を受け入れている病院です。当院のような有床診療所は該当しません。該当する医療機関で休日に急性心筋梗塞に対するステント植込みを行えば、89万3880円の手技料になります。この診療報酬の大幅な増額が深夜や休日に呼び出される医師やスタッフの給与に反映されればよいけれどと思います。また、反映されたとしても「これだけもらっているのだから夜間も休日も働け」と言われて疲弊したPCI術者は緊急に対応し続けることができるのだろうかとも思います。

決して充足されているわけではない医師数の中で、急性心筋梗塞に対する緊急治療はPCI術者の使命だと、文句も言わずに頑張っているPCI術者の仲間が全国にいます。そうした医師に報いるために診療報酬に「色」を付けましたよというのが循環器救急体制の構築だと厚労省が思っているとしたらあまりにもお粗末に感じます。需要に対する供給体制の構築のために国が実施する対策はお小遣いを増やすことだけですよという発想が理解できません。






2014年3月12日水曜日

高齢の心房細動患者における抗凝固療法で、低体重、低腎機能、抗血小板剤との併用は悩ましい課題です。


 90歳の男性です。17年前から繰り返しPCIを受けておられます。3枝にステントが入っています。当院では2年前に薬剤溶出性ステントの植え込みを行っています。この方は慢性心房細動です。心不全もあり高齢ですからCHADS2 scoreは2点です。抗凝固療法が必要ですがクレアチニンは1.4で、体重は47.9㎏しかないのでクレアチニンクリアランスは24ml/minです。

高齢、低体重、低腎機能、抗血小板剤内服中ですからいずれの抗凝固薬を使っても大出血のハイリスクです。現場で心房細動患者さんを診ているとこのような方は少なくありません。

図1は、各NOACsの試験時の除外基準と、発売後の禁忌の基準です。Apixabanは25以下で除外となっていますが現実にはAristotle試験でCCRが30未満25以上でエントリーされた方は全世界で137名にしかすぎません。日本国内からエントリーされた方はわずかに4名のみです。ですから他のNOACと同様にCCRが30未満の方のデータはないと言っても過言ではありません。

にもかかわらず、市販時の低腎機能の禁忌の基準は各NOACで違いがあります。RivaroxabanとApixabanの禁忌の基準は15ml/minなのです。なぜデータやエビデンスがないのに広い範囲で認可されたのかPMDAの意図が理解できません。

上記の方はDabigatranでは禁忌になるのでワーファリンでの抗凝固療法を行っていましたが、3㎎ 4㎎と増やしていってもPT-INRは低値のままでした。高齢、低体重、低腎機能、抗血小板剤の併用という条件で流石にワーファリンを5㎎も内服してもらうのは怖くなり、2012年6月からDabigatranを処方しました。禁忌の症例にDabigatran 1日 150㎎の処方です。腎機能を見れば禁忌ですし、処方量も認可基準よりも少ない量です。これで2年近く大出血もなく経過しました。Dabigatran内服中のaPTTは53.6秒と程よく延長していました。

他の選択肢のない中での決断でしたが、問題なく2年近く経過してホッとしていました。他の選択肢のない中であっても大出血をすれば私の決断が責められるのは決定的です。Apixabanの長期処方解禁に伴いApixaban 1日 5㎎の処方に変更しました。これで添付文書通りの処方になりました。

図2は75歳以上の方でのRe-ly試験の大出血のデータです。75歳未満であれば大出血を抑制していたDabigatranですが高齢になるとワーファリンと成績が変わらないばかりかやや大出血の頻度は増します。ですからDabigatranは70歳以上では慎重投与とされています。

図3はCCR別に見たRe-lyの大出血のデータです。やはり腎機能が低下してくるとDabigatran低用量であっても大出血の頻度はワーファリンのそれを下回りません。腎排泄が多いことが関係していると考えられています。このためCCRが30ml/min未満は禁忌とされたのです。

Dabigatranは本当に高齢者や低腎機能の例では成績が劣るのでしょうか。本日 提示したようなケースでは今後Apixabanを使えばよいではないかと言えばそれまでですが、本日のケースで示したようにDabigatran 1日 150㎎では高齢者や低体重、ある程度の低腎機能でも使えるのではないかと考えます。まだ現場で使い始めて3年しか経過していない新しい薬です。この先、2剤の抗血小板剤との併用のスタディーも計画されていると聞いています。高齢者の心房細動の多くを占める低体重や低腎機能患者における低用量の知見も出てこないかと期待しています。

2014年3月11日火曜日

東日本大震災の発生から3年が経過しました。3年の重みがずしりと胸に響きます。

2006年、私が51歳の時に鹿屋ハートセンターを開設しました。51歳で5億円を超える融資を受けての開業でしたから正直不安な気持ちで一杯でした。50歳を超えて、担保もほぼない状態で良く融資を受けることができたななどとも言われました。私も同じように思いましたが、きっと最後のチャンスだろうと思っての決断でした。開業した51歳の3年後である54歳であれば多額の融資を受けて開業する勇気はなかっただろうと思います。

3年前の3月11日に東日本大震災が発生しました。もう3年も経過したのかと思います。図はYahoo newsに出ていた朝日新聞デジタルの図です。3年を経過した今日現在も26万人以上の方が避難を余儀なくされています。

26万人の3年間、何と途方もない規模なのだろうと思います。この3年間で色々なことを諦めた方がおられるのだろうと心が痛みます。80年間の人生の中で3年は決して小さくはないのです。更にこの状況がいつ解消されるのかという目途も立っていません。ゴールの見えている苦難ならともかく、ゴールの見えない苦難の中におられる方の苦痛は想像に余りあります。

そんなことを考えながら、3年前に当時の民主党政権のあり様をもどかしく、腹立たしく思い書いたブログを読み返していました。

2012年12月9日付当ブログ「叶わぬ期待に終わらないように願っています」の中で、かつての桜島の大正大噴火の際の移住、明治22年の十津川村の災害後の北海道への移住など、過去の大災害後の政府の対策を書きました。3年も失われてしまいましたが、過去の対策に学ぶ対策はもう手遅れなのでしょうか?老いた人も若い人も何時になるか分からなくても福島での生活を希望されているのでしょうか。

3年の重みが胸を圧迫します。

2014年3月7日金曜日

個々の患者さんが教えてくれること、まとまった患者さんの経過や結果が教えてくれることを大事にしましょう。

 昨日、鹿屋の循環器の先生、神経内科の先生の前で「エリキュースの適正使用」という話をさせてもらいました。少し前に鹿屋の先生の前で「ワーファリン派の私が考えるNOAC位置づけ」というテーマでお話しさせていただいたばかりなので、同じ話にならないようにしようと考えるとプレッシャーでした。このようなプレッシャーでもなければできない仕事をしようと考えました。2012年2月に当院に受診された心房細動の患者さんをリストアップしていたので、ちょうど2年後の2014年2月までの経過を検討しようと決めました。

2012年2月にリストアップした方でワーファリンの処方をしていた方は240人でした。そのCHADS2分類が図1です。CHADS2が上がるにつれて高齢化しCHADS2が3-6の方の平均年齢は80歳でした。またCHADS2が上がるにつれてクレアチニンクリアランスは低下し、やはりCHADS2 3-6の方の平均は50.5ml/minでした。平均でこうですから実際には30ml/min下回る方も少なくありません。塞栓症のハイリスクの患者さんは、抗凝固療法中の大出血のハイリスクでもありました。

DabigatranのRe-lyやRibaroxabanのROCKET AF、ApixabanのAristotleで若干の除外基準の違いはありますが一応クレアチニンクリアランス30ml/min未満、2剤の抗血小板剤の内服は除外としてこの240人に当てはめると63名(26.2%)の方は除外基準に該当しました。当院のデータでみるとreal worldでは約1/4の方が除外基準に当てはまる状況で抗凝固療法を行っていることになります。

2年間の経過で9名の方の死亡がありました。年率1.9%の死亡です。4人の方が心不全死、2人の方が癌死、お一人が脳出血死、2人の方は突然の死亡で死因が特定できませんでした。年率1.9%の死亡率はNOACのスタディーのどの結果よりも良かったので安心しました。また、2年間の脳梗塞の発生は2例、脳出血の発生も2例でそれぞれ0.4%の発生です。ただ全体を分母にすると0.4%ですが脳出血を起こされた方のうち1人はDAPT併用の方、もう1人はアスピリン併用の方でしたので、抗血小板剤併用患者さんのnを分母にすると発生率は1.4%になります。抗血小板剤内服患者さんの抗凝固療法は問題が残っていることを再確認です。

私が新規抗凝固薬が使えるようになってもワーファリンにこだわっているので、その個人的なこだわりが患者さんの命を奪い、脳梗塞や脳出血を増やしているとしたら話になりません。240人の方のカルテを振り返るのは大変な作業でしたが、やってみて良かったと思っています。

2年間の経過で患者さんも2歳、年齢を重ねました。この間に図2に示すように平均のクレアチニンクリアランスは約6-7ml/min低下しました。ベースのクレアチニンクリアランスが80歳以上では低いので6-7ml/minのインパクトはより大きくなります。2年間で約16%の低下です。その結果、平均値も37ml/minとNOACも相当に慎重に使用すべき水準に低下しています。NOAC3剤とも長期処方が可能になりましたが、経過とともに腎機能が悪化してゆくことに注意が必要です。

面倒でも、自分が診ている患者さんを個々にだけではなく、総体としても振り返る作業で見えてくるものがあります。臨床における疑問や課題の答は患者さんが教えてくれると言いますが、その患者さんとは個々であり、全体でもあるとも言えます。

2014年2月25日火曜日

「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」のためには正しい情報収集ツールも必要です。

この方は昨年6月に前下行枝-第一対角枝の分岐部狭窄のために分岐部のステント植込みを行った方です。植え込んだステントは2本ともXience primeです。薬剤溶出性ステント植込みを行った方には退院時に2剤の抗血小板剤の重要性をお話しし、勝手な中断が死を招くこともあると詳しく説明しています。また、予定の受診日に来られない方にはご自宅に電話をし、内服が切れると危ないのですぐに受診するように促しています。しかし、この方は予約日に来られないばかりか電話をしてもそのうちに行くからと言うだけであったり、連絡がつかなくなったりで最終の受診から半年近くが経過してしまいました。その方が労作時の胸痛が再発したと久々に受診されたのです。他の医療機関から薬を貰っていた訳でもなかったそうです。第一世代の薬剤溶出性ステントであればステント血栓症を起こして亡くなっていたかもしれないとも思いましたし、第2世代の薬剤溶出性ステントであれば2剤とも抗血小板剤が切れていても血栓症を起こさないのかと驚きもしました。

図1はPCI前の造影ですが前下行枝に再狭窄を認めません。第一対角枝の起始部に90%狭窄を認め再狭窄です。前下行枝側に負荷をかけたくないのでLacrosse NSEで低圧で対角枝を拡張しました。図2です。前下行枝もきれいで対角枝もきれいです。これで終了しようかと思いましたが、ふと思い立って前下行枝をOCTで評価しました。図3です。対角枝は綺麗に丸く拡張され内腔が確保されていますが、前下行枝側にプラークで隔壁のようなものが飛び出してきています。造影では全く確認できなかった問題です。第一対角枝のために前下行枝を悪くすることがあってはならないというのは大事な原則です。前下行枝側にもLacrosse NSEを使用し前下行枝側も拡張しました。図4です。第一対角枝側に正円上の拡張は損なわれましたが前下行枝側は綺麗になりました。第一対角枝がターゲットであった訳ですからこれでは目標を達成していないではないかとも考えられましたが、慢性期を期待して深追いはしませんでした。

病変を観察する道具によって評価は変わってきます。造影だけで評価していたのでは前下行枝に手は付けなかったと思います。IVUSやOCTが登場し、それまで目に見えなかったものが見えるようになり、それ故に対処も変化してきました。「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」は誰でも知っている孫子です。とはいえ、彼を知るための道具が適切でなければ知ったつもりで実は知らなかったということも発生します。適切な対象を知る努力や道具が必要だと再認識です。

2/21に書いた当ブログ「立ち止まる勇気」の発想の原点は、やはり孫子の「四路五動」です。前進や後退等進む道は4方向であるがその四路に対する動きは5つであるというものです。最後の1つが立ち止まることです。立ち止まって情報収集し、より正しい戦略を得るという考えです。場合によっては手を出さないでより良い結果が得られればなお結構です。

なんでも孫子の兵法を持ち出すと嗤われるでしょうが、PCIの戦略等と言うのであれば勉強していても損はなさそうです。



2014年2月21日金曜日

戦略も描けず、合併症に対する対策も立案できず、患者さんとの信頼関係も不十分ではなかなか戦えません。立ち止まる勇気も必要です。

 鹿屋市では、夜間の救急をかつては医師会所属の開業医が輪番で診るシステムでした。夜間ずっと救急に対応し、翌日に診療ですから負担が大きく維持しきれないところまできていました。この対策として夜間診療所が開設され、最近では日曜祝日の日中のみ当番で救急対応するシステムに変わりました。夜間輪番をしている頃は月に一度程度、輪番が回ってきましたが、最近は3月に一度程度ですし日中だけですので負担は軽減されました。

本日のケースはこの日中の輪番に朝一番で来られた方です。主訴は腹痛や腹部の膨満感です。お母様に心筋梗塞の既往があるとのことでしたので念のためにとった心電図では左室高電位とストレインパターンのみでした。心エコーでは局所壁運動異常はなく左室駆出率は58%でした。腹痛の方全員に心電図や心エコー、血液検査をする訳ではありませんが、この方のトロポニンTは陽性でした。CPKも350程度に上昇しています。

症状が乏しいこと、左室駆出率が保たれていることから緊急冠動脈造影は見合わせ、翌日に造影しました。上段の図です。回旋枝が起始部から完全閉塞です。前日の発症で、壁運動も保たれているのですぐにPCIをとも思ったのですが手が止まりました。PCIのデザインができないのです。

新鮮な閉塞でしょうからワイヤーは容易に通過するでしょうが断端が不明です。前下行枝にもワイヤーを入れIVUSで閉塞部位を同定してワイヤー通過を図ればよい等とは考えましたが、血栓吸引やバルーニングで前下行枝にも塞栓を起こさないか等と心配になりました。また、前日の急な受診ですから本人ともご家族とも良好な信頼関係が築かれていた訳でもありません。よい戦略が見つからない、合併症に対する対策のシミュレーションが十分ではない、ご家族のと関係が築けていない等と考え、その場でのPCIは見あわせたのです。

その後、4日間ヘパリン化を継続し、造影したのが中段の図です。スタンプがなければ上述のようにIVUSで閉塞部位を同定するつもりでしたが閉塞部位は少し末梢に進みスタンプが確認できるようになっていました。こうなればワイヤーでのクロスは容易ですし、ワイヤーのクロス後、血栓吸引を行い、バルーニング、ステント植込みを行いました。

普段Ad hoc PCIをしない先生でも緊急はその場での判断です。この方は一応、緊急でしたが症状に乏しい、左室壁運動が保たれているという条件がそろっていることで考える時間や本人家族との信頼関係を築く時間が取れました。緊急だからと、事を急いては大きな合併症に繋がったかもしれません。戦略や合併症に対する対策、患者家族との信頼関係の構築などが揃っていない条件下の取りあえず立ち向かう戦いは無謀ですし、結果も約束されないだろうと思っています。立ち止まる決断をして幸いでした。

しかし、一次救急の腹痛にはこのような方が紛れています。注意が必要です。全例に心電図を撮れば良いとの考えもあるでしょうが、この当番勤務中に腹痛で来られた方は何人もおられましたが心電図を撮った方はこの方だけです。30歳代の心窩部痛、嘔吐でも心臓発作は否定できませんからそのような方でも全例に心電図を撮るべきなのでしょうか。20歳代ではどうでしょうか。下痢を伴っている方ではどうなのでしょうか。やはり全例に心電図というもの躊躇われます。難しい判断を迫られるのが一次救急です。それを思えば疑いが濃厚で紹介されてくる患者の診療はむしろ容易だと思います。そうした一次救急の苦労を忘れないためにも3月に一度程度の輪番は嫌がらずにやり続けましょう。

2014年2月10日月曜日

より結果が約束された選択と運を天に任せる選択

普段はAd hoc PCIが多いのですが、本日のケースではAd hocにしませんでした。安静時に30分位持続する胸痛があった方です。診断カテでは#12に高度狭窄を認めます。AD hocにしなかった理由は左冠動脈主幹部に不整形の狭窄を認めたからです。石灰化した回旋枝にステント植込みを行うとなるとカーブの大湾側に間違いなくストレスがかかります。小さな回旋枝を拡げに行くことで主幹部にリスクを冒すのは割に合わないと考えたのです。

診断カテが終了し、どう治療すべきか良く考えさせてくださいとお話ししました。当初は内科的な治療かなと思っていましたが、診断カテ後に毎日のようにニトログリセリン舌下が有効な 胸痛を自覚されます。であればPCIをするしかないと腹をくくりました。

今回のPCIの最大の注意点は左冠動脈主幹部に問題を起こさないことです。前下行枝にワイヤーを進め、LMTをIVUSで評価しました。単独の病変であればPCIをするほどの狭窄ではありません。

このLADへのワイヤーを残したまま#12にwiringし、前拡張、DES植込みを行いました。石灰化したクランク状の植え込みですので、なかなかステントはデリバリーできませんでした。狭窄のある主幹部にガイディングカテを強く押し込みながらのデリバリーでなんとか植込みには成功しました。

回旋枝への植込み後の造影では主幹部の造影像に悪化は認められませんでした。

このまま終了するか、ストレスをかけた主幹部にステント植込みをするか、考えました。様子を見るという選択は運を天に任せるような選択だと思えます。急性期に問題を起こさなくても、内膜に刺激を受けた主幹部は急速に狭窄が進行するかもしれません。一方でステント植込み後の結果は、約束されたものです。主幹部という生命に関わる部位へストレスをかけた訳ですから、結果が想像できるステント植込みを選択しました。

内科的な治療を選択するのかPCIを実施するのか、主幹部に手を付けるべきか否か、現場での判断に決まったものはありません。この患者さんの症状が取れ、長期に主幹部の開存が維持されることを祈っています。しかしその際にも繰り返しになりますが、より結果が約束された選択がきっと正しいのだろうと信じています。