2012年12月27日木曜日

多重のステント植込みが原因と考えられる虚血性心不全

  2006年から近くの病院で繰り返しステント植込みをなされた方です。急性の呼吸困難で夜間に救急受診されました。2か月前の心エコーでは左室拡張末期径52㎜と左室の拡大はなく、左室駆出率も56%です。心エコー上の推定右室圧は18mmHgでした。
  
 この程度の心機能の悪くない方が著明な喘鳴でリザーバーマスクでもSP02が70%しかないために気管内挿管を行いFiO2: 100%で人工呼吸器管理を行いました。利尿は良好で翌日には酸素化の状態は改善し、抜管できました。嵐のような心不全がやってきてすぐに去っていきました。このような心不全は腎動脈狭窄でよくみられます。Cardiac Disturbance Syndromeです。しかしこの方の腎動脈PSVは左右とも100cm/s以下です。

 主要冠動脈のどこかに危機的な狭窄があるのではないかと本日、冠動脈造影を行いました。しかし、左冠動脈前下行枝の入口部に50-75%狭窄を認めるのみで嵐のようにやってきた心不全を説明する病変は認めません。しかし、過去にも同じ造影剤を使用して問題がなかったにもかかわらず、また、造影剤の使用量は20ml程度であったにも関わらず、造影直後に胸苦を訴えられ、血圧は45mmHgまで低下しました。造影直前の
PCWP=28mmHg、 PAP=54/25/38でした。著明なPCWPの上昇があったので造影を躊躇いましたが、冠動脈が原因であれば待つことが致命的になると考えて造影に踏み切ったのです。しかし、前述のように主要冠動脈に有意な狭窄は認めませんでした。安易なカテコラミンの使用は危険と考えIABPを使用しました。

一体、何が原因でこの嵐のような心不全がやってきたのでしょうか?この方には日常の生活でNTG舌下が有効な胸痛があります。心筋虚血は存在するのです。最下段に示すように左冠動脈には入口部から前下行枝末梢までステント植込みがなされ、回旋枝も末梢までステント植込みがなされています。右冠動脈も同様です。ステント植込みの詳細は分かりませんが繰り返し、何重にも植え込まれたステントのせいで目に見えるような冠動脈には狭窄はないもののステントによって小血管の血流が障害されているのではないかと考えています。過去にも同様のケースの経験があります。勝手に多重ステント心筋症と呼んでいます。

この仮説が正しいとすれば治療は困難です。主要冠動脈の狭窄による虚血であればカテーテル治療やバイパス手術で虚血は解除されますが、主要冠動脈の大部分をステントが覆いこれが虚血を引き起こしているのであればカテーテル治療もバイパス手術も意味がありません。ましてバイパスの吻合部になる部分もステントで覆われています。

多重債務ではありませんが、多重のステント植込みによる開存した主要冠動脈にも拘らず発生する虚血性の心不全のようです。私自身はこのようなステント植込みを行ったことはありません。常にバイパス手術というオプションを残すことを心掛けてきたからです。自分ならこんな治療はしないけれどと言っても仕方がありません。良い対処を考えなければなりません。

2012年12月25日火曜日

医療の充実を求める心情と、充実を排除する言動

 1994年に湘南鎌倉病院から福岡徳洲会病院に転勤しました。当時、福岡都市圏で最もPCIの多い施設でも年間のPCI件数は100件もなく、全国の政令指定都市で最もPCIの普及が遅れた都市でした。私は、福岡都市圏で最もPCI件数の多い施設を作るのだと頑張っていましたが、もう一つ頑張ったことは、PCIの恩恵を受けることができない、対馬や奄美大島にPCIの灯を燈すことでした。このためテレビ電話を通じて若い先生が現地で実施するPCIを監督し、対馬や奄美大島でも安心して急性心筋梗塞に対するPCIが受けられるようにしたのです。この試みの成果はAHAや日本循環器学会でも報告しましたし、テレビのニュースジャパンや特命リサーチ200Xでも紹介されました。テレビで紹介された後、福岡徳洲会病院には鹿児島市内や宮崎市内からもPCIを受けたいと患者さんが来られました。

来られた患者さんに、鹿児島市内であれば国立鹿児島医療センターも実績があるし、宮崎であれば市郡医師会病院も上手なのにとお話ししましが、来られた方は田舎の医者は信用できない、やはり都会の医師の治療を受けたいと一様に言われました。

2000年、やはりテレビ電話でPCIを支えるよりも直接現地でPCIができる方が良いだろうと考え、既に福岡都市圏で最も多いPCIを実施していた福岡徳洲会病院での部長のポジションを後輩に譲り、志願して鹿屋に転勤しました。しかし、湘南鎌倉病院でのPCIの立ち上げや、福岡徳洲会病院でのPCIの発展よりも鹿屋でのPCIの立ち上げには苦労しました。

鹿屋の近くの町で安静時の胸痛が持続するという方が発生し、救急車で鹿児島市内に向かわれました。冷や汗もかき、危ないと判断した救急隊員は既にPCIを始めていた大隅鹿屋病院にその患者さんを連れてこられました。STは上昇していなかったものの不安定狭心症と判断した私は、鹿児島市内まで行くのは危険だからここで治療しましょうとお話ししましたが、余計なことをするなと叱られたのです。鹿屋で働く医者など信用できないから、死んでもいいから鹿児島に行くと言われたのです。福岡に勤務していた頃には九州中から患者さんが来られたのに、鹿屋で勤務した方が鹿屋の方のためになるとも思っていたのに、現地で働きだすと信用できないと言われショックでした。

同じような経験は鹿屋におけるPCIではないですが徳之島で経験しました。徳之島の病院に東大卒の小児科医が赴任されました。natureという世界でも最も権威ある医学誌にFirst Authorとして論文を採択されたこともある先生です。研究は研究室の方針のよってなされ、医師ではない研究員がほとんどやったことでFirst Authorになったのは自分が医師だったからだけだと謙遜されていました。その先生が、私と同様に十分な医療供給がなされない島のためにと研究室をやめ赴任されたのです。まじめな先生でした。熱発の小児を、中耳炎ではないかと耳鏡で耳を観察し、咽喉を見て、胸も腹部も丁寧に診察していたところ、お母さんから「何をぐちゃぐちゃ、診察しとるねん、さっさと薬をだせばええねん」と叱られたそうです。徳之島から大阪に就職する方が多く、大阪弁を話す方が多いのです。こうこうこういう理由でと説明しても「東大出がなんぼのもんやねん、もたもたして一つも役に立たん」と言われたそうです。この先生はこんなことが続いたために退職されました。そして今でも徳之島の医師不足は深刻です。

奄美大島におけるPCIも地元でできた方が良いだろうと立ち上げました。しかし、鹿屋ハートセンター開設前の浪人時代にPCIのお手伝いにうかっがていた鹿児島市内の病院には次々と奄美の方が治療を受けに来られていたのを見て、地元での治療を必ずしも求められていない現実を知りました。

どこの地方でも地元の医療の充実を求めない筈がありません。その気持ちに応えようとした時に、「こんな田舎に流れてくる医師など信用できない」と拒絶する空気が少なからず存在します。

一昨日、2012年12月23日付当ブログ「医療上の24時間365日の安心はただではない」に対して青森の先生からコメントを頂きました。下記です。

医師不足の一番の問題は、新しい医者が田舎に残らないということではありません。医師を大切にしないので、医師が出ていくのです。もしくは、医者に出ていけというのです。
「医師の数=増える数-減る数」で、増えないばかりが注目され、減る数が多いところはなかなか着目されません。ここを問題にしないのは、環境の責任者やとても偉いつもりの先生達が、自分の責任を問われるからです。
こんな情けないのが田舎の現状です。
民度を高くするしか、日本の医療を救う道は無いと思っています。


青森県でも同じようなことが起きているようです。地元での医療の充実も求めながら、田舎に流れてくるような医師は信用できない、都会で仕事を見つけることができない医師は信用できない等と医師を排除する行動です。このために医師ももう田舎では働きたくないと考えます。悲しい負の連鎖です。12月23日付のブログと同じ結論を書きます。地方における医療の充実には、地元の皆さんと医師との共同した努力とお互いを労わる精神が不可欠です。ろくな医師が来るはずがないという気持ちを地元の皆さんが持ち続ける限り、その土地には医療の充実は決して訪れないように思います。

2012年12月23日日曜日

医療上の24時間365日の安心はただではできないのです

 ある東北の町で実際に起こったことです。医師のいない町で、最も近くの医療機関まで数十キロもあることから、町の皆さんが困っておられました。そこで町立の診療所を開設し、一人の医師に赴任してもらうことになりました。熱心な先生で昼休みも十分に取らずに訪問診療などをされていました。お昼を随分過ぎてから、近くのお店でパンを買って遅い昼食を摂っておられたところを、町の方が目撃され、町の税金で雇ってやった医者が患者も診ないで飯を食っていると非難されたのです。非難された医師は昼食もろくに摂れない町では働けないと退職されました。また、そんな非難をされる町ですから次に赴任する医師もなく元の無医村に戻ってしまい、町の皆さんはまた不便をするようになってしまいました。お伽噺ではありません。現実に起こったことです。

 言うまでもなく、医師も労働者です。1週間の勤務は基本40時間です。これ以上の勤務を求めるのは違法です。24時間週7日間、もれなく誰かが勤務している状態を作ろうと思えば週168時間ですから4人の医師でも間に合いません。最低でも5人の医師が必要になります。町民は5人の医師を雇用するだけの負担をせずに、休みなく勤務することを求めたためにようやく来てもらった医師すらも失うという愚行をしてしまいました。

 鹿屋に夜間急病診療所が開設される前、鹿屋の夜間の急病は鹿屋の開業医が交代で当番をしていました。当院も当番をしていました。当院に来られたことのない患者さんから朝5時に今から普段内服している降圧剤を取りに行くから用意しておけと言われたことがあります。急病に対処するのが目的の当番ですから、普段のかかりつけの先生に受診してくださいとお話ししたところ、仕事で行けないから言っているのだとお叱りを受けました。また、午前3時頃に小学生の子供が熱を出して頭が痛いと言っている、今からMRIを撮ってくれと言われたこともあります。24時間365日いつでも心配であればMRIが撮れますよというような病院はありませんよ、朝早くに小児科に受診されるのが良いですよとお話ししたところ、MRIも撮れないのか、この腐れ病院めと非難されました。交代でやっている当番の開業医のどこででもMRIが撮れると思っておられたのでしょうか。

 24時間365日、いつでも降圧剤を貰え、心配ならMRIが撮れ、緊急の心臓治療も内視鏡も腹部の手術も脳外科の手術もでき、小児の熱発にも中耳炎にも尿管結石にも対処できるというような病院を作ろうとすれば最低でも100人規模の医師を抱えた病院が必要になります。しかし、鹿屋にはこの規模の病院は存在しませんし、仮にこの規模の市立病院を鹿屋市が作ろうとすればその財政負担に鹿屋市は耐えることはできません。それでも24時間365日の安心を保証できる町にしろというのであれば年間に発生する市立病院の赤字は市民で負担するしかありません。鹿屋市立病院を24時間365日なんでも対応するという形で設立すれば年間の赤字は10億円を超えるだろうと思います。10万人の人口ですから毎年、市民全員が医者にかからなくても市立病院を維持するために1万円ずつ負担しますよというのであれば実現は可能かもしれません。24時間365日、いつでもなんでも対応できる医療機関はただではできないのです。

 鹿屋市では循環器救急の当番を作っています。市の制度ではありません。鹿屋市のカテーテル治療ができる施設が自発的に当番し、24時間365日いつでも緊急のカテーテル治療に対応できるようにしているのです。このためいわゆる「たらいまわし」は鹿屋市では発生していません。しかし鹿屋市の医療機関で働くカテーテル治療学会の専門医は私一人ですし、認定医もあと二人いるだけです。24時間365日を回そうと思えば最低でも5人の医師が必要なのにこの少ない人数で24時間365日をカバーすることを自発的に行っているのです。褒めてもらいたい訳でもなく、ありがたく思えよと言いたい訳でもありません。医者なのだから休まずに飯も食わずに働くのは当たり前だというような理不尽な要求をぶつけて東北の町で起こったことと同様の愚を繰り返してもらいたくないと願うのみです。町の皆さんを守るぞという使命感に支えられた医師の不眠不休の努力と、その努力に対する市民の皆さんの理解との調和でしか財政難で十分な医療体制を構築できないこの国では救急は維持できないように思っています。

2012年12月22日土曜日

医療費は高くなっているのでしょうか、国民医療費の増大は医療機関の責任なのでしょうか?

本日NHKで放送されたNHKの「新政権を問う」という番組を見ていて強い違和感を感じました。消費税増税と社会保障がテーマで語られている時に画面下に表示されるTwitterの言葉です。医療費が高くなるので困るというtweetです。この中で語られる医療費とは何なのでしょうか。

例えば私が専門とする冠動脈のカテーテル治療PCIの分野では、今年の診療報酬改定以前であれば1本のバルーン、1本の薬剤溶出性ステント、IVUSを使用して100万円程度でした。今年の診療報酬改定でバルーンやステントの価格は大きく下がったので現在では80万円程度です。医療費は大きく低下しました。では患者さんの窓口負担はどうでしょうか。昨年の医療費であっても今年の医療費であっても高額医療に違いはありませんから患者さんの窓口負担はまったく増加していません。また、個別の医療費の総体である国民医療費もPCIにかかわる分野は患者数が増えない限り単価が低下しているので低下している筈です。2012年は現時点の予想では昨年と比べてPCIの歴史始まって以来初めてPCI件数も減少すると予想されているので総体としても医療費は低下します。では何を持って「医療費が高くなって困る」とtweetした人は感じたのでしょうか?

かつて高齢者の医療費は0割負担であり、医療機関にかかっても1円も負担がないために必要のない受診が横行し、医療機関は高齢者のサロンになっているという時代がありました。しかしそれが1割負担、2割負担を変わってきたために窓口の負担は確かに増えました。また、かつて社会保険本人の窓口負担は1割でしたが現行は3割負担ですのでここでも患者さんの負担は増えました。窓口負担が増えると医療機関が儲かっているのだろうと勘違いをする方もいらっしゃいますが、1件当たりの医療機関が受け取る医療費は少なくともPCIの分野では低下し続けています。窓口負担が増えたのは医療機関が収入を増やしているのではなく、財政上の理由から公的な負担が減った結果です。医療機関に負担が増えた恨みをぶつけるいわれはありません。

診療報酬という公の制度改定のみで医療費が低下しているだけではありません。2011年2月3日付当ブログ「PCIの6ヶ月後の冠動脈造影をしないことに決めました」という方針変更後、2012年3月7日付当ブログ「フォローアップの冠動脈造影を実施しないことによる収支の変化」に記載したように鹿屋ハートセンターに関わる医療費全体は約8%も減少しました。この後にバルーンやステントの保険償還価格は大きく低下しましたから更に鹿屋ハートセンターに関わる総医療費は低下しています。まだ2012年が終わっていませんが恐らく2010年と比較すれば15%程度の医療費の低下になると思っています。このような診療科の運営を私が勤務医時代に行っていれば解雇されていたかもしれません。

国民医療費が増える原因は治療や介護を要する人たちが増えたからにほかなりません。また、窓口負担が増えたのは公的な給付が減ったからで医療機関の収入が増えたからではありません。こうした構造的な問題から目をそらし医療が高度化するので医療費が増えるという論調は明らかな過ちだと思っています。このことに関しては2012年1月27日付当ブログ「医療の高度化に伴って増大する医療費というまやかし」に書きました。

本質から外れ、国民医療費の増大や不健全な財政の責任を医療機関に問う政策がこれからも続けられるのであれば、医療機関は維持できません。もちろん医療の需要がなくなることはありませんから、勝ち残る医療機関と淘汰される医療機関があるでしょうが、総体としては医療の供給力は低下します。医療崩壊です。そして医療崩壊の最大の被害者は医療を求める患者さんに他なりません。医療機関に付け回しをすることには限界があります。本質的な構造改革に向けた議論を期待したいものです。

2012年12月20日木曜日

当院通院中の方に発症した脳出血で考えたこと

2011年9月8日付当ブログ「ワーファリンで治療中の心房細動患者に発症した脳卒中」でPT-INR: 2.16と良好にコントロールされていた患者さんに発症した脳出血の方について書きました。この方は幸い、マヒなどの後遺症を残しませんでした。この方は慢性心房細動患者さんで抗凝固療法はワーファリンのみです。

当院に通院されている心房細動患者さんは2012年3月の集計で290人でした。慢性心房細動患者133人と発作性心房細動患者157人の合計290人です。このうち慢性心房細動患者133人中130人 97.7%の方にワーファリンを処方していました。一方で発作性心房細動患者157人中116人 73.9%の方にワーファリンを処方していました。発作性心房細動患者さんでワーファリンを処方していない方はCHADs scoreが低く、なおかつ心房細動の頻度が極端に少ない方です。全体でみると290人中246人 84.8%の方にワーファリンを処方していました。

2011年はこのワーファリンを内服しておられる約250人中1人が脳出血を起こされたので0.4%の発症です。もうすぐ2012年も終わろうとしていますが、今年当院通院中の方お二人が脳出血で亡くなられました。お一人はワーファリンと2剤の抗血小板剤(DAPT)を内服している方でした。脳出血発症直近のINRは2.06でした。もう一人は心房細動のない方でもちろんワーファリンは内服しておらず、PCI後のためにDAPTを内服しておられる方でした。ワーファリンを内服している方の全体から見ればやはり年率0.4%の頻度ということになり、極めて高頻度という訳ではありません。種々の大きなスタディと比較しても当院での脳出血の頻度が多いわけでもありません。しかし、この問題を何とかしなければという気持ちが強まります。もう一人の方はもう何年も前にPCIを施行した方でしたが敢えてDAPTを止める理由もないだろうとの気持ちで続けていた方です。

ワーファリン+DAPTの方の脳出血を受けて、ワーファリン+DAPTの方の出血のリスクを減らすために薬剤溶出性ステントの植込み後1年以上を経過している方のパナルジンもしくはプラビックスの処方を止めてワーファリン+アスピリンの処方に変更を始めました。当院でワーファリン+DAPTの処方を行っている方は94人(全心房細動患者290人中32.4%)です。ただ左冠動脈主幹部などステント血栓症が発症した場合の致死的なリスクが高い方でも時日が経過しておればDAPTを止めて良いのかと悩みます。また、Cypher stentの植え込みを行っている方でDAPTを止めて良いのかも悩んでいます。こうした方ではPT-INRが2.0を超えない程度にコントロールしながらこれからの対処を考えていきたいと思っています。

一方、長期のDAPTの内服で脳出血を起こされた方を受けて、今までは出血などの中止する理由がなければDAPTを続けておこうと思っていた気持ちを切り替えてやはり1年以上経過した方では1剤に減らそうと思っています。この方針転換が吉と出るか凶と出るかは分かりません。出血性の合併症は減るかもしれませんが冠動脈閉塞による死亡が増えないかも心配です。

CABGとPCIの成績を比較してどちらが良いかというようなトライアルの成績を見て治療方針を決めるという考え方があります。EBMです。一方で個々の施設の成績が異なるのに、上手い下手があるのに大きなスタディの成績をその病院の成績を見ずにあてはめても良いのかという議論もあります。同じことは薬物療法でも言えると思っています。大きなトライアルの成績だけで治療方針を決めるのではなく、自施設の成績も見て方針を考えるべきだと思っています。私は新規抗凝固薬にすぐに飛びつかずにワーファリンを中心に心房細動患者を管理してきました。ワーファリンを第一選択にしてきた理由は抗凝固状態を加減できるからです。慢性心房細動でワーファリン+DAPTの方たちの平均INRは1.82±0.51(n=46)に対してワーファリン単独の方たちの平均INRは1.96±0.44(n=87)とワーファリン+DAPTの群でINRを低めに管理できていました。こうした匙加減が新規抗凝固薬でできるのかを心配してすぐに飛びつけずにいるのです。当面は上記のような方針転換でどのような結果が出るのかを注視してゆきたいと思っています。そしてそれが満足ゆく結果でなければ、他の先生たちの成績を教えてもらいながら新規抗凝固薬の使用も考えなければなりません。今のところ当院では評価できないDAPT+新規抗凝固薬の成績に注目してゆかなければなりません。

2012年12月18日火曜日

他の患者さんが大変であっても自分を待たせるなという患者さん

 本日 お昼前に失神を主訴にかかりつけのの患者さんが救急車で来院されました。引き続き、病棟の患者さんの呼吸状態・意識状態が悪くなり気管内挿管を行いました。このため、外来患者さんには少し待ってもらうことになり、いつも12時15分位に終わる外来が13時頃になりました。午前中にこのような救急患者の来院や病棟の急変があると外来患者さんには待ってもらうしかありません。これまでも急性心筋梗塞の方が来られた場合など外来患者さんには待って頂いて緊急のPCIを行ってきました。もちろん、救急のためにお待たせしますと断ってです。とはいえ、緊急PCIも1時間もかかることは稀ですのでそんなに長くお待たせする訳ではありません。多くの場合、緊急PCIが終わってお待たせしましたと声をかけると、待っておられた患者さんから良かったねという拍手で迎えられてきました。そんな雰囲気だからこそ鹿屋の皆さんに助けられてやりやすいとも思っていました。

 こんな状況で過去にお叱りを受けたことはありませんでした。通院している方のほぼすべてか循環器病の方ですので、急変時には自分もこうして対処してもらえるのだと言ってくれる方がほとんどだからです。

 しかし、本日はお一人の方が待たせるのなら帰ると言われ、もう2度と来ない、医者は他にもいると言われたそうです。そんな患者を診るより自分を待たせずに診察しろということでしょうか。他院でステント植込み後の方です。その方ももちろん急な悪化をする可能性もあり、その方が急変すれば同じように対応するつもりですし、2度と来ないと言われたからと言って2度と来るなとも思いません。同病相哀れむという言葉もありますし、急な時にはお互い様だとは思ってもらえないのが悲しくなります。鹿屋ハートセンターのような小さな施設だから起きることだとも言えますが、何十人も医師がいる病院であっても急な事態でちょっと待ってねとお願いすることは起こりうると思います。自分の緊急事態にはすぐに対応しろ、他人の緊急事態は自分には関係ないから自分を待たせるなというような考えの方が増えていくようであれば、医療の先行きが心配です。

2012年12月16日日曜日

2012年総選挙が終わりました。

本日の衆議院選挙の投票に行ってきました。総選挙の公示後には立候補している訳でもないのにこのブログで選挙に関わることは書かないようにしてきました。選挙も終わったのでまた書いています。2012年11月27日付当ブログ「政治にも見放された…」に書いたように私が住む鹿屋市が属する鹿児島5区には政権与党であった民主党も候補を立てないなど政治的な選択肢のない土地です。投票にも行かないでおこうかなどとも考えましたが、比例区で政党は選べるので行ってきました。しかし、投票用紙を前に、どこに投票するか悩んで立ち止まってしまいました。

例えば、民主党はマニフェストで、成長分野である医療・介護で290万人の雇用を創出すると謳っていました。290万人が仮に年間250万円の所得を得たとします。7.5兆円の人件費です。人件費率が仮に50%としても医療介護分野の売り上げが15兆円増えなければこの人件費は発生しません。では、年間の医療費・介護費を15兆円増やすというのでしょうか。これでは消費増税分10兆円を全て医療費・介護費に回しても足りなくなります。こんなでたらめなマニフェストを書くのは、よほど算数ができないあほか、嘘つきの筈です。このマニフェスト作成の責任者であった細野豪志民主党政調会長は当選を決められました。京都大学卒業の彼にこんな簡単な算数ができない筈はないので嘘つきということになります。でなければ政治にかまけるあまり知性を失ったということです。こんな風に考えるとどこにまともな政治家がいて、どの党の主張がまともなのか分からなくっってしまったのです。

3・11の発生から間もなく、2011年4月6日付当ブログ「この国の明るい未来のために」の中で私は、東西の電力会社の交流周波数を統一すべきではないかと書きました。危機が発生した時に日本中で電力の融通がスムーズに行えるように周波数を統一しスマートグリッド化したら良いのではないかと思ったからです。その後、読んだ小説 マルク・エルスベルグの書いた「ブラックアウト」(角川文庫)ではこのネットワーク化させた電力の供給のリスクがテーマになっていたのでもっと考えなければならないとは思いましたが、発送電分離などを言う前にその基盤である1国2制度を改めるべきではないかと今も思っています。そしてこのような改革は1電力会社では不可能で、国家として提案すべきテーマであろうと思っていました。国の未来を作るための公共事業です。しかし、発送電分離をいう政党はあっても周波数の統一をいう政党は見当たりませんでした。

政権与党に返り咲くことになった自民党に期待するしかありません。政権を取ることを自己目的化せず、危機に瀕したこの国の未来を考えて、この国の改革を推し進めてもらいたいと心から願います。

2012年12月14日金曜日

答が見つからなかった時にはなかなか出会えなかったのに、答が見つかった途端、繰り返し答がやってきます

Fig. 1 sinus arrest recorded with ILR
Fig. 2
80歳代半ばの方です。発作性心房細動で抗不整脈剤を内服して頂いています。 この方が、通所リハビリに行った際などに繰り返し失神発作を起こされます。元が発作性心房細動ですから洞調律に復帰する時などに洞停止を起こすのだろうと推測はしましたが、何度HOLTER心電図を撮っても、数日間の心電図モニターを見ても徐脈がつかまりません。もちろん根拠もなしにペースメーカー植込みをする訳にもいきません。

そこで植込み型ループ式心電計(Fig. 2)の植え込みを行いました。当院で初めてのケースです。Fig. 1に記録されたポーズを示しますが予想したように心房細動からの復帰時に7秒程度の洞停止を起こしていました。心房細動をコントロールすればこうした洞停止は起こさなくなるかもしれませんが80歳代の半ばです。Ablationも躊躇われます。内服でのコントロールを強化し、DDDペースメーカー植込みを選択しました。

Fig. 3 ECG monitor after the admission
入院後、あんなに答を探してモニター監視していた頃には出なかった洞停止が昨夜から繰り返し発生しています(Fig. 3)。当院の心電図モニターではアラームが鳴るような不整脈があった時にその心電図波形は自動でPDF fileに生成されサーバーに保管、電子カルテで閲覧可能になります。答が見つからなかった時にはなかなか出会えなかったのに、答が見つかった途端、繰り返し答がやってきます。


2012年12月13日木曜日

Cypher stent植込み後6年を経過したステント内再狭窄

2006年の12月にACSのためにCypher stentを植え込んだ患者さんです。その後、再狭窄なく経過していました。最近になり 症状が出てきたために再入院です。CTではstent fractureは認めません。

Fig. 1にPCI前のCAGを示します。#3にinstent restenosisを認めます。いわゆるlate catch-upです。Fig. 2には前拡張後の造影です。拡張したstent内からdistalに向けて解離です。STも上昇し胸痛も出現しました。このような状況でIVUSやOCTで解離の様子を観察する先生もおられるようですが私はしません。解離が進行しないうちにさっさとstentを置くのが良いと信じています。Fig. 3はstent植込み後です。fractureが起きにくいとされるMedtronic社製のResolute integrityを古いステントを十分に覆うように植え込みました。全長を覆ったのは古いステントとの間にfractureの原因になる支点を作らないためです。

このケースではPCI前にOCTで評価をしていました。stent distalからstent内まで同様のfibrousな一連の病変です。最近話題のinstentのneoatheroscrelosisでしょうか。こうした例ではinstent restenosisであっても解離が発生しFlow limitingになるということだと、このケースで理解しました。

最近、薬剤溶出性ステントの植込みから1年・2年と経過してきた人でLMT病変などのリスクの高いstentingではない人からパナルジンやプラビックスを止めようと思っています。ステント血栓症のリスクも高くないのに出血のリスクを冒すのは賢明ではないと思い始めたからです。しかし、Cypherを植え込んだ方についてはDAPTの中止を躊躇っています。非常に遅れてでもステント血栓症が発生するのではないかと心配だからです。また、逆にこのケースのようにステント内再狭窄の発生もCypherで多いのではないかと心配しています。役割を果たし功の大きかったステントですから否定的なことだけを言いたくはありません。しかし、Cypher植込み患者さんが今は最も心配です。幸いなことに2006年に開業した当院ではCypher stentを植込んだ方は多くありません。しかし、鹿屋市内には他院で1枝に3本も4本も植え込まれた患者さんが少なからずおられます。日本で発売された2004年から時日を経過しているCypher stent植込み患者さんが問題を発生した時の対策を考えておかなければなりません。

2012年12月12日水曜日

冠動脈MDCTによって変貌する冠動脈病の治療

Fig. 1 RCA evaluated with MDCT
 60歳代後半の男性です。午前6時40分、起床して間もなく胸痛があり、当日朝に受診されました。当日撮像した冠動脈CTがFig. 1です。軽度の狭窄が右冠動脈にあり造影剤の染みだしが認められます。plaque ruptureによるacute coronary syndromeと考え入院して頂きました。近医より降圧剤とスタチンを処方されLDLは108mgです。

入院から2日後の本日、CAGを行いました。Fig. 2はコントロール造影です。矢印に示す部位に解離を思わせるslitが認められます。Fig. 3はエルゴノビンによるスパスム誘発試験です。陰性ですので早朝の胸痛ですがスパスムらしくはありません。

そこでOCTで評価しました。9時から2時位でしょうかlipid poolがあり11時位にruptureによると思われるcapの破綻と空泡化が認められます。
Fig. 2 Control CAG befoe Ergonovine IC

CTで冠動脈の評価をしていなかった頃、早朝の胸痛で、スパスムの誘発が陰性であったならばどうしただろうと思います。Fig. 2のslit様に見える影は1フレームだけで認められました。プラークラプチャーだろうという目で見ていなければ見落としていたかもしれません。このため心配ないよと帰していた可能性もあり得ます。また、CTの所見がなければOCTまではしなかっただろうと思います。

CTの所見、OCTの所見からplaque ruptureと診断しました。既にスタチンを内服していますがLDLは108です。strong statinに変更し、80程度まで下げなくてはと思っています。また鹿屋ハートセンターから車で5分位のところにお住まいなので胸部症状の発現時にはすぐ相談して頂くようによく説明するつもりです。
Fig. 3 After Ergonovine IC
 この方に限らず、CTでこのような所見を見てスタチンを強力に処方する患者さんが増えました。PCIが必要な狭心症の方を見つけているというよりもスタチンが必要な冠動脈病変を見つけているという方が冠動脈CTの大きな意義のように思えます。

当院で何人の方にスタチンを処方しているかは数えていませんが、おそらく400名ほどではないかと想像します。もっとかもしれません。

このケースは胸痛のあったケースですが、冠動脈MDCTを使うようになり日常診療に変化が生じています。有症候の狭心症に対する治療、無症候性心筋虚血に対する治療から、冠動脈CTを駆使して虚血を伴わない冠動脈病の治療へと意識が変わってきました。
Fig. 4 OCT imaging

2012年12月11日火曜日

地方でPCIの技術を高めること

Fig. 1 Right Coronary A. evaluated with MDCT
大リーグ テキサスレンジャーズに移籍したダルビッシュ有選手は、デビューの年である2012年のシーズンを16勝9敗という素晴らしい成績で飾りました。150km/h近い速球を投げられるだけではなく数種類のカーブ、フォーク・ツーシーム、スライダーなど多彩な変化球をも合わせ持っています。速球の球速が衰えたから変化球で交わす投球術を覚えたという後ろ向きの発言をする投手もいますがダルビッシュの場合は異なります。より高みに臨むために種々の技術を習得し、磨きをかけたというべきだと思います。

私の仕事である冠動脈のカテーテル治療は、循環器病の理解やPCIの戦略の立て方等、頭脳を使うことも重要ですしもちろん技術も大切です。また多くの技術・戦術を持ち合わせていることで戦略の構築も変化します。頭を使うことと、手を使うことは車の両輪です。
Fig. 2 simultaneous CAG before PCI 

 狭窄性の病変と比べて治療成績が格段に低かった慢性完全閉塞に対するPCIもretrograde approachの進化によって成績が向上してきました。永くPCIの世界にいる私にとってももちろん自分のものにしたい技術です。一方で症例数の少ない地方の施設ですし、10万人の人口に対して4つのカテーテル治療可能施設があり700件もPCIが実施されている鹿屋では慢性完全閉塞に遭遇することは多くありません。開業後6年を鹿屋ハートセンターは経過しましたが、この間にretrograde approachを試みた方は僅かに5例のみです。1例は2010年12月13日付の当ブログで紹介しました。年に1例あるかないかですからこの手技がうまくなる筈もありません。

Fig. 3 IVUS imaging after predilatation
昨日のケースです。3月ほど前から労作時の胸背部痛があり受診されました。心房細動もあります。当院の冠動脈CTで心房細動患者さんだからと評価できないケースは最近は稀です。Fig. 1に冠動脈CT像を示します。#4AVが起始部から完全閉塞です。石灰化はほぼ認めません。

Fig. 2は左右の冠動脈の同時造影です。回旋枝の末梢から良好な側副血行を認めます。

石灰化がないものの断端が幅広くantegrade approachではうまくいかないことも考えてretrograde approachの準備も整えてPCIを始めました。普段は使わない7FのガイドやCorsair、種々のガイドワイヤーなどです。

Fig. 4 After successful PCI
まずはantegradeからです。ワイヤーの通過に難渋するようであれば解離腔を形成し、ぐちゃぐちゃになる前にReteroに切り替えようと思っていましたが、すんなりとワイヤークロスに成功し、バルーン通過に難渋はしたものの前拡張も可能でした。前拡張後のIVUSをFig. 3に示しますが、すべて真腔を捉えていました。ステントを置いて終了です。

潅流域の大きな#4AVでしたが、側副血行や左冠動脈に負荷やリスクをかけずに治療できたわけですからもちろん良かったのですが意気込んでいた分、すこし拍子抜けです。

技術を高め、戦術を豊富に持ち、複数のオプションを持つ戦略を構築するというのはもちろん、患者さんに寄与しますが、一方で、うまくなりたいという医師の側の気持ちは、わがままかもしれません。症例の少ない地方でうまくならないのに、必要なケースが出てきた時にどう対処するかを考えなくてはなりません。経験豊富な先生に治療してもらうために鹿屋に来てもらうだとか、患者さんに行ってもらうというのが良いのかもしれません。人口が少ないがために症例数が少ない地方なりの考え方が必要なのでしょう。鹿屋のような田舎でダルビッシュが常勤して活躍できる場は構築できる筈もありません

2012年12月8日土曜日

救命の現場での医師が送る「気」

 数日前から重症心不全の患者さんの治療にかかりきりです。心筋梗塞の発症が何時か分かりませんがCPK値は低下し、ALTやLDHが若干上昇しているので数日前の発症でしょうか。苦しくなり始めたのは10日前ほど前です。肺動脈圧は60mmHgを超え、酸素飽和度も低いままなので気管内挿管し、PEEPをかけて人工呼吸器管理です。カテで治療できる冠動脈は治療しました。しかし、障害を受けた心筋はカテだけでは回復しません。もっと早くに来てくれれば、患者さんも医者も楽に治療できたのにと思います。でも既に過ぎたことを悔やんでも仕方がありません。今の状況に合わせて最善を尽くすのみです。

 最近、臨床心理学の先生と仲良しです。毎月開かれる勉強会になるべく参加しようと思っています。重症心不全の患者さんを管理する時に尿量のチェックは大切です。利尿が良ければ重要臓器である腎臓への血流量が確保されているということですから救命の可能性は高くなります。助かってくれよという目でバルーンカテーテルから流れ出てくる尿を見ています。尿量が少ないからと利尿剤やドパミンを使って尿量を確保しようとする時に、出てきてくれよと願いながらカテーテルを撫でたりしていると尿が出てくるのに、薬剤のオーダーだけしているとカテーテルを撫でたりするよりも尿の出が悪い気がしますという話をこの臨床心理学の教授に勉強会でお話ししました。するとその先生は「当然でしょ」と言われます。長い間、尿量を見るカテーテルに「気」を送っても尿量が増えるはずもないと思いながら、非科学と思いながら、念ずれば効果が上がるような気がすると思っていたことをバッサリと一言「当然でしょ」です。

 振り返って、救命できるかギリギリの患者さんを診る時にいくら「助かってくれよ」という「気」を送っても救命できない患者さんがいるのは現実ですが、そんなギリギリの状態ながら助かった患者さんに「助かってくれよ」という「情念」や「気」を送っていない場合もないなとも思います。医師が「助かってくれよ」という「気」を送ることは救命に十分ではないことは確かですが、必要なことだと思います。

 非科学であっても構いません。持っている知識と技術を精一杯駆使しながらも「助かってくれよ」という「情念」や「気」を送っても失うものはありません。「助かってくれよ」という「気」を精一杯送りましょう。

2012年12月7日金曜日

ニトロの舌下が有効な胸痛を繰り返すFFR=0.90の病変

Fig. 1 LAD evaluated with MDCT
70歳代の女性です。#6の50%狭窄という評価で 通院されていました。NTG舌下が有効な胸痛があるために撮像したCTがFig. 1です。非常に強い狭窄という訳ではありませんからカルシウム拮抗剤を使っていました。

心拍数が遅い方でなければほとんどのケースで私はジルチアゼム(ヘルベッサー)を選択しています。しかしヘルベッサー内服下でもNTG有効な胸痛があるために冠動脈造影を行いました。Fig. 2です。#6は75%狭窄でしょうか。FFRを測定しました。結果は0.90です。最近の考え方ではPCIをしない選択になります。先月のCAGです。

Fig. 2 Left CAG before PCI
しかし退院後も、内服下にニトロ舌下が有効な胸痛を繰り返すために再度、本日CAGを行い、今回はIVUSを行いました。Fig. 3です。 area stenosisは80%を超える高度狭窄です。輝度の高い部分も低い部分も混ざり、安定した病変ではなさそうです。今回はPCIを行いました。

 内服下にもニトロ舌下が有効な症状があるにもかかわらず、FFRの値だけでPCIを見送り、カテを1回多くしてしまったことになります。検査結果にとらわれて、症状を二の次にするという、よくある過ちであったと思います。

FFRが低値にならなかったのは最大充血が得られていなかったからとも言えますが、最大充血が達成できたか否かの判断は簡単ではありません。

症状があればどんなに軽度の狭窄でもPCIをしてしまうというのも誤りですし、症状があっても検査所見にとらわれすぎるのも誤りだと思われます。30年もPCIの世界にいるのに、こんなことを考えてしまいます。もっと洗練されなければいけません。

Fig. 3  IVUS before PCI

2012年12月2日日曜日

まともな社会人のキャリアがない人たちが中心の政治って何なのでしょうか?

 亡くなった私の父の最終学歴は尋常小学校です。母のそれは高等小学校です。母は成績が良く、一旦は女学校に入学したものの、学校に履いてゆく靴がないために下駄で通学したところ、うるさいから下駄では来るなと言われて通学を断念したそうです。戦争中のことです。その母の今の生きがいはネットを利用した株の取引です。たまに会うとラップトップに向かっており、現在の国際経済等を語っています。83歳になりました。母親を誉めると嗤われますが、勉強熱心な素敵な83歳だと思っています。

学歴も資格もなく、苦労した両親が私たち子供に期待したことは、教育を受け資格を取り、その資格を活かす仕事について一人立ちすることでした。こうした期待に応えるべく、私は医師の資格を取得し、医師という資格を活かしていくことを大切にしてきました。ちゃんとした教育を受け、まともな仕事について欲しいと思うのは至極当たり前の考え方で、私の両親が特別に変わっているとは思いません。

 総選挙の公示まで間もなくです。政権与党である民主党のリーダーの野田佳彦首相は早稲田大学の卒業です。私の父なら、私が早稲田を卒業したなら、ちゃんとした会社に就職しろよと言ったと思います。野田首相のお父上が何とおっしゃったかは知りませんが、野田首相は早稲田卒業と同時に松下政経塾に入塾し、5年間の塾生活が終わると2年間のアルバイト生活を経て県議選に出馬されました。私の父ならば激怒したと思います。苦労してよい大学に行かせたのにまともな就職もせずに何をしているのだと怒ったに違いありません。野田首相だけではありません。若手の有望株と言われる細野豪志政調会長も京都大学を卒業し、三和総研に就職したにも関わらず、弱冠28歳で静岡県三島で政治家を目指し始められました。坂本竜馬の時代の28歳とは異なり、現在の28歳はある意味で若造です。そんな若造が折角良い大学を出たのに就職を捨て政治家になるなどと言ったら、私の父ならやはり私をぶん殴ったに違いありません。やはり京都大学を卒業した前原誠司特命大臣も、慶応を卒業した小沢一郎元民主党代表もまともな就職をしたことがありません。

 こうしたまともに就職をしたことがない議員が多いのは何も民主党に限りません。自民党の安倍晋三総裁も国会議員の息子として神戸製鋼で3年間の勤務があるだけです。石破茂幹事長も2年間の銀行勤務だけです。そもそも父親が政治家であった彼らにしてみれば、この就職も最初から腰掛であったかもしれません。

 例えば、日本中どこで心筋梗塞になっても確実に適切な急性期の治療が受けられる日本を作ろうという政策を掲げるとします。目標は正しく、聞こえは悪くはありません。しかし、実現するためにはそのスキルを持った医師を養成するシステムや、病院や機材の整備が必要です。このためには時間もお金も必要です。こうした準備ができても現場の医師やスタッフの不眠不休の努力や、地方の人であっても等しく助かる権利がありそれを実現するのだという使命感が欠かせません。お題目だけでは何も実現できないのです。このようなことは医療だけではありません。農林水産業や、製造業、商業や金融でも現場を知らずにお題目を掲げても実現できない改革は枚挙にいとまがないと思われます。

 学校を出てすぐに政治家を志すということは許されないとまでは思いませんが、政治家になることを目的化して、政治家であり続けなければ食っていけないといった人たちに国政を委ねてしまうことに恐怖を感じます。まともな感覚を持って社会に巣立ち、現場を知り、現場における組織化等を学んだ人たちが国政には欠かせないのではないかと思います。そんな風に社会において成功をおさめた人が政治家を目指す筈がないとも思いつつ、そうした人たちでも国政で活躍できるシステム改革が政治に求められているように感じる現在の政治状況です。