しかし、日本の医療材料の供給にはかつてと変わらない問題点が改められないまま残っています。医療機関に対する置き在庫制度です。昔の富山の置き薬と同じような仕組みです。医療機関にある在庫の持ち主はメーカーであったり、ディーラーであったりで、使った分だけ医療機関は支払うというものです。この仕組みだと医療機関にとっては在庫するコストを負担しなくても良いのでメリットのあるシステムです。一方で、在庫リスクを顧みない医療機関が滅多に使わない、あるいはまず使わないものまで在庫するように求めるとディーラーやメーカーは在庫リスクを抱えます。日本のこうした仕組みのためにメーカーやディーラーは少なくないデッドストックを抱えます。あるメーカーさんから聞いた話では2.25㎜で長さ9㎜のステントは1000本作っても滅菌切れまでに使用されるのは3本程度だそうです。わずか0.3%の歩留まりです。こんな負担をメーカーに求めながら内外価格差を解消しろというのでは片手落ちです。日本の医療機関も国際的に見て標準的な在庫管理をすべきだろうと思います。
カテーテル検査に使われる診断カテーテルは2880円であったものが4月から2540円に償還価格が下がりました。およそ12%の値下げです。この価格から医療機関に納入される時にはある程度の値引きがあり、残った売り上げからディーラーの取り分や配送経費、製造原価や人件費がかかります。メーカーにはいくらの利益が残るのだろうと心配になります。かつてPCI件数の4倍程度が診断カテでした。しかし病院によってやり方は異なりますが、診断カテの代用としての冠動脈CTの役割が大きくなり診断カテは激減しています。当院ではPCI件数と診断カテのみで終わる件数の比は1:1程度です。日本のPCI件数は約25万件ですから、当院のようなスタイルが標準であれば診断カテ件数は25万件です。1件当たりのカテの使用が2本であれば診断カテの市場は50万本、12.7億円の市場ということになります。診断カテの割合はいくら多くても1:3程度でしょうからこの3倍、38.1億円にはならないだろうと思っています。
当院で使用している診断カテのメーカーさんの全国の市場シェアは約20%だそうです。ですからこのメーカーの売り上げは多く見積もっても10億円です。この中から値引き、ディーラーの取り分、全国への配送費、滅菌切れ、製造や営業に関わる人件費、製造原価を引けば何も残らないだろうなと感じます。こんなことを考えていると4月以前と同じ割合で値引きを求めることは酷だと考え要求しませんでした。間違いなく必要なものを作っているメーカーに倒れて欲しくないからです。現実にかつては診断カテを作っていたメーカーの中にも撤退したメーカーも存在します。当院に納入してくれているメーカーさんは製造コストを下げるために外国に製造拠点を移すそうです。日本の保険財政を維持するために国外の労働者にしわ寄せが行くのもいかがなものかと感じました。また、国外移転のために国内で製造に関わっていた労働者が職を失ってよいものだろうかとも思います。
日本の食料自給率は低いと言われています。そんな中で世界的な食糧不足時に自給率が低くて日本が守れるのかという議論があります。食糧安保等と言われている考えです。日本の保険財政を維持するために、必要な医療器具が日本で製造できないほど低い保険償還価格に抑えられつつあります。万一の事態に日本で必要な医療器具や薬品は手に入るのでしょうか。国内の製造業を維持する安全保障という考えは成立しないのでしょうか?
メーカーは叩けば叩くだけ良いのだと言わんばかりの保険償還価格の改定に何か不安を覚えます。
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