2018年3月13日火曜日

日本のTAVI実施施設137施設は妥当なのか?

長く狭心症と言われて多くの内服をしてきた方が最近、当院に入院されました。結果、冠動脈には狭窄はなく、心エコー上の最大圧較差が140mmHgを超える大動脈弁狭窄症でした。受診したその日に大動脈弁狭窄症であることが判明し、翌日には冠動脈に狭窄のないことが判明したわけですから診断まで2日間です。一方、狭心症と言われて内服していた期間は10年以上です。すぐに診断がつく病気ですから専門医ではない先生方は安易に狭心症と診断して内服を開始する前に是非、一度専門医に紹介して下さればと願います。

大動脈弁狭窄症は高齢者の病気です。根本的な治療である大動脈弁置換術に耐えられない方は諦めるしかなかった病気ですが、最近は経カテーテル的弁置換(TAVI)が可能になってきました。

TAVIに関しては2014年11月5日付当ブログ「TAVIの国内需要はいかほどで実施施設はどれほど必要か」で私なりの予想を書きました。この中で国内のTAVIの症例数は年間1500件ほどかなと書きました。図は循環器学会が実施した循環器疾患診療実態報告書に書かれたTAVIの件数です。2016年で1600件余りでした。2014年の私の予想を少し上回りました。おそらく2017年にはもっと症例数が増えるでしょうから将来は2000件程度で落ち着くのかなと思っています。

一方、TAVR関連学会協議会のWeb siteを見ると施設基準を満たした実施施設は2018年2月の時点で137施設と書かれています。仮に2000件のTAVIがあったとしても1施設当たり20件にも満たない症例数です。実際には年間100例を超える実施数の施設も存在する訳ですから、年間に10例も実施できない施設もあり得ます。これで十分に習熟した技術でTAVIは実施できるのでしょうか?

年間10例としてその医療費はおよそ6000万円くらいだと思います。この売り上げで心臓外科専門医を3名、循環器専門医を3名、CVITの専門医を1名抱えて、ハイブリッド手術室を整備してペイできるのでしょうか。設備も専門医も症例数が多くても少なくても必要な固定費です。なぜ、ペイする筈のない投資をする病院が多く存在するのか不思議で仕方がありません。

私は私立の病院が無謀な投資をすることにとやかく言うつもりはありませんが、137のTAVI実施施設には公的な病院も少なくありません。確実にペイできない投資を税金が投入される公的な病院に何故許されるのでしょうか。当地、鹿児島県のTAVI認可施設は大学病院と国立病院の2施設です。人口170万人の鹿児島県にTAVI実施施設は2件必要でしょうか?鹿児島県だけではありません。お隣の宮崎県の実施施設は大学病院と医師会病院の2施設ですが、人口110万人の宮崎県に2施設必要でしょうか?更に人口76万人の高知県にも公的病院と私立病院の2施設がTAVI実施施設になっています。公的病院の方は莫大な赤字が問題になっている病院です。

病院ののれんのために赤字必至の投資が税金でなされることに納得できません。また、診療の質が妙なのれんのために損なわれることにも危惧の念を覚えます。学会や会計検査院がこんな無謀な投資を制限すべきだと私は思っています。

追記: ブログのアップの後、情報をもらいました。2017年の日本のTAVI件数は約5000件だそうです。爆発的に増加しています。でも137施設で割ると1施設当たり35件程度ですからTAVI先進国のドイツの1施設当たりのTAVI件数200件と比較すると貧弱なのには違いはありません。

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