2011年1月8日土曜日

64列MDCTによるSVG狭窄に対するPCIの戦略決定。  Making PCI strategy to treat SVG stenosis using 64-row MDCT

Fig. 1 CT on 07, jan. 2011 VR image
 65歳の男性です。1998年にCABGを受けられました。LITA-LAD、SVG-CX、SVG-D1です。2008年6月から当院に通院中です。この方は初診時から心房細動でした。64列MDCT導入後、心房細動の方でもきれいに冠動脈を評価できると確信し、この方でもCTによる冠動脈の評価を実施しました。この方の冠動脈造影は当院では実施したことがありません。ただ、2008年6月に16列MDCTで冠動脈の評価をしています。ですから2年半ぶりの冠動脈の評価です。


Fig. 2 CT on 07, Jan. 2011 SVG-CX

  Fig. 1に示すVR画像では若干のartifactはありますが心房細動にしてはきれいな画像が得られました。画像には示しませんでしたがLITA-LADはきれいに開存しています。Fig. 2はCXに吻合されたSVG、Fig. 3はD1(第一対角枝)に吻合されたSVGです。両者ともAoの吻合部近くに狭窄を認めます。Fig. 4は2008年に撮影したD1に吻合されたSVGですが、今回のような狭窄は認めませんし気配もありません。このように比較すると狭窄は経年的に進行するのではなくある時から急速に進行するのかと思えます。ちなみにこの方のLDLはストロングスタチンであるリピトールの内服下で102mg/dlです。64列MDCT後に心房細動で冠動脈評価を行った方で評価にたえないという撮影はいまだありません。心房細動でも撮影時のレートコントロールとECG editorで克服可能という自信が深まりました。
Fig. 3 CT on 07, Jan. 2011 SVG-D1

  ではこの画像を受けてこの方の治療はどうすべきでしょう。MDCTによる冠動脈評価ではカテーテルによる冠動脈造影ではできないプラークの性状評価が可能です。CXに吻合されたSVGの狭窄部のCT値(HU)は67、D1に吻合されたSVGの狭窄部のCT値(HU)は108でした。極めて柔らかいプラークという訳ではなさそうです。病変長も短くdistal protectionなしでも拡張は可能のようにも思えます。しかし油断をすると痛い目に会うのが常です。distal protectionを行うことも十分に想定してPCIに入りことにしましょう。D1に吻合されたSVGの狭窄のdistalにはやはりプラークが存在します。distal protectionの実施時にはこのプラ-クの存在を意識してprotection deviceの選択、留置部位を決めなければなりません。
Fig. 4 CT on 27, Jun. 2008

 また、最近関心を持っているstent fractureですがRCAに最も多いと言われていますが、SVGも好発部位と言われています。RCAにように動きの激しい部位でのfractureではその機序は理解しやすいのですが、SVGではなぜ好発するのでしょうか。とはいえ、この例でステントを植込むことになっても短いステントで済みそうですから、fractureの可能性は低いものと予想されます。1例のPCIでも考えなければならないことは少なくありません。しかし、幸いなことに冠動脈造影を実施する前から、64列MDCTで多くの情報を得ることができるのでAd hoc PCIでもぶっつけ本番の治療にはなりません。MDCTによる冠動脈の評価はカテーテルによる冠動脈造影の代替になるかという議論はもう陳腐です。PCIを実施するための戦略を立てる際に冠動脈造影以上の情報をもたらすツールとして有用です。

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