循環器診療でよく使う薬剤にカルベジロール(アーチスト)があります。特に左室拡張末期径の大きな陳旧性心筋梗塞患者や拡張型心筋症の方に私も好んで使用しています。左室拡張末期径が60㎜を超えていたのにアーチストを内服している間に55㎜、50㎜と拡張末期径が縮小する方が少なくありません。このため、心不全という訳でもないのですが頻拍傾向で左室拡張末期径が大きめの高血圧の方にも好んで処方しています。
1年ほど前でしょうか。高血圧でアーチストを5㎎内服している方で、この処方が査定を受けました。2.5㎎錠を2Tで5㎎内服していたのですが2.5㎎錠には心不全の適応しかないからだそうです。10mg錠を1/2錠の処方であれば査定を受けません。きちんと包装された薬剤の処方は許されず、包装をといて1/2錠にすれば保険診療として認められるというのです。
高血圧にアーチストは適応があるという表現は正しいですし、心不全にも適応があるという表現も医学的に自然です。しかし、10m錠の1/2錠は適応があるが2.5㎎錠 2錠では適応はないという表現は医学的にうなづけません。これが保険診療を行う医師が守るべきルールだというのはおかしな話です。
2011年8月30日付当ブログ「心房細動患者に対するプラザキサの使用」で私は、高齢者には1日の処方を75㎎錠 2錠にするのが良いのではないかと書きました。しかし、この処方は保健薬の認可の条件とは異なるために認められません。Re-ly試験での処方が1日量、220㎎と300㎎しか検討されていないからです。1日150㎎の処方の検討がないので有効性が不明だという理屈になるのだと思います。
心房細動患者に対するワーファリンと第Xa因子阻害剤であるapixabanとの比較試験の結果がNew Engl J medに発表されました。
Apixaban versus Warfarin in Patinets with Atrial Fibrillation です。
このARISTOTLE試験では 1) 80歳以上、 2) 体重60kg以下、 3) CRE 1.5mg/dl以上の3つの項目のうち2項目以上が当てはまる場合にはapixabanの処方量を半量に減らしています。この結果、全身の塞栓症の発症はapixaban群で年率1.27%、ワーファリン群で年率1.60%で有意にapixaban群で塞栓症が少なかっただけではなく、major bleedingもapixaban群で年率2.13%、ワーファリン群で年率3.09%と有意にapixaban群で少なかったことが報告されています。Re-ly試験の220㎎投与群のmajor bleedingは年率2.71%ですからapixabanでの年率2.13%はdabigatranよりも優れた結果だということができます。
この結果を見て、Dabigatranでも高齢者や腎機能不良例、低体重者で半量投与が行われていたならばどんな結果になっていただろうかと考えます。Re-ly試験での患者の平均体重は83㎏です。この体重で検討された結果で、日本での投与量を決定されているわけですから恐ろしい話です。50㎏の80歳の女性に体重あたりの同量を処方しようとすれば220mg X 50/83 = 132.5mgとなります。 私が高齢の痩せた方には1日量150mgが妥当ではないかと思う理由がこれです。
日本人とは体重のベースが異なるRe-ly試験の結果で、Evidence-Based Medicineと称して日本人に対する投与量を決めてしまうのは馬鹿げた話のように思います。この馬鹿げた論理の上に保険診療が査定されるのであれば投与される患者さんも処方する医師も救われません。Dabigatranの内服後の5例の死亡を受けて日本循環器学会が発表した緊急ステートメントでも投与量は1日220㎎のままです。apixabanやDabigatranは心房細動患者の診療を今後変える重要な薬剤です。1日量150㎎が有効か否かのEvidenceがないのであれば、これらの薬剤や、患者を守るために国内でtrialを実施すべきと考えます。
当院でプラザキサを処方している唯一の患者さんは80歳を超える痩せた方です。保険で査定されるかもしれないと思いましたが、そんなことよりも患者が優先です。1日150㎎の処方に変更しました。
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