2012年9月7日金曜日

紹介医に無断で実施されたPCIには、上質どころかもっと根源的な問題がありました。

2012年9月4日付当ブログ「上質は細部に宿る」に記載したケースで、送ってもらったCDが読めなかったことを記載しました。この日、その病院にも読めなかった旨を電話でお話しし、新しいCDを送ってもらいました。手間をかけさせたと恐縮しています。

図はその病院におけるPCI前の造影です。確かに左前下行枝に狭窄を認めます。この程度の狭窄であれば私は50%狭窄と読むことが多いですし、75%狭窄と読んでも良いかとも思います。紹介医に無断で、大動脈瘤の手術で紹介された患者のPCIを実施してしまうこと、DES植込み後のDAPT内服の説明が十分ではなかったことに不満はありましたが、もっと気になっていたのは自分の責任です。PCIを要する患者さんの冠動脈を評価せずに血管外科に紹介してしまったのだろうかと気に病んでいました。PCIを受けたと聞いた後、紹介状を見なおしました。添付していたCTでは冠動脈を評価しており、PCIを要するような病変はないと判断して紹介していました。外科に紹介する時に紹介医である自分の怠慢で、患者さんに思いがけない合併症が発生しないように評価するのも大事な責任と思っています。外科に紹介した患者さんが亡くなられた時には、その責任は外科医だけではなく紹介した自分にもあると思っています。

大動脈瘤の手術に際して冠動脈を評価し問題ないだろうと判断し、実際に問題なく手術は成功しました。その後、全く無症状であるにもかかわらず大動脈瘤の手術のために紹介した病院でPCIは実施されました。主治医言わく、狭窄のある旨を説明し、内科的治療という選択もあると説明した上で、希望されたので実施したとのことでした。私なら、この程度の病変であれば症状が出てから、あるいはCTで狭窄の進行を見ながら治療の時期を考えましょうと説明したと思います。事実を説明しての患者の選択と言えば医師に責任はないように聞こえますが、事実の評価が異なれば、患者さんは目の前にいる医師の説明によって誘導されます。こんな風に考えると説明に基づいた患者の同意 Informed consent 等はいい加減なものだと思えます。

この図に示した造影像は拡張期のものです。確かに収縮期には内腔はペチャンコになっています。しかし、拡張期の像で狭窄度を評価するのは冠動脈疾患に関わる医師にとって常識です。収縮期にペチャンコになっているのはmyocardial squeezingの所見です。こんなことも知らずにPCIの適応を決めているのでしょうか、あるいは意図的に高度狭窄と言っているのでしょうか。PCIの適応を甘くし、症例数を増やしたところで1円も給料が上がるわけでもない勤務医が何故このようなPCIを急いで実施したがるのでしょうか。このようなPCIが実施されていると、PCIをやっている医者は無駄なPCIで患者のリスクを増やしていると非難されても仕方がないと私でも思ってしまいます。こんなことになってしまうのは、診療報酬審査では適応そのものは審査されていないという体制が根本の理由かもしれません。1例でも多くのPCIの経験を積みたいだとか、1例でも症例を増やして病院上層部から評価されたいなどという患者側に立たない動機を持たないよう、自分を律してゆかなくてはなりません。

2 件のコメント:

  1. 症状がどうであったのか、RCAがどうだったのか、FFRがどうだったのか・・・
    狭窄があるのは間違いないと思いますし、このANGIOから考えれば内腔狭窄はある程度以上多分MLDで1.5mmぐらいではないかと思います。
    大動脈瘤症例、であればbaselineの動脈硬化状況はかなり進行状況とも考えます。
    ここまで考えると、この症例から新井先生の言われる懸念には僕とすれば直結はできないようにも思います。
    もちろん先生の懸念は十分理解できたうえで、です。

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  2. コメントをありがとうございました。全くの無症状の方です。他の冠動脈は綺麗で1枝病変です。FFRは0.78だったそうです。FFRの値から言えばPCI実施の妥当性はないとは言えません。ところでmyocardial squeezingでペチャンコになるケースのFFRはどのように表現されるのでしょうか?

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