2013年7月8日月曜日

Ad hoc PCIを実施するケース、実施しないケース

Fig. 1
冠動脈造影を実施し治療が必要な狭窄があればその場でPCIを行うことをAd hoc PCIと呼びます。かつてはこのAd hoc PCIを行うことはまずありませんでしたが、最近は基本的にこの形でPCIを行っています。Fig. 1の方は本日のケースですが#7に高度狭窄がありその場でPCIを行いました。Ad hoc PCIの利点は冠動脈造影の回数を1回減らせるので入院に関わる日数や費用を減らせることです。欠点は十分な吟味をせずにPCIを施行することで適応が過剰になったり、治療戦略を誤ったりすることです。この欠点があるためにかつての私は基本的にAd hoc PCI
Fig. 2
を実施しませんでした。しかし、最近のPCIの多くをAd hocでするようになったのは冠動脈CTで情報を得られるようになってきたからです。Fig. 2はこの方のCT像ですが、LADの1枝病変であり完全閉塞でもなく石灰化もきわめて強いという訳ではありません。場合によってはCAGで得られる以上の情報をCTで事前に見ているわけですから、CT登場以前のAd hocとは全く異なる戦略だと思っています。外来でCTを用いて冠動脈の解剖学的な特徴を知り、2剤の抗血小板剤やスタチンを開始して臨むPCIです。更にほぼ全例にIVUSを実施していますからPCIのために日を改める必要性を感じません。

Fig. 3
Fig. 3の方は強い胸痛の2日後に受診された別の方です。CPKの上昇と心エコーで後壁の壁運動異常を認めました。発症2日後の心筋梗塞と考え、ヘパリン化、DAPT、スタチン投与後に待機的にCAGを行いました。CTは実施していません。回旋枝に高度狭窄を認めるだけではなく、右冠動脈にも前下行枝にも高度狭窄を認めました。責任病変と考えられる回旋枝についてはIVUSガイドでその場でPCIを実施しましたが、他の2枝については日を改めることにしました。流石にCTなしに(CT画像があったとしても)Ad hocで3枝の治療をすることはありません。特にLADの分岐部病変にどう立ち向かうかについてよく考えなければという思いもその場で治療しなかった理由です。

LADはdiffuseに狭窄しそこから潅流域の広い対角枝が出ています。このLADの血管径が2.5㎜なのか3㎜以上なのかでも戦略は変わってきます。また右から治療するのかLADから治療するのかも考えなければなりません。考えなければいけない余地のある病変では安易にAd hocで治療してはいけないと思っています。

Fig. 4
このケースのPCIまでこの画像を何度も何度も見て治療の順序と、LADの分岐部の対処を考えました。考えた末、RCAの治療を先行させることにしました。RCAの治療はステントを用いることでほぼ成功は約束されているのでこちらの治療が時間がかからず終了すればLADの治療を引き続き実施するという順序です。LADに関してはIVUSでLADの血管径を末梢から把握したうえでdouble stentのあり様を決めることにしました。

PCIの実際ですがRCAの治療はスムースに終わりました。ついでLADですが対角枝の分岐よりも末梢のLADの血管径はIVUSで評価して2.5㎜ギリギリでした。大きな血管径の中でdouble stentの操作ができる訳ではありません。両者の前拡張後にfig. 6のように対角枝にstentを先に入れ、LADにもバルーンを置いてmini crushの形にして植込みを行いました。LADの血管径が小さければこのように処理しようと考えていたのでガイディングカテも当院では珍しく7Fを使用しました。初回のPCI後に考えていた通りの手順です。

Fig. 5
多くのPCIが術前のCTの評価でAd hocで可能と思っていますがやはりAd hocが適さない病変が存在します。LMTであったりCTOであったりこのケースのようなbifurcationであったりでしょうか?

自分のポリシーはAd hocだなどと決めてかかれば治療戦略は硬直化します。当たり前といえば当たり前ですがケースバイケースだと思います。

平均在院日数の短縮化や入院コストの低減化なども重要な課題に違いありませんが、優先されるべきは安全で確実な治療の完結です。

硬直を排して患者さんに向き合いましょう。
Fig. 6





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