2013年11月7日木曜日

大事な薬を「悪」とは呼ばないでください

図は、先日 鹿屋で講演させていただいた「ワーファリン派の私が考えるNOACの位置づけ」の中で使用したスライドです。クレアチニンクリアランスは11ml/minです。現在使用可能なNOAC3種ともこのケースでは使用禁忌です。この方の心房細動に対する抗凝固療法はワーファリン以外では実施できません。INRの変動はあるものの1.6-3.0で良しと考えれば90%ほどの期間が治療域に入っています。また、2.0-3.0を治療域と考えても70%ほどの期間は治療域に入っています。結構良いコントロールができていると思っています。

このように抗凝固療法が必要だけれども新規抗凝固薬では禁忌のためにワーファリンを使わざるを得ないケースは少なくありません。Re-ALIGNでは機械弁患者でワーファリンとダビガトランを比較し、ダビガトラン群で出血や塞栓が多く、試験は中止されました。FDAでは機械弁患者でのダビガトラン使用は禁忌にするとも聞いています。機械弁患者の抗凝固療法でもワーファリンが唯一の有効な薬剤です。ですから私は勝手にOnly One Oral AntiCoagulant(3つのOの抗凝固剤、TOAC)と呼んでいます。

ワーファリンでのみ抗凝固療法が実現できている患者さんが内服している薬のことを「悪ファリン」と呼ばれたらどんな気分でしょうか。他の薬に替えてくれと思わないでしょうか、また、悪い薬を内服しないといけないと不幸に感じないでしょうか?

新規抗凝固薬は薬価も高く、製薬メーカーにとってはその収益に大きく関わるので宣伝のために講演会が盛んです。その中でワーファリンでしか抗凝固療法ができない患者さんが少なくないにもかかわらずワーファリンのことを「悪ファリン」だと言う先生が少なくありません。ある先生は、機械弁でワーファリンを内服していた方が大きな脳出血を起こしたとCT画像を示しながらよく講演されます。この患者さんには代替薬はなかったのにもかかわらずです。

近所づきあいが悪い(他の薬剤や食品との相互作用が多い)、気分にむらがある(効果が安定しない)等と欠点のある薬ですが、何十年も唯一の抗凝固薬として役割を果たし、今もワーファリンにしか救いを求められない患者さんは少ないないのですから、これからも循環器医にとってワーファリンは欠かすことができない重要なパートナーである薬剤です。

どんなに新規抗凝固薬の成績が良くても、その恩恵にあずかれない方が少なからず存在します。そうした患者さんに思いをはせれば、「悪ファリン」などとは言えないと私は思います。利益を追求する製薬メーカーの提灯を持つのは結構ですが、提灯を持つためにワーファリンにしか救いを求められない患者さんの存在を忘れる提灯持ちを私は軽蔑します。

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