2015年5月29日金曜日

私の目指す心房細動患者に対する抗凝固療法 Anticoagulation at minimum bleeding risk for Atrial Fibrillation (2)  より高いTTRを実現するために なんちゃってTTR(%TR)の勧め

脳塞栓症を減らすために、逆に脳出血を増やすようなことがないように適切な目標PT-INRを設定しても十分ではありません。ワーファリンによる抗凝固療法は不安定であり、測定のたびにPT-INRの値は変化します。食生活に大きな変化がなくても、他の薬剤を内服していなくてもです。抗凝固している期間の何%の日数が治療域にあったかが重要です。TTR (Time in Therapeutic Range)です。

TTRが高ければ脳卒中の発生は少なく、TTRが極端に低ければワーファリンを内服していない群よりも多くの脳卒中が発生すると言われています。TTRが50%程度であればワーファリンを処方されていない患者と比べて優位性はなく最低でも60%以上の管理が必要とされています。 (図1)

図2にINRが上がったり下がったりするケースをシミュレーションしました。INRが1.9から3.1に変化したような場合、治療域を横断している訳ですから治療域に存在した期間が当然存在します。直線的に変化したとして治療域に達していたであろう期間を想定する訳ですが、計算は相当に面倒です。Excel上で計算できるマクロも公開されていますが、自施設のTTRは幾つですよと公開してる病院はあまりありません。

鹿屋ハートセンターでは現在200名以上の方に対してワーファリンによる抗凝固療法を行っていますが、個々の患者さんのデータをExcelに入力し、個々の患者さんのTTR(iTTR)を計算していません。ですから施設のTTR (cTTR)も当然計算していません。

では個々の患者さんのPT-INRのコントロールが良好なのか、施設のTTRが適切なのかまったく評価していないのかと言われればそうではありません。図2に示すように仮に12回の測定機会があれば何回、治療域に入っていたかを見ています。何%の回数が治療域に入っていたかを見た数字です。一応%TRと私は呼んでいます。なんちゃってTTRです。図2の本当のTTRは70%を超えますが、%TRは8%です。大きく解離するので%TRは信頼できないのでしょうか? 私は図2のようなケースのTTRが70%を超えているから良好なコントロールとは思いません。変動性が高く、こうしたケースの脳卒中リスクは低くないと判断し、次の手を考えなければと思います。そう思えば%TRが低いという方が患者さんのためになると考えています。このケースのように多くの場合%TRは本当のTTRよりも低値になります。ですから%TRが70%を超えていれば間違いなく本当のTTRも70%を超えており、良好なコントロールができていると胸を張れると思っています。%TRは本当のTTRとよく相関し、少し小さな数値になる指標で十分にワーファリンコントロールを評価できる指標と考えています。

例外的に%TRが本当のTTRよりも高くなる場合は図3のようなケースです。治療域を横断するような変動がなく治療域の上下でうろうろする場合です。このように%TRが本当のTTRを上回る場合がない訳ではありませんが、現実のケースではこのようなケースは発生しません。図2のような場合には当然ワーファリンの量を増やすからです。

%TRを算出するのは簡単です。個人の%TRなら過去の検査結果を数えて割り算するだけなので1分もかからずに暗算で算出できます。また施設の平均%TRを見るのも簡単です。施設の平均%TRは、全測定機会の何%が治療域に入っていたかです。全患者のある期間の測定機会が3000回だったとします。治療域に入っていた回数が2100回であれば、個別に%TRを算出しその平均を出さなくても施設の%TRは70%に決まっています。また3000回で見なくてもそのうちの100回をランダムに抽出して見れば、%TRが70%の施設であれば100回のうち70回は治療域に入っていることが確認できる筈です。

現在、鹿屋ハートセンターには毎日10名強の方がワーファリンを処方されて通院されています。最近では、治療域を逸脱するPT-INRを見ることは1日に1人いるかいないかです。ですから最近の鹿屋ハートセンターの平均%TRは90%を超えていると思っています。以前は70%程度だったのが90%を超えるようになった理由は簡単です。%TRの低い方のほとんどでワーファリンによるコントロールを止めてNOACによる抗凝固療法に変えたからです。

NOACの成績が語られる時、良好にコントロールされたワーファリン群と比べて同等ないし良好な有効性を示し、安全性は上回っていると言われますが、図4に示すようにせいぜい60%程度のコントロールです。通院されている方で見れば、10人の患者さんがいたら毎日3-4人の方が治療域を逸脱しているようなコントロールです。その程度のコントロールのワーファリンと比べて良い成績でしたと胸を張るのは少し違うかなと思っています。

次回は鹿屋ハートセンターの設定した1.6-2.6というPT-INRの目標域で、かつ70%を超える%TRで得られた2年のフォローアップの成績を基に議論を進めようと思います。








1 件のコメント:

  1. 新井先生 いつも勉強になる記事、ありがとうございます。当院でも薬剤師さんを中心に、昨年1年間のWarfarinのデータを整理していただいて、表4に比べ、「思ったよりいいコントロール」という印象です。出血性イベント、血栓性イベントについてもNOACメーカーの提示データよりもよいコントロール下においての比較もみてみようと考えています。
    確かに、コントロール不良群はNOACに移行しましたので、今後、どのようにデータ集積がされるかというところも気になります。

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