2018年2月20日火曜日

彼を知り己を知れば百戦殆うからず 急性心筋梗塞に対する治療戦略

Fig. 1 入院時心電図

 昨日、CT検査を先行させた急性心筋梗塞のケースをブログにあげましたが、そういえば以前にもCTを先行させたケースがあったことを思い出しました。

午前1時位に胸痛があり午前2時前に救急車で来院されました。Fig. 1は受診時の心電図です。誰がどう見ても前壁梗塞です。ではなぜすぐに冠動脈造影をしなかったかと言えば左右の上肢に著明な血圧の左右差があったからです。

胸背部痛で救急搬送される方の血圧の左右差は救急隊員が必ずチェックして連れてこられます。救急隊員の第一印象は大動脈解離でした。明らかな前壁梗塞と血圧の左右差です。

大動脈解離に伴う急性心筋梗塞はほぼ右冠動脈の閉塞ですが、前壁梗塞も絶対ないとは言い切れません。心筋梗塞を伴う大動脈解離であればよほど特殊な状況でない限り緊急手術です。このため心電図だけを信じないで大動脈の評価を先行させたのです。

Fig. 2 緊急CT
Fig.2は先行させたCTです。
図には示しませんが大動脈解離はありませんでした。図に示すように左の鎖骨下動脈の閉塞でした。大動脈解離がないことが分かれば安心して心筋梗塞に向き合えます。

Fig. 3は初回造影です。左冠動脈前下行枝の近位部の99%狭窄でステント植込みを行い、その後は順調に経過しました。この方の場合、発症からステント植込みまでおよそ2時間20分、Door to Balloon時間はCTに寄り道したにもかかわらず70分程でした。

この方も昨日のケースと同様に初回の心エコーではAkinesisであった前壁は退院時には正常壁運動になっていました。

血圧の左右差のある急性心筋梗塞といった特殊な状況にあるケースでは間違いなくCTを先行させた方が良いと考えます。
Fig. 3 緊急CAG

「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」です。

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