Fig. 1 Rt-Renal Artery wvaluated with 64-row MDCT |
心エコーで評価した、心機能は、左室拡張末期径が60㎜、左室駆出率は45%と若干の収縮能の低下と左室の拡大を認めます。ドップラーで評価した推定右室圧は33㎜Hgでした。Creは0.84mg/dlです。
この方が、2度、急性の起坐呼吸で夜間に救急搬送されました。ラシックスを1A IVするだけで翌朝にはケロッとして帰りたいと言われます。この程度の心機能でなぜ強い心不全を起こすのか不思議でした。腎動脈狭窄によるcardiac disturbance syndromeを疑いましたが、エコーで評価したPSVは速くありません。1度目の心不全時にはこのまま退院としましたが、2度目の心不全時に、CTで腎動脈を評価しました。結果が、Fig. 1です。右腎動脈の末梢に強い石灰化を伴う狭窄を認めます。
Fig. 2 Rt-Reanl A. before dilatation |
心不全を繰り返したり、多数の降圧剤を要する腎動脈狭窄に対して鹿屋ハートセンターでも数十例の腎動脈ステント植込みを行ってきましたが、ほとんどのケースは腎動脈入口部の狭窄です。本例のような末梢病変でcardiac disturbance syndromeを呈する患者の経験がないために、この部位の拡張に意義があるかどうか確信が持てませんでした。診療において重要なことの優先は、1) 病気を見つけ診断すること、2) 治療をすることで得られるものが失うものより大きいと判断すること(適応を決定すること)、3) 治療をきちんとすることの順番だと思っています。狭窄を見つけることに手間取りましたが拡張することは容易です。しかし、これで患者さんにメリットがあるのかどうか、判断がつかなかったのです。
Fig. 3 Rt-Renal A. after dilatation |
腎動脈の治療に多くの経験がある札幌心臓血管クリニックの藤田勉先生(2夜連続の登場です、許可なく名前を出していることを許してください)に電話をして意見を聞きました。やる価値があるのではないかとのご意見でした。この意見を受け入れて、実施したのがF1g. 2、Fig.3です。狭窄部は固く末梢用のバルーンが通過しないために冠動脈用のバルーンを使用しました。病変が固く2.5㎜径のバルーンで高圧で拡張してようやくindentationはとれたもののExtravasationを起こし、3.0㎜バルーンで長時間の低圧拡張を実施し、止血もできました。実施したのは2011年4月初旬です。
腎動脈用のステントの最小径は4.0㎜でこのような末梢病変の治療を想定していません。本例のような末梢病変由来のcardiac disturbance syndromeが存在するとしたら、治療用のデバイスもそれに合わせてラインアップしなくてはなりません。また、診断も腎動脈本幹のドップラーによる評価だけでは不十分だということになります。このような病態が存在するのなら腎動脈狭窄に対する診療のあり方が大きく変わります。
いつも先生のブログを拝読しております。
返信削除福岡県内に勤務している循環器内科11年目です
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このような末梢病変でcardiac disturbance syndromeが起こっているとすれば、今後のPTRAの適応が大きく変わるでしょうね。
この症例では、MRはどの程度だったでしょうか。
LVEF45%と軽度の低下ですが、LVDdは拡張しているし、治療後でももともとは重症虚血心だったでしょうし、拡張障害は強いと思われます。
心不全の特に急激にMRが増加することもあるかなと思いました。
コメントをありがとうございました。安定した状態ではMRは認めません。しかし、腎動脈狭窄による急激な血圧上昇時には、LVEDPの上昇やMRが発生しているのだと私も考えています。α刺激剤で血圧を上昇させて、再現してみたいと思わなくもないのですが、そうした検査に臨床的な意義があるのだろうかと思います。医師の興味のために患者に負担をかけてはいけないと思っています。でも、先生の言われる病態が起こっているのだと私も信じています。
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