9/28付当ブログ「冠動脈CT検査のプロトコールを変更することにしました」にコメントを頂きました。CTで高度狭窄に見えたのにCAGでは軽かったという現象は、ACSでよく見られる所見なので私がspasmではないかと書いたのは間違っているのではないかというコメントです。
私もCT所見を見た時にACSと考え、2剤の抗血小板剤だけではなくヘパリン化も開始していました。 その後の造影ですからこてつ様のコメントのようにACSの血栓が溶解しただけではないかというコメントは頷けるのです。しかし、今回、私はspasm説に傾いています。ACSのCT所見では不整形の狭窄の中にdensityの低いplaqueが見られることが多いと理解しています。場合によってはplaque内に染み出す造影剤が見えることもあります。今回のケースではplaqueのdensityはさほど低くなく、狭窄形態も不整ではありません。これがspasm説に傾いた理由です。でも血栓が溶けたという可能性は排除できません。
一方、NTG舌下後のCTにプロトコールを変えることでspasmの可能性は排除できます。排除できない2つの可能性があるよりも病態が1つに理解できた方が良いだろうというのが今回のプロトコール変更の理由です。
ただ、心の中にはspasmの最中のCT所見はどんなものだろうという好奇心は残っています。spasm時のCT所見を知っている循環器医は存在するでしょうか。今回の私のようにきっとspasmが発生していたのだろうというCT像を見たことがある先生は存在しても、spasmを誘発して、確認した状態でCTを撮る医師はいないだろうと思うからです。近い将来、spasmの可能性を排除した状態でもう1度CTを撮ってみるつもりですが、今回の像との差分で真相に近づけるのではないかと期待しています。もう一つのコメントを頂いた匿名様の、狭窄部のpositive remodelingという所見がひょっとしてspasm発生時のCT所見ではないかと考えています。馬鹿なことを言うなと思われる先生が多いだろうというのは百も承知ですが、誘発されて確認された冠動脈造影像(内腔像)は何度も見ていてもその状態の冠動脈壁を知っている先生はいるでしょうか。これを知ることは難しいことだと思っていますが興味は尽きません。今回のCT画像と、近い将来のspasmを排除した状態でのCT画像の差分がこの答えをくれるのではないかと期待しているのです。
spasmを集中的に研究された前熊本大学教授の泰江弘文先生は、飲酒状態や喫煙状態の冠動脈造影や、深夜や早朝の冠動脈造影、過喚起状態や寒冷刺激時の冠動脈造影などを実施されました。 場合によっては非常識とも思えるこの精力的な研究の大半は市中病院である静岡市立病院で行われました。批判はあるにしても泰江先生の切り開いた地平の意義は大きいと思っていますし、泰江先生の飽くなき好奇心には敬服します。
2006年10月2日に鹿屋ハートセンターはオープンしました。丸5年が経過したわけです。開業医と呼ばれるポジションになりましたが、冠動脈造影・冠動脈CTやPCIに携わる現役の循環器医です。私のところで働く先生が出現すれば、その先生は勤務医になります。勤務医と開業医を隔てるものは医療の内容ではありません。オーナーシップを持っているか持っていないかの違いだけです。現役の冠動脈疾患に携わる医師として失いたくないものは「好奇心」です。私の能力では泰江先生のような大きな仕事はできないでしょうが、常に好奇心や興味を持ち続けることが小さな1つの知見であっても何かを明らかにすることに繋がるのではないか、繋げたいという意欲を持ち続けたいと思っています。 好奇心を持ち続けるために大事なことは、知らないことを知った顔をして納得しないことだと思っています。
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