2013年10月10日木曜日

顧客の (この場合患者ですが、) 安全を考えない企業は製薬メーカーにも存在しました

 高速道路で自動車を運転する時にR=300のカーブを時速80kmで走行するのだからハンドルを何度切ればよいか等と考える人はいません。視覚情報で修正しながらハンドル操作を無意識に実行しています。これと同じで冠動脈のカテーテル治療時のワイヤー操作なども1cm先に分岐があるからそこでワイヤーを何度回転させて等とは考えていません。視覚情報から指の操作を修正してワイヤーを進めています。運転と同じようにほぼ無意識の操作です。

このように無意識に操作しているのはワイヤーだけではありません。冠動脈造影をする時に太い血管で血流が豊富な時には同じ強さで造影剤を注入すると十分な造影ができないために、十分な造影ではないと判断すれば自動的に強く造影します。また、小さな血管であれば力を弱めて造影しています。これも長年の間に身体にしみついています。こうした感覚を若い先生にも身につけて欲しいので、最近 流行ってきた自動注入器による造影は当院では導入していません。ただ、OCT検査時の造影剤注入のために導入しようかなどとは検討しています。

冠動脈に造影剤を注入する時に神経を使っているのは空気が混入しないようにすることです。エアーの入っていない閉鎖回路であっても万一のエアー注入を避けるために造影剤を打ち込むシリンジのお尻は常に上方に向けるのです。これも体に染みついた動作です。

当院では造影剤検査後のボトルのゴミの分量を減らすためにプラボトルを使用してきました。ゴミも減少し、気に入っていたのですがある時からラインとボトルの接続部からエアーが入ることが多くなりました。患者にリスクを負わせる問題なのでラインメーカーにクレームを入れたところ、実験をしてくれました。トルクの測定器をつけたコネクターをプラボトルに接合しどのくらいの力でエアーが入るほど変形するのかを調べてくれました。図です。問題はラインのコネクターではなくボトルのコネクターでした。わずかな力で変形し、そこからエアーが混入していたのです。

プラボトルの造影剤のメーカーは国内3位の製薬メーカーです。大企業です。エアーの混入で患者に大きな問題が起きないように当院ではガラスのボトルの造影剤に変更しましたが、メーカーには他のユーザーのところで患者の生命に関わる重大事故が発生する前に製品を回収し、プラボトルのコネクター部を修正した上で再発売するのが良いと思うと話しました。

昨日、メーカーの方が来院されました。製品はそのまま発売し続けるとのことでした。そしてこの製品にはエアー混入の報告があったので注意して使ってくださいとアナウンスするということでした。

呆れました。患者の生命に関わる事故に繋がりかねない欠陥を持っていながら発売し続けるという判断もそうですが、事故が起きた時に医師には注意喚起していたのだから事故が起きたら医師の責任だという考えが見え見えだからです。患者という顧客・医師という顧客双方に対する背信です。
説明に来られた東京本社の担当者いわく、そうとう上の判断だそうです。

雪印乳業の食中毒事件、不二家の期限切れ原料使用事件、三菱自動車のリコール隠し、最近ではJR北海道の杜撰な線路の保守が原因の脱線事故、みずほ銀行の暴力団への融資などそうとう上の判断で会社の存続を揺るがす事態になった教訓はこの会社では活かされていないようです。

この製品を使っている先生方は本当に注意してください。メーカーの言う注意して使ってくださいは、注意喚起したから問題が起きれば先生方の責任ですよという意味です。

私はこの会社の造影剤の長いユーザーです。決して悪い印象は持っていませんでした。この決定をしたそうとう上の立場の人の問題と信じたいです。ただ会社の決定の責任は会社の責任です。患者の安全を第一に、またユーザーである医師の安心できる使用のために再考をお願いしたいと思っています。

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