2014年1月29日水曜日

Cockcroft-Gaultの式のような単純な計算式で腎機能を評価し新規抗凝固薬を使用することへの不安

 心房細動患者における脳塞栓症の発症を抑えるためにかつては抗凝固療法に使える薬剤はワーファリンだけでした。しかし、3年前から新規抗凝固薬(NOAC)が使えるようになりました。国内で使える薬剤はダビガトラン(プラザキサ)、リバーロキサバン(イグザレルト)、アピキサバン(エリキュース)の3剤です。しばらくすると4剤目のエドキサバンが使えるようになる見込みです。

 この新規抗凝固薬ですがいずれも腎機能低下例においては脳内出血をはじめとする出血のリスクが高まることが知られています。このためいずれの薬剤も腎機能によっては使用が禁忌になったり、減量しなさいという使用基準が定められています。この際、腎機能を測る指標はCockcroft-Gaultの式に血清クレアチニン値を入れ、計算されたクレアチニンクリアランス値を用います。(図1)分子に体重が来るので体重が2倍になれば計算されるクリアランス値は2倍になります。一方で血清クレアチニン値は分母に入るのでクレアチニン値が2倍になればクリアランス値は1/2になります。いたって単純な計算式です。

一方、慢性腎臓病の概念が提唱され、早期から慢性腎臓病に介入することで心血管系の合併症を減らそうという考えもあります。この際、腎機能を図る指標はeGFR(計算された糸球体濾過量)です。

心不全で56歳の方が入院してこられました。171㎝、111㎏と高度肥満です。発症時期不明の心房細動です。高血圧と心不全ですからCHADS2スコア2点で抗凝固療法が必要です。クレアチニン値は1.34と高値です。これでは新規抗凝固薬は使えないと計算する前に思ったのですが図1に示すように計算されたCCrは97mlです。どの薬剤でも禁忌にはなりませんし、減量基準にも合致しません。しかし日本腎臓学会の計算式でeGFRを計算すると35ml/minですからCKD3bです。添付文書に従えば減量する必要はないもののCKD3bの方に使用して大丈夫かと心配になります。ちなみにHAS-BLEDスコアは高血圧、肝機能障害で2点です。

図1の下に計算したのは想像上の患者さんです。ただこのような方はよくおられます。高齢で低体重の方です。仮にクレアチニン値が1.0だとするとCCrは26ml/minでほぼすべてのNOACで禁忌となります。しかし、eGFRは58ml/minと上段の方と比べると腎機能は保たれているということになります。

添付文書通りに処方をすればよいのでしょうか?そこに医師の疑問や心配が介在しなければ薬剤の処方はコンピューターがすれば良いとも言えます。ガイドライン通りにいかないケースが存在し、心配したり考えたりするのが医師の仕事だと思っています。

図2は腎臓病学会のeGFRの測定の根拠となるデータを示した図ですが、実際に測定されたGFRと計算されたeGFRはよく一致していますが、図2の左の実際に測定されたGFRと計算されたCCRでは計算されたCCRの方が高くなっています。またこの図には年齢や体重の要素は入っていませんが、低体重の高齢者では計算されたeGFRは実際に測定したGFRより高く示されることが知られています。

腎機能がクレアチニン値と直線的に反比例したり、体重と直線線的に比例したりする方が不自然です。極端な肥満や低体重の場合、計算されたクレアチニンクリアランスで単純にNOACを処方するのは危ないような気がします。

この方の抗凝固療法にはワーファリンを使用することにしました。

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