2010年12月16日木曜日

症状をよく聞き、リスクを評価した上で冠動脈石灰化スコアを活かしましょう

Fig. 1 Coronary CT on 16, Dec. 2010
この方は60歳の男性です。農作業後の胸痛を主訴に受診されました。1日50本のheavy smokerでLDLは141mg/dlです。CTで見るとLADに50%程度の狭窄を認めるのみですが、plaque内に1点、造影剤の染み出しを認めます。vulnerable plaqueと考えられます。この部位でplaque ruptureがあり一時的に血栓で閉塞した可能性、あるいはspasmで虚血を起こした可能性なのが考えられます。この方の負荷心電図は陰性です。
このCT画像なしでこの方を見た場合、負荷心電図陰性の高LDL血症、喫煙ですから、動脈硬化学会のカテゴリーIIです。LDLの管理目標は140mg/dl未満です。することは禁煙指導、食事指導位のことかと思います。食事で低下がみられなければスタチンの投与です。
一方、このCTを見てvulnerable plaqueであると考えれば、冠動脈疾患の既往ありと判断して管理目標は100mg/dl未満です。私は後者であると判断して、リバロ1mgとバイアスピリン100mgとニトロの舌下を処方しました。禁煙を強く勧めたのはもちろんです。CTのありなしでかくも管理する方針は変わってきます。それらしい症状があり、risk factorがあればCTを撮ったほうがよいと思います。こうした場合、冠動脈造影は無力である可能性が高いと考えられます。冠動脈CTが一般的になってきたときに冠動脈CTは冠動脈造影の代替になるかという議論がありましたが、プラークの性状を評価し、治療方針を決定するためにはCTのほうが有力だとの考え方が一般的になってきました。
このところ考えていることは石灰化スコアをどう活かすかということです。石灰化スコアが100以下の場合、50%以上の狭窄が存在する可能性は3%以下だと報告されています。一方、CORE64では、狭心症が疑われて冠動脈造影目的に紹介されてきた患者群では石灰化スコアがゼロであっても20%の患者に50%以上の狭窄があったと報告されています。Gottlieb I, et al. The absence of coronary calcification does not exclude obstructive coronary artery disease or the need for revascularization in patients referred for conventional coronary angiography. J Am Coll Cardiol. 2010;55:627-34
この一見矛盾する結果の答えは簡単だと 思っています。冠動脈造影を勧められるほどのそれらしい症状やリスクがある場合は、石灰化スコアに関わらず狭窄が存在する可能性を排除できないため造影CTが必要、それらしい症状やリスクがなくて石灰化スコアが低い場合には造影せず石灰化スコアのみの評価で十分という解釈なのだと思います。本日のケースでも石灰化は冠動脈のどの部位にも認められませんでした。しかし、この所見です。症状やリスクの評価がやはり大事です。一方、それらしくない、リスクも低いという場合には造影しない選択を加え、石灰化スコアだけでも大丈夫なのでしょう。被ばく量を減らし、造影剤の負荷を軽減するために石灰化スコアを検討しましょう。よく話を聞き、リスクを評価する手間を惜しんではいけません。

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