2014年1月20日月曜日

長いびまん性の病変にあえて長いステントを使用せず、短いステント2本で仕上げました。

1964年の東京オリンピック時に私は10歳でした。初めて教室にテレビが持ち込まれ教室でオリンピックを観戦しました。記憶にあるのはヘーシンクに 神永昭夫が決勝で負けたことでしょうか。ただ今思えばその試合が授業時間にあったのか定かではありません。インパクトの強かったニュースをその場で見たように思い違いしているだけかもしれません。

 その頃、スーパーマーケットはほとんどなく、近くの商店街で買い物をするのが常でした。お使いを頼まれ味噌などを買いに行く時には袋にパックされた味噌などありませんでしたから桶の上で山になっている味噌を量り売りで売ってもらっていました。お砂糖なども量り売りだった記憶です。

 本日のケースは10年以上の糖尿病歴があり、近医で冠動脈CT検査を受け、強い石灰化があるからと精査を勧められた方です。Fig. 1、Fig. 2に示すように右冠動脈入口部の高度狭窄と、回旋枝のびまん性の狭窄を認めました。それぞれにステント植込みを行い、上手く治療できました。(Fig. 3、Fig. 4)

 右冠動脈入口部の治療ではその高い再狭窄率を少しでも低くするために入口部からごくわずかにステントを出すように神経を使いました。

 一方、回旋枝の場合にはステントを持ち込めるかを心配していました。左冠動脈主幹部から90度以上の角度で分岐しているだけではなく石灰化し、また狭窄もあるからです。バックアップを強くするためにEBUを使用し、前拡張の後のステント植込みは12㎜と15㎜の2本のステントを用いました。サイズは2.25㎜です。最終の拡張径は2.5㎜のつもりです。合計27㎜長のステント植込みですから28㎜1本でステント植込みを実施できれば医療費は節約可能です。一方で、28㎜で挑戦し持ち込めなかった場合、次に2本のステントを用いれば合計3本のステント使用となりコストは増大します。こうした屈曲した石灰化病変を越えてのステント植込み時には長いステントよりも短いステントの方が通過性は確実に優れています。ですから最初から2本に分ける戦術としました。結果、上手くいきましたが、27㎜長であれば1本で良かったのではないかと保険者からケチを付けられないかと心配です。(と言ってもある程度覚悟の上ですが…)

ステント1本で27㎜をカバーしても、2本でカバーしても患者さんが受ける恩恵は同じです。同じ効果の治療を受けるのであれば、同じコストで良いではないか等と思ったりします。ステントの量り売りです。何本のステントを使用したかではなく、何㎜をカバーしたかで診療報酬を決めれば良いのになどと思います。1㎜で1万円でこのケースだと27万円です。この価格だと現状より大幅に安くなってしまうので1mmで1.3万円で35万円くらいが妥当でしょうか。この方式だと診療報酬を下げるためにと最近よく使われる長いステントは不要になります。メーカーもラインナップを増やすことによる在庫コストも圧縮できますし、PCIの術者も査定を恐れて無理に長いステントを使用しなくて済みます。患者さんも無理な手技での合併症のリスクを回避できます。

こんなことが実現するはずがないと十分に承知しています。1960年代のビジネスモデルが現代に通用するはずがありません。しかし、より安く治療を完結しろというプレッシャーの中で、患者も術者もより大きなリスクを抱えていることも現実です。コストとアウトカムのバランスがもう少し改善しないかと思うばかりです。


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