2014年2月4日火曜日

新規抗凝固薬使用に際しての腎機能の評価は簡単ではありません。

 2/2の日曜日に大阪で開催されたエリキュースの適正使用をテーマにした講演会に行ってきました。2014年3月からは長期使用が可能になります。講演では高齢者や腎機能低下例でも安全に使えることが強調されました。そしてもう一つ強調されたことはルールを守って使用しなければならないということです。

心房細動患者に対する抗凝固療法で塞栓症にとっても出血性合併症にとっても低腎機能患者はハイリスクです。ですからクレアチニン1.5㎎/dl以上、80歳以上、体重60㎏以下の3つの条件のうち2つを満たす患者では減量するのがルールです。これに当てはまる患者では減量しなければならないというのがルールですし、該当しない患者では常用量を使うのがルールです。また、クレアチニンクリアランスが15ml/min未満の患者ではどの用量でも使用してはいけないというのがルールです。

 2013年7月24日付当ブログ「J-RHYTHM、Re-ly、ROCHET AF、ARSITOTLEを比較してみました」の中で記載したようにいまだにワーファリンと縁が切れない私にとってもエリキュース(APIXABAN)に対する期待は小さくありません。しかし守りなさいと言われるルールは果たして妥当なルールなのかと少し疑問に思っています。

クレアチニンクリアランスが15ml未満は使用した経験がないから禁忌だとルールにはなっていますがARISTOTLE試験ではクレアチニンクリアランス25ml未満の患者は除外されていました。ですから投与の経験がないのは25ml未満の患者であってそうした患者群では新しい知見が出るまでは禁忌にすべきではないかという点が1点です。

もう一つの疑問は減量基準のクレアチニン値が1.5㎎/dl以上という点です。1.5mg以上と未満で何か有効性や安全性に差があったのかと調べましたが全くそんなデータはありません。ではどこからこの1.5㎎が出てきたのだろうかと思っていましたが、ARISTOTLE試験の減量投与のプロトコールそのものでした。そしてその減量基準に従って1日5㎎の投与を受けた患者は僅かに全患者の4.7%だったそうですから患者数にして430人弱のみです。減量基準はクレアチニン値だけではないので実際にクレアチニン値が1.5㎎以上で更に減量された患者数は不明です。低用量での有効性安全性のデータはあまりにも少数でしか検討されていません。また、クレアチニン値が1.5mg以上という根拠になるデータも不明です。

新規経口抗凝固薬が出現し、良かったと私が思うことはそれまであまり気にしなかった腎機能を循環器患者さんで気にするようになったことです。Cockcroft-gaultの式に当てはめてクレアチニンクリアランスも計算できるのになぜ減量基準はクレアチニン値なのだろうと考えながら改めて計算されたクレアチニンクリアランスを考えました。図2は78歳女性・体重40㎏・身長140cmの患者、60歳男性・160㎝、60㎏の患者、60歳男性・170㎝・80㎏の患者を想定し、クレアチニン値を入れて計算したクレアチニンクリアランス値をグラフ化したものです。40kgの女性ではクレアチニン値が1.5であればCCRは20程度となり相当に高度の腎機能低下ということになります。一方、体重80㎏の男性ではCCRは60程度になり腎機能はあまり問題ないということになります。さらに60歳で80㎏の方ではクレアチニン値が4.0になってもCCRは20ml/min以上ですから禁忌にもなりませんし、減量基準も満たさないということになります。これで本当に大丈夫なのでしょうか。体重が増えれば増えるほど計算値が高くなるCockcroft-Gaultで計算してそれを単純に信用してよいのか不安です。Cockcroft-Gaultで計算されたクレアチニンクリアランスは結構いい加減だと思えてきました。

 ではeGFRを指標に考えればどうかと思いプロットしたのが図3です。60㎏でも80㎏でも同じグラフになるのはeGFRの計算には体重の要素が入っていないからです。体重40㎏の方のグラフが下にあるのは体重の要素が入っていないので体重のせいではありません。女性を想定したからです。女性ではどんなに肥満があっても痩せていてもクレアチニン値が0.5でもクレアチニンクリアランス値は低く評価されてしまいます。計算式のせいで女性の慢性腎臓病患者は増えてしまいます。eGFRによる慢性腎臓病の評価も結構いい加減だなとも感じます。

図4は体重の要素が入った体表面積で補正したeGFRです。これだとどの体重群であってもクレアチニン値が腎機能を反映しています。

こうして勉強してみると腎機能の評価は簡単ではありません。

またARISTOTLE試験でクレアチニンクリアランス値が30ml/min未満の重度腎機能障害患者はわずか137名でした。重度腎機能障害患者ではデータがないものとして対処することが必要な気がします。

とはいえ、エリキュースに対して私が期待を持っていることに違いはありません。良い薬であるならば以前にも書きましたが、大事に育てる責任を現場の医師は持っていると思っています。データの裏付けがないルールは危険な気がします。3月になり長期処方が解禁されたならば間違いなく腎機能に問題ない患者さんから経験を積んでいこうと思います。ルールはクレアチニンクリアランス15ml/min以下が禁忌ですがマイルールは30ml/min未満は禁忌と考えておこうと思っています。



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