2014年8月25日月曜日

より安全性の高い選択をしても100%の安全のない現場で仕事をするには強い心が必要です。

Fig. 1 before PCI
毎年夏にTOPIC (Tokyo Percutaneous Cardiovascular  Intervention Conference)という東日本最大のカテーテル治療の会が開催されます。私自身は参加したことはないのですが、FB友達であるコースディレクターのO教授が毎年シラバスを送ってくださいます。毎年アップデートされた記事が豊富で勉強になります。今年もシラバスを送ってくださいましたが、その際に来年こそは参加してくださいとおっしゃってくださいました。来年こそは万難を排して参加しようと今から決意しています。

Fig. 2 After LAD stenting
その今年の会の抄録集に鹿屋の施設からの症例報告が記載されていました。報告した病院とは異なる医療機関で左冠動脈主幹部にステント植込みがなされ、その部位の血栓閉塞のために亡くなられた方の報告です。比較的若い女性の患者さんの報告です。その報告を見た時に私が治療した患者さんかと考えました。Fig. 1に示すように大きな対角枝が分岐するところでの前下行枝の狭窄です。

前下行枝にステント植込みを行い、対角枝にワイヤーを入れなおそうとしてもなかなかクロスできず、そうこうしているうちにFig. 2に示すように左冠動脈主幹部に解離が発生しました。対角枝を拾うよりも主幹部の閉塞を起こさないことが優先です。対角枝を諦めて主幹部にステントを置きました(fig. 3)。対角枝は閉塞したままです。

Fig. 4はその2か月後の造影です。対角枝は再開通しています。また心エコーで評価しても側壁はダメージを受けていませんでした。

Fig. 3 After LMT stenting
主幹部にステントを植込まなければいけない危機的状況でしたし。CABGよりもこうした場合はステント植込みの方が救命的だと今現在も信じています。その後、もう6年が経過しました。再狭窄もなく2剤の抗血小板剤(DAPT)も止め、バイスピリン単剤にしていました。

この方が亡くなり報告されたとばかり思っていましたが、数日前に元気に再診に来られました。報告された方はこの方ではなかったのです。

どうせ後から再開通する対角枝を拾いに行ったばかりに主幹部にステント植込みをする羽目になり同部の血栓閉塞の元を作ったとか、DAPTを中止したのがまずかったのかなどと考えてきましたが、元気な姿を見てホッとしました。

Fig. 4 two months after stenting
緊急時の判断はその場では正しくても患者さんに長期の視点で見ればリスクを負わせることがあり得ます。その場の判断は正しくてもあの時、違う選択をしておればと振り返ることは頻度は高くなくても存在します。DAPTの中止も血栓閉塞を見れば中止を後悔しますし、脳出血などを見ればDAPTを中止しなかったことを後悔するだろうと思います。

相反するどちらの判断をしても意図とは異なる結果が発生する可能性はゼロではなく、どちらの選択を行ってもリスクが付きまといます。より安全である可能性が高い選択しかできない臨床の現場には心配だらけです。

こうした心配から逃れる唯一の途は医師を辞めることだけです。ただこの途は、病に苦しむ患者さんを放り出して逃げる途です。

現場にいる限り付きまとう心配は解消しませんが、常に最も妥当な選択をするとともに、その選択でも起こりうる意図しない問題に対処する強い心を持ち続けなければなりません。現場にいる限り心を奮い立たせましょう。



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